【普及奨励事項】
耕作の諸条件と土壌侵蝕との関係

土壌保全研究室

 

1. 設計及試験方法の概要
 試験(1) 緩傾斜の栽培法と土壌流亡との関係(7~8°)
  第1表
斜面距離
(m)
耕作法 供試作物
25 26 27 28 29 30
50 上下耕 玉蜀黍 春小麦 燕麦 馬鈴薯 燕麦 大豆
50 等高線
50 等高線帯状
25(50) 上下耕 馬鈴薯 燕麦 大豆 玉蜀黍
25(50) 等高線
25(50) 等高線帯状
 Ⅳ.Ⅴ.Ⅵ区は26年まで25m、27年以降は50mとした。

 試験(2) 急傾斜地の栽培法と土壌流との関係(23~28°)
  第2表
25~26 27~28 29~30 斜面距離
(m)
上下耕 上下耕 上下耕 50
等高線 斜畦 上下等高交互 50
等高線帯状 上下耕帯状 上下耕帯状 50
上下耕 上下耕 上下耕 25
等高線 斜畦 上下等高交互 25
等高線帯状 上下耕帯状 等高線 25
供試作物 第1年 玉蜀黍 燕麦 大豆  
第2年 春小麦 馬鈴薯 玉蜀黍  

 試験(3) 畦立と土壌流亡との関係
  第3表
内容   
平畦 23~24°NW 20㎡
上下畦 作物なし、畦立のみ
等高畦 平畦は無畦自然表面

 試験(4) 耕鋤法と土壌流亡との関係
  第4表
内容   
普通耕(3寸耕耘) 10~13°NW
深耕(5寸 〃 ) 20㎡
心土耕(3寸 〃 26年心土耕2寸)   
 供試作物:大豆(26年)  燕麦(27年)  裸地(28年)  馬鈴薯(29年)  大豆(30年)

 試験(5) 堆肥の施用法と土壌流亡との関係
  第5表
内容   
金肥単用 20㎡ 23~24°NW
堆肥全面鋤込 等高線栽培
堆肥作条内施用   
半量表面撒布
半量作条の鋤込
 供試作物:燕麦(27)  馬鈴薯(28)  大豆(29)  玉蜀黍(30)

  第6表 供試品種及び耕種概要
作物 品種 畦巾
(cm)
株間
(cm)
施肥量(kg)
堆肥 N P K
玉蜀黍 坂下 90 45(2本立) 1500 3757 6104 3005
春小麦 農林29号 50 條播 1200 4508 6010 1878
燕麦 前進 50 條播 1200 4808 6010 1878
馬鈴薯 男爵 75 30 2000 4808 6010 1878
大豆 大谷地2号 50 25(2本立) 600 - 5635 1878

2. 試験成果の概要
  第7表 緩傾斜地の栽培法と土壌流亡との関係(昭和253~30年)
  区
 種別
年次
土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm)
30 539.3 25.0 313.3 2.88 88.0 1.78 976.9 5.59 - - - -
25~30 1710.4 42.2 833.1 33.21 505.0 32.50 1476.0 54.89 352.3 44.07 169.3 43.51
 流亡土壌量は1/10ha当

  第8表 急傾斜地の栽培法と土壌流亡との関係(昭和25~30)
  区
 種別
年次
土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm)
25~26年 558.1 26.72 43.3 32.85 20.5 33.89 426.5 41.70 108.9 41.55 135.6 46.77
27~28年 294.0 7.46 513.0 6.95 274.0 8.24 792.0 22.31 235.6 24.64 656.0 25.57
29~30年 1149.0 7.27 24.6 2.06 635.5 5.90 1801.1 16.06 104.7 6.75 27.6 7.09
 流亡土壌量は1/10ha当

  第9表 畦立と土壌流亡との関係(昭和30年)
月日 1雨
雨量
10分間
最大雨量
5分間
最大雨量
流亡土壌量(mm) 流去水量(mm) SW g/L
平畦 上下畦 等高畦 平畦 上下畦 等高畦 平畦 上下畦 等高畦
8.1 17.8 6.5 5.5 741.5 46.55 - 4.53 1.53 - 1.55 305 -
8.18 28.2 8.3 4.5 592.0 544.5 40.5 5.76 2.85 0.61 1.03 191 66
8.20 38.6 8.5 7.5 1080.0 1061.5 204.5 4.28 4.02 1.91 2.52 264 107
9.16 14.4 3.7 2.3 - 63.8 - - 0.46 - - 139 -
10.1 29.2 4.0 2.1 43.5 270.8 - 1.10 3.70 - 59 73 -
10.15 7.8 2.7 1.9 - 76.7 - - 0.74 - - 106 -
      2457.0 2482.5 245.0 15.67 13.27 2.52 103 129 87

  第10表 耕鋤法と土壌流亡との関係
  区
 種別
年次
6月22日 7月11日 8月20日
土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm) 土壌(kg) 水(mm)
136.8 0.50 36.8 1.03 239.0 1.13
46.7 1.38 72.0 0.51 206.3 0.78
96.3 0.50 31.4 0.49 66.0 1.05

  第11表 耕鋤法と作物収量(子実量)
大豆(26) 燕麦(27) 馬鈴薯(29) 大豆(30)
Ⅰ 普通耕 100.3(100) 295.3(100) 2050.0(100) 93.0(100)
Ⅱ 深耕 93.5(90.5) 244.3(82.7) 3100.0(150.5) 95.8(103)
Ⅲ 心土耕 118.5(114.7) 305.3(103.4) 3236.0(161.3) 112.2(120.6)

  第12表 堆肥の施肥法と土壌流亡との関係(昭和27~30年)
 区
土壌(kg) 水(mm)
3654 58.69
3565 58.86
2947 56.25
2720 53.26
 流亡土壌量は1/10陌当

  第13表 堆肥の施用法と収量との関係
              1/10陌当
 区
子実収量比
燕麦 馬鈴薯 大豆 玉蜀黍
100 100 100 100
123 115 143 214
130 130 155 214
118 114 109 186

  

1. 緩傾斜地の栽培法と土壌流亡との関係
 第7表は昭和25年から昭和30年までの結果をとりまとめたものであるが、上下耕区(Ⅰ及びⅣ区)に顕著な流亡量があり、等高線栽培区(Ⅱ区及びⅤ区)は著しく流亡量を減じ、帯状栽培区(Ⅲ区及びⅣ区)はさらにそれよりも流亡量が少なかった。
 帯状栽培区において顕著な流亡抑制効果を示したのは区の中間に牧草帯(赤クローバー、チモシー、オーチャードの混播)を設けたことにより斜面距離が1/2弱になったことと密生植物被による流下水に対する抵抗の増大が原因と考えることができる。等高線栽培が流亡量を減じているのは、流去水量にみる如く滲透能の差異によるものと考えられる。
 30年は大豆と玉蜀黍であるが、大豆は培土が行われず、同唐土は培土が行われた関係からその結果は頗る興味深い。
 即ち流亡量の大部分は8月1日と同20日に得られたものであるが、上下耕栽培区で玉蜀黍区が大豆より多く等高栽培区及び帯状栽培区では反対に大豆の方が多い。これは玉蜀黍区は培土が行われ、大豆区では培土が行われていなかったのがその原因で培土の影響の大きいことを示している。

2. 急傾斜地の栽培法との土壌流亡との関係
 第8表は昭和25年から昭和30年までの結果をとりまとめたものであるが、試験は2年ごとに設計を替えて行った。
  ⅰ) 昭和25年及26年の成績
    上下耕栽培区において顕著な流亡が認められ、試験(1)において得られたと同様等高線栽培区及び帯状栽培区の抑制効果が顕著であった。上下耕栽培区において50m区(Ⅰ区)
    が25m区(Ⅳ区)より流亡量が多かったのは斜面距離の影響と考えられる

  ⅱ) 昭和27及び28年の成績
    上下耕帯状栽培区(Ⅲ区)及び等高線栽培(Ⅵ区)が上下耕栽培区より少なかった程度であった。斜畦栽培区はその方法論的な点に問題が合ったので考察を省略する。

  ⅲ) 昭和29年及30年の成績
    25m区の上下耕栽培区(Ⅳ区)で1/10ha当1801.1kgの流亡土壌量を示したのに対し、上下、等高交互栽培区(Ⅴ区)及等高線栽培区(Ⅳ区)はほとんど痕跡程度の流亡量を示した
    に過ぎなかった。一方50m区の上下耕栽培区(Ⅰ区)は1/10ha当1049.0kgを示し、これに対し上下、等高交互栽培区(Ⅱ区)は痕跡程度で、上下耕帯状栽培区(Ⅲ区)は凡そ60%程
    度の流亡量を示した。上下耕区において50m区が25m区より流亡量が少なかったのは降雨の性質と斜面の起伏という複雑な要因が作用したものの如く考えられる。
    この結果から急傾斜地においても等高線栽培区及等高線帯状栽培区はほとんど完全に流亡を阻止し、上下、等高交互栽培区もこれと同程度の抑制効果を示すことが認められ
    た。また上下帯状栽培区は斜面距離の短縮と同一結果を示した。

3. 畦立と土壌流亡との関係
 7月から10月まで観測の結果は第9表に示す如く全期間を通じて平畦区と上下畦区との間には流去水量、流亡土壌量ともに大差なく、等高畦区の流亡量は著しく少なかった。8月20日には等高畦区の畦の全面を流去水がのり超えて流亡したが、それでも平畦区上下畦区と比較して流亡土壌量で20%、流去水量で50%程度の流亡を示したに過ぎなかった。
 裸地におけるこの結果から考えて等高線栽培が完全に行われ、畦立或いは培土が行われた時には裸地においても少なくとも10分間最大雨量8.0mm前後までは流亡を完全に阻止し得ることを示し、また作物が栽培され、充分繁茂した時期であれば、その限界降雨強度は一層高くなるであろうことは、試験(Ⅰ)及び試験(Ⅱ)の試験結果からも予想できる。

4. 耕鋤法と土壌流亡との関係
 考察できる程度に流亡を生じたのは30年の観測では普通耕区よりは深耕、深耕区よりは心土耕区において流亡量は少ないことが認められた(第10表)。一方収量は第11表の如く、心土耕区はいつも最高の収量を示し、深耕区は馬鈴薯(29)において普通耕区より優った大豆(26)及び燕麦(27)ではむしろ普通耕区より劣った。

5. 堆肥の施用法と土壌流亡との関係
 第12表は昭和27年から30年までの結果を示したものであるが、金肥単位区(Ⅰ区)及び堆肥全面鋤込区(Ⅱ区)が多く、堆肥条肥区(Ⅲ区)は少なくなり、半量表面、半量条肥区(Ⅳ区)が最も少なかった。これは明らかに堆肥施用法による影響で堆肥の海綿的効果、マルチの効果が示されたものと考える。各区の作物の収量は第13表の如くで総体的にみて流亡土壌量は作物生育量との間に逆相関的傾向を示すことが認められる。
 以上試験(Ⅰ)から試験(Ⅳ)までの結果を総括し、これを要約すると次の如くである。

 (1) 緩傾斜地、急傾斜地を問わず高等栽培法は土壌流亡を著しく抑制し、殊に高等線帯状栽培法の効果は顕著であった。
 (2) 高等線栽培を行っても培土を伴わない場合の土壌流亡防止効果は少ない。
 (3) 等高線栽培が完全に行われ、畦立或いは培土を伴うときは10分間最大雨量8mm前後まで土壌流亡を阻止出来る。
 (4) 深耕、心土耕及び堆肥条肥の土壌流亡を抑制する効果も一応確認できたが高等線栽培を前提とするとき、その効果は一層期待できる。