【普及奨励すべき事項】

稲紋枯病防除について

北海道立農業試験場病虫部
北海道立農業試験場空知支場

 

Ⅰ. 目的
 近年紋枯病が漸増の傾向にあって、本病による稲の減収がはげしいので、これが防除法を検知する。

 

Ⅱ. 試験方法
 1. 試験年次     昭和31年~33年
 2. 試験場所     樺戸郡新十津川町  1区3部落  杉岡儀男方圃場
              雨竜郡妹背牛町    牛田一男方圃場
 3. 試験方法
  (1) 耕種の概要
   新十津川試験地
年次 供試品種 冷床播種
(月日)
本田移植
(月日)
栽植密度
(cm)
植付
本数(本)
本田施肥量(10a当) 土質 収穫期
(月日)
備考
堆肥(kg) 硫安(kg) 塩化(kg) 過石(kg)
昭和31年 豊光 4.29 5.30 36×13.6 3 1500 26 11 15 埴壌土 10.16 冷害年
32年 4.28 5.30 36×15 3 375 26 11 19 10.12 前年の圃場の一部を継続使用
33年 上育214号 4.23 5.21 36×15 3 1500 30 11 15 9.29 前年の圃場使用

   妹背牛試験土地
年次 供試品種 栽植密度
(cm)
植付
本数(本)
本田施肥量(kg)
堆肥 尿素 熔燐 硫安 過石 硫加 魚粕
昭和32年 早生錦
栄光
雪糯
35×16 2 9375 5625 11.250 (7.5)
5.625
(18.75) (5.625)
32年  
雪糯
  
36×15 2 1125 5625 15.000 塩加
(5.625)
7.5
15.0
  註  本田施肥量中(  )内の数字は表層施肥量、他は全層施肥量である。

  (2) 供試薬剤
   イ 新十津川町試験地
    (昭和31年)
     有機水銀剤
        セレサン石灰 (Hg 0.25%)
        PS粉剤 (Hg 0.25%)
        紋枯粉剤 (Hg 0.25%)
        新ルベロン乳剤 (Hg 0.25%)
     銅剤
        散粉ボルドー (Cu 6.0%)
    (昭和32年及び33年)
     有機水銀剤
        セレサン石灰 (Hg 0.25%)
        フミロン錠 (Hg 0.25%)
     銅水銀剤
        散粉水銀ボルドー
     Tu-zet剤(モンゼツト粉剤及び水和剤)
        Tetramethyl thiuram di-sulfide    40%
        Zinc dimethyl dithiocarbamate     20%
        Methylarsine bis-dimethyl dithiocarbamate    20%

   ロ 妹背牛町試験地
     有機水銀剤
        モレガレン  (Hg 0.25%)
        ルベロン石灰 (Hg 0.25%)
        セレサン石灰 (33年度のみ Hg 0.25%)
     銅剤
        散粉ボルドー (Cu 6.0%)
     銅水銀剤
        散粉水銀ボルドー
     Tu-zet剤 (モンゼフト粉剤及び水和剤)

 

Ⅲ. 試験結果の概要
 1. 昭和31年度における結果
  病虫部のみの試験結果であるが、銅剤及び有機水銀剤を用いて試験を実施したところ、銅剤が最も有効であって水銀剤が劣っている。一方いもち病に対してはこれと逆の結果を示し
  ていることは従来の試験成績と同様である。 
 2. 昭和32年度における結果
  前年度の試験結果にかんがみて、更に Tu-zet剤を加えて病虫部、空知支場共に同一試験設計のもとに試験を実施したところ、稲紋枯病に対してはTu-zet剤は銅剤よりも遙かに勝
  ることが認められた。一方いもち病に対してはその発生量が少なく、成績顕著でないが、Tu-zet単剤では劣るが、これに水銀剤を添加することによって紋枯病及びいもち病の両者
  に防除効果を示している。

 第1表 昭和31年度発病状況調査成績(新十津川町試験地) 
試験区別 散布月日 紋枯病発病率(%) いもち病発病率(%) 収量調査
15/Ⅶ 26/Ⅶ 9/Ⅷ 23/Ⅷ 病茎率 病株率 被害度 葉いもち 節・頸いもち 玄米量
(5㎡)(kg)
籾摺
歩合(%)
8月9日 8月23日 10月10日 病葉率 1葉当
病斑数(コ)
節いもち 頸いもち
1 無防除 3.25 2.86 18.93 82.22 8.50 11.69 0.271 6.53 30.38 0.804 79.3
2 セレサン石灰 1.21 7.84 * 11.15 66.67 4.28 9.21 0.164 ** 0.69 ** 10.79 0.897 80.6
3   〃 0.90 9.38 12.56 75.55 5.80 * 6.46 * 0.125 ** 1.46 ** 10.18 1.213 81.1
4   〃 5.47 12.72 22.58 80.00 9.78 ** 4.04 ** 0.051 ** 0.37 ** 5.00 1.383 81.6
5 PS粉剤 4.41 5.28 * 9.38 66.67 * 4.12 * 5.44 ** 0.078 ** 0.52 ** 4.28 1.139 * 82.3
6 紋枯粉剤 0.70 1.71 ** 5.50 64.44 2.24 6.88 * 0.107 ** 0.80 ** 8.60 1.034 81.1
7 新ルベロン乳剤 0.38 7.45 12.56 86.67 5.70 7.02 * 0.113 ** 0.77 ** 10.92 1.136 * 82.2
8 散粉ボルドー 1.22 0.23 ** 3.68 ** 44.44 ** 1.52 6.60 * 0.121 ** 0.77 ** 11.75 0.985 * 81.9
9   〃 2.29 4.45 11.81 71.11 5.06 * 4.93 ** 0.087 ** 0.85 ** 8.41 1.201 * 82.9
10   〃 0.91 0.12 ** 2.85 ** 33.33 ** 1.00 ** 2.55 ** 0.031 ** 0.73 ** 9.22 1.133 81.6
  註 1) 1区面積17㎡ 3反覆
     2) 粉剤は第2回まではa当0.3kg、以後は4kg散布、第3回まではミゼットダスター、第4回は動力散粉機を使用、液剤は1500倍液a当10.8L、小型噴霧器を使用。
     3) 1区5株3ヵ所任意抽出調査、病株率、被害度(吉村氏法)は10月10日の調査による。

 第2表 昭和32年度発病状況調査成績(新十津川町試験地)
試験区別 紋枯病発病率(%) いもち病発病率(%) 収量調査
病茎率 病株率 被害度 葉いもち 節・頸いもち 精籾重
(5㎡)(kg)
1L
籾重(g)
8月7日 8月21日 9月30日 病葉率 1葉当
病斑数(コ)
節いもち 頸いもち
1 無防除 1.94 7.53 12.1 77.8 4.85 0.63 0.007 0.2 6.2 2.67 522
2 セレサン石灰 0.59 18.71 287 77.8 15.33 0.03 0.003 0.3 3.2 2.83 524
3 モンゼツト水和剤 0.55 0.93 ** 1.1 ** 20.0 ** 0.38 0.53 0.005 0.4 3.4 2.61 524
4 モンゼツト水和剤+フミロン錠 0.19 0.28 ** 1.1 ** 20.0 ** 0.44 0.00 0.000 0.2 1.3 2.73 518
5 モンゼツト粉剤 0.08 2.01 ** 1.7 ** 26.7 * 0.56 0.17 0.002 0.0 2.5 2.65 524
6 モンゼツト水銀(Hg 0.25%) 0.17 0.14 ** 0.8 ** 16.2 ** 0.25 0.07 0.001 0.1 1.7 2.74 518
7    〃     (Hg 0.17%) 0.40 0.25 ** 1.0 ** 21.3 ** 0.36 0.23 0.002 0.0 2.9 2.77 530
8 銅水銀粉剤 0.45 2.09 8.4 70.5 3.54 0.00 0.000 0.2 3.0 2.71 518
9 散粉ボルドー 0.35 0.68 * 3.5 * 45.2 1.23 0.00 0.000 0.0 2.7 2.81 522
  註 1) 1区面積17㎡ 反覆。
     2) 粉剤は第1回のみa当0.2kg、以後0.3kg、動力散粉機使用、液剤は1500倍液とし、フミロン錠は薬液18L当4錠加用、a当10.8L、肩掛け式噴霧器使用。
     3) 防除期日 第1回7月13日、第2回7月25日、第3回8月7日、第4回8月21日
     4) 1区5株3ヵ所任意抽出調査、病株率、被害度(吉村氏法)は9月30日の調査による。
     5) モンゼツト粉剤に加えた水銀はセレサン石灰と同一基材の醋酸フェニール水銀。

 第3表 (妹背牛町試験地)
試験区別 8月21日病茎率(%) 9月13日病茎率(%) 8月21日被害度(%)
早生錦 栄光 雪糯 早生錦 栄光 雪糯 早生錦 栄光 雪糯
1 標準無処理 2.0 3.8 14.4 43.2 4.8 31.8 26.4 2.0 13.8
2 散粉ボルドー 0.4 0 2.2 11.3 7.7 20.2 6.5 3.1 8.8
3 モンガレン 0.7 2.7 0.3 6.0 1.5 17.7 3.6 0.6 8.1
4 ルベロ石灰 12.7 0.9 4.0 14.7 4.6 20.8 8.9 1.5 10.1
5 モンゼツト+セレサン 2.9 0 0.3 4.2 0.8 1.8 2.3 0.4 0.6
  備考  8月22日任意5株3ヵ所計15株につき  病茎率(病茎数/総基数×100)を調査した。
       9月13日任意5株4ヵ所計20株につき 病茎率(前回同様)と吉村氏の基準による被害度を調査した。

 第4表 昭和33年度発病状況調査成績(新十津川町)
試験区別 紋枯病発病率(%) いもち病発病率(%) 成熟期の
稲の色
病茎率 病株率 被害度 葉いもち 節・頸いもち
8月10日 8月22日 9月16日 病葉率 1葉当
病斑数(コ)
節いもち 頸いもち
1 無防除 4.64 7.56 15.85 50.0 9.30 0.33 0.003 1.64 4.03 黄褐色
2 セレサン石灰 2.04 6.41 19.54 60.0 11.42 0.21 0.002 0.15 ** 1.16 黄色なるも下部葉鞘及び
葉身はやや灰色を呈す
3 モンゼツト水剤 0.78 ** 0.64 ** 0.50 ** 8.3 **0.17 0.18 0.002 0.07 * 2.07
4 モンゼツト+水銀(Hg 0.25%) 0.37 ** 0.22 ** 0.98 ** 11.7 **0.35 0.03 0.000 0.14 ** 0.72 黄緑色
5 散粉水銀ボルドー 0.52 ** 0.49 * 5.75 41.7 **2.66 0.16 0.002 0.00 * 2.68 全般に汚黄褐色殊に下部
葉鞘及び葉身は汚褐色
6 散粉ボルドー 0.80 ** 1.85 * 6.05 43.3 *3.17 0.03 0.000 0.13 ** 1.97
7 モンゼツト水和剤 0.78 ** 0.78 ** 1.56 * 21.7 **0.69 0.24 0.002 0.07 ** 0.68 鮮黄緑色
8 モンゼツト水和剤+フミロン錠 0.37 ** 0.16 ** 1.42 * 20.0 **0.78 0.23 0.003 0.00 ** 1.21
  註 1) 1区面積26㎡ 3反覆。
     2) 粉剤はa当0.3kg、動力散粉機使用、液剤は750倍液でフミロン錠は薬液18L当8錠加用、a当5.4Lミスト機使用。
     3) 防除期日 第1回7月21日、第2回8月1日、第3回8月10日
     4) 1区5株4ヵ所任意抽出調査、病株率、被害度(吉村氏法)は9月16日の調査による。
     5) モンゼツト粉剤に加えた水銀は前年度と同様。

 第5表 (妹背牛町試験地)
試験区別 調査
総茎数(本)
発病
茎数(本)
罹病程度別茎数(本) 発病
茎率(%)
被害度
A B C D
1 標準無処理 522.0 223.3   2.7  163.0  56.0  298.7  522.0 43.6 24.5
2 モンゼツト粉剤 514.7 79.7 4.7 48.7 26.3 435.0 514.7 15.4 8.9
3 セレサン石灰 525.7 208.7 8.0 146.3 53.7 317.7 525.7 39.4 21.4
4 モンゼツト+セレサン 522.3 33.3 0.3 16.7 16.3 489.0 522.3 6.5 3.3
5 銅水銀粉剤 524.3 172.7 0.3 112.3 60.0 351.7 524.3 33.0 18.2
6 散粉ボルドー 540.0 209.3 4.0 128.3 77.0 330.7 540.0 36.8 20.3
7 モンゼツト水和剤 522.7 48.0 1.3 25.3 20.7 473.7 522.7 9.0 4.7
8 モンゼツト水和剤+フミロン錠 545.7 80.3 0.3 53.3 26.7 465.3 545.7 14.5 8.1
9 モンガレン+セレサン 547.7 215.0 4.0 149.2 61.0 333.3 547.7 38.7 22.3
F検知   ** ××
LSD 1%   14.0 7.4
LSD 5%   10.2 5.4
  備考 1) 調査月日  9月25日~30日
         調査方法  1区5株4ヵ所計20株につき吉村氏の基準で調査した。

 

Ⅳ. 考察
 以上3ヵ年の成績を総括してみると次の点がうかがわれる。

 1. 防除効果
  Tu-zet(モンゼツト)は粉剤、水和剤のいずれも紋枯病に対して防除効果が顕著であって本病防除剤として有効なものと認められ、紋枯病の多発生地域では発病初期から2回位の散布
 で効果的な防除が可能である。
  一方いもち病に対してはTu-zet剤の効果は認められないが、これに水銀剤を添加することによって両者併せ防除することが可能のように考えられるが、この点更に検討の要がある。
 2. 薬害
  使用した濃度では薬害は認められない。

 

Ⅴ. 普及上の注意
 北海道に発生する水稲の菌核病類には紋枯病の外小粒菌核病、褐色菌核病等あるが、これらの内紋枯病と褐色菌核病と病斑の似ている場合が多いので診断上注意を要する。
 (褐色菌核病に対する防除剤は未だ判然としない。)