【普及上の参考事項】
薄荷の輪作栽培における所要労働

経営部

 

北見経営試験農場では薄荷(万葉、涼風)を含む合理的な輪作様式を見出すこと、薄荷の輪作栽培に於ける労働の態様と経営労働耐性との関聯の究明に努めているが、本成績はこれらの面に関し農場の経過をとりまとめたものである。

1.成績概要
 (1) 作業別反当所要労働
   第1表は万葉種を輪作した場合の反当所要労働で、昭和29年は大部分馬鈴薯一部甜菜後地であり、昭和30年は大豆後地である。何れも薄荷に対し清潔で良好な理学性をもつ圃場
   を与えるよう配慮したものである。
  第1表 作業別反当所要労働
  慣行 輪作 備考
29年 30年
時間 割合 時間 割合 時間 割合 時間 割合
金肥料緩撒布 7.0 4.6 6.5 4.8 3.0 2.2 1.9 1.5  
耕鋤 3.0 1.9 3.8 2.8 1.8 1.3 1.7 1.4  
整地 1.5 1.1 1.1 0.8 0.5 0.4  
栽植準備 0.7 0.5 9.7 7.9 29年は北見支場より種根の分譲をうけた為少ない
栽植 5.0 3.6 12.3 10.0 30年は29年に比し株間を1/2(5寸)の密植としたため多い
追肥 4.8 3.1 2.0 1.5 1.4 1.1 1.9 1.5  
補植 1.2 0.8 12.3 8.8 4.2 3.4 29年は28年秋植えの活着悪く多い
小計 16.0 10.4 13.8 8.7 25.3 18.3 32.2 26.1  
中耕除草 88.8 57.8 89.0 65.6 28.7 20.6 40.0 32.5 30年は初期成育悪く手取除草が多かったため多い。
管理 2.0 1.3 0.1 0.1  
小計 90.8 59.1 89.0 65.6 28.8 20.7 40.0 32.5  
収穫乾燥 29.0 18.9 20.9 15.4 49.2 35.4 24.6 20.0 29年は生草量多かったので多い。
収納 3.8 2.5 2.1 2.1 8.4 6.0 9.9 8.1  
蒸溜 14.0 9.1 9.2 6.7 26.7 19.2 15.8 12.8  
小計 46.8 30.5 32.2 24.2 84.3 60.6 50.3 40.9  
0.6 0.4 0.6 0.5  
合計 153.6 100.0 135.8 100.0 139.0 100.0 123.1 100.0  

  輪作順序
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
亜麻 5.0
(赤クロバー)

春小麦 2.0
(赤クロバー)

赤クロバー 5.0

菜豆 2.0

馬鈴薯 薄荷 菜豆

小豆

麦類

(緑肥)

甜菜 大豆 薄荷 薄荷 2.0

燕麦 5.0

大豆

 第1表の慣行(イ)は経営試験農場所在部落の農家4戸について聴取調査を行ったものの平均であり、(ロ)は経営試験農家の28年慣行法によった時の数字である。但しこの場合欠株甚だ多く菜豆を補播したため薄荷の収穫面積を推定して反当を算出したものである。
 何れにせよ慣行栽培が輪作栽培の場合にくらべ多いにしてもその差はさほど大きくないようである。しかしこれを内容についてみると著しい相違点が見出される。即ち床薄荷の場合は栽植労働の少ないのは当然であるが、除草労力は90時間に近く反当総労働の6割前後を占めており輪作栽培の3倍を要している。この部落は手取除草の前に除草ハローを使用するなど比較的進歩した除草方法を採用しているに拘わらず尚このような結果を示している。収穫加工労働は赤円種は収量が少ない関係で所要時間も遙かに少なく全所要労働に占める割合も少ない。
 尚取卸油一組当たり全所要労働量を算出すると次の如くである。

慣行 輪作 備考
(イ) (ロ) 29年 30年
69.9時間   34.8 23.2 (イ)の反収2.2組、30年の反収5.3組
29年の反収4.0

 (2) 労働の季節的配分
   慣行、輪作の両者における特徴的な相異は床薄荷の場合においては、9月上旬の収穫に至直前まで各旬とも除草労働が投下せられているに対し輪作栽培では、7月下旬乃至8月上
  旬に終了していることである。蓋し前者では極く初期に除草ハローを使用するのみで後は手取除草に依存し、今年の不完全除草は次年の除草労働をより多く要求せられることになる
  ので刈取直前まで懇切丁寧に除草をする必要があるのに対し、後者では毎年栽培地を替えるので一般作物なみの除草で事足れるがためである。
  慣行法ではこの5月下旬より7月下旬のみに要した除草労働を通算しても56時間に達し輪作の全除草労働量より遙かに多くなっている。刈取は赤円種では9月上旬から、万葉種では9
  月下旬より10月上旬にかけて相当おくれて実施されている。蒸溜は両者とも10月中旬以降、栽植は11月中旬に行われている。

  第2表 月旬別反当所要労働時間
   慣行 輪作 備考
29年 30年
時間 作業 時間 作業 時間 作業
4月下旬         15.1 栽植   
5月上旬               
中旬 4.3 追肥運搬撒布 0.3 中耕除草       
下旬 6.1 追肥2.0、除草4.1 6.5 中除4.0、補植2.5 7.0 中3.8、追1.1、補2.1  
6月上旬 5.3 除草 9.7 追1.1、補6.9、中1.7 13.9 中耕除草  
中旬 11.3  〃 8.9 中除6.0、補2.9 2.6 中0.5、補2.1  
下旬 6.4  〃 5.3 中耕除草 5.4 中4.7、追0.7  
7月上旬 13.6  〃 1.1 中除0.8、追肥0.3 6.3 中耕除草  
中旬 8.2  〃 5. 中耕除草 0.8  〃  
下旬 0.8  〃 4.7 中除4.6、管理0.1 5.1  〃  
8月上旬 7.7  〃 0.6 中耕除草 49  〃  
中旬 13.7  〃          
下旬 11.0  〃           
9月上旬 6.4 除1.1、収穫5.3 0.1        
中旬 11.9 収穫           
下旬 3.6  〃 49.3 収穫49.2、雑0.1 11.4 収穫 29年は生草量多かったため大きい。 
10月上旬 2.9 収納 1.4 蒸溜1.3、雑0.1 15.8 穫13.2、蒸2.0、雑0.6   
中旬 12.8 蒸溜4.6、栽植8.2 30.9 蒸24.8、収納6.1 10.8 蒸溜  
下旬 4.5 蒸溜 1.3 栽0.7、納0.3、雑0.3 10.9 蒸3.0、納7.9  
11月上旬 3.4 栽植 11.3 栽植 3.1 堆肥運搬  
中旬     0.6 蒸溜 20.3 納0.4、栽19.9 30年は種根が腐敗して採集に多くを要した。
下旬     0.9 収納      
12月上旬              
中旬     0.1 収納 1.6 収納  
計  139.9 138.4 135.0  

 (3) 他作物との労働配分関係
   5月下旬より7月下旬に至る輪作薄荷の除草期は一般作物の除草期に競合をまぬがれないが、床薄荷に比しこの間の労働需要も遙かに少ないからその競合の度合いも少ないわけである。床薄荷では7月下旬以降も除草を継続するので夏収作物の収穫、脱穀と重なり又従来の品種では銹病発生のため早期刈取を余儀なくせられることが多いので、夏収作物の脱穀搬出などとぶつかることが多い。11月上旬乃至中旬の栽植作業は秋収作物の脱穀作業と競合するけれども後者の作業の性質上両者を調整することは困難でない。要するに薄荷の新品種を輪作栽培した場合は所要労力の構成と時期的配分状況は慣行のものと著しく相違し、経営全体の労働体制に対する関係に於いては慣行の場合に比し、良好となるものと考えられる。

  第3表 家族及び労働(昭和29年)
員数 労働歩合 消費歩合
8 2.4 5.3

  第4表 土地利用状況(昭和29年)
種別 面積
普通畑 82.4
宅地 2.6
植樹地 7.0
薪炭備林地 50.0
未墾地 1.0
採草地 1.0
貸土地 7.0
151.0

  第5表 家畜の種類及び頭数(昭和29年)
種類 年度始 年度末
2 2
   
緬羊 2 2
   
26 19
  9

  第6表 薄荷耕種法及び収量
  栽植
年次
品種名 区名 反別 前作物 栽植期 反当
種根量
(貫)
畦巾×株間 反当施肥量 反当収量
堆肥 硫安 過石 加里 壬生蓬粕 蒸溜粕
(貫)
油重
(匁)
28年 26年 赤丸   7.0 薄荷       300 2.7 6.0 1.8 15 40 2.6
  3.0       300 2.7 6.0 1.8 15 47 2.6
  4.0       300 1.75 7.5 2.75 37.5 2.0
28年   3.0 5月上旬 12 2.0尺×1.0尺 300 2.7 6.0 1.8 15 35 2.1
25年   2.0       300 2.7 6.0 1.8 15 45 2.6
29年 29年 万葉 1 0.2 菜豆 5月上旬 20   500 3.0 6.0 2.0   75 8.4
28年 4 7.0 馬鈴薯、甜菜 12 2.0尺×1.0尺 500 3.0 6.0 2.0   80 8.0
28年 8 7.0 小豆、甜菜 11月上旬 12 2.0尺×1.0尺 300 3.0 6.0 2.0   70 5.2
29年 涼風 区外 0.3 野菜 20 2.0尺×1.0尺   3.0 6.0 2.0   80 8.0
30年 28年 万葉 4 2.0 薄荷 400 4.0 6.0 2.0   80 10.0
29.30年 5 7.0 大豆 4月下旬 30 2.0尺×0.5尺 400 4.0 6.0 2.0   80 10.6
29年 涼風 10 2.5 クロバー、玉蜀黍、大豆 5月下旬 30 2.0尺×0.5尺 400 4.0 6.0 2.0   70 6.2
29年 万葉 10 4.5 菜豆 30 2.0尺×0.5尺 400 4.0 6.0 2.0   80 11.2
29年 涼風 区外 0.2 薄荷   5.0 6.0 2.5   70 8.0
 註 28年の作付面積は19.0反であるが欠株多く28年栽植の3.0反を除いて11.0反と推測された。

作付図(昭和30年)