【普及上の参考事項】
大正経営試験農場成績概要

経営部

 

 本経営試験農場は当地方の農家が従来豆類偏作の粗放な穀菽経営により地力を著しく減耗したのに省みて試験開始と共に乳牛飼養の強化とこれと結び付いた綜合的な土地改良を基本方針として諸種の改善策に努めてきた。現在では本村で最も生産力の高い農家として当地方の経営改善に多大の役割を果たしているが、改善策の根本は従来の豆類偏作を是正して乳牛飼養の混同経営と綜合的な土地改良即ち輪作、心土耕、深耕、石灰、有機物の施用等従来の指導方針を実施したにすぎないが、それを豆偏作の一般農家と比較すると、
 1. 豆偏作農家は金肥の多投により生産を維持しているが、反収は上がらず肥料費の支出は大で経営に著しい硬直性が見られる。
 2. 地力維持策として赤クロバーの鋤込を行っている農家もあるが多くは赤クロバーもよく生育しないので馬鈴薯に殆どの堆肥を投入して跡作物にクロバーを混播してその生育を図って
   いる様な状態で試験農家に比して地力は甚だ低い。
 3. 有機物使用の不足と適作により病害の発生多く収量のみならず品質も劣る。最近微量要素の欠乏が問題となり熔成燐肥を使用する農家が多いが試験農家はかかるものを使用せ
   ず量質共に優れた生産をあげている。
 4. 29年度の冷害により豆作農家は甚だしい打撃をうけ30年度村農家1戸当の負債は30余万円に達しており、経営の打開策として乳牛の導入も行われているがこれとても相当の資本と
   時日を要するので早急な効果は期待できない。
 5. 当地方は晩春の強風により屡々風害をうけるので相当の耕地防風林を必要とするが未だ充分でない農家もあり、昭和25.29年には村では可成りの風害をうけたが、本農場では全く
   被害がなかった。牧草地と有機物の施用は土壌の流亡飛散を防ぎ耕地防風林と共に土壌保全に大なる効果を上げている。

 以上の様に豆類は本地方の適作物ではあるがあまりにこれに依存しすぎたため現在の様な生産力の衰退を招いたのである。これが打開には相当の時日を要するが、本経営試験農場の成果に見た如く乳牛飼養の混同経営と総合的な土地改良の実施により適作物である豆類を初め総体的な生産力の伸長が期待できるものと思われる。

 

附近農家と経営試験農家との比較(昭30年)

 経営試験農家と土地改良も行わず豆作多く牛を飼養せさる農家とを比較してみると
 (1) 農家の概況
区別 経営面積
(反)
耕地面積 家族数 農業従事者 家畜頭数 土地改良 輪作
緬羊 心土耕 深耕 緑肥
A 農家 269.0 230.0 10 3 2 - 4 3 10   - 燕麦
大根
-
B 農家 244.0 209.6 10 2 2 - 5 1 40   - 赤クロバー
3年目鋤込み
-
経試農家 200.0 180.0 10 3 2 6 3 2 150 輪作区完了
区外実施中
- 主として
牧草鋤込
14年輪作

 (2) 豆類馬鈴薯と牧草の面積
区別 豆類 馬鈴薯 収草
実数 (反) 割合(%) 実数 (反) 割合(%) 実数 (反) 割合(%)
A 147.0 63.9 17.0 7.4 13.0 5.7
B 106.3 50.7 17.8 8.5 35.2 16.8
71.0 39.4 24.0 13.3 39.0 21.7

 (3) 堆肥施用量
区別 草量(貫) 反当(牧草地除外)(貫)
A 18.900 87
B 12.460 71
23.400 130

 (4) 購入肥料
区別 硫安(貫) 過石 加里 配合 魚粕 大豆粕 金額(円) 反当金額
A 400 1700 650 730     300300 1305
B 400 2000 300 150 26 50 226400 1083
515 1600 336       185000 1028

 (5) 反当収量
区別 大麦 小麦 燕麦 大豆 小豆 菜豆 豌豆 馬鈴薯 デントコーン
A 3.0 2.2 4.0 2.5 2.0 2.6 1.0 40.0 1.300
B 3.4 2.0 4.0 2.1 2.3 2.4 2.3 37.1 800
5.5 4.0 6.5 3.5 4.5 3.4 1.8 45.4 1400

輪作順序(経)翌18年より輪作式に則り作付を行った。

1 2 3 4 5 6 7
燕麦
(赤クロバー
  チモシー)
赤クロバー
チモシー
赤クロバー
チモシー
デントコーン (堆)
馬鈴薯
麦類 大豆
8 9 10 11 12 13 14
亜麻
(赤クロバー)
赤クロバー 赤クロバー 稲黍

玉蜀黍
燕麦 豆類 (堆)
甜菜
飼料用根菜
 (註) 昭和24年以後12区の燕麦は豆類、14区は馬鈴薯とした。

 

収支

収入(円)
  植産収入(円) 畜産収入 合計
(イ)
豆類 馬鈴薯 その他 牛乳 その他
A 960500
(80.0)
220000
(18.3)
亜麻
20000
(1.7)
1200500
(100.0)
1200500
(100%)
B 647200
(67.8)
240000
(25.2)
大麦
12000
(1.2)
899200
(94.2)
15000
(1.6)
40000
(5.2)
55000
(6.8)
954200
(100%)
661660
(42.0)
486000
(30.9)
燕麦
45000
(2.8)
1192660
(75.7)
232000
(14.8)
150000
(9.5)
382000
(24.3)
1574660
(100%)

支出(円)
  肥料 種苗 飼料 包装 租税 労賃 その他 合計
A 300300
(56.2)
60100
(11.2)
1200
(0.2)
53275
(9.9)
40100
(7.5)
12000
(2.2)
68050
(12.7)
535025
(100%)
B 226400
(53.2)
40900
(9.6)
8800
(2.1)
42000
(9.9)
36070
(8.5)
25000
(5.9)
46470
(10.9)
425640
(100%)
185000
(35.3)
33150
(6.3)
88900
(16.9)
52610
(10.3)
86570
(16.4)
2000
(0.4)
76420
(14.5)
524650
(100%)
  差引(イ)-(ロ) 負債
A 665415
(63.3)
200000
B 527800
(50.2)
350000
1050010
(100)

 

経営試験農家と比較農家との差異
 1. 経営試験農家に比し、A、B農家共経営面積、耕作面積大なるに不拘、収入は少なく現金の収支差引でA農家63.3%、B農家50.2%にしか達しない。
 2. 比較農家は堆肥の生産量少なく肥料費は経営支出の50%以上に達し金肥の多投により生産を維持している状態で肥料の効率低く反当収量も甚だ劣る。
 3. 豆類と馬鈴薯の収入の比較では次の如く著しい差がある。

  反当
粗収入(円)
反当購入
肥料額(円)
差引(円)
A 豆類 6534    
馬鈴薯 12971 4730 8241
B 豆類 6088    
馬鈴薯 13483 4885 8598
豆類 9313    
馬鈴薯 20250 2420 17830
 註(1) 豆類の金肥投下量は3戸共大体同じなので粗収入で比較した。又品質の差は考慮しない。
   (2) 試験農家の馬鈴薯は種子用が多い。

 4. 比較農家は植産収入のみか僅かの畜産収入しかないが、29年の冷害で非常な打撃をうけ負債も多く豆偏作の欠陥が大きく表れている。