【指導上の参考事項】

水稲に対する尿素の施用法について(昨年度より継続)

北海道農業試験場土壌第7研究室

 

Ⅰ 目的

 尿素を基肥として施用する場合の最適施用法を知らんとする。

 

Ⅱ 試験方法
 1. 試験場所     北海道農業試験場本場
 2. 供試土壌     河成沖積、埴壌土
 3. 供試面積及び区制   1区4.96㎡ 3連制による乱塊法
 4. 供試作物     水稲(栄光)
 5. 施肥設計     6.75-4.61-3.75(kg/10a)
              堆肥は施用しなかった。尿素は粒状尿素を使用した。
 6. 試験区別
  (1) 無窒素
  (2) 灌水前尿素全層直後灌水
  (3) 灌水前尿素表層直後灌水
  (4) 灌水前尿素全層3日目灌水
  (5)   〃       5日目灌水
  (6)   〃       7日目灌水
  (7)   〃       9日目灌水
  (8) 灌水後尿素荒代施肥
  (9) 灌水後尿素植代施肥
  (10) 灌水前硫安全層5日目灌水
  (11) 灌水後硫安植代施肥
 7. 施肥方法
  灌水前全層施肥区(2.4.5.6.7.10)はそれぞれ所定の期日に施用する全肥料をその場で配合して、区内にそれを均一に施肥して、しかる後約15cmの土壌と肥料の混合を図った。
  第3区は施肥後、施用した肥料の横への移動による不均一化を防止するため徐々に灌水を行った。したがって施用上には土壌と肥料の混和は行っていない。
  第8区は灌水翌日、浅水状態のところに施用すべき肥料を施用して15cmの土壌と肥料の混合を図った。
  第9、11区は代掻した翌々日に田面水の深さを1.5cm程度に調節して施肥し、レーキを以って3cmにわたる土壌と肥料の混和を図った。
  第1区は5月30日に、灌水前全層施肥区と同様の操作をもって施肥した。

 

Ⅲ 試験成績
 1. 生育及び収量調査
  (15/Ⅶ) 成熟期 10a当収量(kg)
草丈(cm) 茎数(本) 草丈(cm) 穂長(cm) 穂数(本) 総重 藁重 精籾重 粃重 玄米重
無窒素 44.2 15.3 78.5 16.0 15.0 791.7 343.4 443.3 5.0 372.4
尿素全層、直後灌水 48.3 22.8 88.5 17.5 21.7   1058.5   495.3   544.9   18.3   453.7
尿素表層、直後灌水 47.7 22.9 87.4 17.5 20.8 1061.3 493.7 549.3 18.3 456.6
尿素全層3日目灌水 47.9 23.2 90.1 17.7 22.4 1151.5 552.0 577.6 21.9 480.6
尿素全層5日目灌水 48.1 24.0 91.2 17.7 22.8 1121.2 523.9 577.1 20.2 477.6
尿素全層7日目灌水 49.0 23.7 90.4 17.8 22.4 1147.9 542.2 582.8 22.9 487.0
尿素全層9日目灌水 48.1 23.2 89.8 17.7 21.6 1116.0 519.1 574.4 22.5 476.4
尿素荒代施肥 46.7 22.6 88.5 17.7 21.6 1088.1 510.5 560.6 16.9 467.2
尿素植代施肥 47.4 22.3 81.7 16.5 18.3 924.8 410.0 504.7 10.1 423.4
硫安全層5日目灌水 48.2 22.9 89.8 17.5 22.8 1155.7 546.6 584.0 25.1 482.9
硫安植代施肥 46.1 22.9 80.9 18.6 18.6 891.9 390.6 489.8 11.4 408.8
  比率(%) 籾摺
歩合(%)
籾/藁 昭和32年度の
収量比
玄米重 藁重
無窒素   77.1   62.8 84.0   129.1 68.6
尿素全層、直後灌水 93.4 90.6 83.3 110.0 95.1
尿素表層、直後灌水 94.0 90.3 83.1 111.3
尿素全層3日目灌水 98.8  101.0 83.2 104.6 99.5
尿素全層5日目灌水 98.2 95.8 82.8 110.2 100.9
尿素全層7日目灌水 100.0 99.2 83.6 107.5 100.1
尿素全層9日目灌水 97.9 95.0 82.9 110.7 100.7
尿素荒代施肥 96.1 93.4 83.3 109.8 94.2
尿素植代施肥 87.3 75.0 83.9 123.1 74.6
硫安全層5日目灌水 100.0 10.0 82.7 106.8 100.0
硫安植代施肥 84.4 71.5 83.5 125.4 77.4

 2. 尿素全層、9日目潅水区における土壌中のN変化(乾土100g)
   (  )は無窒素区の数値を示す。
 

 

Ⅳ 考察並びに普及上の注意

 (生育)
  硫安全層5日目灌水、尿素全層 3.5.7.9日目灌水の各区は生育の全期をつうじて草丈、茎数葉色共に差違が認められなくほとんど同等であった。
  尿素全層並びに表層直後灌水と尿素荒代施肥の3区は終始同等の生育を示して差異は乏しかった。これら3区の生育を上記灌水以前の全層施肥区に比較すると生育の初期におい
  ては差異が認められなくほぼ同等であったが、幼穂形成期頃を境として以後はやや劣り、また荒代区を除いた直後潅水区は葉色もやや淡緑色を示した。
  硫安、尿素植代区は共に同等の生育に終始し、生育の初期においては上記の各区よりやや優る生育を示したが、最高分けつ期以降においては要素不足の症状を呈してかなり劣るを
  示した。
 (収量)
  硫安全層5日目灌水、尿素全層3.5.7.9日目灌水の各区は、いずれも同等の収量を収めて差異は僅少でもっとも多収を得た。これらの区に比べ尿素荒代区はやや劣り、また尿素全
  層、表層直後灌水区は等収であったが荒代区よりやや劣り、さらに硫安、尿素植代施肥区は直後灌水区に比較して、7~10%内外劣るを示してN施用区としてはもっとも低収でいちじる
  しく肥効の劣ることが認められた。
 (土壌中における尿素の行動)
  本供試土壌においては、施用された尿素は休息にアンモニア化成をうけ、ほぼ1週間にしてほとんど全部アンモニア化成をうけるが、反面硝酸化成による損失はほとんど問題にならな
  いことが認められた。
  以上の結果並びに昨年度の成績より灌水3~9日までの間に尿素を全層施肥して使用するならば、硫安と同等の肥効を期待できるが、直後灌水、荒代、植代施肥によって使用する場
  合には流亡、脱窒現象等によって肥効の低下が認められ、特に植代施肥区においてその傾向が著しい。 
   したがって、尿素を基肥として水稲に使用する場合には、直後灌水、荒代、植代施肥による使用は避け灌水4~5日、あるいは1週間位前を目途に全層施肥法にしたがって使用する
  ことが望ましい。

 水稲作に対する尿素施用法試験収量指数一覧表
  石狩町 滝川市 中富良野村 風連町 共和村 厚真村 池田町 北見市 渡島支場 上川支場 北見支場
尿素全層6日目灌水 98.5 106 92.4 109 105.3 100.9 98.5 109.0 109 96.3 98.8
尿素荒代 96.3 102 95.7 97.8 102.4 104.3 92.2 90.7 106 97.4 96.0
尿素施肥直後    94.8    98.7 97.5    95.6    97.7    96.5    97.7 105.6 86 99.3 97.6
硫安全層直後灌水 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100
土性 S CL CL C CL CL L L L CL CL
減水深1日当(cm) 45 3.6 2 10.0 0.6 1.6 3.0 水持良 8.0 3.2 3.8
乾湿田別 乾田 乾田 乾田 乾田 乾田 乾田 乾田 乾田 乾田 乾田 乾田
移植期 30/Ⅴ 1/Ⅵ 30/Ⅴ 2/Ⅵ 6/Ⅵ 2/Ⅵ 7/Ⅵ 7/Ⅵ 23/Ⅴ 28/Ⅴ 28/Ⅴ
供試品種 照錦 永稔 栄光 福雪 新栄 新栄 北稔 農林20号 南栄 栄光 農林20号
施肥量
(kg/10a)
N 5625 3900 3200 5625 5625 630 3750 4875 5625 6000 4000
P2O5 4500 5850 6750 5625 4500 3462 5625 6300 5250 6000 6000
K2O 3750 3821 4380 5625 3750 2250 4000 3750 3750 5000 3750
堆肥
一区面積(㎡) 19.8 19.8 46.2 66 72.6 39.8 88 49.5 52.8 27 13.2

 

施肥標準設定に関する試験及び調査