【普及奨励すべき事項】

焦性亜硫酸曹達添加サイレージの調製について
 指導上の注意

北海道農業試験場畜産部牧野研究室

 

 以上の試験及び調査成績に基づき、SMSによるサイレージ調整法について、指導上の注意を示すと次のとおりである。

 

1. 草サイレージの調製
 (1) 原料草
   SMSサイレージの原料草としては荳科草(赤クロバー、白クロバー、ラデノクロバー、アルサイククロバーなど)、禾本科草(オーチャードグラス、チモシー、ブロームグラス、ライグラス
   など)及びこれに若干の野草類(イタドリ、フキ、ヨモギなど)の混入利用も可能である。ただしSMSの十分な効果を期待するためには次の事項についての考慮が必要である。
  イ 牧草の品質
   使用原料草は肥培管理され、良好に生育した牧草であることが必要で、少なくも生草で10a当1.5屯(約400貫)以上の収量を有し、緑度の高い、かなりの荳科草を含む良質牧草である
   ことが望ましい。
  ロ 刈取り時期
   原料草の刈取り時期は原料水分、草地の生産量および栄養価との関係が深く、できあがりサイレージの品質にも重要な影響を有する物である。
   刈取り時期としては、荳科草では開花1/3~開花盛期、禾本科草では出穂中のもので開花前記を選ぶ。

 (2) 原料草の水分含量
   埋草飼料の水分含量は74~82%にあることが望ましく、とくに良質サイレージは76~80%のものから得られている。
   これらの水分含量の範囲にするためには、前日にかなり降雨のあった原料はなるべく使用しない。また埋草当日、降雨に見舞われた場合は切り込みを中止しなければならない。
   正常な天候下で適期に刈りとった原料であれば、午前中に刈取り、軽い予乾の見込まれる水分調節を考慮する必要がある。また刈遅れの原料や予乾し過ぎた水分72%以下のもの
   は、SMSの使用を避けなければならない。また原料に加水しながらSMSを添加して埋草することは絶対に行ってはいけない。

 (3) 使用サイロ
   サイロとしては塔型及びトレンチサイロが利用される。ただし、SMSの特性から必ずサイロ用ビニールを使用し、雨水地下水の侵入と土面との接触を避けなければならない。
  イ トレンチサイロ
   常法により排水の良い箇所に構築するが、原料草が比較的水分が高いので、下図のように完全袋状にせずに、サイロの側壁には広巾の原反ビニールをあて、底面にはサイロの下
   巾より狭いビニールを敷くように操作すると作業が容易であり、原料が多重な場合でも過剰水分が排出される。
   とくにSMSサイレージは1日取出量が慣行法に比較して、多くなければならないので、給与頭数に応じて間口の大きさを考慮しなければならない。
   
                      (使用ビニールトレンチサイロ) 

  ロ 塔型サイロ
   塔型サイロでは取出口、サイロ壁面、屋根など完全なものを使用することが必要である。とくに1日の取出量とサイロの直径について注意が必要である。
   またサイロの埋草収量後には常法によりサイロ用ビニールで十分被覆し、嫌気性を保つようにする。

 (4) SMSの添加量及び添加方法
   SMSは硫安に似た白色の粉末であるが、肥料、農薬、塩などと間違え易いので、取扱には注意が大切である。SMSは吸湿性であるから、保存するには乾燥した場所を選ぶことが必
   要である。また1部使用済みのSMSは必ず密封して保存しないと、吸湿してSO2ガスを発生させ、室内に刺激臭を漂わせることになるので特別な注意が要る。ときに包装のSMSの中
   に塊りのものが入っているが、これを篩に通し、塊は粉砕して、粉状として使用する。
  イ 添加量
   生草1屯に対し4~5kg使用する。4kg以下ではサイレージの品質が劣るので、埋草量に対しては適正な添加がなされるよう注意が必要である。
   埋草量の算出には前もって牧草地1㎡の草量を秤量して置き、、運搬する馬車、またはトレーラー1台に牧草地何平方米(または10aの草が何台分)の草が積載されるかを測定して置
   き、1台に対して必要な添加量のSMSを秤量し準備する。また原料が適正時期に刈りとられ、適正な水分でかつ正常に踏圧された1番刈牧草では280cm3(1立方尺)に14~18kg、平均
   16kg詰め込まれるので、サイロに一部埋草された量から計算し、確認することも必要である。また指導にあたっては馬車1台分を台秤りで小量あて秤量し、正確を期することも大切で
   ある。チモシー、オーチャードを主とする2番草では280cm3(1立方尺)当12~13kgの埋草がなされるものである。
  ロ 添加方法
   SMSの添加量は0.4~0.5%で少量であるため、均一な添加を行うためには、一定量のSMSを米糠、麦糠またはふすまなどで2~3倍量に増量の上使用するのが便利である。
   添加は下図のようにカッターの切込口より切り込みと速度に応じ、適量を手加減による調節を図りながら添加する。
      
               (カッターのブロワー口より添加する位置)

 (5) 埋草方法
   SMSは埋草にあたってSO2ガス(亜硝酸ガス)を発生するので、慣行サイレージの場合と若干異なる方法をとる。
  イ 原料の細切
   埋草原料は必ずカッターにより1.0~1.5cmに細切しなければならない。
  ロ 均し作業及び踏付
   SMSを添加しながら細切した原料のサイロへの埋草にあたっては次のように処理を行う。

    ① トレンチサイロ : トレンチサイロでは屋外であるため、SO2ガスの発生があっても大きな支障はない。しかしガスの呼吸をしないようにマスクを着用すればその刺激は一層軽
                 減される。埋草にあたっての原料の均し作業及び踏付は常法に準じて行う。
                 すなわち上巾150cmで長さ300cmの標準型サイロにおいては切込中常時3~5人が均し作業、踏付を行うが、サイロの深さ50~60cmごとに切込みを中止して
                 10分間5~10人で踏付と十分な沈圧を行いながら埋草する。
    ② 塔型サイロ : 塔型サイロではSO2ガスの発生がサイロ内に充満し、刺激が強いので、切込中にサイロ内に人は入って作業することが困難である。
                すなわち下図のように高さ3mの塔型サイロにおいては、60~75cmまでの切込は、サイロ内に作業員が入らず、1/5量になったら切込とSMSの添加を中止し、カ
                ッターを空転させて空気の換流を図り、2~5分後に直径270cm(9尺)のサイロでは5~8人が10~15分間均し作業と踏付を行う。
                この間カッターは空転して送風する。このように行えばSO2ガスの刺激から避けることができる。ただしサイロ内に入り踏付する作業員は、咽喉、鼻腔、眼などに
                障害ある人は入らないように注意する。またサイロに入る場合もマスクの着用が望ましい。
      

  ハ 加圧
   塔型、トレンチサイロとも前項ロに示したような要領で埋草を行うが、埋草終了時は仕上げ踏みとして10人程度15~20分間十分な踏付を行う。
   その後に行う仕上げ作業は次の要領による。

    ① トレンチサイロ : サイロ側面用のビニール上端のおのおの両側をビニールテープで貼り合わせ、さらに一枚の上面被覆用をカバーにし、その上に莚または叺袋をのせ、さら
                 に15~30cmの厚さに盛りあげをする。トレンチの周囲に排水溝を作り、地上水の侵入を防ぐ。
    ② 塔型サイロ : 仕上げ踏ののち、常法によりサイロ用ビニールを被覆するが、その上にムシロまたは屑草を約15cmの厚さにのせ、さらに加圧用として重石、土、ブロックなどを
                30cm2当5~9kgをのせるか、または7~10日間2人で毎朝30分間の踏付を行うことが必要である。なお1日で作業が終了しない場合、または降雨のため埋草を中
                止する場合は、とくにトレンチサイロではビニールやシートでサイロ内の水の侵入を防ぐ注意が必要である。

 (6) 埋草後の処理
   サイロに埋草が終了したならば、第1にSMSの粉末が附着したカッター、添加用バケツなどの汚染物を除去し、その後十分に水洗し乾燥させるように注意しなければいけない。
   SMSは金属を酸化(銹)させる作用が強いので、機械器具の後始末を怠ってはならない。またSMSとともに細切された原料は、サイロに埋草して、余剰があった場合といえども、すぐに
   家畜に給与することは避けなければならない。

 (7) 埋草期間
   SMSで埋草したものは、少なくも40日間以上経過させてから給与を始めなければいけない。埋草後間もない場合は、SO2が遊離の状態にあるため、サイレージもSO2の刺激臭を有
   し、嗜好も乏しく、またこれらの大量給与は乳牛にも障害をともなうことがあるので注意を要す。

 (8) 取出し給与
   SMSサイレージの取出し給与にあたっては次のような考慮が必要である。

    ① 取出し時期 : SMSサイレージは埋草後40日間経過の頃より給与を始めるのが適当であるが、慣行サイレージに比較して、夏季においては取出し中の変質が早いので、でき
                得れば埋草貯蔵期間を延長させ9月中旬以降に取出し給与することが望ましい。すなわち6月中旬に埋草したものであれば、90日間経過させた9月中旬に蓋開
                けをする。勿論7月または8月中旬の取出しも可能であるが、慣行サイレージのように変質させないで毎日給与させるためには、1日当り25~30cmの厚さ(サイロ
                の断面に対し)を取出す必要がある。
                これらの事情からSMSサイレージは青草利用期間よりもむしろ冬期間給与のサイレージとしての利用が望まれる。冬期間はトレンチサイロの上に屋根を設け、
                風雪や凍結を防ぐよう注意しなければならない。 
    ② 給与 : SMSサイレージの給与にあたっては常法に準ずる。すなわち新飼料をもちいつ場合と同様、小量より漸次嗜好、消化、健康の程度を考慮しながら、増量するようにす
            る。またとくにSMSサイレージを初めて採食する乳牛では、当初の2~3日は嗜好しないものがあるが、次第に馴れて採食するようになるので、馴らす補助手段が要る
            場合もある。また時に品質の良くないSMSサイレージでは軽いSO2臭を有し、乳牛の嗜好に適しない場合もあるが、この場合取出し後1時間程度サイレージを拡げて
            SO2ガスを発散せしめると、嗜好を改善させることが出来る。
            夏季用としてのサンマーサイレージを調製する場合は慣行法による調製によった方が安全である。
    ③ 給与量 : 乳牛に対するSMSサイレージの給与適量はサイレージ品質と嗜好程度によって決定されるべきものであるが、良質サイレージにあっては、1日1頭当20~50kg、平均
             30kg程度を乳牛の状態に応じ給与することができる。優良サイレージではPH5.0以下で、良好サイレージは5.0~5.4、また不良品質サイレージでは5.7前後を示すもの
             である。また乳牛の嗜好に適合するサイレージでは緑オリーブ色を呈し、新鮮草臭(fresh cut odor)を有するものである。品質が不良になると、これに暗緑色または褐
             色を呈し、甘酸なる fresh cut odor に軽い臭や刺激臭を混じえるようになり、多汁(水分過剰)のものか、水分不足の場合に見られるものである。

 以上の点から良質なSMSサイレージは、原料草の品質良好で、適水分76~80%、晴天もしくは曇の天候下で埋草され、十分な細切と加圧により、屯当り5kgのSMSを均等に混合し、約90日間の貯蔵により取出されている。これに対して不良なSMSサイレージは、埋草時の天候が前日降雨のあったもの、埋草日に降雨にあったものに多く、原料水分が高く、83%以上になるもの、また平均して埋草期間が60日程度で夏季高温時に取出され、暗緑色を呈し、fresh cut odor にアンモニア臭やドブ臭のともなう場合が多く、取出し中の変質も早く、またSMSの混入不均一なものに再発酵を起こすものもあり、かかるものは乳牛の嗜好性も乏しいものがあった。 

 

2. ビートトップサイレージの調製
 (1) 原料ビートトップ
   ビートトップは収穫後1~3日目ぐらいに埋草した原料のものが緑色の保持も良好である。また収穫にあたっても土砂の混入のないような注意が必要である。

 (2) 原料の水分含量
   ビートトップも埋草時は水分が高く、また圃場における予乾も収穫時は冷涼な季節のため期待しがたいものがあるが、原料水分は78~80%において良質なサイレージが得られてい
   る。 降雨にあった原料なども水分調節が必要である。また降雨中に埋草を行ってはならない。 

 (3) 水分調節
   ビートトップの水分調節にあたっては、あらかじめ青刈して乾燥したデントコーン、乾牧草、ビートパルプなどを使用すると効果がある。乾燥(青刈した)デントコーンではビートトップの所
   要原料に対し、10~20%の添加使用が適当である。 

 (4) 使用サイロ
   草サイレージの項にて述べられたと同様にビニール使用による塔型またはトレンチサイロが使用される。トレンチサイロの構築は前項と同一方法による。
   ただし最近トレンチサイロにおいて上巾と下巾を同一寸法で行う箇所があるが、サイレージの損耗が多いので、必ずサイロ壁面の法(傾斜)を作るよう注意が要る。

 (5) SMS添加量及び添加方法
   SMSの添加は前項草の場合と同様、屯当4~5kgが適量であり、方法、要領も前項に準じて行うことができる。

 (6) 埋草方法
   ビートトップにおいても原料は1.0~1.5cmに必ずカッターで細切しなければならない。とくに水分調節に乾燥青刈デントコーンまたは乾牧草を細切、添加する場合は、1.0cmに細切する
   ことが必要である。その他踏付、加圧、作業管理などは前項に準じて行う。 

 (7) 埋草後の管理、取出し及び給与
   前項に準じて行う。 

 

3. 養豚、養鶏用サイレージ調製
 乳牛用とは異なり、豚、鶏用のSMSサイレージは栄養価値の高い嗜好の良好なサイレージを調整することが大切である。

 (1) 原料草
   原料は栄養価(蛋白質、ビタミンAなど)の高いものを選定する。牧草では肥培管理をよく行ったラデノクロバー、赤クロバー、ルーサンなどの若刈牧草や、根菜茎葉(ビートトップ、ルタ
   バガなど)を使用する。

 (2) 原料水分の調整
   栄養価の高い上記原料は水分がときに90%近くも占めるので、水分調節として10~20%の米糠、ふすま、挽割麦類、ビートパルプなどを細切した原料とよく配合することが必要である。

 (3) SMSの添加
   SMSは前項と同様、生草屯当り5kgの割合で秤量し、ふすまなどを一緒に原料によく混和させ均一の配合状態にする。原料草は必ずカッターで1.0~1.5cmに細切しなければならない。

 (4) 使用サイロ
   塔型及びトレンチサイロもしくは桶サイロが使用される。ただし1日当の取出量についてサイロの大きさを考慮しなければならない。取扱は前記に準ずる。

 (5) 埋草期間
   埋草期間は秋期~冬期におよぶ場合が多いため、40日以上の経過により利用することが可能である。