【指導奨励上参考に資すべき事項】

根室地方に於ける「Dentcorn Silage」の飼料価値に関する試験成績

道立農業試験場 根室支場

 

イ. 目的
 根室地方の Dentcorn は気候的関係で乳熟期に達しないものが多いために、未熟の内にSiloに填充するものが多い。従ってSilage の品質及びその栄養価値は他の地帯のそれと同一に見ることは出来ない。依ってこの地帯の Dentcorn-Silageが果たして如何なる組成分をもち、どの程度の品質を保有し、栄養価値をもっているかということを調査して、Silageの調整利用上の資料としたい。

ロ. 試験方法
 1) 品質鑑定
  当支場並びに中標津町近郊地区のDentcorn Silageを採取し、その有機酸をWiegener氏法を基礎としたSeppor氏法によって定量しP.H並びに一般成分の分析は定法に従った。
 2) 消化試験
  緬羊3頭を供試し予備期5日間、試験期12月1日より12月10日迄10日間このDentcorn Silage単味給与によって、飼養箱に繁用して常法に従って消化率を算定した。
 3) 飼養試験
  泌乳牛4頭を供試し自10月27日至12月25日  60日間、20日宛3期とし、第1第3期を対照期とし、この期間中には乾牧草Best pulp 濃厚飼料を給与し、第2期を試験期とし、この期間中には乾牧草 Dentcorn Silage濃厚飼料を Morrison氏飼養標準給与をなしたがDentcorn は分析成績が間に合わなかったので推定値に従った。
  搾乳量、脂肪率、体重測定は常法の如く実施した。

ハ. 試験成績
 1) 品質検査
  a) 一般組成分
試料 水分 粗蛋白質 粗脂肪 N.F.E 粗繊維 粗灰分 純蛋白質 可消化
粗蛋白質
可消化
純蛋白質
澱粉質 T.D.N
根室支場 Ⅰ 80.94 1.26 0.96 9.88 5.70 1.26 0.89 0.64 0.45 8.31 9.68
 〃    Ⅱ 82.53 1.73 0.77 8.84 4.64 1.49 0.80 0.86 0.41 4.43 8.61
農家 A 86.87 1.17 0.87 6.20 3.56 1.33 0.53 0.60 0.27 5.74 6.70
 〃  B 82.33 1.49 0.42 9.30 5.38 1.08 0.64 0.76 0.33 7.2 8.54
 〃  C 81.60 0.78 0.89 9.67 5.75 1.31 0.62 0.40 0.32 7.98 9.28
 〃  D 82.40 1.46 0.85 9.34 4.77 1.18 0.84 0.75 0.43 7.88 8.92
 〃  E 85.50 0.92 0.58 7.17 4.82 1.01 0.53 0.47 0.27 0.11 7.19
平均 83.16 1.26 0.76 8.63 4.95 1.24 0.69 0.64 0.35 7.24 8.42
北農 78.00 1.8 0.5 12.1 5.5 2.1 1.0 1.0 10.2
井口 82.80 1.4 0.8 8.5 5.2 1.3 0.85 0.33 7.6 10.0
伊藤 83.90 1.27 0.57 7.58 5.18 1.50 0.70 7.68

  b) 有機酸組
採取
月日
試料 水分 乳酸 醋酸 酪酸 総酸 比率
乳酸:醋酸:酪酸
P.H 乾物に
対する
酪酸含量(%)
点数 等級
遊離 結合 遊離 結合
31/Ⅲ 根室支場 80.94 1.63 0.45 0.55 2.63 62:38 4.10 40
1/Ⅴ 農家 A 86.87 1.63 0.46 050 0.01 0.01 2.61 62:37:1 4.18 0.1 37
 〃  B 82.33 1.36 1.10 1.12 3.58 38:62 3.98 39
15/Ⅴ  〃  C 81.60 1.26 0.78 0.78 0.03 0.01 2.95 43:56:1 3.97 0.3 37
 〃  D 82.40 0.69 1.80 0.88 0.13 0.34 4.84 14:76:10 3.92 3.7 20
29/Ⅳ  〃  E 85.50 0.81 2.39 2.59 0.02 0.07 5.88 14:85:1 3.69 0.7 32
24/Ⅶ 根室支場 0.66 0.72 0.59 1.97 34:66 3.70 35
農家 F 0.05 0.72 1.00 1.77 3:97 3.30 31
〃  G 0 0.49 0.72 1.20 0:100 4.50 25
〃  H 1.00 0.54 0.66 0.03 2.23 45:54:1 3.30 0.2 30
  備考  Ⅰ. 嗜好不良のものは農家 D.E.G
       Ⅱ. 農家Hは青刈大豆混播せしもの

ニ. 要約
 (1) 品質検査
   結論的にいってこの地方のDentcorn Silageは乳熟期に達しない未成熟のものを原料とするので水分多く従って他の諸成分の含有量が少ない。これに対する注意としては Siloに填充する際水分の含有量を適度に調節する必要がある。即ち70%位の水分を含んでいるようにすることが大切である。
 又蛋白質の含有量の少ないことに対しては大豆などの豆類をDentcornに混播して之を同時に填充するか、又は他の濃厚飼料をDentcorn Silageを用いる場合必ず併用する様にせねばならない。

 (2) 消化試験
   消化率は一般に宜しくなく、粗蛋白質51%、粗脂肪71%可溶性無窒素物48% 粗繊維49%である。従ってT.D.N算出などの際は此点について大いに考慮を払わねばならぬ。

 (3) 飼養試験
   この試験は他の試験に於ける他飼料とDentcorn Silageとの同量置換試験を実施した関係上Dentcorn Silageの分析成績によらず、その推定値に基づいたものであって、精確なものではないが大体飼料価値を窺うことが出来た。
  即ち第1第3対照期平均と第2期試験期の成績を比較した結果によると、乳量に於いて7.4%、脂肪量で1.09%減少している。これは明にDentcorn Silageの成分を過大評価したもので、今後は必ず濃厚飼料乃至青刈大豆の混合による補給を考うべきである。

 (4) 其の他
   有機酸組成は不良であって、有機酸不足のもの、酪酸醗酵過多による不良のもの等が多かった。切込にあたっては踏圧、鎮圧をよくし他飼料などの添加によって填充材料を緊密にし好気性醗酵を抑制して乳酸発酵を促すように努めねばならぬ。