【指導奨励上参考に資すべき事項】

草サイレージの製造理論とその技術に関する試験成績

畜産部

 

Ⅰ 成績の概要
 草サイレージは農業経営上幾多の利点があるが、その品質を左右する要因は極めて多く、現在迄の実験成績によれば次の如くである。

 (1) チモシーサイレージ製造にあたって水分含量の高いものはビートバルブの如きものを添加物として加えるか、又は予乾を行うと品質のよいものが得られる。(表Ⅰ参照)又養分の変
   化を原料の生草、乾草と比較すると原料に比して粗蛋白質、粗繊維、粗灰分は若干低減するが、乾草の場合は原料に比し、粗蛋白減少が著しく半減し粗脂肪、粗灰分ともに低減す
   る。
   要するにチモシーサイレージと乾草の比較では他の草類と同様に蛋白質などの損失量においてもサイレージの方が少ないことが分かる。
 (2) 赤クローバー、チモシー混合サイレージの同一処理を行ったものに対して、その混合割合と、品質との関係を実験したところによれば、赤クロバー25%、チモシー75%がよい様であ
   る。
   赤クロバーの割合が余り多いと酸の醗酵生成が不充分である。(表Ⅱ参照)
 (3) 加圧の大小が、赤クローバーサイレージの品質に及ぼす影響は大である。即ち加圧の大きいほど酸の生成量も大であり、有機酸の組成割合も良好である。
   従って原料を結込んでから充分に踏付を行うと共に加圧を充分にすることが必要である。(表Ⅲ参照)
 (4) 赤クローバーサイレージの調整に際し、3時間の予乾と2%のビートパルプを加えたものでは品質のよいものが得られた。(表Ⅳ参照)
 (5) 普通構成草種の野草サイレージに於いては8月上、中旬に刈取り、これにビートパルプ、米糠玉蜀黍粉、又はふすまなどを5-10%添加することによって、良質なサイレージが安全に
   調整できる。又カロチンも40%位を保持出来、乳牛、山羊、緬羊に対する嗜好性も極めて大であった。(表Ⅴ参照)、尚野草サイレージの埋草中に於ける間かを見ると、埋草後25日目
   頃より漸次酸の生成量も多くなるが、これは埋草の経過と共に添加物の効果も現れて来るためと推定せられる。(表Ⅵ参照)
 (6) 赤クローバーサイレージの埋草中に於る変化を見ると総酸の生成量は漸次増加していくがカロチンの消長に於いては埋草14日頃になるとその低減度は大となる。
   これは醗酵の過程と各種成分の変化が比較的埋草初期に多い関係であろう。(表Ⅶ参照)

 

Ⅱ 試験成績
 表Ⅰ チモシーサイレージの品質に及ぼす添加物、予乾の影響
    其の1  品質及び有機酸組成
処理 色沢及香気 嗜好性 水分含量(%) 有機酸組成(%) カロチン
含量γ%①
原料中 サイレージ中 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
不予乾
無添加物
暗緑
甘酸少アンモニア臭
++~+++ 83.6 86.0 0.57
②(100)
0.47
(82)
0.09
(16)
0.01
(2)
851
(62)
不予乾
5%ビートパルプ添加
淡緑
快酸臭
+++~++++ 79.5 81.1 1.01
(100)
0.68
(67)
0.16
(16)
0.17
(17)
619
(45)
不予乾
10%ビートパルプ添加
淡褐緑
軽酸臭
++++ 74.0 79.0 1.17
(100)
0.63
(54)
0.50
(43)
0.03
(3)
800
(58)
3時間予乾
無添加物
暗緑
腐敗臭
-~+ 73.9 79.1 0.03       593
(43)
3時間予乾
5%ビートパルプ添加
暗褐緑
少甘刺戟臭
+++ 58.3 68.2 0.74
(100)
0.41
(55)
0.23
(31)
0.11
(14)
774
(57)
  備考  ①原料中含量は、1367γ%である。その(  )内数字は原料を100とした比数である。
       ②(  )内数字は、総酸を100とした比数であり、以下の諸表もこれに準ずる。

    其の2  一般飼料成分
利用区分 表示区分 一般組成分(%) 全還元糖
水分 粗蛋白質 粗脂肪 可溶
無窒素物
粗繊維 粗灰分
生草 原料中
固形物百分中
83.66
2.21
13.52
(100)
0.63
3.84
(100)
6.23
37.55
(100)
6.04
36.96
(100)
1.33
8.13
(100)
2.51
13.33
(100)
サイレージ 原料中
固形物百分中
86.00
1.63
11.62
(95)
0.58
4.11
(107)
5.76
41.20
(109)
4.95
35.33
(95)
1.08
7.74
(95)
1.89
13.47
(101)
乾草 原料中
固形物百分中
12.10
0.03
6.86
(50)
2.59
2.95
(76)
37.79
42.99
(114)
34.63
39.40
(106)
6.86
7.80
(95)
12.60
14.33
(107)

 

 表Ⅱ 赤クローバーチモシー混合サイレージに於ける混合割合と品質との関係
混合割合 色沢及香気 嗜好性 有機酸組成(%)
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
赤クローバー10 黄褐
甘酸少刺戟臭
+++~++++ 0.76
(100)
0.43
(57)
0.24
(31)
0.09
(2)
赤クローバー5
チモシー 5
淡黄褐
甘酸臭
++++ 0.80
(100)
0.51
(64)
0.24
(30)
0.05
(6)
赤クローバー2.5
チモシー 7.5
暗緑褐
快酸臭
++++ 1.22
(100)
0.95
(78)
0.27
(22)
0
(0)
赤クローバー1
チモシー 9
黄緑
甘酸臭
++++ 1.24
(100)
0.99
(80)
0.19
(15)
 0.06
(5)

 表Ⅲ 加圧の大小と赤クローバー品質との関係
加圧区分 色沢及香気 嗜好性 有機酸組成(%)
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
重圧 暗黄緑
甘酸醋刺戟臭
++++ 1.89
(100)
1.26
(67)
0.63
(33)
0
 
軽圧 褐黄
ムレ臭、甘酸
+++ 0.46
(100)
0.27
(59)
0.04
(9)
0.15
(32)
  備考  重圧は1平方尺当り50kg、軽圧は7kgである。原料の赤クローバーに対して2%のビートパルプを添加した。

 表Ⅳ 赤クローバーサイレージの予乾とビートパルプ添加による影響
   色沢及香気 嗜好性 有機酸組成(%)
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
3時間予乾
2%ビートパルプ添加
黄緑
快甘酸
+++~++++ 1.48
(100)
0.97
(66)
0.38
(25)
0.13
(9)

 表Ⅴ 野草サイレージに於ける添加物の影響
処理 色沢及香気 嗜好性 有機酸組成(%) カロチン
含量γ%
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
不予乾
無添加物
褐黄
快甘酸
++++ 1.02
(100)
0.77
(76)
0.25
(24)
0
(0)
688
(41)
不予乾
5%ビートパルプ添加
褐黄
快甘酸
++++ 0.84
(100)
0.54
(64)
0.30
(36)
0
(0)
662
(39)
不予乾
10%ビートパルプ添加
黄褐
快甘酸
++++ 1.11
(100)
0.78
(71)
0.33
(29)
0.
(0)
517
(31)
3時間予乾
無添加物
黄褐
芽香性甘酸
++++ 1.49
(100)
 1.21
(81)
 0.28
(19)
 0.
(0)
654
(39)
3時間予乾
5%ビートパルプ添加
緑黄
少甘酸アンモニア臭
+++ 0.77
(100)
0.57
(74)
0.05
(6)
0.15
(20)
-
-
  備考  この野草刈取りは8月14日であり、水分は70.49%である。
       構成草種は次の如くである。
草種 草丈(cm) 割合(%)
ヨシ 105 40
ススキ 125 20
シダ類 60 10
ミヤコザサ 57 5
ヤマハギ 89 5
スゲ類 65 5
タデ類 48 5
ヤマアワ 55 3
その他 - 7

 表Ⅵ 野草サイレージの埋草中に於ける有機酸組成
埋草後の日数 色沢及香気 嗜好性 有機酸組成(%)
カロチン
含量γ%
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
7日 褐緑
甘酸臭
++~+++ 0.60
(100)
0.42
(70)
0.18
(30)
0
(0)
611
(36)
14日 黄緑
甘酸少刺戟臭
++++ 0.66
(100)
0.45
(70)
0.21
(30)
0
(0)
559
(33)
21日 黄褐
快甘酸
++++ 0.77
(100)
0.45
(57)
0.32
(41)
0.
(0)
  
28日 同上 ++++ 1.02
(100)
 0.50
(49)
 0.52
(51)
 0.
(0)
 
35日 同上 ++++ 1.42
(100)
0.81
(57)
0.61
(43)
0
(0)
542
(32)
  備考  原料中含量は1.677γ%である。

 表Ⅶ 赤クローバーサイレージの埋草中に於ける有機酸組成
埋草後の日数 色沢及香気 嗜好性 有機酸組成(%)
カロチン
含量γ%
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
3日 緑黄褐
軽酸臭
+++ 0.43
(100)
0.36
(83)
0.07
(17)
0
(0)
1677
(78)
5日 黄緑
軽甘酸臭
+++ 0.51
(100)
0.40
(78)
0.11
(22)
0
(0)
1316
(61)
7日 暗緑褐
快甘酸
+++~++++ 0.53
(100)
0.41
(77)
0.12
(23)
0
(0)
1213
(50)
14日 同上 ++++ 0.61
(100)
0.38
(62)
0.23
(38)
0
(0)
628
(29)
21日 暗褐黄
快酸
+++ 0.68
(100)
0.39
(59)
0.28
(40)
0.01
(1)
 525
(24) 
28日 黄褐
甘酸少刺戟臭
++++ 0.76
(100)
 0.42
(56)
 0.25
(33)
 0.09
(11)
 516
(24)
35日 同上 ++++ 0.76
(100)
0.43
(57)
0.24
(31)
0.09
(12)
525
(24)
  備考  ①原料中カロチン含量は2159γ%である。