【指導奨励上参考に資すべき事項】

尿素配合による馬鈴薯生澱粉粕(並に馬鈴薯)利用に関する飼養試験成績

根室支場

  

1. 成績の概要
根室支庁管内に豊富に生産される生馬鈴薯澱粉粕並びに屑馬鈴薯の有効な利用法としては穀菽、水産などの資産に乏しい地方では之に尿素を配合して牛の泌乳飼料とすると共に育成、肥膃飼料としても利用することの効果を判定しようとするものであって、この試験結果は要約すれば次の通りである。
 (1)馬鈴薯生澱粉粕に尿素を適量配合することにより生産飼料として泌乳及育成肥膃の目的に使用することが出来る。
 (2)泌乳生産の場合は全濃厚飼料の約半量を代用出来る。之の場合の乳量、脂肪量、乳質には大差は認められない。
 (3)尿素が澱粉粕の品種間の嗜好度はホルスタイン系に強くブラウンスイス種には弱かった。
 (4)尿素が澱粉粕の給与適量は成牛に於いては澱粉粕25kg尿素100→200g12ヶ月程度の犢牛では澱粉粕10kg、尿素100g前後で尿素給与の都度正確に秤り生澱粉粕に混和して与え
   る。
 (5)本飼料による肥育を行う場合は喰込のない個体を選ぶことが有利である。但し尿素が澱粉粕と乾草のみでは短期仕上げ肥膃は困難である。
 (6)経済効果は対照区の比較し約20%安価となって居る。

2. 注意事項
 (1)尿素加澱粉粕は澱粉粕の熱量と反芻動物による尿素の蛋白質代換を利用するものであって、低蛋白飼料の蛋白質不足を尿素により補うのである。尿素は適量を給与すれば効果
   があるが過量を与えた場合は中毒症状を呈するので極めて危険であるから使用に当たっては正確に秤量することが必要である。 又尿素は吸湿性が強いので防湿の方法を講じて
   保管しなければならない。更に尿素の保管場所は他の外観上誤認し易い飼料(食塩、コロイカル等)と明確に区別することが必要である。

3. 試験成績
 〔1〕試験材料
  泌乳試験に4頭育成肥膃試験には第1回目4頭 第2回目4頭の牛を供試した。
試験名 供試飼料 供試牛名 種類 生年月日 最近分娩
年月日
産次 種付
年月日
試験前
乳量(kg)
生体量
(kg)
泌乳
試験
尿素加
生澱粉粕
クインアンバサダースプリングジョハナ ホ種 昭 22.5.4 昭 25.9.2 2産 26.2.21 14200 476
第2ヒンペルベシーポンチャックジェラルデイン 22.1.4 25.11.29 1 26.5.21 15900 694
三光 ホ雑種 20.4.20 26.2.20 3 17700 537
第3アンバサダーピーターゼジョハナ ホ種 14.9.27 25.7.11 6 25.12.23 9550 565
肥育
試験
  〃 松 1 ホ雑種 23.3.20 昭和25年6月23日野付放牧場へ
放牧同年11月15日当場に舍飼
402.3
松 2 23.8.6 428.6
松 3 24.6.19 404.8
第3キング ホ種 24.10.11 =試験前廢牛とす舍飼のみ 578.0
尿素加
生澱粉粕
並屑馬鈴薯
マラソンプロスベッシージェラルデイン ホ種 25.11.29 昭和26年6月20日より南中及当場
放牧場へ試験前まで放牧
231.5
松 3 ホ雑種 25.7.25 314.5
ベルボーイオブブリュウブラウン ブ種 25.11.20 216.0
花 1 ホ雑種 25.6.29 376.0

 A 泌乳試験
 〔2〕試験方法
  試験機関は自5月17日至7月15日60日間20日宛3期に分け予備期10日試験期10日とし本試験期の結果についてのみ検討した。
 第1第3期対象期には粗飼料として乾牧草濃厚飼料としてビートパルプ、米糠、燕麦、玉蜀黍油粕類を用いた。第2期試験期に於いては粗飼料として乾牧草の他に生澱粉粕を給与し、濃厚飼料として油粕類の給与をやめ米糠、燕麦、玉蜀黍及尿素をモリソン氏飼養標準に合致せしめて給与した。尚尿素加生澱粉粕の生産資料に対する割合は粗蛋白質T.D.N共略50%になる様にした全飼料に対する割合は粗蛋白質T.D.N共70%であった。
 尚供試飼料の分析結果並可消化粗蛋白質及びT.D.Nは別表の通りで可消化粗蛋白質及T.D.Nの算出には当場並畜産試験場に於ける消化率に拠った。
 全期を通じ搾乳は1日3回とし搾乳量は毎回正確に秤量し牛乳飼料は搾乳量に比例して摂取し3日間の混合試料を Babcock 法で脂肪率を検定した。亦毎日Alkohol検定を実施し各期3回酸度検定を行った。

  (1) 供用した飼料の分析成績
飼料名 一般組成分 可消化
粗蛋白質
可消化
総養分
摘要
水分 乾物質 粗蛋白質 粗脂肪 可溶無
窒素物
粗繊維 粗灰分
大豆粕 17.62 82.38 40.89 8.47 23.38 5.21 4.43 34.76 76.27  
亜麻仁粕 14.02 85.94 30.76 10.98 31.46 6.14 6.60 25.84 78.43  
コプラミール 14.83 85.17 20.34 8.68 36.26 14.04 5.85 15.26 72.77  
玉蜀黍 15.50 84.50 11.20 5.92 64.98 0.89 1.51 8.40 82.57  
燕麦 14.72 85.28 13.57 5.08 57.16 6.78 2.69 11.13 72.83  
米糠 17.18 83.18 14.78 18.92 29.62 9.74 9.76 8.87 67.70  
ビートパルプ 14.02 85.98 9.48 0.86 54.94 16.95 3.75 5.69 68.45  
菜種粕 12.60 87.40 29.81 8.19 24.00 11.42 13.98 23.85 57.73  
乾牧草 13.59 86.41 8.32 2.58 40.04 30.71 4.76 4.49 40.38  
生澱粉粕 87.66 12.34 0.86 0.13 9.16 1.96 0.23 8.16 PH3.90-4.34
生馬鈴薯 80.50 19.50 1.80 0.20 15.90 0.50 1.10 1.20 16.70  
尿素     281.25         197.0  

  (2) 飼料給与日量
供試牛名 乾牧草
(g)
ビート
パルプ(g)
生澱粉
粕(g)
尿素
(g)
玉蜀黍
(g)
燕麦
(g)
米糠
(g)
大豆粕
(g)
コプラ
ミール(g)
亜麻仁粕
(g)
可消化
粗蛋白質(g)
TDN
(g)
対照期 スプリング 9000 2000 1000 1400 700 50 300 200 934.7 7735.7
ヒンペル 9000 2000 1100 3000 2000 250 1159.3 9632.4
三光 9000 2000 1000 3400 1400 350 50 1180.8 9544.0
ジョハナ 9000 2000 1100 1200 100 200 783.2 6998.7
試験期 スプリング 9000 22000 120 1000 800 500 857.7 7176.2
ヒンペル 9000 25000 140 3400 600 700 1094.2 9392.5
三光 9000 33000 200 2000 2000 600 1241.7 9841.2
ジョハナ 9000 17000 90 2000 300 782.7 6891.3
対照期 スプリング 9000 2000 800 1000 600 50 300 100 838.6 7144.1
ヒンペル 9000 2000 1000 3000 2000 200 1143.3 9513.3
三光 9000 2000 1250 3000 1500 300 100 1161.4 9532.4
ジョハナ 9000 2000 1000 1100 300 400 811.3 7124.2
  註: T.D.Nは可消化総養分を示す。

  (3) 給与飼料中の尿素加澱粉粕の含有割合
  期別 粗飼料蛋白質
含有割合(%)
濃厚飼料蛋白質
含有割合(%)
尿素蛋白質
含有割合(%)
尿素蛋白の産乳
飼料に対する割合(%)
4頭平均 対照期
試験期
41.47
42.05
58.53
31.18
-
26.77
-
43.51
  期別 粗飼料総養分
含有割合(%)
濃厚飼料総養分
含有割合(%)
生澱粉粕総養分
含有割合(%)
澱粉粕TDNの産乳
飼料に対する割合(%)
4頭平均 対照期
試験期
44.09
44.74
55.91
31.70
-
23.56
-
50.56

 

 〔3〕 試験経過の概要
 尿素加澱粉粕の給与法は尿素濃厚飼料及び澱粉粕の混与であったが三光の如く稍々食欲を害しているものは何度も振りかけて全量摂取に努めたが幾分泌乳効果を害した。しかし他は全く健康であった。運動は特別の悪天候を除き戸外運動場で午前午後4時間宛自由運動を課しその間水槽から自由飲水せしめ毎日牛体の手入れを実施した。

 

 〔4〕 試験成績
  (1) 泌乳量及脂肪量(各期総量)
供試牛名 区分 単位 第1期 第2期 第3期 第1第3期
平均
増減量 増減率(%)
スプリング 泌乳量 kgr 126.06 124.06 114.40 120.23 +3.83 +3.19
脂肪率 % 2.83 2.94 2.88 2.85 +0.09  
脂肪量 kgr 3.567 3.647 3.295 3.476 +0.171 +4.92
ヒンペル 泌乳量 kgr 155.18 155.60 147.70 151.44 +4.16 +2.75
脂肪率 % 2.99 2.90 2.81 2.90 0  
脂肪量 kgr 4.640 4.512 4.150 4.445 +0.067 +1.51
三光 泌乳量 kgr 187.11 172.50 178.58 179.80 -7.30 -4.09
脂肪率 % 3.29 3.19 3.26 3.27 -0.08  
脂肪量 kgr 6.156 5503 5.822 5.989 -0.486 -8.11
ジョハナ 泌乳量 kgr 104.01 102.29 91.63 97.82 +7.47 +7.64
脂肪率 % 3.10 2.87 2.96 3.03 -0.16  
脂肪量 kgr 3.224 2.936 2.712 2.968 -0.032 -1.08
泌乳量 kgr 572.36 554.45 532.31 552.33 +2.12 +3.84
脂肪率 % 3.07 2.99 3.00 3.03 -0.04  
脂肪量 kgr 17.587 16.598 15.979 16.783 -0.185 -1.10

  (2) 乳質検査
期別 供試牛名 Alkohol
Test
乳酸
酸度(%)
  PH
第1期 スプリング 0.135 6.75 6.74
ヒンペル 0.185 6.55 6.51
三光 0.145 6.7 6.48
ジョハナ 0.108 6.9 6.80
第2期 スプリング 0.148 6.7 6.78
ヒンペル 0.184 6.55 6.56
三光 0.148 6.7 6.63
ジョハナ 0.110 6.95 6.92
第3期 スプリング 0.150 6.63 6.46
ヒンペル 0.185 6.55 6.20
三光 0.155 6.65 6.22
ジョハナ 0.110 6.95 6.60
 註:PHは板野式による

  (3)  尿素加生澱粉粕の嗜好性
程度 試験牛 試験外 総計
ホ種 ホ雑種  計  ホ種 ホ雑種 エ種 プ種  計 
大なるもの 3 1 4 4 2 0 1 7 11
澱粉粕による 0 0 0 0 0 1 3 4 5
両原因による 0 0 0 0 0 0 1 1
 註:嗜好性大なるものとは好食するものをさす。

 

 B 肥育試験
 〔5〕 試験方法及経過
   第1回目の試験期間は自4月16日至6月15日60日間にして第1期30日第2期30日の2期に分ち共に試験群2頭対照群2頭とし試験群には乾草尿素加生澱粉粕のみを給与し、対照群に
  は乾草ビートパルプ玉蜀黍燕麦米糠大豆粕によってモリソン氏飼養標準の仕上飼料は充分摂取せぬので肥育育成飼料に合致せしめて給与した。
   尚試験群もこれに近き給与をなしたが残食あったのでこれを調査した。
   供試飼料の分析成績は前述のものを利用した。尿素は吸湿凝固せるは磨砕し生澱粉粕に混合給与した。
   体重測定は10日目毎に行いその1回の測定に3日間の平均を以てした飼養管理は大体泌乳試験に準ずるも流拭手入れは念入にし日中は畜舎前に繋牧した。
   尿素加生澱粉粕を松二は好食したが松一は食せず後半松一も好食する様になったがこれは澱粉粕の品質による嗜好の差の如く考えられる。
   第2回目は自10月24日至12月23日61日間を第1期31日第2期30日に分ち試験群対照群共モリソン氏飼養標準に合わせて第1回目と同様に飼育育成した。
   試験群は生澱粉粕並屑馬鈴薯を給与したが第2期には屑馬鈴薯のみを給与しこれに尿素を添加し別表の如き採食量を示した。
  (1) 飼料給与日量
   イ 第1回目試験
供試牛名 乾牧草
(g)
ビート
パルプ(g)
生澱粉
粕(g)
尿素
(g)
玉蜀黍
(g)
燕麦
(g)
米糠
(g)
大豆粕
(g)
可消化
粗蛋白質(g)
TDN
(g)
澱粉粕
残量(%)
第1期 試験 松1 9000 16413 150 698 4973 28.64
松2 9000 24100 200 798 5601 3.60
対照 岬3 6000 1500 1200 1000 700 809 5700
第3キング 6000 1500 2500 2000 500 961 7349
第2期 試験 松1 9000 20839 180 757 5334 9.40
松2 9500 24556 200 820 5840 1.37
対照 岬3 6000 1300 1000 100 700 500 791 5884
第3キング 5000 2000 2200 2000 1000 800 864 7949
  註: 生澱粉粕並尿素は採食量を示す

   ロ 第2回目試験
供試牛名 乾牧草
(g)
ビート
パルプ(g)
生澱粉
粕(g)
馬鈴薯
(g)
尿素
(g)
燕麦
(g)
米糠
(g)
菜種粕
(g)
可消化
粗蛋白質(g)
TDN
(g)
第1期 試験 マラソン 6000 2600 5600 70 480 3570
松3 6000 4100 4500 100 520 3450
対照 ベルボーイ 4000 1500 1000 500 560 3680
花1 6000 1000 2000 1000 600 780 5590
第2期 試験 マラソン 6000 10450 140 680 4270
松3 6000 13150 190 810 4620
対照 ベルボーイ 4000 1500 1300 500 580 3880
花1 5000 1000 2000 2000 500 790 5800

 〔6〕 試験成績
  (1) 増体量
   イ 第1回目試験 
群別 供試牛名 青草期 対照期 試験期
増体量
(kg)
1ヶ月
増体量(kg)
増体量
(kg)
1ヶ月
増体量(kg)
増体量
(kg)
1ヶ月
増体量(kg)
1日平均
増体量(kg)
試験群 松1 47 7.8 46 15.5 17.7 8.9 0.297
松2 87 14.5 37 12.3 50.4 25.2 0.840
平均   11.1   13.9   17.02 0.568
対照群 岬3 87 14.5 53 17.7 17.7 8.9 0.297
第3キング 100 33.3 51.0 25.5 0.850
平均   14.5   25.5   17.2 0.573

   ロ 第2回目試験
群別 供試牛名 当初
(kg)
終了時(kg) 増体量
(kg)
1ヶ月
増体量(kg)
群平均
(kg)
試験群 マラソン 231.5 273.0 41.5 20.75 18.80
松3 314.5 348.3 33.8 16.90
対照群 ベルボーイ 216.0 250.5 34.5 17.25 18.25
第3キング 370.0 408.5 38.5 19.25

  (2) 体測定部位増量
   イ 第2回目試験
群別 供試牛名 体高
(cm)
十字部高
(cm)
座骨高
(cm)
胸深
(cm)
胸幅
(cm)
腰角幅
(cm)
座骨幅
(cm)
尻長
(cm)
体長
(cm)
胸囲
(cm)
カン幅
(cm)
試験群 マラソン 3.5 5.0 2.0 5.3 3.5 2.0 2.0 0.5 6.0 5.0 2.5
松3 2.3 2.5 5.2 0.5 0.7 1.7 0.5 .5 0.5 5.0 1.0
対照群 ベルボーイ 6.5 3.5 1.5 2.0 0.8 1.5 0.7 1.0 3.0 4.5 0.7
第3キング 0 2.5 2.0 2.1 4.0 1.2 0.5 2. 9.5 3.5 1.5