【普及奨励事項】
ビニール被覆育について

北海道農業試験場蚕業試験室

  

Ⅰ. 目的
 防乾効果の高いビニールの被覆育を行い、桑の萎凋を防いで飼育労力および給桑量の節減を計り、従来のパラフィン防乾紙育との優劣を明らかにしようとして本試験を施行した。

Ⅱ. 供試品種
 日115号×支108号  日122号×支122号

Ⅲ. 試験区(飼育法概要)
 対照区、稚蚕期を1日3回給桑の防乾紙育とし、壮蚕期を全芽平飼の1日4回給桑とした。ビニール区、割竹(根曲竹を割る)を用いて粗い枠を作り、これを普通の蚕箔にビニールを敷いた上に載せ、さらにその上からビニールで包む。このビニール箱の中で稚蚕期を1日2回給桑で飼育し、壮蚕期は対照区と同等に取り扱った。各給桑前30分間ビニールの被覆を除去して空気の入換を行った。 経過日数は対照区となんら変化がなかった。
 ビニール区の温湿度は、それを収容した室内のものを観測したが、ビニール内、防乾紙内、蚕室との日中の比較は23.7℃90.4%、22℃88.0%、22.6℃78.4%となりビニール区が温湿度保持に最も優っている。ただし夜間は温湿度ともに低下し、翌朝は三者同等に近い数字になるが、ビニール区が最も緩慢な変化をする。

 減蚕歩合調査
試験区 掃立
蟻量
(g)
掃立
蚕数
(頭)
4齢
起蚕数
(頭)
結繭
蚕数
(頭)
稚蚕期 壮蚕期 全齢
減蚕数
(頭)
減蚕
歩合(%)
減蚕数
(頭)
減蚕
歩合(%)
減蚕数
(頭)
減蚕
歩合(%)
日115×支108 対照区 0.7 1581 1449 1393 132 8.3 56 3.5 188 11.9
ビニール区 0.7 1581 1501 1433 80 5.1 68 4.3 148 9.4
日122×支122 対照区 0.7 1649 1545 1461 104 6.3 84 5.1 188 11.4
ビニール区 0.7 1649 1565 1511 84 5.1 54 3.3 138 8.4

 上表の如く稚蚕期の減蚕が壮蚕期より多いのは死ぬもの以外に遺失するものが多いためと考えられる。従ってビニール区が対照区より少ないので蚕児がよく上まで這いだしてくるためとその環境(温湿度)が生理的に適しているものと考えられる。
 結局全体として対照区より相当減蚕が少ない。

 収繭歩合
試験区 上繭歩合 同功繭歩合 屑繭歩合
顆数
(%)
重量
(%)
顆数
(%)
重量
(%)
顆数
(%)
重量
(%)
日115×支108 対照区 92.7 88.5 5.3 9.9 2.0 1.6
ビニール区 94.2 90.4 4.7 8.8 1.1 0.8
日122×支122 対照区 96.0 94.1 2.2 4.2 1.8 1.7
ビニール区 96.2 93.8 3.0 5.5 0.8 0.7

概評
 1. 経過日数
  稚蚕期においてもビニール区、対照区と大差なくほとんど同等の日数であった。
 2. 労力および用桑量
  全齢の経過が同等であるので1日の給桑回数の多少により差が生じる訳である。このことは以前の実験により明らかになっているので類推すると3回と2回とでは飼育に要する時間(給
 桑時間、防沙分箔および摘桑時間の稚蚕期の合計)では約9%用桑量で約10%の節減になる。 

 3. 減蚕歩合
  稚蚕期において両品種ともビニール区が少ない。壮蚕期においては品種間の差が生じて共通の傾向を認め難いが、これは品種による適温の差にもよると考えられる。
  全齢を通じるといづれもビニール区が少ない。
 4. 収繭量
  顆数、重量ともにビニール区が多く、屑繭の歩合が少ないので換金し得る上繭および同功繭の収繭歩合も多い。
 5. 繭質
  両品種ともに最も重視せられる繭屑歩合についても大差ない。表に現れた数字の差は検定供用繭の抽出による誤差の配置内と考えられる。


  以上の成績を通覧するにビニール区は対照区に比較して繭質は同等であるが、収繭数が多く、加えて換金繭が多いので実収益が多いと認められる。また減蚕歩合が少ないこのこと
 より蚕体生理上も好結果をきたすと考えられる。
  給桑回数は1日2回であるので(AM8およびPM6)従来飼育労務の繁雑を難点とされていた養蚕飼育を極めて簡便に行い得る利点があるものと認める。