【指導上の参考事項】

「なし」に対するワックス処理について

北海道農業試験場園芸作物研究室

 

Ⅰ. 目的及び方法

 果実に対するワックス処理は我が国において既に蜜柑で実用化されているがその他の果実に対してはその効果が明らかにされていないので、昭和31年より昭和33年の3ヶ年にわたりなしに対しワックス処理の効果を試験した。

 1. 供試ワックス   Rinleis Truit Wax
 2. 供試品種    身不知  長十郎
 3. 試験方法
  (1) 供試果実は同一樹より採収したものにつき処理無処理の2区を設け「身不知」3反 長十郎2反覆で実施した。
  (2) 収穫及び処理月日
品種 昭和31年 昭和32年 昭和33年
月日 収穫月日 処理月日 収穫月日 処理月日 収穫月日 処理月日
身不知 10.2 11.1 10.25 10.29 10.25.22 11.1
長十郎 - - 10.24.30 11.16 - -

  (3) 減量歩合は各区20果を供試し1果宛果重を測定し以後1ヶ月-2ヶ月毎に減量を求めた。
  (4) 果実成分としては酸度、全糖及び水分%を貯蔵期間中に化学分析によって算出した。酸度はN/10 NaOH による滴定酸度をリンゴ酸として求め全糖分はセミベルトラン法によって
    求めた。
  (5) 果実硬度及び検討計示度(Brix)は処理前貯蔵期間中及び貯蔵末期測定を行った。
  (6) 貯蔵病害及び腐敗果は減量歩合測定時と同時期に約1ヶ月-2ヶ月毎調査した。
  (7) 果実の呼吸作用の測定は通気式呼吸量測定装置によった。

 

Ⅱ. 成績
 1. 減量歩合
  A  身不知
品種 昭和31年 昭和32年 昭和33年
月日 11月1日 12月3日 2月8日 11月30日 12月11日 2月3日 11月1日 12月10日 1月12日
WAX 100.0 97.1 94.0 100.0 97.3 95.6 100.0 98.2 97.0
無処理 100.0 96.0 91.3 100.0 96.2 93.2 100.0 97.2 95.6
  B 長十郎
品種 昭和33年
月日 11月16日 12月11日 1月20日
WAX 100.0 97.3 93.8
無処理 100.0 97.6 95.8

 2. 硬度及びBrix
  身不知
   年度

項目
昭和31年 昭和32年 昭和33年
処理前
11.7
1.17 処理前
10.30
2.17 無剥皮
11.4(処理前)
剥皮 無剥皮 剥皮
硬度 WAX 8.4 5.0 8.4 6.8 8.0 4.8 6.4 3.7
無処理 5.5 4.1 5.9 3.2
検糖
計示度
WAX 10.8 11.4 11.4 10.3 11.8 11.7 11.9 11.9
無処理 11.3 10.0 11.6 11.6

 3. 果実成分(身不知)
   年度
区別
昭和31年 昭和32年
分析月日 水分(%) 全糖分*(%) 分析月日 水分(%) 全糖分(%)
WAX 1.17 87.29 7.14 2.17 87.75 7.41
無処理 87.03 7.26 84.47 7.39
 * 数字は新鮮重に対する%である。

 4. 貯蔵病害
  身不知
   年度
区別
昭和31年1月8日調査 昭和32年2月12日 昭和33年1月12日
B.E(%) 青カビ
フハイ(%)
健全(%) B.E(%) 青カビ
フハイ(%)
健全(%) B.E(%) 青カビ
フハイ(%)
健全(%)
WAX 3.7 13.0 84.4 0.0 10.0 90.6 0.0 10.5 89.5
無処理 39.1 11.0 52.5 18. 24.2 66.7 13.1 27.9 66.5

  長十郎  BE,Blackを示す
   年度
区別
昭和31年1月8日調査
B.E(%) 青カビ
フハイ(%)
健全(%)
WAX 99.0 6.2 0.0
無処理 31.0 4.5 92.4
 (果実1kg当1時間に排出する炭酸ガスの量)

 5. 呼吸作用に及ぼす影響
   年度
区別
昭和33年(cc)
WAX 1.29
無処理 1.69

 

Ⅲ. 要約

 WAX処理は品種によって効果を異にする。身不知についてはつぎのような効果がある。

 1. WAXの塗布は貯蔵中果実の減量を少なくする。
 2. 果実硬度は昭和31年を除き32、33年にも処理果は無処理に比べて硬度が高い。
 3. 果実の検糖計示度は3ヶ年とも処理果が高い。
 4. 果実糖分は両区の差が少なく年によって成績が区々であり一定の傾向が認められない。
 5. 貯蔵病害の発生は処理果において非常に少ない。青カビによる腐敗果の発生も少ない。
 6. 貯蔵末期に無処理果は地色が黄ばんで肉質も粉質化だが処理果は地色が依然として緑色をおび新鮮な感じで肉質も良く食味も良好であった。
 7. 呼吸量も処理果は無処理果に比して少ない。
 8. 長十郎に対してはWAX処理の効果は期待できない。むしろ有害である。