【普及奨励事項】
馬鈴薯の飼料的利用法とその利用試験成績

北海道農業試験場  畜産部
北海道立農業試験場 根室支場

 

 馬鈴薯は本道において63000町歩作付けされ冷涼な気象の地帯においても生産性高く収穫の安全性の面からいって主要作物の一とされており年産額約2憶94万貫と推定される。而してその約0.4%が牛豚などの冬期間の粗飼料として利用されているが約7ヶ月間に渡る冬期間に於ける貯蔵が問題となっている。
この安全な貯蔵法又は処理方法が考えられるならばその利用率は非常に多くなることと思われる。

馬鈴薯の飼料的利用法
 イ. 煮熟利用法 : 一般農家で行われている方法である。簡単ではあるが長期貯蔵の困難性と労力及び燃料費を多く要する欠点がある。
 ロ. 薯粕サイレージ利用法 : 馬鈴薯を煮熟しこれに10~20%の米糠を加えサイレージとして利用するもの(昭和27年根室支場研究)
 ハ. 蒸し薯サイレージ利用法 : 馬鈴薯を蒸し添加物を加えずサイレージとする方法(デンマーク式)
 ニ. 生の馬鈴薯を磨しこれに5%の米糠を加えてサイレージとして利用する方法(30年月寒畜産部で研究)
 ホ. 生の馬鈴薯と生の澱粉粕を等量に約7%の麦類を加えてサイレージとして利用する方法(30年根室支場で研究)
 ヘ. 生の馬鈴薯それ自体を飼料として利用する方法(30年根室支場で研究)

 (1) 磨碎馬鈴薯サイレージの調製
  ① 原料薯は農林一号を用い軽く水をかけて土砂を落とし澱粉製造用の薯摺機(単ローラーのもの)を用いて磨砕した。
  ② 磨砕した馬鈴薯に5%の米糠を添加しよく混合した。
  ③ 詰込后24時間后には醗酵によって全量の一割くらいが増加したがその後次第に縮少し始め一ヶ月後では大体詰込時の60%になった。
  ④ 磨砕した馬鈴薯を詰込むサイロは地下水位の低い高燥な、畜舎内に上幅5尺5寸下巾4尺深さ5尺のトレンチを造り側壁は土砂のまじらないように板を張った。
  ⑤ 詰込后はその上にビニールで覆いをし更にその上に土約5寸をのせた。
  ⑥ 詰込時は一立方尺当たり18.5kgであったものが出来上がってからは25.3kgとなった。
  ⑦ 磨砕米糠添加馬鈴薯サイレージは平均23kgで1飼料単位となり一飼料単位の含む可消化純蛋白質は21grであった。

 (2) 磨砕馬鈴薯を用いた豚の肥育試験
  試験方法
  ① 条件類似の離乳豚8頭を用い4頭宛二群に分けて30年11月1日より31年2月18日迄110日間肥育試験を行った。
  ② 対照区は基礎飼として煮熟馬鈴薯に5%の米糠を加え(20~30kgの豚では体重の1/10)試験区はこれと同量の固形量の生馬鈴薯(5%米糠添加)サイレージを熱湯で糊状として給与
    した。その外の飼料としては体重の1/25の配合飼料100gmの魚粕2ccの肝油を日量とした(一日3回給与)
  ③ 毎日の残食量は勿論、体重は10日目毎に一定時刻に測定した。
  ④ 猶90日目より両区共馬鈴薯は体重の1/8、配合飼料は1/50とした。
  ⑤ 配合飼料は、魚粕8、ふすま20、米糠35、玉蜀黍34、コロイカル2、食塩1の割合で配合したものである。
  試験成績
  ① 磨砕馬鈴薯サイレージ郡が増体重、増体率においてすぐれていた。
  ② 試験期間中は冬季厳寒となり豚舎内の温度も可成低温(大半0下)を示したが磨砕馬鈴薯サイレージ郡は標準に近い発育を示した。
  ③ 燃料費において10俵の生馬鈴薯を煮熟するのに要する燃料を100とした場合10俵分の磨砕馬鈴薯サイレージを糊状にするのに要する燃料は29.3であって可成節減されることが明
    らかになった。
  ④ 磨砕馬鈴薯サイレージは豚の嗜好性に適し試験期間(110日)中の給与によっても何等異状、事故等を認めなかった。

 (3) 生馬鈴薯及び生澱粉粕のサイレージの調製
  ① 原料薯は生の馬鈴薯をルートカッターで細切したもの2250kgと生の澱粉粕2250kgとをよく混和しそれに麦糠300kg(約7%)を添加した。
  ② サイロは地下式円筒形の木製サイロであって内径5尺深さ9尺である。
  ③ 30年11月18日に細切生馬鈴薯と生澱粉粕、麦糠を上記の割合によく混合して詰込みビニールで覆い、重圧は加えなかった。
  ④ 翌31年1月20日より使用を開始し次の試験を行った。

 (4) 生馬鈴薯及び生澱粉粕のサイレージを用いた豚の肥育試験
  試験方法及び成績
  ① 供試豚として各条件の類似している4頭を選び10日間サイレージを除々に与え飼料変換を行い飼料に馴れさせた。
  ② 飼料給与は対照群と試験郡を出来るだけ同量とし対照群の馬鈴薯、澱粉粕は煮熟して給与した。その外脱脂乳と麦糠を体重に応じて与え、試験郡について生のままのサイレージ
    と脱脂乳だけにした。
  ③ 嗜好性は煮熟給与よりは幾らか劣る様であるが、サイレージとせずに生で給与した場合よりは優る様である。採食時間は煮熟のもの15~20分に対し、サイレージ20~25分で大差
    なくサイレージ区のうち1頭は平均12%の残食がありもう1頭は平均5%の残食であった。対照区は全期を通じ残食はなかった。
  ④ 1頭当たりに要した飼料量は両区とも殆ど変わらず飼料費は2236円であり1kg増体に要した飼料費は対照区186円、試験区130円となっていて試験区がずっと安くなっているが供試
    個体が既に肉豚適期を過ぎたものを使用しているので両区とも飼料費が非常に高くついている。しかし、もっと早期に使用していれば、燃料費、労力費の点からも非常に有利な飼
    養法となるであろう。 
  ⑤ 増体量ではsilege使用の場合の方が大であったが分散分析の結果は有意差はなかった。この発育では供試個体が既に肉豚としての適期を過ぎているため発育の状態が中豚時
    代ほど直線的発育をしないのでその状態から明確な結論を下し得ないが少なくとも両群間に発育の差のないことは認められる。
  ⑥ このサイレージ中最も嗜好性の劣るのは細切生馬鈴薯である点からみて馬鈴薯を磨砕したりしてsilageにするか、濃厚飼料を多くして澱粉粕のみの方が良いかも知れない。
  ⑦ 糠類等を添加することによって生馬鈴薯、生澱粉粕と共に豚用の良質なsilageを調製することが出来る。
  ⑧ しかもその給与法は手軽にそのまま給与出来脱脂乳(バターミルク)等を利用すれば好適である。
  ⑨ 馬鈴薯の塊は嗜好性を損ずるので出来れば磨砕がよい
  ⑩ 発育では同量の馬鈴薯及び澱粉粕の煮熟群に比して遜色がない。

 (5) 馬鈴薯を何等加工せずそのまま飼料として給与する場合
  試験方法及び成績(3月中頃から5月初にかけての試験)
  ① 根室支場産のハンプ系雑種1腹の仔を3頭宛2群に分けて用いた。
  ② 30日づつ2期間に渡って実施した。
  ③ 生馬鈴薯区は生馬鈴薯をこまかく砕いたまま、煮熟馬鈴薯区では馬鈴薯を煮熟したまま用い、不足栄養分は、脱脂乳と少量の米糠で補った。
  ④ その採食量は生のものが体重の9.5%に対して煮熟したものでは10.5%であった。
  ⑤ 発育の状態を見ると(10日目毎に体重を測定した)増体率は煮熟区を100とした場合96~97となって居り少し劣るようであるが分散分析によればそれ程有意の差はなかった。
  ⑥ 又消化率においても大差がないものと思われる。
  試験方法及び成績(30.11.0~31.1.19……80日間)
  ① 1腹の仔8頭を4頭宛2群に分けて用いた。
  ② 馬鈴薯、脱脂乳の外大麦、燕麦、米糠、ふすま等の飼料を用い両区共等量給与するよう調整した。
  ③ 採食量は生のもの体重の6.5%に対して煮熟したものでは8%となり煮熟したものを100とした場合生のものは80であった。
  ④ 嗜好性については生馬鈴薯は細切給与したが嗜好性が劣り特に冬季凍結する時は残食量も多くなり煮熟区で飼料の送り食いをせず10~20分で完食するのに対しては生区では
    濃厚飼料を先に食い最後に馬鈴薯を20~30分かかって食べ或るものは完食、或るものは1~3割、又或るものは3~5割を残食している。
  ⑤ 以上の点からいって残食量の少ないもの程良好な発育をしていることになる。
  ⑥ 結局正規の量を嗜好して食べ、残食のない様にさえなれば生馬鈴薯と煮熟馬鈴薯の間には差異はないのである。
  ⑦ 2ヶ年の成績によると1kg増体に対する可消化蛋白その他栄養分は殆ど同量なので消化率には差異がない。これは生食でも規定量を摂取したものの発育が良好だったことが裏書
    している。
  ⑧ 聡飼料費は煮熟区(100)に比し生区(93~94)が低廉で(100:101~102)である。しかしこれも殆ど差異がない。従って燃料費、労力費だけ生区が経済的である。
  ⑨ 生食による発育不良は全く採取量の過少に起因する。
  ⑩ 給与量は厳寒期以外の春秋では5~6ヶ月の豚で体重の9.5%前後(煮熟区の84%に当たる)が適当であり、厳寒期には凍結を防止する必要があるがそれでも嗜好性が劣るので体
    重の6~7%程度が良好である。