【普及奨励すべき事項】

薄荷の3要素用量並びに施肥時間について

北海道立農業試験場北見支場

 

A. 3要素用量試験

 Ⅰ. 試験目的
   新品種の「万葉」および「涼風」は従来品種に比較して生育が極めて旺盛で収量は、はるかに高いから、従来品種と同様の施肥量で栽培すると品種の特性を十分発揮できないのみ
  ではなく、地力の逓減も推察されるのでNPK三要素の適用量を推定しようとした。

 Ⅱ. 試験方法
  1. 試験年次  昭和31年~33年
  2. 耕種梗概
植付 栽植密度
(畦巾×株間)
薬剤撒布
5月10日
芽苗植付
50×10cm (7月22日)(8月11日) ダイセーン
(8月20日)(9月1日) 水和剤散布

  3. 1区面積       3×5=15㎡
  4. 試験区の配置   乱塊法  3反復
  5. 供試面積      270㎡
  6. 供試品種      万葉
  7. 試験区別
No. 10a当
供試要素
施用量(kg)
略称
N用量試験 P用量試験 K用量試験
1 0 N0 P0 K0
2 3750 N1 P1 K1
3 7750 N2 P2 K2
4 11250 N3 P3 K3
5 15000 N4 P4 K4
 共通施肥量  供試要素以外の2要素につき10a当各9.375kg

 Ⅲ. 試験成績
   窒素加里の用量試験は各植付5月11日刈取9月5日で3ヵ年の3区平均成績、加里用量試験は32年度は銹病の発生が激甚で考察が困難なので31年度1ヵ年の3区平均成績。
  1. 窒素用量試験成績
試験区別 刈取期調査 10a当収量(kg) 収量割合(%) 収油率
(%)
採脳率
(%)
草丈
(cm)
枝亜数
(本)
葉数
(枚)
生草重 乾草重 油重 生草 油重
N0 84 34 184 1438 386 2.820 100 100 0.20 62
N1 89 34 243 1825 518 3.814 127 135 0.21 60
N2 90 34 230 1968 535 3.856 137 137 0.20 61
N3 88 34 237 1946 528 3.604 135 128 0.19 61
N4 80 34 251 1976 518 3.604 137 128 0.18 61

  2. 燐酸用量試験成績
試験区別 刈取期調査 10a当収量(kg) 収量割合(%) 収油率
(%)
採脳率
(%)
草丈
(cm)
枝亜数
(本)
葉数
(枚)
生草重 乾草重 油重 生草 油重
P0 86 34 246 1641 454 3310 100 100 0.20 63
P1 86 34 254 1832 517 3725 112 113 0.20 63
P2 86 36 246 1852 516 3740 113 113 0.20 61
P3 86 34 233 1904 534 3566 116 108 0.19 63
P4 88 35 246 2059 576 3835 125 116 0.19 61

  3. 加里用量試験成績
試験区別 活着
良否
刈取期調査 10a当収量(kg) 収量割合(%) 収油率
(%)
採脳率
(%)
草丈
(cm)
枝亜数
(本)
葉数
(枚)
生草重 乾草重 油重 生草 油重
K0 109 38 269 2203 624 3583 100 100 0.16 67
K1 111 38 316 2663 658 3900 121 109 0.15 67
K2 110 35 285 2763 664 3867 125 108 0.14 65
K3 109 35 281 2603 620 3880 118 108 0.15 66
K4 110 34 257 2757 639 3317 125 93 0.12 68
  ◎備考  9月19日収穫

 Ⅳ. 考察並びに普及上の注意
  1. 窒素
   窒素は3要素中もっとも肥効が高く、その容量は年次により、かなりの変異が認められ、高温年に10a当3.75kg、低温年には11.25kg以上で最高収量に達したが、窒素の欠乏は銹病の
   誘因となるので、10a当7.5kg程度が適量と考えられる。但し3要素中Nはもっとも萌芽に対する危険性が高いのでなるべく分施することが望ましい。
  2. 燐酸
   肥効については窒素程顕著ではないが、3ヵ年間の用量試験の結果から10a当施用量は窒素と同量の3.75kg~7.5kgが適当と考えられる。
  3. 加里
   3要素中で加里の肥効はもっとも僅少であるが、10a当3.75kgの施用で十分と考えられる。

 

 

B. 施肥時期に関する試験

 Ⅰ. 目的
   薄荷の新品種に対する化学肥料の施肥方法並びにその時期について調査検討し栽培上の参考にしようとする。

 Ⅱ. 試験方法
  1. 試験年次  昭和32年~33年
  2. 耕種梗概
植付方法 畦巾 10a当
植付量
管理
秋期
種根植付
50cm 150kg 中耕除草  4回
銹病防除  3回

  3. 1区面積   3×5=15㎡  2区制
  4. 供試面積  昭和32年度 462㎡    昭和33年度 858㎡
  5. 供試品種  万葉
  6. 供試肥料  N硫安、P過石、K硫加
  7. 試験区別
   (1) 昭和32年度
   施用区別(%) 10a当施用要素量(kg)
秋期 春期 秋期施用量 春期施用量 施用量合計
N P K N P K N P K
(イ)窒素に
  関する試験
0 100 0 0 0 7.50 7.50 7.50 7.50 7.50 7.50
100 0 7.50 0 0 0 7.50 7.50 7.50 7.50 7.50
70 30 5.25 0 0 2.25 7.50 7.50 7.50 7.50 7.50
30 70 2.25 0 0 5.25 7.50 7.50 7.50 7.50 7.50
0 0 0 0 0 0 7.50 7.50 0 7.50 7.50
3要素全量秋期 7.50 7.50 7.50 0 0 0 7.50 7.50 7.50
(ロ)燐酸に
  関する試験
0 100 0 0 0 7.50 7.50 7.50 7.50 7.50 7.50
100 0 0 7.50 0 7.50 0 7.50 7.50 7.50 7.50
70 30 0 5.25 0 7.50 2.25 7.50 7.50 7.50 7.50
30 70 0 2.25 0 7.50 5.25 7.50 7.50 7.50 7.50
0 0 0 0 0 7.50 0 7.50 7.50 0 7.50
3要素全量秋期 7.50 7.50 7.50 0 0 0 7.50 7.50 7.50

   (2) 昭和33年度
施用区別 10a当施用要素量(kg)
植付期に基肥として施用 萌芽期に分施 7月上旬
施用
N P K     N     P     K N
P.K全量を
  萌芽期に散布
 1 7.50 7.50 5.62
 2 7.50 7.50 5.62
 3 5.25 2.25 7.50 5.62
 4 3.75 3.75 7.50 5.62
 5 2.25 5.25 7.50 5.62
 6 2.25 2.25 7.50 5.62 3.00
P.K半量を
  両期に分施
 1 7.50 3.75 2.81 3.75 2.81
 2 3.75 2.81 7.50 3.75 2.81
 3 5.25 3.75 2.81 2.25 3.75 2.81
 4 3.75 3.75 2.81 3.75 3.75 2.81
 5 2.25 3.75 2.81 5.25 3.75 2.81
 6 2.25 3.75 2.81 2.25 3.75 2.81 3.00
P.K全量を
  植付期に散布
 1 7.50 7.50 5.62
 2 7.50 5.62 7.50
 3 5.25 7.50 5.62 2.25
 4 3.75 7.50 5.62 3.75
 5 2.25 7.50 5.62 5.25
 6 2.25 7.50 5.62 2.25 3.00

 Ⅲ.試験成績
  1. 昭和32年度 2区平均
   (1) 窒素に関する試験
施用区別(%) 刈取期調査 10a当収量(kg) 油重
割合(%)
収油率
(%)
春期 秋期 草丈
(cm)
枝亜数
(本)
葉数
(枚)
生草重 乾草重 油重
0 100 96 34 155 1725 428 2.880 100 0.17
100 0 86 32 101 1215 299 1.790 62 0.15
70 30 95 32 137 1615 385 2.650 92 0.16
30 70 92 34 149 1795 428 2.930 102 0.16
0 0 83 31 95 935 269 1.480 51 0.16
3要素全量秋期 88 34 116 1545 411 2.350 82 0.15

   (2) 燐酸に関する試験
施用区別(%) 刈取期調査 10a当収量(kg) 油重
割合(%)
収油率
(%)
春期 秋期 草丈
(cm)
枝亜数
(本)
葉数
(枚)
生草重 乾草重 油重
0 100 91 34 148 1715 419 2.650 100 0.15
100 0 88 31 130 1870 453 2.800 106 0.15
70 30 93 34 135 1950 474 2.900 109 0.15
30 70 94 32 139 1780 432 2.650 100 0.15
0 0 91 28 142 1815 443 2.700 102 0.15
3要素全量秋期 93 33 117 1640 402 2.300 87 0.14

  2. 昭和33年度 2区平均
試験区別 萌芽率
(%)
刈取期調査 10a当収量(kg) 収量割合(%) 収油率
(%)
草丈
(cm)
枝亜数
(本)
葉数
(枚)
生草重 乾草重 油重 生草 油重
P.K全量を
  萌芽期に散布
 1 35 71 33 218 919 222 2.648 100 100 0.29
 2 60 82 45 366 1269 313 3.816 138 144 0.30
 3 37 71 35 287 966 239 2.928 105 111 0.30
 4 44 78 38 310 1153 304 3.473 125 131 0.30
 5 58 75 39 317 1347 336 3.707 147 140 0.28
 6 56 80 42 366 1106 267 3.006 120 114 0.27
P.K半量を
  両期に分施
 1 37 74 37 315 1046 273 2.959 114 112 0.28
 2 63 82 37 350 1449 394 4.361 158 165 0.30
 3 44 78 37 337 1098 315 2.928 119 111 0.27
 4 49 75 37 325 1184 314 3.863 129 146 0.33
 5 72 89 37 357 1589 435 4.673 173 176 0.29
 6 63 84 42 491 1410 381 4.206 153 159 0.30
P.K全量を
  植付期に散布
 1 37 75 38 302 1246 315 3.863 136 146 0.31
 2 72 88 44 409 1589 424 4.673 173 176 0.29
 3 49 86 40 410 1674 418 4.782 182 181 0.29
 4 56 81 40 341 1503 381 4.299 164 162 0.29
 5 60 85 37 390 1643 426 4.907 179 185 0.30
 6 63 89 37 450 1706 441 5.104 186 194 0.30

 Ⅳ. 考察並びに普及上の注意

   従来薄荷に対する化学肥料の施用方法は栽植様式が散薄荷であったため一般に基肥を全く施用せず、春期の萌芽期に施用していたが、この方法では不十分の点が多かった。
 「万葉」の出現によって栽植様式が散薄荷から条薄荷の体形に変わりつつあるので、畦巾の施肥も可能となってきた。したがって2ヵ年間行った試験の結果と化学肥料三要素の性質を
 考え合わせて一応次のような施肥法が適当と考えられる。

  1. 窒素
    窒素は概して、流亡損失が多いばかりでなく一度に多量を施用すると萌芽を害する危険もあるので、分施することが望ましい。また薄荷は初期の生育が極めて緩慢なので基肥に若
   干量の窒素を施用することによりかなり初期成育が好転することから基肥に施用量の30%程度を施用し萌芽期に30%程度、夏期に残りの40%程度を施用する方法が適当と考えられる
   が、労力の配分その他で、この3期分施の方法が不可能の場合は秋期基肥に30%程度施用し春期の萌芽期に残りの70%を施用することも一方法と考えられる。
  2. 燐酸および加里
    試験の結果から全量を基肥として施用した場合の減収はなく、燐酸はその性質から考えて、土壌中における移動および流亡が比較的少ないばかりでなく萌芽に対する害も少ない
   ので、従来の土壌表面施肥より、基肥として全量施用することが適当と考えられる。