【普及奨励事項】
糖蜜混合飼料添加による草サイレージの調整について

北海道農業試験場畜産部牧野研究室

 

Ⅰ 緒言
 近年家畜飼料用として原糖蜜の輸入がなされ、これに糟糖類、油粕類などを混合し、糖蜜混合飼料として農家の用途に供されているが、これが草サイレージ調製時の添加物としての利用が要望されていた。これらの点から今回、糖蜜混合飼料のサイレージ添加物としての安全性とその効果について試験を行ったので、成績を参考に供する。

Ⅱ 試験方法
 1 試験方法及び試験箇所
  この試験の実施にあたっては、センターを畜産部に置き、道内諸地域においてそれぞれ1箇所宛同一の試験設計に基づき試験を行った。
  なお試験箇所は次の如くである。 

地方 実施箇所 原料草 サイロの種類
基数
屯数 試験担当者
網走 北見市 牧草・野草 トレンチ 1 2.5 松村専技  熊坂技師
宗谷 豊富村 牧草 トレンチ 1 2.5 伊藤技師
十勝 足寄町 牧草 トレンチ 1 2.5 尾沢技師  高野技官
胆振 豊浦町 野草 トレンチ 1 2.5 土生技師  高野技官
宗谷 道立種羊場 牧草 トレンチ 1 1.0 渡辺技師
日高 門別町 牧草 トレンチ 1 2.5 滝沢技師
石狩 畜産部 牧草 塔型 1 5.5 牧野研究室
畜産部 牧草 桶  8 0.3

 2 供試サイロおよび埋草原料
  供試サイロ畜産部においては大型塔型サイロ及び小型試験用桶サイロを使用し、原料草には牧草を用いた。また現地試験地においては2.5~3.0屯のビニールフィルム利用によるトレ
  ンチサイロを用いた。使用ビニールはサイロ用ビニールダークグレー、0.13mm厚(モンサント化成製品)を被覆した。
 3 調査事項
  調査方法は概ね前年度に準ずるが、①外観調査、②嗜好性、③品質などに主点を置いた。

  

Ⅲ 試験成績
 以上の試験方法に基づいて、草サイレージ添加物として糖蜜混合飼料の効果について試験調査を行ったが試験1には畜産部における試験成績、試験2には現地試験成績、参考成績として、51~54に行った糖蜜添加草サイレージの試験成績をそれぞれ取纏めて掲載した。

 
 (試験1) 畜産部における試験成績
  その1) 小型サイロによる糖蜜混合飼料と麩の添加効果。
   (1) 原料草
  刈取圃場 : 畜産部18号用地     刈取月日 : 6月22日
  平均反当生草量 : 2250kg       
  植生割合 :

草種 割合(%) 生育時期
オチャードグラス 86.3 開花後期
赤クロバー 6.3 開花期
白クロバー 6.2 開花期
エゾノギシギシ 1.2 出穂期

  第1表 原料草の一般組成(原物中%)
草種 水分 粗蛋白質 粗脂肪 NFE 粗繊維 粗灰分
オチャードグラス 76.2 2.3 0.9 12.9 6.2 1.5
赤クロバー 80.8 3.6 0.9 9.2 4.0 1.5
白クロバー 86.1 3.1 0.8 7.5 0.9 1.6

   (2) 供試添加物
  糖蜜混合飼料 : サイレージ添加用として製造されたものにして内容は糖蜜45%、サツクフラワー粕15%、パーム粕20%、ビートパルプ10%、麩10%の混合飼料
  麩 : 一般常用麩
  第2表 添加物の一般組成(原物中%)
添加物 水分 粗蛋白質 粗脂肪 NFE 粗繊維 粗灰分
糖蜜混合飼料 15.5 9.5 1.3 59.1 9.8 4.8
9.7 15.0 3.8 57.5 8.9 5.1

   (3) 供試サイロ
  大型の試験用桶サイロを土中に埋め使用した。
  サイロの大きさは直径3.2尺×高さ4.0尺のもので容量32.2立方尺350~450kg入りのものである。埋草にあたっては、長さ約2cmに細切した原料を踏付しながら埋蔵し、最上面にはビニ
  ールを用いて密封した。ビニール貼着の上に屑草を若干量載せ、押蓋、重石(一定重量)も積載した。埋草量は300kgとした。

   (4) 添加物処理
  供試サイロは7箇で7処理区を設けた。即ち、①無処理、②麩2%、③麩5%、④麩10%、⑤糖蜜混合飼料2%、⑥糖蜜混合飼料5%、⑦糖蜜混合飼料10%、

   (5) サイレージの品質
  A 酸組成
  第3表 各添加物によるPH、酸組成(各上中下部位3点平均)
添加物 生草屯当
添加量(kg)
色沢及び香気 PH 総酸 乳酸 揮発酸
なし 暗褐黄色、酸臭乏、刺激臭大 5.1 0.96
(100)
0.46
(48)
0.50
(52)
糖蜜混合 20
(2%)
褐黄緑色、甘酸、刺激臭 4.4 1.66
(100)
0.86
(51)
0.80
(49)
糖蜜混合 50
(5%)
褐黄色、甘酸 4.0 2.20
(100)
1.30
(59)
0.90
(41)
糖蜜混合 100
(10%)
淡黄緑色、甘酸良 4.1 2.29
(100)
1.34
(59)
0.95
(41)
20
(2%)
褐黄緑色、甘酸、少刺激臭 4.7 1.50
(100)
0.60
(40)
0.90
(60)
50
(5%)
褐黄緑色、甘酸、少刺激臭 4.6 1.77
(100)
0.84
(47)
0.93
(53)
100
(10%)
淡黄緑色、甘酸、アルコール醗酵臭 4.3 2.47
(100)
1.51
(61)
0.96
(39)

  B 栄養成分
  第4表 各添加物によるサイレージの一般組成(原物中%)
処理 添加量 水分 粗蛋白質 粗脂肪 NFE 粗繊維 粗灰分
原料草 埋草時 74.1±3.5 3.0±0.5 0.9±0.2 13.3 6.9±1.1 1.8±0.2
無処理 77.2 2.7 1.1 9.7 7.5 1.8
糖蜜混合飼料 2% 75.2 3.0 1.3 12.0 6.5 2.0
5% 73.8 3.4 1.6 9.7 7.7 3.8
10% 72.3 3.5 1.6 13.0 7.5 2.1
2% 75.0 3.2 1.3 11.0 7.6 1.9
5% 74.6 3.1 1.4 11.6 7.3 2.0
10% 70.1 4.0 2.1 15.4 6.2 2.2
  註 原料は埋草時15点の平均、出来上がりサイレージは各々3点平均。

  第5表 各処理別サイレージの栄養成分
処理 水分(%) DCP(%) TDN(%) DTP(%) SV(%) IEF(%) IEF中DTP
無処理 77.2 1.6 12.9 0.9 7.5 9.3 84
糖蜜 5% 73.8 2.0 15.0 1.1 8.3 8.4 92
麩 5% 74.6 1.9 15.6 1.0 9.2 7.6 76

  C 嗜好検査
  嗜好調査には、条件類似の明2歳のコリデール緬羊牝を選定し、①サイレージの添加物の種類、②糖蜜添加量による嗜好性を Free choice method により調査した。
  各試験に5日間の予備期により各サイレージの嗜好に馴応せしめ、6日間の本試験期中における採食量を測定した。
  第6表 草サイレージ添加物の種類と嗜好性
区分 無添加
サイレージ
糖蜜飼料
5%サイレージ

5%サイレージ
総給与量(kg) 72 72 72
採食率(%) 65.0 76.6 71.6
1日採食量(kg) 7.8
(100)
9.2
(117)
8.6
(110)
  1日1頭平均採食量 2.91kg

  第7表 糖蜜飼料の添加量と嗜好性
区分 無添加
サイレージ
糖蜜飼料
2%
糖蜜飼料
5%
糖蜜飼料
10%
総給与量(kg) 72 72 72 72
採食率(%) 50.4 85.0 78.7 97.3
1日採食量(kg) 6.1
(100)
10.2
(167)
9.5
(155)
11.6
(190)
  1日1頭平均採食量 3.11kg
 なおこれらの試験羊は、1日1頭当、燕麦75g、麩120g、玉蜀黍50g、塩3g、カルシウム3gと2番乾草400gを給与したが、体重も良好な状態に保たれ、異状は認められなかった。

 

  その2) 大型サイロによる糖蜜混合飼料添加草サイレージの調製
   畜産部における110屯大型サイロに糖蜜混合飼料3%の添加を行い常法によりサイレージを調製した。その成績は次のとおりである。
  第8表 糖蜜混合飼料3%添加サイレージの酸組成(%)
試料採取日 試料No. 色沢及び香気 PH 総酸 乳酸 揮発酸
8月9日(上) 1
褐黄色、甘酸なるも刺激臭 4.3 1.15 0.75 0.40
2 4.6 1.00 0.65 0.35
8月28日(中) 1 淡緑黄褐色、甘酸 3.9 1.67 1.06 0.61
2 4.1 1.41 0.97 0.44
9月27日(下) 1 淡黄褐緑色、甘酸の刺激臭 3.8 2.42 1.70 0.72
平均   黄褐緑色、甘酸少刺激臭 4.2 1.53
(100)
1.03
(67)
0.50
(33)

  第9表 上記サイレージの一般組成(原物中%)
試料 水分 粗蛋白質 粗脂肪 NFE 粗繊維 粗灰分
8月9日 83.7 1.6 1.1 8.0 4.5 1.1
83.9 2.0 1.0 7.4 4.4 1.3
8月28日 71.7 3.5 2.1 13.9 6.7 2.1
9月27日 72.2 3.4 2.0 13.0 7.2 2.2
平均 77.9 2.6 1.6 10.5 5.7 1.7

 摘要
  糖蜜混合飼料の草サイレージ添加物としての安全性と効果について試験調査を行ったが、その成績を摘要すれば次の如くである。
 (1) オーチャードグラス及び赤クロバー混合牧草に糖蜜混合飼料及び麩を各々0%、2%、5%、10%の添加にあたって、添加量の増加と共に、PH、酸量、酸組成が改善された。
 (2) また糖蜜混合飼料と麩との添加物としての効果は概ね同一かやや糖蜜混合飼料が優れている傾向が示された。
 (3) 添加物の量を増加することによって、サイロ内の養分損失が防がれることが示された。また麩、糖蜜混合飼料の10%の添加によって、無添加処理のサイレージより5~7%の水分調整
   がなされた。
 (4) 緬羊による嗜好試験においても、無処理のものより、麩、糖蜜混合飼料を添加したものは嗜好性に富み、また糖蜜混合飼料の添加量増加と共に、その嗜好性も次第に改善される
   ことが示された。
 (5) 大型サイロを利用して、糖蜜混合飼料3%を添加したが、品質中等のものが得られ、長期給与を行ったが、乳牛は幾分軟便の傾向があるが健康に何らの異状は認められなかった。

 

 (試験2) 現地試験成績
  道内6箇所における現地試験の成績を要約すれば第10表のごとくである。
  第10表 道内諸現地における糖蜜混合飼料添加草サイレージの品質
現地試験
実施箇所
供試サイロ 原料草 分析点数 糖蜜混合飼料
添加量(%)
色沢及び香気 PH 酸組得(%)
総酸 乳酸 揮発酸
北見市 ビニール
トレンチ
2.5屯
赤クロバー 77%
野草    23%
1 2.75 緑黄色、甘酸、良臭 4.4 1.38
(100)
1.00
(72)
0.38
(28)
1 0 黄緑色、甘酸なるも
酸臭乏し
4.6 1.10
(100)
0.60
(55)
0.50
(45)
足寄町 ビニール
トレンチ
2.5屯
ラデノクロバー 65%
チモシー 35%
1 3.6 淡褐黄緑色、甘酸少
多汁
3.6 1.28
(100)
1.28
(82)
0.23
(18)
門別町 ビニール
トレンチ
2.5屯
赤クロバー 65%
チモシー 40%
青刈ライ 10%
3 3.0 淡緑黄褐色、
甘酸なる芳香有
4.4 1.05
(100)
0.83
(82)
0.22
(18)
豊浦町 ビニール
トレンチ
2.5屯
牧草 30%、野草 30%
クズ 30%、ラデノ10%
3 3.0 緑黄色、甘酸なるも
酸臭乏し
4.2 0.67
(100)
0.45
(67)
0.2
(33)
豊富村 ビニール
トレンチ
3.0屯
ラデノクロバー 50%
オーチャード 50%
4 2.0 淡黄緑色、甘酸 4.7 0.87
(100)
0.61
(70)
0.26
(30)
道立
種羊場
ビニール
トレンチ
1.0屯
2nd cut赤クロバー
100%(養鶏用)
1 糖蜜総合飼料10%
麩6%、米糠5%
緑黄色、甘酸良臭 3.8 2.42
(100)
2.11
(87)
0.31
(13)
現地試験
実施箇所
嗜好性
(1日1頭kg)
一般組成(原物中%) DCP(%) TDN(%) DTP(%) SV(%) FE(kg) IFE中
DTP(g)
水分 粗蛋白質 粗脂肪 NFE 粗繊維 粗灰分
北見市 ++++ 7.44 4.9 2.0 12.5 4.1 2.1 2.9 16.3 1.7 9.8 7.1 121
++++ 77.3 4.2 1.7 10.6 4.2 2.0 2.5 14.7 1.4 10.2 6.9 97
足寄町 24.0
++++
80.2 3.4 0.8 9.0 5.1 1.5 2.0 11.8 1.2 7.1 9.9 119
門別町 25.0
++++
63.7 5.8 1.8 17.0 8.9 2.8 3.5 21.9 2.0 13.6 47 94
豊浦町   80.3 3.3 0.9 8.7 5.4 1.4 2.0 12.1 1.0 8.2 8.5 85
豊富村   73.9 4.8 2.2 11.5 5.5 2.1 2.9 16.6 1.7 10.8 6.5 111
道立
種羊場
++++  79.2 4.6 1.4 7.9 4.4 2.5 2.8 13.0 1.7 8.3 8.4 143

 摘要
 (1) 北見市の場合は、添加物2.75%の糖蜜混合飼料によって、無添加のものより、明らかに酸組成や栄養成分が優れていることが示され、現地における添加物として有効であることが
   認められた。
 (2) 門別町の場合は、3%の添加によって、極めて良品質のサイレージが得られ、現在使用している他の添加物の種類(麩、米糠、ビートパルプ)などより、好結果であったと報告された。
 (3) 足寄町の場合は、3.6%の添加により、PH3.6乳酸含量82%の良品質のサイレージが作られた。
 (4) 豊浦、豊富両町における場合も中等品質のサイレージが作られた。
 (5) 道立種羊場における養鶏用草サイレージ調製にあって、糖蜜混合飼料、麩、米糠、計21%を添加したものは優良なサイレージが作られた。

Ⅳ 指導要綱
 草サイレージ添加物としての糖蜜混合飼料の適否について試験調査を畜産部並びに道内数箇所の現地において、実施したが、その結果添加物として使用する場合には、次の諸事項の考慮が望まれる。
 (1) サイレージ添加物として、糖蜜45、サツフラワー粕15、パーム粕20、ビートパルプ10、麩10の糖蜜混合飼料は、麩添加と各々同程度の効果が認められた。
   ただし尿素、魚粕など高蛋白質飼料は良好な酸醗酵をさまたげるのでなるべく多量に含まない配合割合であることが望ましい。
 (2) 糖蜜混合飼料は麩などの添加と同じ埋草要領で差し支えない。
 (3) 糖蜜混合飼料利用による草サイレージの調製にあたっても、①原料の適期の刈取、②水分調節、③細切、④加圧の埋草要領を確実に行う考慮が必要である。
 (4) トレンチサイロ利用にあたっても、ビニール利用によって、効果的にサイレージの調製がなされ得る。
 (5) 糖蜜混合飼料のサイレージ添加量は、前年度成績に示した一般添加物の規準量と同時の添加が適当と考えられる。