【指導奨励上参考に資すべき事項】

昭和27年に発生せる特に注意すべき病害虫に関する調査成績

病虫部

 

 秋播作物播種後の天候はおおむね順調で麦類の生育は良好に経過し初霜、初雪、根雪は何れも平年より早かったが、積雪は前半に少なく後半に多かったため、融雪は渡島、根室地方では遅れた。尚小麦雪腐病の被害は主要麦作地帯において軽少であった。
 耕鋤は平年より稍早く4月上旬の高温多照に乗じ順調に進んだが4月中旬~5月にかけて強風、雨雪が屡々あり播種は大体平年並であったが、一部地方は稍遅れ稲畑作とも4月下旬~5月上旬に終了した。この間5月中旬十勝、網走地方では強風(北見支場 28m/s、湿度20%)により播種後の麦類、馬鈴薯等が飛散埋没し広汎な被害を認めた。尚水稲の移植は冷床苗で5月中旬~6月上旬、普通苗で6月上旬著しい支障なく終了し、6月全期の順調な天候によってその後の生育は良好に進捗した。
 春季に於ける病害虫は前年多発のイネゾウムシが4月下旬上川地方に初発生を見、その後6月上中旬まで各地に認められ、発生地域は前年より拡大の傾向を認めたが被害は平年より少なかった。又、同じく前年発生の激甚であった稲馬鹿苗病も極端に少なく、稲苗腐敗病も軽少であった。
 併、本年は近年発生の少目であったイネハモグリバエが6月早々急速な増加を見、上川、渡島等西南部一円の被害少なくなく、又、2.3年来発生極めて少なかったイネドロオイムシも6月下旬以降空知、上川、胆振、日高、桧山、網走等の地方に幼虫の被害が注目された。
 一方畑作では麦類では斑葉病類、白渋病等が中部及び東部に稍多く、又ムギアブラムシ類は旱害気味の渡島半島地方に特に多かった。
 続く7.8月は両月共全道的に夏型天候に乏しく、7月4日半旬後半~5半旬、8月3.5半旬のみが好晴で他は一般に低温陰湿で降雨日数が多かった。ために良好を予想された麦類は赤銹病は少なかったが黒銹病、赤かび病の発生によって中央部より根釧地方にかけて被害を蒙り前記ムギアブラムシ類の他ムギカラバエ等の発生もあって作況は平年を下廻るに至った。
 又馬鈴薯疫病も6月中旬より発生し7月以後の陰湿な天候によって蔓延し、特に十勝、根釧地方は平年以上の被害を認め、更に近年僅かに増加傾向にあったオオニジュウヤテントウは7月中旬桧山、上川、空知の外東部各地に稍多目の発生を認めた。
 尚本年は全道的にトマト疫病の激しい発生があった。
 水稲は7月下旬~8月1半旬に出穂期~穂揃期に達したが東部地方では低温のため生育は遅れがちで網走地方では黒変現象を認める程であった。この間イネハモグリバエは上川、空知地方に第1化期と略同様の被害があり、累生多発のニカメイチュウも平年より1ヶ月以上早く予察灯に飛来し、7月下旬~8月上旬より幼虫の加害による白穂が空知、上川、胆振、日高、石狩地方に散見されるに至ったが、被害は前3年に比し稍少目であった。
 一方前年多発の稲熱病は7月7日平年より4日早く琴似本場に発生し、7月4~5半旬の気温急昇により少しく蔓延したが被害は一部に止まり、8月10日前後より首いもちの発生を見、8月中旬の昼夜の鬱蒸せる気象状態を経て8月下旬~9月上旬稍急速に蔓延し胆振、空知、後志、上川の一部にかなりの被害があったが、平年並乃至稍多程度に止まった。
 尚本年は稲紋枯病、稲菌核病類の分布が拡大し、多雨のため稲黄斑萎縮病の散発、イネカラバエの発生等全般的に病害虫による被害は多目で稲作は平年を少しく下廻った。
 例年に比し発生多く、或いは特殊の発生をみた病害虫を示すと次の如くである。

 病害
  水稲   稲熱病、稲紋枯病
  麦類   麦類赤黴病
  馬鈴薯  馬鈴薯疫病、馬鈴薯萎縮病類
  豆類   大豆萎黄病、豆類菌核病、小豆銹病
  蔬菜   トマト疫病、菜類根瘤病、白菜露菌病

 害虫
  水稲   ニカメイチュウ、イネモグリバエ、イネカラバエ、ケラ
  麦類   オオキリウジガガンボ、ムキカラバエ
  豆類   ダイズクキタマバエ、マメノアブラムシ
  蔬菜   ヤマイモコナガ、アカザモグリハナバエ、蝸牛(甘藍に対し)
  果樹   ハダニ類(リンゴ)、ブドウ、イロキセラ
  雑    マイマイガ、野鼠

 1. 稲熱病
  27年は前年の多発に鑑み一般に窒素質肥料の手控え、抵抗性品種の選択等に注意し、早期発見と早期防除を励行したので、葉いもちの発生は比較的少なく、その被害は空知地方の一部に止まったが、頸いもちは8月中旬より散発を見、8月下旬の鬱蒸せる時期を経て、下旬末から9月始にかけて主として晩生種に急速に蔓延した。発生地域は東部地方に少なく西南部一円に及んだが、特に上川(富良野町)空知(新十津川村)胆振(厚真村)石狩(札幌市、手稲町)等の一部にかなり猖獗を見るに至った。本病防除に対しては屡々注意した通りで諸情報並びに早期発見等によって常に万全を期することが肝要である。

 2. 稲紋枯病及び稲小粒菌病
  本病は近年西南部稲作地帯に漸増の兆を認めていたが、本年も8月上旬上川、空知地方一円に散発し、ところにより被害はやや目立ち、中下旬には渡島地方(七飯、亀田)にも散見された。本病の発生地域の拡大は注目されてよく、更に稲小粒、褐色両菌病も調査により渡島(亀田村)胆振(厚真村)空知(栗山町、三笠町、美唄市、浦臼村、沼田町)上川(風連村)網走(端野村)の諸地方に分布が確認された。
 常発地にては被害藁の低刈及び焼却処分を励行し、排水に努める要がある。薬剤的防除法については今後検討を加えるべきであるが、府県に於いては紋枯病に対しては銅剤、小粒菌核病に対しては水銀剤を施用することが効果的と言われている。

 3. 馬鈴薯疫病及びトマト疫病
  中西部では7月、南部では7月より8月にかけて、東部では6月中旬より8月にかけて降雨日数が多く特に東部地方及び太平洋沿岸地方では、毎旬7~10日に及び本病の著しい蔓延をもたらした。
 即ち初発は例年通り6月下旬渡島、後志地方に始まり、漸次石狩、胆振、日高地方より東部へ蔓延が推移し根釧地方の如き生育期の遅い地方の猖獗は著しかった。蔓延の急速なことと降雨が頻繁であったため防除時期を失して十分の防除効果を得られなかったところがあったのは遺憾である。又従来トマトについては生育末期に往々発病を認めることがあったが、27年は7月中旬~8月上旬、特に8月上旬の茎葉繁茂せる嫩英期前後に全道各地に猖獗した。多雨で蔓延の急速なことと従来かかる異常蔓延を来した例がないため一部を除き発生蔓延期の防除を逸し、近年にない惨害をもたらし半作以下に陥るものが少なくなかった。
 疫病に対しては充分気象条件をも考慮し、防除適期を失しないよう努めることが肝要である。

 4. 菜類根瘤病
  本病は累年分布を拡大しつつあるが、27年には石狩、胆振、後志地方のみならず、空知(納内村)上川(美瑛町、永山村等)十勝(帯広市)釧路圏(釧路市、厚岸町等)根室(中標津町、和田村)等にも発見され、中標津町ではルタバガに発生を認められたことは特に根釧地方に於ける今後の分布拡大について充分の注意が必要である。
 本病に対する薬剤的な防除法については今後検討を要するが移植栽培のものにあっては病苗によって分布拡大をみることが多いから、無病地帯又は無病土で育成した健全苗を用いるとともに、発病圃は十字科作物以外のもので少なくとも4年以上の長期輪作を行うよう努めるべきである。

 5. ニカメイチュウ
  本虫は前2年に引続き広範囲にわたる多発を示し、これが対策には全道的に深い関心がよせられた。即ち、一般農家の電燈には6月上旬既に成虫の飛来を認め、又畦畔等に於いても屡々観察され、更に多発地方に対する点灯による屋内誘蛾の勧奨結果では、6月中旬から7月にかけて1日最多10000頭を越える夥しい数を得たことは、本虫の越冬幼虫数が予想外に多いこと、成虫出現期がその環境によっては予察灯より1旬以上早いことを確認し得た。同時に室内誘殺効果の少なからざるものあるを実証した。
 更に各地に於けるB.H.Cの試用による防除が奏効して、成虫飛来最盛期である7月中~下旬に撒布した地方では、その被害を前2ヶ年をはるかに下廻る程度に抑止することができた。
 尚農林省の企画によるパラチオン剤特にホリドールの防除効果を確認するため上川(東鷹栖、鷹栖)空知(納内)胆振(厚真)地方に於いて諸種の試験並びに調査を行い所期の効果を確認したが、之と併行して行ったB.H.Cの効果もまたホリドールに次ぐものがあることを認めた。
 それ等各般の試験或いは試用の結果従来薬剤的防除法の困難であった本虫に対して、パラチオン剤或いはB.H.Cの実用的価値を確認し本虫防除上新機軸を展開するに至った。

 6. イネハモグリバエ
  近年本虫の被害は軽少に経過していたが、27年は平年に比し成虫が早発、多発し、6月中旬に於ける幼虫加害は特に上川、空知地方に於いて激しく、平均20~30%の被害葉率を算したが石狩、渡島地方と南下するに従い被害は少なかった。而して7月中旬に於ける2化期の被害も上川、空知地方では局部的に稍激しく、其他胆振、日高地方が之に次ぎ全般的にその地域は広汎に亘ったが被害は1化期を下廻った。
 本虫の被害については軽視の傾向にあり、防除の徹底を欠いた憾があるが、今後充分警戒に努め、B.H.Cによる防除の施行を期す要がある。

 7. オオキリウジガガンボ
  前年北見市周辺に発生して裸麦を加害し注目された本虫は、27年網走管内一円に発生し、このため一部再播乃至作付転換を行ったところもあり、更に十勝、空知、宗谷地方の一部にも散見され発生地域は意外に広汎に亘り警戒を要するものと認められる。
 防除法に関しては尚今後検討を要する。(府県に於けるキリウジガガンボに対してはD.D.T粉剤5%、又はB.H.C粉剤0.5%乃至1.0%を種子に混合粉衣、或いは播種時圃場に全面撒布して防除効果を奏している)

 8. ヤマイモコナガ
  従来本道に於ける発生報告はなかったが、27年琴似町、札幌村等石狩支庁管内のみならず、上川、胆振支庁管内の一部にもかなりの発生を認めた。各地共7月及び9月の2回に亘って葉部を食害したときに20%内外の減収を招く(琴似町)といわれ注目をひいたが、発生地に於ける薬剤撒布調整の結果、B.H.C粉剤の防除効果が認められた。

 9. アカザモグリハナバエ
  函館市隣接町村では稲苗移植後の温床を利用して蔬菜の促成栽培を行っているが、上磯町では27年6月下旬乃至7月上旬に亘り本種の発生激甚を極め、ホウレンソウ等は殆ど壊滅に瀕し、諸地方の業者に恐慌を与えた。今後本虫の生活史について更に調査を行い防除法累出をなすべきものと認める。

 10. ハダニ類(リンゴ)
  西南部果樹地帯に近年漸増の本虫(4種類存在することが分明した)は、27年も余市町、大江村、江部乙村、豊平町等に稍多い被害を認めた。
 これの防除は前年よりロチゾール(B.H.C、デリス混合乳剤)の撒布を勧奨したのであるが、一部地帯でのパラチオン剤ホリドールを試用した事例によれば殺卵効果は期待少なきも、成虫致死には卓効があり、本虫の防除上の示唆を得たので、今後更に使用法について検討を要するものと認めた。

 11. ブドウフイロキセヲ
  近年後志支庁管内、余市町並びに塩谷村に発生してその増加を危惧されていた本虫は、更に石狩(手稲町)にも発生を認めた。
 之に対して道当局は27年9月余市町に燻蒸室を施設し余市町及び塩谷村の苗本に対し青酸瓦斯燻蒸を実施して出荷せしめた。

 12. マイマイガ
  本種は昭和22年北海道の各地に発生し特に空知支庁管内、浦臼村に於いては列車の車輪を空転せしめて運転を妨げた程の発生記録があるが、27年春、網走地方滝ノ上村では果樹に本種が発生し、嫩芽に幼虫の被害が多く注目されたところ、果然成虫の発生が多く8月10日夜網走北部の諸町村特に滝ノ上村に於いては数時間に亘り成虫の大群飛を認めた報があるが、8月上旬より上川、空知地方の予察灯にも飛来を認めている。
 27年の異常発生に引きついで今後も発生被害が予想されるが、発生多い場合は幼令のうちにD.D.T或いはB.H.Cを以て防除すべきである。

 13. 野鼠
  前年11月上川北部、網走、宗谷地方の一部で貯蔵馬鈴薯が食害されて問題となった野鼠(ドブネズミ)は、27年空知(新十津川村、美唄町)十勝(音更村)網走(上湧別村)等の水稲に対し7月下旬~8月以降にかけて食害し、上湧別村の被害は(約2町歩)特に激しかった。
 又一般に林野に於ける野鼠の被害の増大が認められている折柄発生多い地帯ではフラトールその他により殺滅に努めることが緊要である。