【指導奨励上の参考事項】

泥炭地水田における畦構築法と浸透水との関係試験成績

美唄泥炭地研究室

 

目的
 泥炭地水田の畦の構築法中最も有効なものを定めんとする。

 

1. 調査方法
 (1) 畦の構築法
  各区共通巾60cm、高さ15cmとし次の4種類の畦を構築した。
  イ、泥炭のみの畦
 

  ロ、普通土壌による盛土畦
  

  ハ、排水耕縁45cm巾泥炭盛土畦、田面側15cm巾、田面下15cm掘り下げ普通土壌で埋設した畦
 

  ニ、田面より15cm掘り下げ畦全部を普通土壌で埋設した畦
 

 (2) 測定法
  イ、 各区は方0.9mの鉄板框(片面及び底抜き)を片面抜きの方を構築して畦に約10cm挿込み、框は水田灌水前に測定した地下水位
    (62cm)より18cm深く80cmの深さまで挿入し周囲からの水の侵入防止に努めた。
  ロ、 測定器は各区毎に減水深測定器を設置して行った。
  ハ、 測定時は10時1回とし規定水位9cmよりの減水深を求めた。
  ニ、 調査框内には水稲は栽植しない。
  ホ、 調査区附近で別に蒸発計を設け1昼夜間の蒸発量を測定し框内の減水深算出に蒸発量を差し引いた。

 (3) 調査期日
     6月   5日~23日間に於いて11日、19日、20日、21日を除く15日間
     7月   10日~24日    15日間

 (4) 調査区別
  イ、6月に於ける調査は排水溝水位と田面との高さを略同位に保った場合
  ロ、7月に於ける調査は排水溝水位を田面より50cm下げた場合

2. 実験成績
 排水溝水位を田面と同位程度に保持した場合にはⅠの減水深が最も大でその他の区ではかなり少なくなり、且つ何れも大差はないが、その順位はⅡ、Ⅲ、Ⅳとなる。而してこの場合に於ける減水深は調査期間略々一定の傾向が見られ、Ⅰ区では26~27mm位、その他の区は4~8mmとなっている。即ち第1表の通りである。
 第1表 排水溝水位と田面と同位に保持した場合の減水深(mm)
   調査期日
区別
6月
5日
6日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 14日 15日 16日 17日 18日 22日 23日 平均
32.0 25.4 24.9 30.4 24.1 24.3 26.6 26.0 25.5 27.1 25.0 26.3 24.0 27.6 25.5 26.3
10.5 8.3 6.3 9.9 5.8 9.1 7.7 5.8 6.5 9.6 6.5 8.8 6.4 9.4 7.6 7.9
8.7 6.7 6.0 7.3 6.2 6.1 7.5 5.8 6.9 7.2 6.0 7.9 7.6 10.2 7.9 7.2
8.0 6.6 5.4 7.4 5.4 7.8 5.5 4.6 4.1 4.7 4.4 5.9 4.2 4.2 4.1 5.5

 又、田面より排水溝水位を下げた場合もⅠ区の減水深が最も著しく次いでⅡ、Ⅲ、Ⅳ区の順を示し、排水溝水位を低下せしめると浸透量が多くなり、Ⅰ、Ⅱ区においては水位低下の当初に極めて著しいことが見られるが、その後排水溝縁の乾燥と共に漸次減少して来る。しかしⅢ、Ⅳ区に於いては水位低下の当初から略々一定の減水深を保持し特にⅢ区よりⅣ区が一定している。
 即ち第2表に示す如くである。

 第2表 排水溝水位を田面より50cm下げた場合(mm)
   調査期日
区別
7月
10日
11日 12日 1日3 14日 15日 16日 17日 18日 19日 20日 21日 22日 23日 24日 平均
45.5 46.3 45.7 50.7 48.5 44.3 35.7 31.5 35.1 32.6 32.5 29.4 28.2 30.8 31.1 37.9
42.0 44.6 45.4 46.7 43.4 41.9 36.3 27.4 31.8 26.0 24.9 28.7 23.2 23.5 28.0 34.3
27.5 27.4 24.2 30.6 25.9 21.3 20.9 29.5 26.0 28.5 22.6 20.8 22.6 18.9 20.8 24.8
18.1 16.4 14.9 15.6 14.8 12.8 11.8 15.5 19.6 14.7 15.9 14.7 11.1 14.1 13.0 14.8

 次に各区共排水溝内の水位を低下せしめた時の減水深は各区一様に多くなっていることは第3表で明らかであるが、Ⅰ区に於いては水位を高めた場合でも減水深が多くなっているため両者の差異はあまり顕著でない。Ⅱ区においては両者の差異は顕著で、Ⅲ、Ⅳと順次している。

 第3表 排水溝水位を田面と同位に保った場合と水位を下げた場合の減水深の差異(各調査日毎の比較)(mm)
   調査期日
区別
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
13.5 20.9 21.0 20.3 24.4 20.0 9.1 5.5 9.6 5.5 7.5 3.1 4.2 3.2 5.6
31.5 36.3 39.4 36.8 37.6 32.8 28.6 21.6 25.3 16.4 18.4 20.6 16.8 14.1 20.9
18.8 20.7 18.2 23.3 19.7 15.2 13.4 23.7 19.1 21.3 21.6 19.2 15.0 8.7 12.9
10.1 9.8 9.5 8.2 9.4 5.0 6.3 10.9 15.5 9.4 11.5 8.2 7.5 5.9 8.9

3. 総括
 以上の結果から見ると、泥炭地水田を造成するに当たり畦の構築法の如何により用水量に著しく差を生ずることが容易に知られるものである。即ちⅠの場合の如く泥炭のみの畦で泥炭層間の浸透水が多く、排水溝の堰き止めを行っても、灌漑水の流動に伴っての減水量は可成り著しく、横への浸透を阻止することは困難で、排水溝水位を低下せしめた場合には更に顕著となり、水位低下後の溝縁の乾燥による地表の沈下に伴い自然に圧縮された場合でも、前の場合と略同量の減水を示していることは、泥炭単独によっての漏水を阻止することの困難さを示しているものと云えよう。
 更にⅡの場合の如く普通鉱質土壌の盛土畦の場合は盛土重圧による泥炭層の間隔が圧縮せられるため、排水溝水位を高めると減水量は著しく減少するが、排水溝水位を低下せしめると盛土下位の泥炭層間よりの浸透が多くなり溝縁の乾燥と共に鎮圧効果が現れて漏水量は減少するものと思われる。Ⅲ、Ⅳの場合は普通土壌の鎮圧効果並に浸透阻止効果が明らかに認められ、その使用量が多くなるにつれて、一層効果を大ならしめるものと云えよう。従って泥炭地水田に於いては、一般に保水力が小さいため排水溝の堰き止めによって用水量の保持に努めているが、かかる方法は灌漑水の移動を著しく制限し、水稲根への酸素の供給を不充分にし、地温の上昇を阻げ、生育の遅延、稲熱病発生の因となっているから、泥炭地水田に於いては、排水溝の水位を或る程度低めても保水力を維持せしめ、且つ灌漑水を縦の方向に移動せしめることが水稲栽培上特に考慮されなければならない。
 要するに泥炭地水田における漏水は横への浸透に基づくことが大であるので排水溝縁の畦の構築は、泥炭では不可能であるから普通土壌で田面より15cm以上掘り下げて構築することが最も適当である。