【普及奨励事項】

セラデラの栽培法試験成績

泥炭地研究室

 

一般性状
  荳科作物で主根は深く多数の支根を生ずる。
  茎は多汁で軟毛を有し草丈は50cm~150cm。
  花は薄バラ色で、莢は特徴ある4~7個の珠数珠を並べた形で毛葦はない。

1. 気候及び土壌
  湿潤な海岸気候を好み、特に霧のかかる地方がよいとされている。乾燥を嫌い、開花期以外は-4℃迄生育に堪えられると云われる。弱酸性土壌で生育出来、独乙では高位泥炭で良成績を挙げていると謂う。

2. 試験の目的
  以上の性状に鑑み、昭和27年に種子を求め試作した結果、極めて生育が良好であったので、泥炭地に於ける本作物の栽培法を知るために施行した。

3. 試験方法
 (1) 試験種別
  イ. 播種期及び播種量と採種量との関係
  ロ. 播種量と播種法との関係
  ハ. 刈取時期と収量との関係(酸性矯正、不矯正別)
  ニ. 単作と間作との関係
  ホ. 根瘤菌接種の効果
 (2) 耕種法
  イ. 播種期
       播種期別試験  上旬(5日)  中旬(15日)  下旬(25日)
       其の他の試験   昭28年5月29日
                   昭29年5月16日
                   昭30年5月5日
  ロ. 施肥量(陌当)㎏
     採取の場合   硫安 37.5   過石 187.5  硫加 53.0
    其の他の場合  硫安 75.0   過石 240.0  硫加 75.0
    間作試験内主作物は標準肥料で栽培し間作物には施肥しない。
  ハ. 種子 
    初年度は雪印種苗から購求し、禾後採種したものを供用
  ニ. 畦巾   60cm
  ホ. 酸性矯正   PH6.5とした。

4. 試験結果
 (1)播種期及び播種量と採種量との関係
   セラデラは、生育良好な場合には開花結莢に長時日を要し、且早期結莢の分は落莢し易いので、採種用栽培は余り出来すぎないようにし、開花結莢の整一を図ることが必要であ
 る。播種法は刈取の便から条播が良い。播種期は5月中に播種した場合は、採種は可能であるが、5月中でも早い方が熟度の高いものが得られるようである。播種量は熟度の高い種子
 では反当5合程度でも足り得るも反当1升位播下するのが発芽率の関係等から安全で種子の熟度の劣る場合は反当2升位迄を必要と見られる。
  種子は灰色、又は灰褐色になったものは発芽率も高いが、緑色のものは発芽率が著しく劣る。セラデラの種子1000粒重は3~5g発芽率は悪く70%内外で90%以上は稀だとされている。
  播種期及び播種量との関係 試験成績(1954~1955)
試験区別 開花期
(平均)
成熟期
(平均)
草丈(平均)(cm) 陌当子実収量(kg) 1立重
(平均)
(g)
各年の収量割合(%) 備考
開花始 成熟期
 29
 
30
平均
29

 30
平均
5月
上旬
反当5合播区 7.17 9.2 15.3 96.6 1190 268 729 349 100 100 100  
1升 18.6 98.6 853 356 576 368 72 133 79  
2升 18.2 100.5 748 456 602 367 63 170 83  
5月
中旬
反当5合播区 7.21 9.14 17.0 113.5 618 260 439 369 52 97 60  
1升 9.13 17.9 102.6 620 291 456 378 52 109 63  
2升 7.20 19.7 106.2 481 227 354 392 40 85 49  
5月
下旬
反当5合播区 7.27 10.1 21.6 101.2 652 248 450 397 55 93 62  
1升 10.2 22.7 105.7 393 393 393 410 33 47 54  
2升 24.1 109.7 480 268 374 398 40 100 51  
6月
上旬
反当5合播区 8.13 18.5 106.7 91 91 310 8 12  
1升 19.4 103.3 47 47 4 6  
2升 8.11 22.0 109.5 31 31 3 4  
6月
中旬
反当5合播区 9.19 30.6  
1升 9.18 31.9  
2升 9.16 33.9  

 (2) 播種量と播種法との関係
  播種量別による生草収量では年により差異あるも条播、撒播、熟れの場合も概ね3升内外が適当のようで、種子の熟度が高く良好なものでは反当2升播でも可能である。(三重県立農業試験場では反当4.5~13.5升の間では多い場合に生草重が高くなる傾向があるとされ、(大正9~13)鹿児島県立農業試験場では反当2~3升が適当とされている)播種法は初期の除草等を考慮するときは各播が便であるが、セラデラは生育と共に匍匐するので、初期の雑草の影響の少ないところでは散播に適している。只散播の場合、生育中途に於いて局部的に鬱蒸し、為に植株となり、二番生育を阻害する憂がある。

 播種量と播種法との関係試験成績(1953~1955)
試験区別 開花期
(平均)
草丈(cm) 陌当生草重(g) 陌当総生草重 陌当乾草中
開花始 刈取時 28年 29年 30年 28 29 30 平均 28年 29年 30年
1回目 2回目 1回目 2回目 1回目 2回目 1回目 2回目 1回目 2回目
条播 反当5合播区 7.19 17.5 59.5 86.9     18492 2389 10133   18492 12522 15503     2829 444 2148
1升 7.19 18.3 65.8 87.4     20292 2170 11104   20292 13274 16783     3348 404 2487
2升 7.19 22.1 64.0 88.5     18408 3349 13358   18408 16707 17558     3074 616 3099
3升 7.21 22.2 68.7 69.6 11736 10414 19817 4332 13492 22150 19817 17824 19930 2242 1989 3448 884 2779
  開花期
(平均)
草丈(cm) 陌当総生草重(kg)
開花始 刈取時 28 29 30 平均
1回目 2回目
条播 反当5升播区 7.26 24.1 57.3 49.7 21148     21148
7升 7.26 25.9 59.9 49.3 21940     21940
10升 7.26 24.9 59.8 48.3 17992     17992
撒播 5合 7.19 17.8 64.5 91.5   19883 18727 19305
1升 7.19 20.8 68.3 88.7   21658 19862 20760
2升 7.19 22.0 65.8 87.4   20292 19796 20044
3升 7.21 23.0 63.7 66.8   19375 24723 21653
5升 7.26 23.9 51.4 41.3 16477     16477
7升 7.26 23.0 51.7 41.3 20739     20739
10升 7.26 23.3 51.9 43.4 19957     19957
   各年の乾草率(g) 収量割合
(生草)
(平均)%
28 29 30 平均
条播 反当5合播区   2829 2592 2711 100
1升   3348 2891 3120 108
2升   3074 3715 3395 113
3升 4231 3448 3663 3781 129
5升 4399     4399 130
7升 4827     4827 141
10升 3652     3652 116
撒播 5合   3082 3679 3381 124
1升   3833 4247 4040 134
2升   3389 4167 3778 129
3升 3755 3643 4934 4111 140
5升 3213     3213 106
7升 4314     4314 134
10升 3750     3752 129

 (3) 刈取時期と生草重との関係
   セラデラは、刈取時期によって生草並びに乾草に大差があるが、特に一番刈の時期が二番生育に至大の影響が見られる。即ち開花初期程度の早期刈取は生草重を著しく減ずるも、二番刈の生草重は高くなる傾向があり、之反成熟期(子実を標準にした)刈取は生草重は高くなるが、往々鬱蒸のため品質を損ずる限りでなく、茎稈の硬化する憂があり、又二番生育を著しく損ずる。
 随って、セラデラの刈取時期は、二番刈を目標にし、一番刈りは開花終(結莢期頃)を標準に行えば一番刈りの生草重が覆い限りでなく、二番刈りの生草も多く適期と認められた。
 又、セラデラは酸性矯正の効果も大で、熟れの場合も不矯正区より矯正区の場合優るを示した。
 尚、独に於ける平均陌当生草重は17500㎏、吾国府県では11250~28000㎏とされているが、当研究室に於ける陌当生草重は30000㎏以上に及ぶことがある。 

 刈取時期と生草重との関係試験成績(1954~1955)
試験区別 開花始
(平均)
(月日)
草丈(cm) 陌当 生草重 陌当乾草中(kg)
開花始 刈取時 29 30 平均 29
1回目 2回目 1回目 2回目 合計 1回目 2回目 合計 1回目 2回目 合計
不矯正 開花初期
刈取区
7.13 21.3 21.3 83.2 5021 13800 18821 1965 14338 16303 17562 643 3064 3707
開花終
(結莢期刈取)
21.2 41.7 86.4 11513 13917 25430 3513 15563 19076 22253 1508 2881 4389
成熟期
刈取区
20.8 36.7 61.2 16792   16792 9743 1665 11408 14100 5054 5054
矯正 開花初期
刈取区
24.3 31.9 92.8 5837 10329 16166 6117 21633 27650 21908 747 2334 3081
開花終
(結莢期刈取区)
23.9 47.8 92.4 7575 12584 20159 11863 18642 30505 25332 992 2743 3735
成熟期
刈取区
23.9 108.2 60.6 15038 15038 16768 248 17016 16017 3910 3910
試験区別 陌当乾草重(kg) 乾草率(%) 各年の収量割合(生草)% 合計生草重
(平均)の矯正区の
不矯正区に対する
割合(%)
刈取時 平均 29 30 29 30 平均
1回目 2回目 合計 1回目 2回目 1回目 2回目 1回目 2回目 1回目 2回目
不矯正 開花初期
刈取区
283 3212 3495 3601 12.8 22.2 14.4 22.4 100 100 100 100 100 100
開花終
(結莢期刈取区)
534 3393 3927 4158 13.1 20.7 15.2 21.8 229 101 179 109 127 100
成熟期
刈取区
2910 373 2283 3669 30.1   19.6 22.4 334   496 12 80 100
矯正 開花初期
刈取区
832 4866 5698 4390 12.8 22.6 13.6 22.6 116 75 316 150 125 125
開花終
(結莢期刈取区)
1993 4250 6243 4989 13.1 21.8 16.8 22.8 151 91 604 130 144 114
成熟期
刈取区
3354 53 3407 3659 26.6   20.0 21.2 300   853 2 91 114

 (4) 単作と間作との関係
   セラデラは、強い日蔭は生育を著しく阻碍し、特に稚苗時に於ける生育が捗々しくない。随って麦類に間作した場合の生育は著しく劣るも主作物刈取後生育好進するので、緑肥又は刈取跡地の小家畜の放牧又は大家畜の繋牧用にも利用出来る。尚間作時期は大体6月中旬頃が適当と見られる。

 単作と間作との関係試験成績(1954~1955)
試験区別 開花期
(平均)
草丈(平均)(cm) 陌当生草重(g) 陌当乾草重(g) 乾燥率(%) 各年の収量割合(生草)%
開花始 刈取時
 29
 
30
平均
29

 30
平均 29 30 29 30 平均
6月
上旬播区
8.7 22.7 88.7 15750 41863 28807 3654 7703 5679 23.2 18.4 100 100 100

中旬播区
8.14 29.9 66.0 8963 50150 29557 1918 8826 5372 21.4 17.6 57 120 103

下旬播区
8.10 35.7 65.3 8992 33429 21211 1960 5884 3972 21.8 17.6 57 80 74

上旬播区
8.4 14.5 46.2 3150 10354 6752 674 1739 1207 21.4 16.8 20 25 23

中旬播区
8.31 17.2 45.8 2953 20729 11841 619 3441 2029 20.9 16.6 19 50 41

下旬播区
8.7 21.4 30.6 1130 9842 5486 235 1791 1013 20.8 18.2 7 24 19

5. 総括
  セラデラは、高位泥炭地の原土地に於いても比較的生育するし栽培も容易であるので、其の種土地に於ける荳科作物としての緑肥並びに飼料作物として注目すべきものである。
 特に高位泥炭地原土地に於ける飼料作物、殊に荳科作物の種類は少なく、実用的栽培の困難な点から、自家採種の出来るセラデラは関心を払うべきものと思われる。
 セラデラの本道に於ける試験結果が殆どないので、一応本作物の栽培法について試験を試みた結果次の如く要約出来る。

 (1) 緑肥又は飼料としての栽培
  播種期は緑肥料とする場合も二番で鋤込みを行うことが得策のようであるから、飼料用と同じく5月上、中旬に播種することが望ましい。
  播種法は条播撒播熟れでも差し支えないが、初期雑草による影響の大きい所では、条播すれば除草に便である。セラデラが可成育成し、匍匐するようになれば、雑草の生育も相当抑
 圧せられる。只撒播した場合には、時により局所的に鬱蒸して生草重並びに品質を損ずることがある。
  播種量は種子の熟度により差異が大きくセラデラの発芽率は概して劣るので概ね反当2~3升内外を標準にすべきと思われる。 
 (2) 採種用として栽培の場合
  採種用としての播種期は5月中に於いては播種期の早い場合熟度の高いものが得られるので、上旬が適当と見られる。採種の場合の播種法は条播を適当とし、播種量は種子の熟度
 の高いものであれば反当5合程度で足り得るも発芽率を考慮し、反当1升位を標準とし、種子の熟度が劣る場合は反当2升位迄播種量を増すことも必要である。
 種子は緑色を呈した未熟のものは発芽率が著しく劣るので灰色乃至灰褐色に成熟したものを選ぶべきである。採種時期は7~8分登熟を見た時刈取り地旱又は架乾して採取すべきで
 ある。尚採種用栽培地は肥沃すぎると開花登熟が不整一となるので施肥に当たっては窒素質肥料の施用を加減すべきである。
 (3) 刈取時期
  刈取時期により生草重に至大の影響が見られ、特に一番刈の時期が重要であるからセラデラの一番刈は開花終(結莢期)に刈取ることが必要である。
 これより早い時は生草重を減ずるし、遅い時は一番刈の品質を損ずる許りでなく鬱蒸した個所等枯死し、二番刈の生草を著しく損ずる。
 (4) 間作
  麦類間作は、セラデラの初期成育が著しく阻碍され、捗々しくないが、主作物刈取り後の生育が可成好進するので6月中旬頃間作すれば純肥用としても家畜の秋季放牧用としての利
 用にもなる。
 (5) 乾燥法
  セラデラは、生育が良好であれば可成繁茂し、而も多汁性のものであるから、乾草とする場合若干の困難を伴うので、刈取に当たっては出来る丈好天時を見計らい、刈取りしたものを
 1~2日地旱してから蔭旱すると色沢も良好である。
  乾草不充分の間に鳩積みすると、往々腐損するから注意を要する。1~2日地旱したものを架乾すれば乾草を充分行い得るも色沢を損ずるので通気の良い陰乾法が最も適当と思わ
 れる。

6. 参考
  セラデラの成分
   (1) 飼料成分
      HENRY AND MORRISON氏の分析
  100ポンド中
全乾物
可消化養分(100ポンド中) 100ポンド中
粗蛋白質
(ポンド)
炭水化物
(ポンド)
脂肪
(ポンド)
合計
(ポンド)

(ポンド)

(ポンド)

(ポンド)
乾草 90.2 11.8 35.1 1.6 50.5 25.1 10.3 15.1
生草 20.2 2.1 8.9 0.5 12.1 4.6 1.3 4.1

   (2) 緑肥の肥料成分

成分 セラデラ 黄花ルーピン 赤クロバー 備考
地上(%) 地下(%) 地上(%) 地下(%) 地上(%) 地下(%)
N 0.40 0.51 0.47 0.71 0.74 0.64
D 0.20 0.08 0.10 0.08 0.11 0.15
K 0.60 0.04 0.21 0.21 0.24 0.19
 備考 
  セラデラ、松木五楼、総合肥料学
  黄花ルーピン、赤クロバー、北農試分析