【普及奨励事項】
薬液の濃厚散布について

北海道立農業試験場

 

Ⅰ 目的
  ミスト機による濃厚散布を行うにあたり、その適当した薬剤濃度と液量を検知する。

Ⅱ 試験の種類および試験場所
 1. いもち病防除試験(昭和30~31年)美唄市茶志内
 2. 馬鈴薯疫病防除試験(昭和30年)札幌市琴似町

Ⅲ 供用機種
  共立農機株式会社製ミスト機(単用機)

Ⅳ 試験結果の概括
  ミスト機により薬液を濃厚散布する場合、その適正な濃度および散布量は、対象とする病害の種類及びその発生量によって一定しないが、昭和30年~31年の試験結果からみて一応
 次の範囲内において防除効果を示すものと考えられる。

  ・ いもち病
   反当薬剤量の減少にともなって防除効果も漸減するが、普通反当薬剤量の約45%減の薬量においても防除効果が認められる。
   しかし防除効果の安全性から見て、普通薬量の20~30%減位が適量と考えられる。なお、散布液量は反当1.0~2.0斗が適当のようである。
  ・ 馬鈴薯疫病
   いもち病の場合と同様、普通量の20~30%減で経済的効果をあげ得る。

 1 いもち病防除試験
  (1) 昭和30年度結果
  反当薬量
及び液量
生育調査 発病率(%) 被害防止率(%) 備考
稈長(cm) 穂長(cm) 茎数(本) 葉いもち 頸いもち 節いもち 頸いもち 節いもち
1 無防除 65.1 21.1 17.2 15.0 28.0  
2 ルベロン石灰 3.0kg 69.1 21.3 17.2 極少 2.6 7.4 83 74  
3 リオゲン水和剤 50匁/2斗 63.5 19.0 17.1 5.7 11.3 62 60  
4     〃 70匁/2斗 64.7 19.0 17.0 2.0 5.8 87 79  
5     〃 90匁/2斗 66.7 21.1 17.6 0.7 1.1 95 96 対照区(普通薬剤量)
  註 1. 供試品種および区制  中生栄光  1区30坪 2連制
     2. 耕種梗概  農家慣行法による
     3. 防除回数  2回

  (2) 昭和31年度結果
   1) 生育調査成績
  反当薬量
主稈 第1次分げつ
第1位
第1次分げつ
第2位
第1次分げつ
第3位
備考
穂長 1 2 3 穂長 1 2 3 穂長 1 2 3 穂長 1 2 3
1 無防除 15.6 26.9 19.7 10.0 14.1 24.1 18.3 9.5 13.9 24.9 18.2 10.1 13.2 23.4 17.3 9.5  
2 リオゲン水和剤 90匁/2斗 15.4 26.3 18.9 10.4 13.5 24.0 17.5 9.6 13.6 23.3 17.1 10.0 13.6 23.7 17.7 9.8  対照区(普通薬剤量)
3   〃 70匁/2斗 16.1 26.8 19.5 11.6 13.7 23.2 17.6 10.0 13.9 24.7 18.5 10.1 13.7 24.9 185 9.6  
4   〃   50匁/2斗 15.9 27.1 19.5 10.3 13.5 24.4 17.7 9.8 13.7 24.3 17.8 10.0 13.4 23.4 17.1 10.3  
5 フミロン 30錠/2斗 15.7 26.6 19.9 10.0 14.0 24.3 18.5 10.1 14.1 24.3 18.5 9.4 13.8 24.2 18.1 10.0  
6   〃 15錠/2斗 15.7 25.8 19.9 9.9 13.4 23.7 17.4 9.7 13.9 24.4 17.5 8.9 13.5 24.7 17.9 9.2  
7 セレサン石灰 3kg 15.9 27.2 19.9 10.6 13.3 25.3 18.4 9.9 13.5 24.3 17.9 9.8 13.5 25.3 18.0 9.4  

   2) 発病調査成績
   病葉率および1葉当病斑調査成績(8月27日)
  反当薬量
病葉率 1葉当平均病斑数
A B C 平均 A B C 平均
1 無防除 43.6 24.7 22.0 30.1 3.086 1.208 0.868 1.721
2 リオゲン水和剤 90匁/2斗 11.6 6.3 5.9 7.9 0.228 0.107 0.129 0.155
3   〃 70匁/2斗 15.6 13.7 8.2 12.5 0.367 0.351 0.154 0.291
4   〃   50匁/2斗 16.7 9.6 10.5 12.3 0.588 0.202 0.263 0.351
5 フミロン 30錠/2斗 3.8 1.6 2.6 2.7 0.056 0.025 0.089 0.057
6   〃 15錠/2斗 4.1 3.3 4.7 4.0 0.064 0.053 0.050 0.056
7 セレサン石灰 3kg 12.4 7.1 4.9 8.1 0.316 0.136 0.093 0.182

   病穂および病茎率調査成績(収穫期)
  反当薬量
病葉率 1葉当平均病斑数 被害防止率(%)
A B C 平均 A B C 平均 病穂 病茎
1 無防除 84.2 44.6 41.0 56.6 61.7 20.4 10.0 30.7 - -
2 リオゲン水和剤 90匁/2斗 6.6 3.8 3.6 4.7 2.2 2.2 0.7 1.7 92 94
3   〃 70匁/2斗 8.9 8.1 3.3 6.8 2.5 1.7 1.2 1.8 88 94
4   〃   50匁/2斗 13.6 10.0 7.5 10.4 6.2 2.8 1.8 3.6 82 88
5 フミロン 30錠/2斗 1.5 1.5 1.4 1.5 0.7 0.6 0.3 0.5 97 98
6   〃 15錠/2斗 4.4 3.2 2.3 3.3 0.0 2.5 1.2 1.2 94 96
7 セレサン石灰 3kg 15.7 7.6 5.6 9.6 3.7 2.6 1.5 2.6 83 92

   3) 考察
   生育におよぼす影響
    本年は稀に見る低冷な天候に禍され、水稲の生育不振のため薬剤散布の植生におよぼす影響を見ることが困難である。
   防除効果
    昭和30年度の結果においては、リオゲン水和剤90匁/2斗区が最も勝り、70匁/2斗、ルベロン石灰反当3.0kg撒布区と順次し、50匁/2斗区が最も劣っているが、なお被害防止率60%
    を示している。昭和31年度の結塊においては、リオゲン水和剤散布区は前年度と同様の結果を示しているが、50匁/2斗区はセレサン石灰反当3.0kg散布区と大差なく、80%以上の
    被害防止率を示している。これによって見るにミスト機をしようする場合、かなり薬剤を節約し得るものと考えられる。
   散布液量に関する試験成績(参考)
    1 試験方法
      耕種梗概およびその他 前試験に準ず
      反当薬剤量  リオゲン水和剤90匁
    2 調査成績
      葉いもち病発病調査成績
  病葉率 1葉当平均病斑数
A B C 平均 A B C 平均
1 無防除 28.3 28.3 1.272 1.272
2 反当1.5斗散布 2.9 7.2 9.2 8.4 0.051 0.126 0.187 0.121
3 反当1.0斗散布 13.5 10.0 9.1 10.9 0.314 0.187 0.177 0.229
4 反当0.5斗散布 8.9 7.8 7.3 8.0 0.267 0.120 0.172 0.186
  註 無防除およびCブロックは事故のため削除

     病穂率および病茎率調査成績
  反当薬量
病穂率 病茎率
A B C 平均 A B C 平均
1 無防除 89.5 89.5 57.3 57.3
2 反当1.5斗散布 70匁 11.2 5.9 14.0 10.3 0.9 2.3 5.5 2.9
3 反当1.0斗散布 70匁 21.0 22.1 15.9 19.1 6.6 9.4 2.7 6.2
4 反当0.5斗散布 70匁 22.7 9.8 16.5 16.4 9.6 0.5 6.0 5.4

  考察
   無防除は1ブロックのみの結果であるため、成績の判定が困難であるが、反当の薬剤量が同一であれば、反当薬液量を5升にしてもさほど効果が劣らないようである。
   しかし、薬液の量は水田の状態、稲の生育状況、更に作業する人の熟練程度によって一定しないものであって、反当薬量は少なくとも1斗以上を必要とするものと考えられる。

 2 馬鈴薯疫病防除試験(昭和30年度)
  (1) 試験方法
   供試品種  男爵薯
   1区面積および区制   1区30坪  2連制
   耕種梗概     標準耕種法
   供試薬剤     石灰ボルドー液
              銅水和剤
   防除時期     7月1日、7月25日、8月3日、8月12日
  (2) 試験成績
   発病調査成績(病小葉率)
  反当散布量 7月17日 7月27日 8月13日 備考
液量 濃度 A B 平均 A B 平均 A B 平均
1 無防除 0.24 0.35 0.3 10.30 13.90 12.1 90.80 88.00 89.4  
2 石灰ボルドー液 6斗 2斗式 0.40 0.40 0.4 3.40 4.00 3.7 27.10 32.10 29.6 手押フンムキ
3   〃 2斗 4斗式 0.0 0.0 0.0 2.75 3.65 3.2 31.30 27.30 49.3  
4   〃   2斗 3斗式 0.12 0.08 1.0 4.0 4.20 4.1 49.00 55.00 52.0  
5   〃  2斗 2斗式 0.20 0.40 0.6 1.90 3.90 2.9 29.00 39.10 34.7  
6   〃 2斗 1.5斗式 0.22 0.38 0.3 1.70 1.70 1.7 16.00 14.30 30.3  
7 銅水和剤 6斗 15匁/1斗 0.40 0.40 0.4 2.20 2.40 2.3 27.20 23.00 25.1 手押フンムキ
8   〃 2斗  〃  0.25 0.55 0.4 4.10 3.50 3.8 32.10 45.10 38.6  
9   〃 2斗 25匁/1斗 1.00 0.59 0.8 3.20 3.80 3.5 30.50 31.50 31.0  
10   〃 2斗 35匁/1斗 0.0 0.0 0.0 1.45 1.95 1.7 28.00 26.40 27.2  
11   〃 2斗 45匁/1斗 1.30 1.50 1.4 1.80 2.00 1.9 23.1 22.3 22.7  

  考察
   石灰ボルドー液、銅水和剤のいずれにおいても反当薬剤量が同一量程度の場合にはミスト機および噴霧機の間に効果の差異は認められないが、ミスト機は薬剤を20~30%位節約し
   てもかなり防除効果を現している。