【普及奨励事項】

泥炭層切断が地下水位に及ぼす影響に関する試験成績

泥炭地研究室、土壌第二研究室

 

1. 目的
 泥炭地の改良上排水施設は基本条件である。然し泥炭地の於ける排水溝の効果は溝縁部は明瞭であるが溝縁より2~3m離れるとその効果は急激する。このことは未熟な高位泥炭地に於いて顕著である。従って泥炭地における排水溝はその間隔を狭めてもそれ程著しい効果は見られないので、地下水位を下げる方法として泥炭層を切断することにより地下水位に変化が見られるや否や、見られるとすればその後の泥炭の分解に及ぼす影響等を知らんとする。

2. 第一試験
 (1) 方法
   〇本法では主として切断により地下水位の低下を知るためには切断方位、間隔に主眼を置いた。
   〇方位は既設排水溝に平行と直角の二法に行い、間隔は1m2m3m別とし切断距離を11mとした。
   〇切断は排水溝堀釜用大刀を以って既設明渠排水溝の深さと同深の70cmとした。
   〇地下対居測定は丸竹に穿孔して1m隔に埋設し測定孔とした。
   〇実施圃場は泥炭地研究室既墾地牧草栽培地で施行した。
 (2) 結果
  泥炭層の切断は間隔では1m位を適当とし、切断方位は排水溝に直角に行うことの適当であることが認められた。
  切断の深さは排水渠の深さを基準とすべきであるも凡そ70~90cm程度を適当と見られた。

3. 第二試験
 (1) 方法
  第一法で切断の間隔、方位を一応確認したので昭和28年試験地を新墾地に新設した。
  切断方法は直角切断法を採り排水溝の深さ90cmと同深の切断を行い、切断距離を10mとした。地下水位の低下度は勿論その後の泥炭の分解、作物の生育状況を知るために区別を
  次の通り設定した。
    1. 木切断区
    2. 0.5m直角切断区
    3. 1.0m   〃
    4. 0.5m平方切断区
    5. 1.0m   〃
   供試作物は燕麦、小豆の輪作で堆肥を除く三要素を施用し一般同様の管理を行った。施肥量は次の通りである。(1/10陌当kg)
  硫安 過石 硫加
燕麦(前進) 11.5 24.0 7.5
小豆(高橋早生) 0 24.0 7.5
   地温は1粉、3粉について各区別毎に溝縁より6mの地点で測定した。作物の調査区は各区毎溝縁より2m宛距離別に5区を設定した。
 (2) 試験結果
  イ. 地下水位低下度
   第3表で見られるように切断様式別には地下水位低下度は顕著な差はないが切断各区は不切断区に比較すれば明らかに低下度の大なることが認められる。
   又切断距離別地下水位低下度は溝縁に近い場合は直接排水溝の影響をうけて不切断区に対する低下量は大でないが、溝縁より遠くなるにつれて低下量の大きいことも認め得られ
   る。このことは第一法に於ける場合と同じ傾向と言い得る。
  第1表 切断法別地下水低下度(昭和28~30年3ヶ年平均)
処理区別 溝縁より2米
(cm)
  〃 4米
(cm)
  〃 6米
(cm)
  〃 8米
(cm)
  〃 19米
(cm)
1.不切断区 54.0 50.6 51.2 50.4 43.2
2.直角0.5米切断区 58.6 53.1 53.4 52.1 47.6
3.直角1.0 〃 58.9 53.6 54.5 52.9 47.6
4.0.5米平方切断区 58.6 52.7 53.6 52.5 48.0
5.1.0米  〃 59.4 54.2 55.6 53.7 48.1

  ロ. 切断と地温との関係
   排水溝縁より6mの地点に置いて1Dm,3Dm別に地温の測定を行った結果は第1図の通りで初年度に置いては地下水位低下度による地温の差は見られなかったが2年目以降に於い
  て不切断区より切断区の地温が稍高い傾向が認められた。このことは年次と共に地下水低下に伴う透気量の増加と泥炭の分解に伴う組織の緊密化による熱の伝導が高まることによ
  るものと考えられる。

   第1図 切断と地温との関係

  ハ. 切断と作物生育との関係
   初年度は燕麦を供試して試みたが当初の生育差異は認めがたいが6月下旬頃より切断区は不切断区より漸次稍優る傾向が見られた。
  但し、排水溝縁は切断前より強度の排水が行われていた関係痩薄気味で劣り切断距離10m地点は逆に切断による地下水位の低下度の影響も少なく劣ったが溝縁より4~8m地点で
  は不切断区の夫れに比較して生育が優り、出穂並びに登熟も良好で従って収量も優る傾向を示した。
   昭和29年度は小豆を供試したが生育の概況は概ね初年度の燕麦の場合と同じ傾向を示したが、溝縁より遠いものは作況に於いて稍遅延勝を示し9月26日の台風の為著しく阻碍さ
  れこの年の収量結果での判定は困難であった。
   昭和30年は燕麦を供試したが溝縁に近い部分は前年同様生育劣るも溝縁より遠い8m地点の区が最も良好で収量割合も高く不切断区に対する切断の効果が作物の生育に好結果
  をもたらしていることが窺われる。
 第2表 切断と作物収量との関係
 区別 収量割合(不切断区を100とした)  区別 収量割合(不切断区を100とした)
1953(燕麦) 1954(小豆) 1955(燕麦) 1953(燕麦) 1954(小豆) 1955(燕麦)
直角0.5米
切断区
溝縁より2米地点 126 139 127 0.5米平方
切断区
溝縁より2米地点 97 90 93
 〃   4  〃 129 138 133  〃   4  〃  118 85 122
 〃   6  〃 110 93 124  〃   6  〃 112 74 103
 〃   8  〃 124 79 101  〃   8  〃 182 64 159
 〃   10 〃 116 91 135  〃   10 〃 126 67 176
直角1米
切断区
 〃   2  〃 92 125 68 1米平方
切断区
 〃   2  〃 117 84 119
 〃   4  〃 129 129 104  〃   4  〃 122 86 118
 〃   6  〃 122 83 87  〃   6  〃 119 57 104
 〃   8  〃 153 80 150  〃   8  〃 146 64 152
 〃   10 〃 102 83 157  〃  10 〃 100 81 125

4. 試験結果の総括
 (1) 泥炭層を切断することによって溝縁より遠い場合の地下水位を低下することが認められ、切断の方位は排水溝い直角に行うことが適当である。
 (2) 切断間隔は1m位を適当とし夫れ以上遠い場合は低下率が低いし、1mより間隔を狭めても効果に於いて差が認め難い。
    切断の深さは既設排水溝を基準にすべきであるが一応3尺程度を適当とするものと考えられる。
 (3) 切断による地下水低下度は溝縁では直越排水溝の影響により差はないが、溝縁より遠くなるにつれて低下量が大となる傾向が見られる。
 (4) 多雨時に於いても明らかに切断の場合の地下水位低下度が大であるから多雨後に於ける地表の乾燥度は当然早いことが考えられる。
 (5) 切断による効果の持続は3年目に於いても明らかに認められ、溝縁より遠い程低下量が大で効果が持続されることが窺われる。
 (6) 切断による地下水位低下に伴う地温は当年では認め難かったが次年度より切断区は不切断区より高いことが認められた。
 (7) 作物の生育は切断当年に於いても切断区が優る傾向が認められる。
    但し、溝縁に近い処では直接常に強度に排水が行われていた関係上痩薄となり寧ろ生育は劣るも溝縁より遠い場合に於ける効果は認められる。
 (8) 切断が泥炭土壌の理化学性に及ぼす影響については、試験第2年目においては、未墾地に比べて開墾耕作による変化が大で切断による変化の傾向は見られなかったが、試験第3
  年目においては切断各区間の相違は明らかでないが、切断各区と不切断区の間には切断によりPhが高まり灼熱損失量は減少し下層土の水分容水量が減少していることが示され
  た。更に腐蝕化の状態をSimon法で検した結果、表土、下層土共切断によりやや単位炭素当りの色度は高く、相対色度は遍減しており分解が促進される方向にあるものと考えられ
  た。