【指導奨励上参考に資すべき事項】

等高線栽培に関する試験成績

農芸化学部

 

 等高線栽培は傾斜地土壌浸蝕の農耕的防止策として有機物の維持、輪栽法等と共に有効且つ経済的防止の耕作法である。
 現在北海道に於ける傾斜地に於いては慣行上上下耕栽培が尚行われて居る現状に鑑み土壌侵食防止策の一つとして等高線栽培法を実用化することが必要であるが不幸にして北海道に於ける其等の試験成績を欠いて居った。然るに此度喜茂別傾斜地研究室より其実用化についての左記試験調査成績が発表せられたので、之を参考とし高等線栽培の得失をも考え努めて其実用化を計られ度い。

1. 高等線栽培の実用化上其の得失は次の如くである。
 (利益) (1) 土壌侵食を防止せられ経済的で且つ技術的に容易に実施することが出来る。
      (2) 作物の収量は其の種類及び気象によりその程度は異なるも増収の傾向にある。
      (3) 侵食防止を基にした輪作計画の樹立が容易である。
      (4) 人馬共耕作に要する疲労が軽減され又長斜距離及び面積を増す程労力が節減される。
 (欠点) (1) 高等線を決定するのに不便がある。
      (2) 作物の種類により除草技術の困難があり、又稚苗期に於ける中耕培土により作物は損傷を受ける。
      (3) 特殊作物(例 アスパラガス、高級菜豆)の耕作に不利である。
      (4) 面積の測定が困難なるため播種量及び施肥量の算出に適正を欠く。
      (5) 急傾斜(17~18度以上)に於ける畜用耕作が至難であり又複雑な斜面程短い畦の耕作管理に不便がある。
      (6) 運搬、搬出等に不便多く農道改善の必要がある。

2. 等高線栽培と土壌侵食との関係
 緩傾斜(7~8度)に於いては斜面距離25米の範囲に在っては上下耕、及び等高線栽培の間に流去水及び土壌の流去共に差異を認められず流去土壌量は極めて少なく農業上大した影響を与えない。然し、斜距離50米に於いては上下耕栽培は激しい浸蝕を示したに反し等高線栽培により有効に侵食防止の効果を示した。
 急傾斜(23~28度)に於いては等高線栽培によって斜距離25及50米共に緩傾斜に比し一層顕著な侵食防止が認められた之等侵食防止の効果は作付期間の外収穫後に於いても刈株及び根又は雑草が等高線上に残された事によって防止に有効に役立つものである。 
試験区別 斜距離
(米)
緩傾斜(7~8度)南斜面 急傾斜(23~28度)東北東斜面
雨水流去水量
(陌当瓩)
流去土壌
(陌当瓩)
流去水量
(陌当瓩)
流去土壌
(陌当瓩)
上下耕栽培 50 127 2930 84 5365
等高線栽培 50 52 112 84 190
上下耕栽培 25 108 125 191 3987
等高線栽培 25 103 137 169 869
  供試作物  春播小麦

3. 作物の生育及び収量との関係
 大豆、馬鈴薯及飼料玉蜀黍につき夫々1ヶ年宛3ヶ年15度斜面の同一圃場に栽培試験した成績によれば上下耕栽培に比し程度は作物の気象により異なるも何れも増収を示した就中旱魃の傾向にある年に於いて増収を示した事は土壌水分との関係が要因であると考えられる。
試験区別 大豆(奥原) 馬鈴薯(男爵) 飼料用玉蜀黍 斜面の位置
(青刈玉蜀黍生草収量比)
土壌水分
比率
成熟期
草丈(cm)
子実
収量比
草丈(cm) 収量比 澱粉
含量
草丈 生草
収量比
上部 中部 下部 平均
上下耕栽培 36.0 100 40.5 100 13.7 263.6 100 100 100 100 100 100
等高線栽培 48.0 150 41.3 133 13.7 273.3 110 111 102 116 110 103

4. 耕作労力との関係
 等高線栽培は上下耕栽培に比し労力が節減せらるるが株間の除草を要する作物の等高線栽培は傾斜度を増すに従い除草労力に時間を要す、また上下耕栽培に於ける除草作業は5~6度以上の傾斜度に於いては困難で長斜距離及面積を増す程所要時間を多く要す。
試験区別 傾斜度   馬鈴薯 青刈玉蜀黍
反当所要時間 同上比率 反当所要時間 同上比率
上下耕栽培 15度 1.18 100 4.14 100
38.27 100 15.50 100
等高線栽培 15度 1.00 77 3.04 74
34.20 89 14.30 92

 以上を要するに高等線栽培は特に傾斜の中度より急峻な土地に於いて或いは長斜距離が大になるに及び重要な侵食防止の方法で殊に軽鬆な土壌に於いて密生作物を栽培する場合は20度以上の可成急峻な斜面でも侵食防止の効果がある。然し侵食防止等高線栽培が用いられる範囲は土壌の受蝕制及作物の種類により定められるが畜力用農機具を主体にした現在の栽培法に於いては等高線栽培は其実用化から特殊作物を除き15乃至17度程度迄に利用せらる。