【普及奨励事項】

昭和30年に発生せる特に注意すべき病害虫に関する調査成績

病虫部

 

 昭和30年度は高温に恵まれて稲作ににおいては戦後最良の年と謳われたが畑作にあっては例えば馬鈴薯や麦類は気象並に病害虫の被害をこうむり、一般に良好とは云えないようであった。いま特記すべき気象の2.3を記すれば(1)冬期の温暖、(2)4月後半から5月にかけての低温、(3)6.7月の高温多照特に7月の以上高温、(4)これに伴う道東部、特に北見地方(7月)の旱魃、(5)8月前半の低温、(6)7月3.4日の豪雨に始まる7.8.9  3ヶ月間、地域的に水害を招いた9回の豪雨、(7)8.9.10月の寡照、降水日数の多かった事等が挙げられ、これらが誘因となって例えば水稲は登熟期間がながびき収穫乾燥調製等に手間取って品質の低下を招いた。
 一方本年の病害虫の発生相をみると、(1)高温型のものとみられるセジロウンカ、ヨトウガ、稲菌核病類、麦類黒銹病、亜麻銹病等の多発特にセジロウンカの全道的大発生があり(2)水害に伴う病害として稲黄化萎縮病の多発、特に空知及び上川北部並に日高地方を中心とする激発があったが(3)低温型に属するイネドロオイムシ、オオニジュウヤホシテントウ等は少目であった。
 また稲熱病は7月の異常高温により抑制されたものの如く一般に被害は少目に終わり、また多雨を誘因とする馬鈴薯疾病も発病前半期の高温により回避されむしろ後半の多雨により各地共湿害を大きくこうむった。なお昨29年の多発を遙かに凌ぐ大発をみたセジロウンカは道南常発生地帯を中心に数次に亘る防除が奏効して、被害を最少限に抑止できたことは幸であったが同じく増減しつつあって稲紋枯病、菌核病類の広範な発生並に、8月下旬以降の枝梗いもちの発生と相俟ち前述の晩夏以降の陰曇な気象条件も加わって、予想収穫を下回るに至る誘因をなした。いま例年に比し発生、被害多く、或いは特異の発生をみたる病害虫を挙げると次の通りである。

病害
     稲黄化萎縮病、稲菌核病(紋枯病を含む)麦類黒銹病、麦類黄銹病、亜麻銹病、玉葱灰色腐敗病、りんごモリニア病、りんご黒星病、りんご根瘤線虫病

害虫
     セジロウンカ、ネジロミズメイガ、ムギクロハモグリバエ、マメホソグチゾウムシ、ヨトウガ、ダイコンバエ

 稲黄化萎縮病
  本病は最近各地に散発をみとめていたものであり、大雨による水田の浸冠水が本病蔓延の誘因となっていることは衆知のところである。本年は7~9月の間に前後9回に亘る出水を伴
 う豪雨があり、多少に拘わらず全道各地に本病の発生がみられたが、特に7月3~4日、北空知、北上川、日高地方の豪雨は、諸地方一円を泥海と化すと共に、本病の蔓延激発をもた
 らした。即ち例年にあっては出穂期を過ぎて(7月下旬以降)梅雨明けの豪雨が多いのであるが、本年は恰も分げつ盛期に当ってをり本病の感染発病に恰適したため、特に激化したも
 のであろう。(因りに出穂期以降の浸冠水は殆ど本病を誘発せしめない)即ち全道発生面積1万余町歩中、空知、上川支庁管内のみで、その80%を占め、少なくも40%内外の減収を推定
 されている。大発生の原因は、1部は前述のとおりであるが、山林の伐採等によって戦後水害が多くなりつつあること、累年多少の発生のあることから、発生源とみられる罹病植物(稲の
 他、禾本科作物、雑草)の分布が広範となったものと思われること等が遠因をなしていたと思われ、これに本病に対する適確な対症療法がなかったことが被害を激化させたものといえ
 る。病原菌密度が濃化した今日、本病に対する充分な警戒が必要で次項に注意を要する。
  (1) 治山治水につとめること
  (2) 被害わらを生のまま水田に施用しないこと(被害わら、刈株等には本病菌卵胞子が生存しておりこれが第1次発生源となると言われる)
  (3) 常発地帯では畦畔、水路等における罹病雑草を除去焼却または堆肥とすること(また、昨年は刈株の二番芽生に発病しているものが多くみられた)
  (4) 減水後、稲熱病が急増する惧があるときは、これに備えて水銀剤を撒布すること
  (5) 発病地においては分げつ期における深水灌漑はさけること

 稲菌核病(紋枯病を含む)
  本病は昭和25年頃より漸く目立ってきたので、その後29年までに発生地域の拡大はみられたが、被害は著しいものがなかった。しかるに本年は全道各地にかなり目立つ発生をし、そ
 の面積も2万町歩に上がり注目されるに至った。通常本病の被害は葉茎部を冒すことによって、稲の生食生長を阻害し、粃化、不稔を招くものであるため本年は豊作に隠蔽されて、収
 穫後はじめて予想収量を下廻った原因の1と推定されるようなことになった。なお、本病は稲紋枯病、稲褐色菌核病、稲小粒菌核病等類縁の種別が多く、単一に発病するもののみとは
 云えず、また年により地域によりその発生相の変異も少なくないように思われるので、今後(1)本病の種別と分布、(2)発病の生態並に被害の実態、(3)発病の諸条件等について調査する
 要がある。また本病の防除についても本道において試験成績がないので、府県の資料を検討して列記すれば次のとおりである。
  (1) 生わらのまま水田に施用しないこと、被害わらは堆肥とすること。
  (2) 窒素質肥料を過用しないこと。
  (3) 本病はエノコログサ、メヒジワ等多数の禾本科雑草をも冒すので、畦畔雑草を焼いて菌核を殺すこと。
  (4) 薬剤防除は穂孕み期を中心に2~3回銅剤、銅水銀剤等を散布し発生初期に蔓延を防止すること。
  (5) 小粒菌核病の発生地は低刈を行うこと。

 りんご黒星病
  本病は従来北海道では未報告の病害であったが、30年8月札幌市及び札幌郡豊平町に発生しつつあることを確認したものである。本病は寒地性病害で欧米ではりんごの最も恐るべ
 き病害とされており、本道での今後の発生蔓延を速やかに防止しなければならない。
  (1) 病状
   果実、葉を冒し、幼果の柔毛に煤状に分生胞子を密生し、柔毛が除かれると、暗褐変して多少コルク化し、更にすすむとコルク化した果面に裂目が入り発育を停止して果形が著しく
  歪むに至る。葉部では裏面から始めオリーブ色に、漸次煤色~黒緑色となり放射状に拡大する。更にすすむと葉形は歪み、枯死するに至り煤状の黴は残る。
  (2) 病原菌
   Venturia inaqualis (CooKE) WINTER と称し子嚢菌類の PleosPoraceae に属する。
  (3) 伝染経路
   第1次発生は被害葉内の菌糸より子嚢殻を形成し、春季子嚢胞子を生じて新葉、萼等より侵入し、分生胞子を生じて第2次伝染が行われる。
  (4) 防除法
    (い) 被害葉、枝の焼却
    (ろ) 発芽前の石灰硫黄合剤の撒布
    (は) 発芽開葉~果実が指頭大となるまで3~4回4斗式ボルドー液または石灰硫黄合剤0.5度液散布
    (に) 袋掛を遅れないこと等が報告されているが、実に有効な方法の検討を要する。

 りんご根瘤線虫病
  本病は昭和30年11月、後志支庁管内余市町において発生を確認したものであるが、被害樹の樹勢等からみて実際の発生はかなり以前からとみられている。本病は病原線虫は北海
 道に最も普通に分布するジャガイモコンリユセンチュウ(Meloidogyae hapla = 旧学名 Heteradera Martoni)であって、根部に多数の瘤を生ぜしめ、地上部には明瞭な病徴を示さない
 が、年々樹勢が衰へ遂に枯死に至らしめるものである。なお本病、病原線虫は禾本科を除く数多の植物に寄生し各種の食用特用作物に寄生するものである。
  分布
   本道余市の他、青森県に昭和27年頃より発生をみとめ30年確認している。
   なお報告によればアメリカ、アルゼンチン、イタリー、パンスチナー等に発生の記録があり1896年アメリカのオハイオ州における発生が最も古い。
  防除法
   (1) 根に根瘤の附着している苗木を用いないこと。
   (2) 堆肥等有機質肥料を充分に与えて、根の生長を助け、樹勢の強化をはかること。
   (3) 薬剤的防除法は現在適当なものがみられない。

 セジロウンカ
  本虫は昭和19年、21年、29年に多発の記録があるが、30年には発生量からも、発生地域からも前3年を遙かに凌ぐ大発生をみたので発生面積は19年の2万町歩を超えて全道稲作面
 積の三分の一以上、5・6万町歩に上がった。
  本年は初発も早く常発地帯の桧山、渡島地方では7月早々より成虫がみられ、漸次増加したが8月に入り急増し渡島支場では8月前半、本場、上川支場では後半最盛期となったがそ
 の後も著しい減少なきまま収穫期前後に至るまで、発生を認めた。
  なお十勝支場では8月下旬より増加して9月中旬最盛期となり掬取数よりみれば本場中最も多量であった。
  本虫の防除はBHC粉剤による効果も大きいので、常発地の桧山渡島地方ではほぼ適期とみられる7月下旬頃より数次に亘り実施されたが留萌、後志、胆振、日高地方では1~2旬ほ
 ど遅れ、更に上川、空知、石狩、十勝地方では実施回数も少なく、また防除を行わない地帯も少なくなかった。従ってその被害はむしろ道南常発地帯に少なく(局部的に激甚なところもあ
 ったが)空知、上川地方の被害は、豊作にカバーされて目立たなかったが粃化、未熟等の実害が広範に亘った。
  多発の原因
   (1) 累年増加の傾向にあったこと、但し本虫越冬については目下研究中である。
   (2) 30年は初発が早く、初発後7月の高温多照によって急激に増加したこと。
   (3) 30年度は19年の多発と同一傾向にあり、いわゆる高温多湿の気象が誘因とみられるが、晴令な29年にも多発をみているのでこのことについては更に検討したい。
  防除法
   (1) 注油駆除   反当1.2~1.5升の石油を滴下して払落駆除を行う。
   (2) 薬剤防除   B.H.C γ1~3%粉剤または5~10%剤を撒布する。

 ヨトウガ(夜盗虫類)
  本虫は昨29年もかなりの発生をみたのであるが、本年は昨年よりかなり多く、各種作物(特に豌豆、蔬菜類、亜麻)に対する発生面積は約2万町歩に達した。
  本年の発生特徴は例年発生の少ない第1化期の発生量が稍多く、更に第2化期が平年を相当上廻った点であり、その傾向は道東半部よりは西半部に顕著であった。
  しかも例年はその被害は局部的~地域に激しい傾向にあるが、本年は被害地域が広範で全道一円に亘った。而して特用作物、豆類はかなり広く防除が施行され被害を最小限に阻止
 し得たが、なお甜菜、そさい類の被害は平年を上廻った。
   尚本虫多発の原因については目下、
    (1) 気象条件
    (2) 越冬状況
    (3) 特に第2化期多発の因子としての第1化期発生相との関係等について検討中である。
   防除法
    (1) 糖蜜誘殺による成虫発生状況の予察
    (2) 産卵場所となり易い枯葉、刈株等の防除、焼却処分
    (3) 出来るだけ発生初期(幼虫の若齢のとき)に砒酸鉛、DDT、等を撒布する。