【普及奨励すべき事項】

水稲糯種の玄米播種について

北海道立農業試験場 滝川原々種農場

 

Ⅰ 目的

 近年糯種に粳の混入が多く、はなはだしいものはその混入率10%以上に達し、糯品質低下の大きな原因となり早急な解決作が望まれている。しかし粳の発現は異型となって現れるもの以外は外観何等異るところがなく1穂中に1~3粒しかも不規則に現れるので、いままでの1本植または塩水選等の方法では完全に除去することが不可能と思われる。
 そこで糯籾のハゼる性質を利用し、玄米として粳粒を除き栽培したところ混入率を極度に低下することができたので、その栽培法につき行った1連の試験成績を報告する。

 

Ⅱ 試験方法と成績

 (1) 普通籾栽培と玄米栽培による粳粒出現の割合
(昭和34年)0.15%混入の種籾
普通籾区 玄米栽培区 玄米栽培に袋かけを行った区
0.6% 0.2% 0~0.1%(平均0.04%)

 

 (2) 床土および種子消毒に関する調査(昭和32年4月室内)

  普通玄米を播種した場合はほとんど腐敗するので土壌殺菌および種子消毒を行った。 

  試験方法
    冷床予定地の土を取り処理を行った後1シャーレあたり50gを取り、恒温器温度は25℃、水分は飽和水量の70%とし4月4日播種、4月11日堀起こし調査を行った。

  試験区別
   1. 無処理(籾)区             籾は4日間温湯浸漬鳩胸程度として播種
   2.   〃      (玄米区)
   3. 有機硫黄剤粉衣(玄米)区      玄米に0.3%の有機硫黄剤粉衣を行い播種
   4. 焼土(玄米)区             ストーブ上に鉄板を置き焼土殺菌玄米播種
   5. 有機水銀剤土壌消毒(玄米区)   土壌に有機水銀剤800倍液を撒布撹拌し10日間放置後使用

  成績
試験区別 発芽歩合(%) 不発芽
歩合(%)
(不発芽中
腐敗粒歩合)(%)
生育調査
完全苗 不完全苗 草丈(cm) 根長(cm) 根数(本) 芽の太さ(mm)
1 無処理(籾)区 80 3 83 17 7 4.2 7.7 2.3 1.29
2  〃 (玄米)区 8 3 11 89 89 2.2 3.1 2.9 1.02
3 有機硫黄剤粉衣区 61 7 68 32 1 5.6 7.4 2.2 1.07
4 焼土区 54 7 61 39 31 3.0 2.4 1.2 0.85
5 有機水銀剤土壌消毒区 38 5 43 57 43 4.6 4.6 2.0 1.02

 完全苗歩合は籾区最も良好で有機硫黄剤粉衣区これにつぎ玄米無処理区は約9割の腐敗をみた。つぎに苗の状況を見ると有機硫黄粉衣区は籾区とほとんど差なく草丈はむしろ長かった。

 

 (3) 種子消毒と浸水との関係(昭和34年)

  種子粉衣を行った場合は発芽までに長日時を要するのでこれを短縮するために液剤を利用し発芽を早めるとともに種子消毒の効果を知ろうとした。  

  試験方法
    前記と同じ方法により11月5日恒温器内に播種3日後取出し室内に放置して1週間後堀起し調査した。

  試験区別
   1. 無処理(籾)区                    前記に同じ。
   2. 有機水銀剤300倍液に2時間浸漬区      1昼夜ぬるま湯に浸漬後ウスプルン300倍液に2時間浸漬後水洗す。
   3. 有機水銀剤1000倍液に6時間浸漬区      同上、浸漬後水洗せず。
   4. 有機硫黄剤粉衣区                玄米重の0.3%の有機硫黄剤を粉衣す。

  成績
試験区別 置床2日目 生育調査
発芽
歩合(%)
完全苗(%) 不完全
苗(%)
  計(%) 不発芽(%) (不発芽中
腐敗粒歩合)(%)
草丈(cm)
1 無処理(籾)区 84 93 0 93 7 0 2.2
2 有機水銀剤300倍液に2時間浸漬区 95 47 43 90 10 2 1.9
3 有機水銀剤1000倍液に6時間浸漬区 91 44 50 94 6 0 1.9
4 有機硫黄剤粉衣区  15 83 8 91 9 0 1.4

 有機水銀剤液浸漬区の発芽は極めて良好であったが根部がおかされ発根せぬものが約半数も認められ、特に300倍液に2時間浸漬区は1週間の間に5%に枯死するものがあった。

 

 (4) 温度と発芽速度の関係(昭和34年)

  玄米播種を行った場合の温度と発芽速度の関係を知ろうとした。  

  試験方法
    比較の籾は温湯に4日間浸漬、玄米は有機硫黄剤粉衣を行った。

  試験区別
   1. 恒温器内   25℃区
   2. 室温区 (最高25℃、最低4.5℃、平均16.3℃)

  成績
試験区別 発芽歩合(%)
置床後2日目 置床後4日目 置床後7日目
 1 恒温器内25℃ 籾区 83.0 83.0 83.0
2 玄米区 15.0 83.0 83.0
3 室温 籾区 0 42.0 56.0
4 玄米区 0 12.0 51.0

 恒温25℃の場合、籾では2日目でほとんどの発芽を終わるが有機硫黄剤粉衣玄米の場合はわずかに15%4日目で籾区と同程度を示しまた低温の場合は、さらに遅れ1週間目で発芽はわずか半数程度を示した。

 

 (5) 胴ずれ玄米と発芽の関係(昭和33年9月)

  胴ずれの多少と腐敗の関係を知るために行った。 

  試験方法
    播種  9月9日、10月9日堀起し調査
    ビニール小屋内露地   1区100粒2反覆

  試験区別
   1. 標準(籾)区
   2. 無処理(胴ずれ玄米)区
   3.  〃  (無きず玄米)区
   4. 有機硫黄剤粉衣(胴ずれ玄米)区
   5.  〃        (無きず玄米)区 

  成績
試験区別 発芽歩合(%) 30日目
草丈(cm)
播種後各日目発芽歩合(%)
完全苗 不完全苗 不発芽 腐敗 2日目 7日目 15日目 30日目
1 標準(籾)区 70 6   76 24 0 15.3 44 66 75 76
2 無処理(胴ずれ玄米)区 0 2 2 0 98 0 0 1 2 2
3  〃  (無きず玄米)区 0 8 8 0 92 8.0 4 7 8 8
4 有機硫黄剤粉衣(胴ずれ玄米)区 50 6 56 7 37 11.3 17 46 53 56
5 粉衣(無きず)区 65 4 69 19 12 13.2 10 52 63 69

 胴ずれ玄米を使用した場合は苗立歩合も劣り腐敗粒歩合も増加することが認められた。床内温度低下し発芽に長時日を要した場合特にその傾向が大なるよう観察された。

 

 (6) 玄米の苗床播種量に関する調査(昭和34年4月)

   玄米播種を行う場合の播種適量を知るために行った。 

  試験方法
    普通冷床     油障子使用。
    籾は浸漬7日後芽出しを行う。玄米は0.3%の有機硫黄剤粉衣を行う。

  試験区別
   1. 標準区(浸漬籾3.3平方米当0.91立(5合)播)
   2. 玄米(3.3平方米当0.36立(2合)播区)
   3.   〃        0.55立(3合)播区)
   4.   〃        0.73立(4合)播区)
   5.   〃        0.91立(5合)播区)
     (床内温度は26℃)

  成績
   イ、 苗床における成績
試験区別 播種期
(月日)
発芽期
(月日)
発芽揃
迄日数(日)
移植時における
草丈(cm) 葉数(枚) 分げつ(本) 完全苗
歩合(%)
不完全苗
歩合(%)
腐敗
歩合(%)
1 標準(籾)区 4.30 5.2 2 14.7 5.中 0.8 99.2 0.6 0.2
2 玄米区0.36立(2合)区 5.5 6 12.0 5.始 0.8 96.7 2.7 0.6
3   〃 0.55立(3合)区 5.4 6 11.8 4.終 0.8 97.3 2.0 0.7
4   〃 0.73立(4合)区 6 12.7 0.4 97.1 2.2 0.7
5   〃 0.91立(5合)区 6 11.8 0.2 96.6 2.7 0.7

   ロ、 本田における成績
     生育調査
試験区別 移植期
(月日)
出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
7月21日 出穂期 成熟期
草丈(cm) 茎数(本) 草丈(cm) 茎数(本) 稈長(cm) 穂長(cm) 茎数(本)
1 標準(籾)区 6.2 8.9 9.17 53.1 24.0 73.6 20.8 59.3 14.5 20.1
2 玄米区0.36立(2合)区 8.10 52.8 23.9 75.1 21.7 577 14.4 19.6
3   〃 0.55立(3合)区 52.3 21.9 76.6 21.1 60.7 14.9 19.0
4   〃 0.73立(4合)区 8.12 51.7 23.2 73.8 21.4 57.8 14.9 18.6
5   〃 0.91立(5合)区 51.4 20.3 76.6 19.0 57.5 14.6 17.1

     収量調査
試験区別 区当収量(2坪) 籾摺
歩合(%)
玄米
千粒重(g)
総重(g) 稈重(g) 籾重(g) 玄米重(g) 収量
割合(%)
1 標準(籾)区 4785 2040 2573 2118 100 82.3 23.1
2 玄米区0.36立(2合)区 4903 2128 2553 2119 100 83.0 23.0
3   〃 0.55立(3合)区 4648 1910 2505 2067 98 82.5 22.9
4   〃 0.73立(4合)区 4675 1865 2520 2074 98 82.3 22.8
5   〃 0.91立(5合)区 4628 1973 2348 1937 92 82.5 22.8

 収量は玄米0.91立(5合)を除きほとんど大差が認められなかったが苗の生育状況等を考えた場合播種量は0.36立(2合)~0.55立(3合)が適当と思われる。

 

 

Ⅲ 摘要

 以上の成績から糯の粳粒混入防止の一方法としての玄米栽培は有機硫黄粉剤の種子粉衣により実用性のあることが認められた。玄米栽培実施をするとき注意を要する事項は次の通りである。

 

 1. 種籾は充分乾燥しよくハゼさせること。
 2. 胴ずれを極力少なくすること。
 3. 選別はあかるい所で黒い紙または布の上で行うこと。
 4. 玄米は浸漬せず種子重量の0.3~0.5%の有機硫黄粉剤の粉衣を行うこと、なお水銀剤は根部をおかされることがあるので使用しないこと。
 5. 苗床播種量は3.3平方米当0.73立(4合)以下とし0.36立~0.55立(2~3合)を標準とすること。
 6. 苗床の灌水は籾播種の場合より多目に施すこと。なおぬるま湯を使用すること。
 7. 発芽揃までは床内温度、地温ともに高温に保つように灌水保温に注意すること。
 8. 採種の場合は自然雑交も考えなければならぬので大面積の中央部からのみ採種を行う必要がある。
 9. 玄米栽培に用いる種子用玄米は使用直前に籾摺を行なうこと。
 10. 玄米栽培はさし当たり糯種の採種ほについて行うこと。