【普及奨励すべき事項】

馬鈴薯「北海20号」について

北海道立農業試験場宗谷支場

 

Ⅰ 来歴

 北海20号は北海道農業試験場作物部第4研究室において昭和23年交配育成された種間雑種で昭和31年北海番号を附与されたものである。

北海番号 島系番号 系統番号 両親関係 交配年次
北海20号 島系343号 48005~57 41089×農林1号 1948年

 

Ⅱ 特性概要

 「北海20号」本品種は極晩生種に属し、熟期は「ヨウラク」に較べやや遅く(3~5日)疫病に対して抵抗性強く、高澱粉、多収性で澱粉原料用として好適するものである。

  「草状」…開張型で繁茂し草丈は「ヨウラク」に較べやや高く茎数も僅かに多い。
  「塊茎」…扁円で芽が深く表皮は白色であるが、部分的に淡紫をおび芽数は少ない方である。
  「食味」…粉質良好で晩春まで低下しない。
  「着薯」…薯着は疎ヤでやや深く地中に延びる特性を有し農林1号や紅丸に較べ掘り取りに時間を要す。
  「粒揃」…薯数は農林1号や紅丸に較べやや少ないが中、大粒種が多く殊に屑薯や腐敗薯数が極めて少なく粒揃はよい。
  「収穫」…熟期は極早生であるが秋期湿潤な気象状態でも腐敗が少なく湿害に対しては弱い方である。
  「澱粉価」…農林1号やニセコに較べ3%程度高く大体ヨウラク程度の澱粉価を有し澱粉収得量も多い。
  「疫病」…当場の4ヵ年の成績では農林1号や紅丸に較べ強くヨウラクよりもさらに強いようであり、防除回数を減じても良好の成績を納め得るように思われる。
        湿腐病、青枯病についても強い方で萎縮病については現在までの試験ではヨウラクに較べ罹病は少ない。
  「適地および気候」…比較的冷涼な気候に好適し、湿潤な気象状態でも腐敗が少ないが、排水良好なところがよい。従来までの試験では地力、中位あるいは肥沃地において増収率が
              高い傾向であるが瘠地では低い。
              本系統は多収性で吸肥力がやや強い特性を有するため、その特性を活用するには地力の増進と施肥法にも留意し、増肥の効果が多い様である。

 

Ⅲ 奨励態度

 本系統は特性より見て耐病性強く澱粉原料用、極晩生種として当地方に好適するので、宗谷地方限定品種として中晩生種の農林1号やニセコと適宜組み合わせて栽培し、極晩生種として利用する。栽培条件としては本系統は地力中位以上の、肥沃地において増収される特性があるので、栽培にあたっては地力の維持増進とともに施肥法についても注意し、特性を活用するには40~50%程度の増肥を行う事により、さらに増収が期待される。なお、収穫に労力を要する点は作付けする場合には充分考慮する必要がある。

 

Ⅳ 試験成績

 1. 耕種梗概
年度 前作物 播種期
(月日)
畦巾
(cm)
株間
(cm)
10a当施肥量(kg) 除草
中耕
培土 薬剤
散布
堆肥(kg) 硫安 過石 硫加
昭和31年 甜菜 5.4 75 30 1500 16.1 22.9 - 5 1 2
32年 豌豆 5.3 75 30 1500 16.1 22.9 - 3 1 4
33年 豌豆 5.14 75 30 1500 16.1 22.9 - 4 1 3
34年 燕麦 5.2 75 30 1500 16.1 22.9 7.5 3 1 3

 2. 特性調査
品種及び
系統名
花色 茎色 葉色 塊茎 食味 薯着 二次
生長
目の深浅 目の多少 肉色
農林1号 緑地に淡紫 扁円 黄色 上・下 ヤ密
紅丸 緑地に淡赤 ヤ濃 淡赤 中・上 ヤ密
ヨウラク 淡紫淡青 緑地に淡紫 ヤ濃 球型 淡赤 ヤ多 上・下 ヤ密
北海20号 淡緑に濃紫 ヤ濃 扁円 黄白 上・下 ヤ疎

 3. 生育調査成績 (昭和31年~昭和34年 4ヵ年)
       項目
品種及び
系統名
年次 萌芽期
(月日)
開花期
(月日)
茎葉
枯凋期
(月日)
開花終の 疫病程度
(8・下)
草丈
(cm)
茎数
農林1号 昭和31年 6.4 - 9.10   32.2 3.0 +++~++++
32年 6.7 7.22 9.16 53.4 4.0 ++++
33年 6.14 7.20 9.6 53.8 5.8 +++~++++
34年 6.7 7.20 9.17 62.5 4.7 ++++
平均 6.8 7.20 9.12 50.5 4.4 +++~++++
紅丸 昭和31年 5.31 - 9.9 39.4 3.0 ++++
32年 6.5 7.19 9.15 64.4 3.6 ++++
33年 6.10 7.21 9.4 57.5 5.4 ++++
34年 6.7 7.22 9.15 74.4 4.6 ++++
平均 6.6 7.21 9.11 58.9 4.2 ++++
ヨウラク 昭和31年 6.5 7.30 10.6 37.7 2.0 +
32年 6.11 7.18 10.14 61.3 2.3 -
33年 6.13 7.17 10.3 60.1 4.7 +~++
34年 6.7 7.18 9.28 63.9 3.8 +++
平均 6.7 7.21 10.7 55.8 3.2 +~++
北海20号 昭和31年 6.7 8.1 10.10 41.2 3.0 -
32年 6.9 7.24 10.20 66.7 3.3 -
33年 6.13 7.20 10.8 67.7 4.2 +
34年 6.7 7.22 10.5 66.8 4.3 -
平均 6.9 7.25 10.11 60.6 3.7 --+

 4. 収量調査成績 (昭和31年~昭和34年 4ヵ年)
品種及び
系統名
年次 10a当(kg) 薯重割合(%)
総重量 上薯数 上薯重 同割合 澱粉収量 同割合 澱粉価 腐敗
農林1号 昭和31年   2287   26169   2225 100 291 100 14.1 10 60 27 3 3.8
32年 2368 31736 2338 100 318 100 14.6 4 54 41 1 9.0
33年 2391 40667 2347 100 333 100 15.2 1 43 54 2 23.0
34年 2853 31440 2824 100 444 100 17.1 13 68 18 1 64.4
平均 2475 32253 2434 100 347 100 15.3 7 56.25 35   17.5 33.6
紅丸 昭和31年 2737 38413 2637 119 336 116 13.8 1 42 53 4 5.0
32年 2723 40966 2668 114 353 111 14.2 1 48 49 2 4.0
33年 2575 50665 2433 104 319 96 14.1 0 21 74 5 96.0
34年 3386 33160 3351 119 505 114 16.1 7 17 21 1 82.6
平均 2855 40801 2772 113.9 378 108.9 14.6   2.25   45.5   49.25 3 46.9
ヨウラク 昭和31年 2403 28547 2334 105 360 124 16.4 20 53 24 3 34.0
32年 2874 27595 2843 122 439 155 18.4 32 50 17 1 6.0
33年 2369 36739 2336 100 418 126 18.9 3 49 47 1 133.0
34年 2424 27240 2418 86 448 101 19.6 27 55 18 0   222.6
平均 2518 30040 2483 102 430 123.9 18.3 20.5 51.75 26.5 1.25 98.9
北海20号 昭和31年 2633 23366 2605 117 443 152 18.0 42 49 8 1 22.0
32年 3466 27955 3450 148 569 179 17.5 46 44 10 0 0
33年 3047 32666 3019 129 537 161 18.8 12 64 23 1 0
34年 3530 29160 3522 125 626 141 18.8 44 50 6 0 7.6
平均 3167 28287 3149 129.4 544 156.8 18.3 36 51.75 11.75 0.5 7.4

  10a当上薯重の最少有意差
  1%(kg) 5%(kg) CV(%)
昭和31年   785.2   583.2   15.2
32年 409.5 303.4 7.9
33年 647.1 477.0 11.9
34年 859.4 670.6 12.5

 5. 管内委託試験
品種 豊富町 中頓別町 稚内市勇知 稚内市沼川 歌登村 平均
上薯重 同指数(%) 腐敗重 上薯重 同指数(%) 腐敗重 上薯重 同指数(%) 腐敗重 上薯重 同指数(%) 腐敗重 上薯重 同指数(%) 腐敗重 上薯重比(%)
農林1号  2228.7 100 8.5  1635.3 100 68.0  2608.7 100 62.7  2711.7 100 30.3  3056.5 100 1.8 100
紅丸 2424.5 109 24.0 1327.5 81 493.0 2596.5 100 0 2565.5 95 0 2842.5 93 1.6 96
ヨウラク 2324.7 104 49.1 1806.0 110 336.0 3464.0 133 65.8 2971.3 110 27.5 2984.5 98 0 111
北海20号 2618.0 117 0 1552.7 95 0 3520.7 135 7.6 2755.0 102 0 3066.5 100 0 110
品種 豊富町 中頓別町 稚内市勇知 稚内市沼川 歌登村 平均
澱粉価 澱粉収量 同比 澱粉価 澱粉収量 同比 澱粉価 澱粉収量 同比 澱粉価 澱粉収量 同比 澱粉価 澱粉収量 同比 澱粉価 澱粉収量
農林1号    15.1 274.9   100    17.0 230.3   100    15.8 364.6   100 16.5 430.3    100 17.1 495.3   100 16.3 100
紅丸 14.2 259.9 95 15.1 191.0 83 16.1 413.0 113 14.5 360.7 84 16.2 431.3 87 15.2 92
ヨウラク 17.4 366.9 133 20.6 361.0 157 19.2 626.3 172 17.5 498.7 116 19.1 541.1 109 18.8 137
北海20号 16.8 383.8 140 19.1 284.6 124 18.7 628.9 172 17.2 454.3 106 17.8 512.4 103 17.9 129

 6. 掘取調査  
   (1)鍬堀の場合(昭和34年度)
   諸項

市町村別

農林1号 北海20号 10a当薯収(kg) 堀取作業から見た総合所見
堀取
時間
堀残
割合(%)
薯と茎
その関係
堀取
時間
堀残
割合(%)
薯と茎
その関係
農林1号 北海20号
稚内市 4.45 0 離れ易い 9.00 0 離れ易い 2847.0 2385.0 農林1号に比べ堀取時間は長く要するが
ストロンとの関係は離れ易く障害はない。
浜頓別  10.00 0  12.50 0 2250.0 2643.8 同上
 
中頓別町 20.05 0.2 30.40 1.1 やや離れづらい 2362.5 2418.8 農林1号に比べ1株の生育領域が広いため
堀取時間は長く要するが、特別の障害はない。
枝幸町 11.48 2.0 15.30 4.0 離れづらい 1500.0 1930.5 茎葉が枯凋期に入ると堀取は容易であるが、
早いとストロンから離れにくい。
歌登村 15.00 1.7 20.00 8.9 変わりない 2191.2 2846.3 完全枯凋期の場合は障害はない。
生育領域が広いので農一に比べ時間長

   (2)機械堀の場合(農改所調査)
   諸項

市町村別

農林1号 北海20号 10a当薯収(kg) 堀取作業から見た総合所見
堀取
時間
堀残
割合(%)
薯と茎
その関係
堀取
時間
堀残
割合(%)
薯と茎
その関係
農林1号 北海20号
稚内市 1.15 2.6 離れ易い 5.00 4.1 離れ易い - - 農林1号は完全枯死のため障害はない。北海20号は
幾分認められるが、停止して茎葉を除去する様な事はない。
浜頓別町 1.40 2.0 4.30 10.0 - - 堀取期より幾分おくれたので、堀取りには障害はなかった。
しかし堀残がやや多い。 
中頓別町   0.40 1.5   0.50 17.0 - - 北海20号は機械堀の場合少々傷つくが、機械の調節に
より余り問題はない。
歌登村 1.30 0 1.30 17.8 - - 完全枯死のため、堀取りには障害はなかった。
  
江差町 - - - - - - - - -
 

   (3)宗谷支場
   諸項

農林1号 北海20号 10a当薯収(kg) 堀取作業から見た総合所見
堀取
時間
堀残
割合(%)
薯と茎
その関係
堀取
時間
堀残
割合(%)
薯と茎
その関係
農林1号 北海20号
鍬堀   16.10 0 離れ易い   20.00 0 やや離れずらい 1625.0 1895.0 農林1号に比べ堀取時間は要するが堀取の場合
大なる障害はない。
機械堀 1.42 1.0 1.59 2.5 離れ易い - - 完全枯凋期であったので、北海20号は茎葉の障害
なく少々時間を要した。

   (4)総合考察

 手鍬堀の場合
  北海20号は茎葉枯凋期が10月上旬であり、完全枯凋になって収穫するとストロンから離れ易くなる耐病性(疫病)が強いため、熟期に入っても茎がやや堅くまたストロンもやや離れずら
  いので、10a当の堀取は農林1号に較べ4~5時間は多く要するようである。しかし堀取り期を少し延ばし、完全枯凋するとストロンとの離脱も容易になるので、この点、解消される。

 機械堀の場合
  管内における調査では、農林1号と比較すると時間的には可なり差異のある町村もあるが、当場での調査では余り差異を認めない。畜力堀取の場合を調査するに、北海20号は特性よ
  りみて薯着がやや深いので、農具が安定しないと傷薯が若干できるので、機械の調節(少し深くする)も必要である。

 堀残し歩合は、管内の調査ではやや多い傾向にあるが、当場の調査では1.5%多かった。堀取の点については農林1号に較べ、何れもやや長時間を要するが堀取上の注意としては完全枯凋期の堀取はやや容易となる。当地方は疫病の発生が多く耐病性品種については関心が大きく、薬剤撒布の回数の多いこと、これに対する労力の問題等もあり、耐病性品種に対する期待は多い。