【指導奨励上の参考事項】

馬鈴薯の早期培土に関する試験成績

道立農業試験場種芸部

 

1. 昭和26~29年の4ヶ年に亘り種芸部圃場に於いて、農林1号、紅丸及び男爵を材料として早期培土(「めくらがけ」と「こすり」)の時期と馬鈴薯の生育、収量並に除草効果の関係について試験を行い、更に29年には種芸部、江別市及び'真狩村で現地試験を行った。

2. 早期培土により草体の発育は時間的には稍々おくれるが量的には抑制的な影響は見られず、むしろ促進され大形化する場合が多い。
 第1表 発芽並に開花状況 26年
発芽(日) 培土上
発芽(日)
開花始
  (日)
発芽~
開花始(日)
開花株
歩合(%)
花房当
平均小花数(花)
紅丸 農1 紅丸 農1 紅丸 農1 紅丸 農1 紅丸 農1 紅丸 農1
1.発芽5日前 - - 21.4 20.5 60.7 57.8 - - 100 100 16.6 14.2
2.発芽当日 18.7 16.8 24.5 22.4 60.6 55.9 41.9 39.1 100 100 16.2 14.5
3.発芽後6日 19.0 17.1 27.3 25.7 61.1 57.3 42.1 40.2 100 100 17.0 16.5
4.発芽後12日 17.9 17.6 - - 60.2 57.8 42.3 40.2 100 100 15.9 14.6
5.対照 17.5 17.1 - - 59.1 55.7 41.6 38.6 100 100 14.1 15.0
  註: 発芽、開花始は植え込み後の平均所要日数で示す。

 第2表 早期培土の時期と草体の大いさとの関係
26年 27年 28年 29年 平均
播種後
52~53日
播種後
  65日
播種後
  57日
播種後
  74日
播種後
  69日
紅丸 農1 紅丸 農1 農1 男爵 男爵
発芽前11~21日 - - 108 110 110 - - 109
発芽前5~6日 107 105 106 111 - - - 107
発芽当日 103 108 105 106 120 - - 108
発芽後2~3日 - - - - - 119 111 115
発芽後5~6日 98 103 105 106 113 - - 105
発芽後10~12日 96 96 103 106 116 - - 103
対照 100 100 100 100 100 100 100 100

3. 塊茎個数は少なくなる場合が多いが個々の塊茎の肥大が促進され大形化し、塊茎重量は確実に増収する場合が多い。
 第3表 早期培土の時期と株当平均塊茎数との関係
26年 27年 28年 29年 平均
紅丸
農1
紅丸
農1
農1 男爵-A 男爵-B
発芽前11~21日 96 91 93.5
発芽前5~6日 95 96 95.5
発芽当日 100 108 94 100.7
発芽後2~3日 124 97 110.5
発芽後5~6日 89 100 91 93.3
発芽後10~12日 90 96 87 91.0
対照
      (個)
100
8.1
100
9.8
100
8.4
100
6.3
100
3.9
100.0

 第4表 早期培土の時期と塊茎の大いさとの関係
26年 27年 28年 29年 平均
紅丸
農1
紅丸
農1
農1 男爵-A 男爵-B
発芽前11~21日 118 130 124.0
発芽前5~6日 112 113 112.5
発芽当日 112 100 134 115.3
発芽後2~3日 102 123 112.5
発芽後5~6日 114 116 131     120.3
発芽後10~12日 112 111 126     116.3
対照
        (g)
100
111.5
100
84.2
100
66.7
100
90.7
100
84.1
100.0

 第5表 早期培土の時期と株当平均塊茎重量との関係
26年 27年 28年 29年 平均
紅丸
農1
紅丸
農1
農1 男爵-A 男爵-B
発芽前11~21日   113 118     115.0
発芽前5~6日 106 109       107.5
発芽当日 108 108 126     114.0
発芽後2~3日       126 129 127.5
発芽後5~6日 101 117 119     112.3
発芽後10~12日 100 106 111     105.7
対照
        (g)
100
906.5
100
820.4
100
562.6
100
567.6
100
327.8
100.0

4. 早期培土の時期と生育、収量の関係については、抑制的な影響例えば生育の遅延或いは個数の減少等は発芽当日が最も少なく之より時期が前後する程大きくなり、促進的な影響例えば草体の大形化或いは収量の増大等は発芽当日が最も大きく之より時期が前後する程小さくなる傾向があり、実施の時期としては発芽当日が最適で、発芽前後から発芽後5~6日間に実施するのがよい。

5. 発芽前後より発芽後10日の期間に於ける早期培土による除草効果は著しく、特に除草の困難な根草の発生が強く抑制せられることは注目に値する。

 第6表 7月4日(播種後54日)に於ける雑草の発生状況 28年
    部位

区  ブロック
根草(株の両測各10cmまで) 畦間(株より10~37.5cmの間) 全体平均
平均 平均
1. 播種後10日 6 3 6 5 5.0 7 6 9 5 6.8 5.9
2. 発芽当日 2 1 1 2 1.5 4 2 2 2 2.5 2.0
3. 発芽後5日 2 3 1 1 1.8 2 5 1 4 3.0 2.4
4. 発芽後10日 1 1 2 1 1.3 1 2 5 2 2.5 1.9
5. 対照 10 10 10 10 10.0 10 10 10 10 10.0 10.0
  註: ① 雑草の最も多い区を10として採点した。
     ② 1~2の場合は草も小さくその侭培土してさしつかえなく、3の場合はこくわずかスギナ等の拾い草を要する程度である。

 第7表 7月4日における各区1畦(0.75×2.7m)当りの雑草発生量 28年
    区   部位 雑草の種類
ひえ(その他の
  禾本科の
  ものを含む)
すぎな その他 合計
本数
(本)
生草重
(g)
本数
(本)
生草重
(g)
本数
(本)
生草重
(g)
本数
(本) (%)
生草重
(g) (%)
1. 播種後10日 216 10.5 5 13.0 317 32.0 538 81 55.5 27
810 38.0 10 31.5 866 112.0 1686 136 181.5 67
1026 48.5 15 44.5 1183 144.0 2224 117 237.0 50
2. 発芽当日 2 0.1 0 0 81 3.3 83 13 3.4 2
22 0.7 5 6.7 301 10.3 328 26 17.7 7
24 0.8 5 6.7 382 13.6 411 22 21.1 5
3. 発芽後5日 10 0.5 3 25.0 70 1.2 83 13 26.7 13
130 6.3 2 3.5 838 47.0 970 78 56.8 21
140 6.8 5 28.5 908 48.2 1053 55 83.5 18
4. 発芽後10日 2 0.1 0 0. 49 1.2 51 8 1.3 1
55 3.5 3 9.0 527 18.1 585 47 30.6 11
57 3.6 3 9.0 576 19.3 636 34 31.9 7
5. 対照 210 35.5 7 9.0 444 157.5 661 100 202.0 100
428 75.0 31 38.0 783 157.5 1242 100 270.5 100
638 110.5 38 47.0 1227 315.0 1903 100 472.5 100
  註: ① 部位の Ⅰ は根草(株の両側各10cmまでの間)
             Ⅱ は畦間(株より10~37.5cmの間)
      ② 雑草その他の主なものは、なずな、たんぽぽ、おおばこ、たで、あかざ、つゆくさ、すべりひゆ等である。

6. 塊茎収量並びに除草効果よりみて早期培土実施の適期は発芽前後から発芽5~6日までの間で、特に発芽当日が最適である。

7. 江別市及び真狩村に於ける現地試験の結果は、除草管理体系の中に早期培土を導入することにより除草労力は慣行に比し40及び50%節減され除草効果は拡大され、塊茎収量は12及び8%の増加を示し、実施の簡単なこと等と相俟って耕種技術としては極めて普及価値の高いものであることが認められた。

8. 現地試験成績
 (1) 早期培土(畜力実施)効果確認試験 (29年道立農試種芸部)
 第8表  区(16坪)当たり塊茎収量の比較

ブロック  区
個数 重量(kg)
早期培土 対照 早期培土 対照
1213 1168 160.000 123.700
1252 1164 144.700 128.600
1203 1150 130.700 122.500
平均 1223 1161 145.133 124.933
同上比(%) 105 100 116 100
  作業を培土器及び手製のコスリを使用して畜力化した場合にも、26~29年の本試験の場合と同様増収効果が認められた。

 (2) 馬鈴薯早期培土効果確認試験圃成績 29年(担当、後志支庁管内真狩村農業改良相談所)
  イ. 生育並に収量の比較
 第9表
       区
    ブロック
調査項目  
早期培土 対照
平均 平均
発芽期(月日) 5.24 5.24 5.24 5.24 5.24 5.24 5.24 5.24
草丈(cm) 75 74 76 75.0 77 74 75 75.7
澱粉価(%) 17.0 17.1 17.0 17.0 17.0 17.0 17.1 17.0
塊茎収量反当(貫) 782 786 778 782 727 723 719 723
同上比(%)       108       100

  ロ. 除草労力の比較
 第10表
   作業内容 実施月日
(月日)
早期培土区 対照区
使用器具 人畜の別 反当
所要時間
使用器具 人畜の別 反当
所要時間
1. 早期培土又は中耕除草 5.27 カルチベーター後コスリ 32分 カルチベーター 22分
2. 除草 6.7 ホー 3時間40分 ホー 10時間
3. 中耕除草 6.13 カルチベーター 27分 カルチベーター 27分
4. 半培土 6.22 半培土付カルチベーター 32分 半培土付カルチベーター 32分
5. 本培土 7.5 培土器 40分 培土器 40分
合計 5時間51分
(49%)
12時間01分
(100%)

  ハ. 要約
   1. 生育及び澱粉価には差がなかったが塊茎収量は早期培土区に於いて8%の増加を示した。この差は統計的に有意である。
   2. 除草労力は早期培土の実施により半減した。
   3. 増収は雑草等の影響は少なく、主として生育前半期の旱害を或る程度回避出来たことによるものと思われる。

 (3) 馬鈴薯早期培土(「めくらがけ」と「こすり」)に関する耕種改善試作圃成績  29年(江別市農業改良相談所)
  イ. ねらい
   馬鈴薯栽培に於ける除草体系の1部に畜力作業の早期培土(めくらがけとこすり)を導入することにより除草労力の節減、除草効果の拡
   大並に馬鈴薯の増収を計り、経営改善に資せんとするものである。
  ロ. 担当農家
   江別市、大麻  弘田正雄

 第11表 生育状況の比較

ブロック  区
改善区 慣行区 備考
萌芽期 6月3日 6月4日 40~50%が萌芽した日
開花期 7月15日 7月15日  
7月28日(播種後84日)
に於ける茎長
39.3cm 37.1cm 5個体宛9ヶ所、計45個体測定
茎数 3.2 3.7 同上
枯葉期 8月26日 8月26日  

 第12表 塊茎収量(変速塊茎単位植12株1単位 1127坪 3ヶ処平均)
ブロック
塊茎の規格  区
平均
改善 慣行 改善 慣行 改善 慣行 改善 慣行
個数 60匁以上 0.3 - - 0.7 0.7 - 0.3 0.2
60~15匁 84.7 73.7 79.3 71.3 83.0 71.7 (114%)
82.3
(100%)
72.2
15匁以下 38.7 39.3 38.3 35.7 34.0 44.0 (93%)
37.0
(100%)
39.7
合計 123.7 113.0 117.6 107.7 117.0 115.7 (107%)
119.6
(100%)
112.1
重量
(g)
60匁以上 87 - - 193 170 - (134%)
86
(100%)
64
60~15匁 9336 7623 7937 6877 7910 7070 (117%)
8394
(100%)
7190
15匁以下 1077 1243 1396 1097 1087 1330 (96%)
1187
(100%)
1223
合計 10500 8866 9333 8167 9167 8400 (112%)
9667
(100%)
8477

 第13表 反当中耕除草労力の比較
  改善区 作業区
作業名 使用農具 人畜の別 実施月日
(月日)
反当
所要時間
作業名 使用農具 人畜の別 実施月日
(月日)
反当
所要時間
1. 除草 除草ハロー 5.19 10分 1. 除草 板ハロー 5.19 18分
2. めくらがけ 培土器 6.5 27分 2. 中耕除草 カルチベーター 5.23 27分
3. こすり コスリ 6.7 13分30秒 3. 中耕除草 カルチベーター 6.7 27分
4. 中耕除草 カルチベーター 6.11 27分 4. 除草 ホー 6.8 3時間0分
5. 除草 ホー 6.13 2時間15分 5. 中耕除草 カルチベーター 6.11 27分
6. 半培土 カルチベーター 6.24 27分 6. 除草 ホー 6.13 2時間15分
7. 本培土 培土器 7.13 30分 7. 半培土 カルチベーター 6.24 27分
   8. 本培土 培土器 7.13 30分
合計 人力  4時間37分30秒(58.9%)
畜力  2時間22分30秒(91.3%)
合計 人力  7時間51分(100%)
畜力  2時間36分(100%)

 第14表 収穫時(9月13日枯葉後約3週間)に於ける坪当り雑草量の比較
種類 改善区(早期培土) 慣行区(対照)
本数 生草重(g) 本数 生草重(g)
おひしば 425   219  
ひえ -   55  
きんえのころ 12   19  
禾本科合計 437 623 293 720
なずな 20   24  
ちくまはっか 10   23  
おおいぬのふぐり 21   18  
はこべ 5   13  
つゆくさ -   12  
だいおう 1   8  
すべりひゆ 2   7  
やまたうばな 8   7  
おにたびらこ 8   6  
はちじような 3   3  
たで 3   3  
ひめじょおん -   2  
合計 81 101 126 319
あかざ 7 4 35 1950
総計 525 728 454 2989
同上比(%) 113 41 100 100

9. 要約
 (1) 馬鈴薯栽培の中耕除草体系の中に早期培土を導入した場合の効果の検討を試みた。
 (2) 改善区は草体が稍大形化し、収量は12%の増加をみた。
 (3) 除草労力は慣行に比し約40%節減され、除草効果は逆に慣行区より大きかった。
 (4) 本技術の普及はこの地帯に於ける経営改善に資する処が大きいものと思われる。

第1図 コスリ