【指導奨励上の参考事項】

大豆の熟度と発芽能力との関係

作物部作物第三研究室

 

1. 目的
 昭和28、29年の両年に亘り本道の大豆は夏季の低温により、甚だしく生育が遅れ未熟のうちに霜害を被って茎葉が枯死し、収量及び品質も低下し、更に種子としての発芽能力が憂慮されている。それ故大豆種子の熟度及び収穫後の取扱と発芽能力との関係を調べる目的で2ヶ年に亘り此の試験を行った。

2. 試験材料及び方法
  供試品種  十勝長葉
  試験方法  開花期から一定日数後より成熟期まで5日毎に材料を取り第2表の如き処理を行い種子の発芽能力、100粒重、収量、主成分
          含量等に及ぼす影響を調査した。尚、両年の供試材料収穫後は第1表の通りである。
  第1表 供試材料収穫日
    開花期後日数
       
年次     開花期
35日 40日 45日 50日 55日 60日 65日 70日 75日 80日
昭和28年 8月3日 9.17 9.22 9.27 10.2 10.7 10.12 10.17 10.22
昭和29年 8月9日 9.13 9.18 9.23 9.28 10.3 10.8 1013 10.18 10.23 10.28

  第2表 処理方法
処理記号  
A 収穫直後に脱粒して、乾燥せず
B   〃          室内乾草
C   〃          乾燥期で乾燥 ※
D 草本を抜き取って後熟 10日間
E   〃            20日間
F 草本を抜き取って低温処理し後熟20日間 ※※
H ポットの材料を、低温-7℃に15分間 ※※※
  ※ 45℃  5日間乾燥
  ※※ 昭和28年 -9℃2時間、昭和29年-7℃15分間
  ※※※ 戸外で生育させたポットの材料を、そのまま低温処理して20日間後熟させてから抜き取って調査を行った。

3. 試験結果及び考案
 (1) 種子の発育状況
  開花後35日目より80日目までの種子の発育状況は第3表のとおりである。開花後50日に至り長さ、巾、厚さ、及び生重が最大の値を示しその後漸減する。乾燥重量は65日迄次第に増加しその後変化はあまり見られない。水分は開花後日数の経過に伴い次第に少なくなっていくが70日目から急激に減少し始める。(第3表)

  第3表 開花後日数と種子の発育(昭和29年度)
    開花期後日数
項目
35日 40日 45日 50日 55日 60日 65日 70日 75日 80日
粒の長(mm) 10.32 10.87 10.73 11.56 11.48 11.20 10.89 8.62 7.51 6.94
粒の巾(mm) 8.09 8.23 8.68 8.85 8.58 8.40 7.85 7.58 7.16 6.80
粒の厚さ(mm) 5.32 5.95 6.55 6.96 6.69 6.51 6.39 6.05 6.01 5.83
1粒生重(g) 0.249 0.297 0.362 0.391 0.368 0.342 0.331 0.261 0.199 0.187
〃 乾重※(g) 0.070 0.097 0.128 0.145 0.139 0.148 0.162 0.170 0.162 0.165
水分含量※※(%) 71.9 67.3 64.6 62.9 62.7 56.7 51.1 34.8 19.0 13.3
  ※   乾重は45℃で5日間乾燥した粒重
  ※※ 水分含量=生重-乾重/生重×100

 (2) 種子の100粒重に及ぼす影響(第4表)
  収穫時期と処理の関係を風乾100粒重についてみると、開花60日目以降に収穫したときはどの処理でも差はみられないが、開花後55日目以前では後熟させたD,Eは収穫直後に脱粒したB,Cに比してその100粒重が大である。これは恐らく後熟作用の結果であろう。

  第4表 100粒重についての調査結果(昭和29年度)
    開花後日数
 処理
35日 40日 45日 50日 55日 60日 65日 70日 75日 80日
A
B 5.48 8.66 10.59 13.76 14.99 16.85 16.00 16.45 16.28 16.38
C 6.40 9.12 11.70 13.86 15.04 16.19 16.53 16.62 16.50 16.73
D 8.45 10.70 13.33 15.00 16.55 16.59 16.54 16.89 16.68 16.68
E 8.67 10.49 13.91 15.65 16.12 16.27 16.69 16.54 16.54 16.65
F 6.90 10.25 12.56 15.13 16.37 16.52 16.30 16.75 16.96 16.68

 (3) 発芽に及ぼす影響(第5表)
  上述の大豆種子について発芽歩合を見ると、収穫後直ちに脱粒したものとは(処理A,B)、開花期から55日(昭和28年)乃至60日後(昭和29年)には完全な発芽力を有していた。
 開花後55日以前の種子の発芽力は28年度の方が、29年のものよりまさっていたが、これは29年度は開花期以降の低温によって前年に比しや、登熟が遅れた為である。しかし室内で自然乾燥させると(処理B)早期収穫の場合には黴を生じて発芽を減ずる危険がある。
 未熟のまま脱粒して乾燥期に入れた場合(処理C)が発芽を著しく低下し早期に収穫したものは全く発芽しない。これは急激に水分が奪われるために種子に障碍をうけるものと思われる。
 後熟させたときは(処理D,E)開花期後35日目のものでも非常に高い発芽歩合を示した。
 草本を抜き取って-7℃の低温に遭わせても(処理F)その後充分に後熟させると発芽に大きな障害を与えない又ポットのままで処理したときは(処理H)殆ど完全な発芽力を有した。更に昭和29年度は10月9.10日の両日に圃場で相当強い霜にあたっているが、その後収穫したものでも発芽力の減退は見られない。
 故に一般には発芽力を低下させる原因は霜による発芽障害よりも未熟若しくは種子の水分含量の高い大豆を収穫した後の取扱いによることが大きいように考える。

  第5表 発芽についての調査結果※(昭和28.29年)
 開花後日数
     
年度   処理
35日 40日 45日 50日 55日 60日 65日 70日 75日 80日
昭和
28年
A 81 67 99 100 100 100 100 100
B 37 67 98 100 100 98 97 100
C 0 0 41 93 97 48* 28* 100
D 75 100 100 99 98 100 100 100
E 99 99 100 100 99 100 100 100
F** 0 79 86 71 87 100
昭和
29年
A 1 29 26 38 64 99 100 100 100 100
B 0 5 19 83 86 91 98 100 100 100
C 0 0 0 0 0 59 84 95 92 94
D 82 98 95 100 98 100 95 99 94 94
E 92 96 100 100 100 94 97 95 100 98
F*** 64 86 88 94 100 100 100 97 96 100
H 99 99 100 99 100 100
  *    乾燥器故障による       ※発芽試験は30℃の恒温器で行った。
  **   昭和28年度は-9℃2時間
  ***  昭和29年度は-7℃11分間

 (4) 種子の主成分に及ぼす影響
  収穫直後脱粒して45℃乾燥器で5日間乾燥させた(処理C)と草本抜取後熟20日の(処理E)及び低温にあわせた処理Fについて、その種子成分の分析を行った。

  イ 脂肪
   脱粒直後乾燥した処理C、20日間後熟の処理E、低温処理して後熟させた処理F共に開花後35日目では脂肪含量低く15%乃至17%台を示すが、40日目に至り収穫後後熟させた処理Eのみ約20%となり、処理CとFでは50日目に至って漸く20%に達している。
 開花後50日目以前に於けるこれらの処理間の差異は、処理CとFでは脱粒乾燥或いは低温処理によりその後の脂肪の合成が区別され、処理Eに於いては少なくとも開花期後50日以後のものは収穫後の後熟作用の結果脂肪の合成が行われたことによるものと思う。尚脂肪含量の多少と既述の発芽能力とは特に関係がないようである。
  ロ 純蛋白質
   脱粒直後乾燥した処理Cでは純蛋白は開花後日数の増大と共に高い傾向を示している。しかるに処理E及びFでは開花後35日目のもので既に40%以上を示し、以後大差が認められない。これは処理Eに於いてはもとより、低温処理をした処理Fに於いても後熟作用が行われ、蛋白質が増大したことを示すものである。而して処理Cでは開花後35日目のものでも全く発芽能力がないのに反して処理E及びFでは開花後35日目のものでも極めて高い発芽歩合をしめしていることから考えて、発芽に関しては蛋白質に関する後熟作用が主要な役割を果たしているように思われる。

  第6表 収穫時期別の種子成分(昭和29年 乾物中百分率)
            収穫後日数
 処理          成分
35日 40日 45日 50日 55日 60日 65日 70日 75日 80日
収穫直後脱粒して
45℃乾燥器5日間(C)
  
脂肪(%) 17.59 18.04 18.31 20.26 19.96 19.76 20.52 20.08 19.53 19.40
純蛋白(%) 37.09 37.59 37.59 39.22 39.47 39.53 39.16 41.59 42.41 41.28
草本抜取後
後熟20日(E)
 
脂肪(%) 17.40 19.78 20.32 20.08 19.80 20.13 20.30 20.51 19.84 19.13
純蛋白(%) 43.53 41.97 41.47 41.59 42.91 42.84 43.47 43.09 42.66 43.47
草本抜取中7℃
処理してから
後熟20日(F)
脂肪(%) 15.25 19.40 18.23 19.94 19.87 19.79 19.26 19.76 20.16 20.15
純蛋白(%) 43.53 41.91 42.41 41.84 41.66 42.47 42.66 41.91 42.41 41.91

 (5) 収穫時期が種子収量に及ぼす影響(第7表)
  尚参考までに草本を抜取り20日間後縦させた場合の収穫時期別の種子収量を比較すると、開花後50日以後には明かな差が見られない。

  第7表 収穫期別種子収量
     収穫後日数 35日 40日 45日 50日 55日 60日 65日 70日 75日 80日
1個体当粒重(g) 3.74 5.24 6.74 8.14 8.48 9.52 8.62 8.88 8.52 8.96
完熟期との差(g) -5.22 -3.72 -2.22 -0.82 -0.48 0.56 -0.34 -0.08 -0.44 0

 最少有意差   1%  1.67g、  5%  1.24g

 以上の結果から大豆種子は開花期から55~60日後、即ち葉が僅かに黄色を帯びてきた時には、充分に発芽能力を有し、処理によって発芽歩合を低下させることは少なくなる。後熟させることは、品質を高め発芽を良好ならしめるのに有効で粒の肥大期である開花後40~45日に収穫したものでも高い発芽力を有している。
 これを成分的に見ても、脂肪蛋白の合成を継続させその含量を増加させる。又収量でも開花50日以降では完熟期に比べて有意差は見られない。生育中の低温は其の後の後熟が充分であるならば、発芽におおきな障害を与えない。発芽を害するものは熟度以上に収穫後の取扱及びその水分含量と貯蔵条件が問題になるものと考える。