【指導奨励上参考に資すべき事項】

大豆萎黄病線虫の寄生性に関する調査成績

有害動物研究室

 

目的  
  大豆萎黄病線虫の寄生性を明らかにし大豆萎黄病防除上の参考に資する。

調査方法   
  大豆萎黄病線虫は大豆、小豆、菜豆及び花豆の何れにも寄生するが、その被害の程度は各植物間に明らかに差があるのでこの理由を究
  明するために、圃場に設置してあるコンクリート枠及びポットを用い大豆萎黄病線虫の棲息する土壌に生育した各植物をラクトフェノール、
  酸性フクシンを用いて染色して根組織内に寄生する大豆線虫の発育について比較検討した。
  更に他の28種の植物を用いて各々植物に対する大豆線虫の行動を比較した。

調査結果
 Ⅰ. 大豆、小豆、菜豆、花豆に対する大豆線虫寄生の量的差異
  各植物に対する大豆線虫の寄生量を根に着生している雌虫数によって比較するため、発芽後35~40日目の植物個体を多数抜取り、主根
  に着生する雌虫の数を数えた結果、第1表に示したように花豆には雌虫は全く認められず、又菜豆には大豆及び小豆と比較して、明らかに
  雌虫数が少なかった。 

第1表  大豆、小豆、菜豆、花豆の主根に着生する大豆線虫雌虫数の比較  
  大豆 小豆 菜豆 花豆
昭和24年6月 27.2(23) 38.5(15) 2.7(13) 0(10)
  〃   8月 35.4(14) 21.5(12) 5.4(9) 0(10)
昭和25年6月 38.0(12) 39.1(14) 2.7(9) 0(10)
  〃   8月 14.5(20) 7.8(6) 1.8(8) 0(10)
  1. ( )内の数字は調査した植物個体の数を示す
  2. 供試品種は大豆(蘭越、大谷地2号)、小豆(円葉、大納言)、菜豆(金時、大手亡)、花豆(紫花種、白花種)であった。
  3. 大豆、小豆、菜豆、花豆以外に豌豆(ロシヤ早生、札幌青手無)について同時に試験したが、全く雌虫の着生を認められなかった。

 以上の結果から根に着生する雌虫数によって各植物に対する線虫寄生量の指数を求めると第2表のようになる。

第2表  大豆、小豆、菜豆、花豆に対する線虫寄生量の指数
植物 線虫寄生量の指数
大豆 28.3
小豆 26.7
菜豆 3.2
花豆 0

 Ⅱ. 大豆小豆、菜豆の根組織内における線虫の発育の比較
  菜豆の根に寄生する雌虫数は大豆及び小豆のそれに比して明らかに小であったが、根に寄生侵入する線虫の幼虫数では各植物間に差
  異はなく、侵入した幼虫が成虫にまで発育する途中において差異を生ずるもののようである。
  幼虫の組織内での発育の速度は主として温度に左右され、植物の種類が異なっても殆ど差異は認められなかった。即ち5.6.7.8の各月に
  大豆、小豆、菜豆を植えて試験した結果は、線虫の発育速度は温度の上昇と共に早くなるが、大豆、小豆、菜豆において殆ど同一であ
  った。

第3表  大豆、小豆、菜豆の根組織内における大豆線虫各期の発育所要日数
  第2期幼虫 第3期幼虫 第4期幼虫 雌成虫より卵形成まで
菜豆 6~12(8.3) 3~4(3.8) 5~7(6.0) 11~17(12.8)
大豆 5~14(8.3) 3~4(3.8) 5~6(5.5) 8~16(11.5)
小豆 5~11(7.5) 3~5(4.0) 5~6(5.8) 7~17(11.0)
  1. 各数値は1952年の5月、6月、7月、8月の4回に亘る調査結果に基づく。
  2. ( )内の数字は平均値である。
  3. 品種は菜豆(大手亡)、大豆(極早生千島)、小豆(大納言)を用いた。

  菜豆に寄生した幼虫は第4期幼虫乃至は雌成虫までは順調に発育し得るが、雌成虫に達したのち卵形成までの発育が殆ど肥大生長を
  伴わず、従って雌虫の体形は明らかに小さく、根の表皮を被って外部に懸垂するまで発育し得ない。

第4表  卵形成期の雌虫の大いさ比較
  体長
(μ)
体幅
(μ)
体長/体幅
(μ)
大豆に発育したもの 689.8 477.8 1.44
小豆に発育したもの 646.0 452.5 1.43
菜豆に発育したもの 452.6 231.1 1.95
  各数値は雌虫20個体の平均で示した

  菜豆に発育した雌虫は形が小さいため、卵が体内に形成されても数は甚だ少ない。雌虫体内の卵数は10個体平均で大豆に発育したもの
  259、小豆に発育したもの268に対し、菜豆に発育したもの65であった。

 Ⅲ. その他の植物に対する大豆萎黄病線虫の寄生
  花豆では大豆萎黄病線虫は多数侵入するに拘わらず、根に雌虫の着生が全く認められなかったのは侵入した幼虫が成虫にまで達し得な
  いためである。
  全く同様にして従来非寄生植物と考えられていた多数種類の植物を線虫土壌に植え、その根を1週間毎に精査したところ多数の植物に線
  虫の侵入が認められた。更に或種類の植物では侵入した幼虫が大豆、小豆等の場合と同じように侵入後の発育を続けるがその発育は途
  中で停止し、又或種類では単に線虫が侵入するだけで発育を続けることが出来ず根に侵入した幼虫は最後まで第2期幼虫として認められ
  た。供試植物について大豆線虫お寄生性によって分けると次のようになる。

   線虫が多数侵入し、その後多少の発育を続けるもの
     ライマビーン、アルサイククロバー
   線虫が多数侵入するが発育を続け得ないもの
     ラデイクロバー、赤クロバー、クリムソンクロバー、スイートクロバー、赤豌豆
   線虫の侵入が少ないもの
     豌豆、蚕豆、アルファルファー、黄花ルーピン
   稀に侵入の見られるもの
     トマト、とうがらし、たばこ、甘藍
   線虫の侵入が認められないもの
     玉蜀黍、大麦、裸麦、小麦、燕麦、馬鈴薯、胡瓜、ビート、亜麻、牛蒡、たまねぎ、人参

  但しこれらの区分は甚だ概略的なものであって、特に大豆萎黄病線虫が侵入しない植物の種類があるかどうかは更に試験を要する。

 考察
  豌豆、クロバー類は本線虫の被害を受けず、従来非寄生植物と考えられているが、実際は線虫が根に侵入し、その後の発育が悪いために根に成虫が発見されないものであり、又菜豆では大豆、小豆と同様に多数の線虫が侵入するが、それが侵入後最後まで完全な発育をすることは出来ない。即ち大豆萎黄病線虫による被害の有無は、その植物が本線虫の侵入を許すか許さないかによるのではなく、線虫が侵入後発育を続け得るか続け得ないかによることが多いと考えなければならない。従って大豆緑豆の発生する圃場に大豆線虫の被害のない豆科植物、例えば豌豆、クロバー類等を栽培することは決して無意味ではないようで、これらの植物が「捕穫作物」としての役割をどの位果たしているかについては、今後研究を進めたいと考えている。