【普及奨励すべき事項】
羊肉の利用法改善について -合成フィルム利用100℃加熱殺菌による羊肉の加工保存に関する試験- 北海道農試畜産部畜産化学研究室 |
Ⅰ 目的
合成フィルム利用による農村向羊肉簡易保存法を見出すのを目的とした。
Ⅱ 試験方法および試験成績
(Ⅰ) 合成フイルムの種類と結束処理との関係
1. 試験目的
各種合成フイルムに肉詰めした内容物と外界との遮断について農家にもできる簡単な方法を見出すことを目的とした。
2. 試験方法
結束方法は綿糸を用い、別図(指導上留意すべき事項参照)の要領で行い、二重-結束-の間に、各種の添加物を入れ、ライフアン、クレハロンフイルムについて大きさ別に外界との
遮断効果を試験した。
遮断効果の試験はフイルムに水を入れ、これを48時間懸重した後、結束部位に濾紙を挿入し、濾紙の毛細管現象によって、濾紙先端が湿潤となるものは結束効果不十分とみて+、
濾紙に変化のないものは-として表示した。なお水滴が肉眼で観察される場合は++と表示した。
3. 試験成績
試験成績を示すと第1表のとおりである。即ち結束処理の方法では、羊脂添加区と、パラフイン添加区が-の結果であり、無処理区と豚脂添加の区はいずれも+の結果である。
大きさ別では、クレハロンの場合折巾115mmのものは無処理区で++で水滴を認め、羊脂添加区においてさえ+であった。即ちクレハロンはライフアンより結束遮断は難しく、特に
大型のフィルムがその傾向が大きい。従って遮断効果から観察すればライフアンの方が一層安全であろう。また結束個所への添加物はこの成績が示しているように、融点の高いも
のの方が遮断効果の高いことが明らかであり、豚脂添加区に供試の豚脂は常温(20℃)でやや流動性を有しているものであった。このことも、この成績に影響しているであろうが、農
家で得られる添加物としては、羊脂を使うべきものと思考される。使用するフイルムは極端に大きなものは避けた方が遮断効果は一層大きいと思考する。
第1表 フイルムの種類と結束処理との関係
区分 | フイルム種類 | 寸法(mm) | 水量(cc) | 結束効果 |
無処理区 | クレハロン | 115×300 | 700 | ++※ |
50×250 | 100 | + | ||
ライフアン | 130×300 | 850 | + | |
65×250 | 170 | + | ||
45×240 | 100 | + | ||
羊脂 添加区 |
クレハロン | 115×300 | 700 | + |
50×250 | 100 | - | ||
ライフアン | 130×300 | 850 | - | |
65×250 | 170 | - | ||
45×240 | 100 | - | ||
豚脂 添加区 |
クレハロン | 115×300 | 700 | + |
50×250 | 100 | + | ||
ライフアン | 130×300 | 850 | + | |
65×250 | 170 | + | ||
45×240 | 100 | + | ||
パラフイン 添加区 |
クレハロン | 115×300 | 700 | - |
50×250 | 100 | - | ||
ライフアン | 130×300 | 850 | - | |
65×250 | 170 | - | ||
45×240 | 100 | - |
(Ⅱ) 100℃60分~90分殺菌における、各種合成フイルムの耐久力
1. 試験目的
最も簡単な100℃上記殺菌(実際は99.2℃~99.5℃)を行う場合、各種のフイルムが、この加熱温度において実際加工上どの程度耐久力があるかを明らかにする。
2. 試験方法
試験1の羊脂添加の結束法を各種フイルムに行い、内容物には羊肉と1割内外の液とを共にフイルム内の空気を極力排除するように肉詰めし、100℃蒸気殺菌を行って、その破損率
を求めた。
3. 試験成績
試験結果を示すと第2表のようである。即ち100℃殺菌60~90分の殺菌時間ではライフアンの析巾65mmおよび90mm並びにクレハロンの70mmチューブのものは全く破損が認められ
なかったが、クレハロンのシールものでは、いずれもシール部位において破裂した。
以上の成績から100℃殺菌では、ここで試験した、クレハロンのシール物を除いては何れも使用に耐えることが明らかとなった。なお100℃殺菌でライフアンの場合フイルム表面が幾
分白化するが、内容物への影響は認められなかった。
第2表 合成フイルムの100℃殺菌における耐久性
区分 | フイルムの種類 | 寸法 (mm×mm) |
殺菌時間 100℃ |
内容物(g) | 破損率(%) | フイルムの外観 | 備考 | |
羊肉量 | 液量 | |||||||
Ⅰ | ライフアン | 65×250 | 60~90' | 180 | 20 | 0 | 幾分白色化 | |
Ⅱ | ライフアン | 90×250 | 60~90' | 300 | 30 | 0 | 幾分白色化 | |
Ⅲ | クレハロン(チューブ) | 70×190 | 60' | 150 | 20 | 0 | 変化なし | |
Ⅳ | クレハロン(シール) | 70×250 | 60' | 180 | 20 | 100 | 変化なし | シール上面破裂 |
Ⅴ | クレハロン(シール) | 90×250 | 60' | 330 | 40 | 100 | 変化なし | シール上面破裂 |
(Ⅲ) フイルム詰め羊肉の100℃殺菌における中心温度上昇時間
1. 試験目的
「フイルム詰め羊肉」を100℃で殺菌する場合、蒸気温度同一条件において、大きさや液量と中心温度上昇との関係を明らかにして、熱伝導の1番遅い中心の殺菌時間を求めるた
めこの試験を行った。
2. 試験方法
上図のような100℃殺菌容器を準備し、温度計Bおよびフイルム詰め羊肉Mをはずして殺菌容器の下部を加熱し、殺菌容器がはげしく蒸気の発生するに至ってから、温度計BにM
を図のように結びつけたものを殺菌容器に装置し、5分間隔に蒸気温度と中心温度を測定した。
3. 試験成績
試験成績は第1図並びに第3表に示すとおりであった。即ち析巾70mmのクレハロンのⅠ区は中心温度が90℃に達するまでに20~25分を要し、析巾90mmのライフアンに肉詰めの
Ⅱ区は30分を要した。また同じ90mmのライフアンを用いて液量の割合を多くしたⅢ区においていはⅡ区より幾分早く(5分程度)90℃に到達した。
空缶の中に立てて殺菌を実施したⅣ区はⅢ区より幾分遅く90℃に到達した。
以上のように蒸気条件5分で98℃に達し、最高蒸気温度99.5℃の場合、中心温度の上昇は析巾70mmのものは90mmのものより5分~10分速いが、同じ大きさのフイルムを使用す
る場合は、液量の割合の多いものが中心温度の上昇に要する時間が短かった。
空缶中に立てた場合、温度上昇は幾分遅延したがこれは空き缶により蒸気の流通が阻害されたためと思われる。しかしその時間的差は5分程度であった。
第1図 100℃殺菌における中心温度上昇曲線
第3表 合成フイルムに肉詰め羊肉の中心温度上昇時間
区分 | フイルムの種類 | 寸法 (mm×mm) |
内容物 | 液量/肉量×100 (%) |
90℃到達 時間(分) |
95℃到達 時間(分) |
備考 | |
羊肉量(g) | 液量(cc) | |||||||
Ⅰ | クレハロン | 70×190 | 130 | 20 | 15.4 | 20~25 | 30~35 | |
Ⅱ | ライフアン | 90×250 | 300 | 50 | 16.7 | 30 | 40~45 | |
Ⅲ | ライフアン | 90×250 | 300 | 100 | 33.3 | 25~30 | 35~40 | |
Ⅳ | ライフアン | 90×250 | 300 | 100 | 33.3 | 30~35 | 40~45 | 空缶内にて殺菌 |
(Ⅳ) 100℃殺菌における添加液の醋酸濃度の決定
1. 試験目的
羊肉の保存手段として100℃120分程度の加熱だけでは夏季高温時の保存に耐えることは非常に困難である。間歇殺菌の方法もあるが、数日間隔で3回も殺菌を行うことは農家の
実態としては必ずしも容易なことではないであろう。以上の観点から、1回の殺菌のみで、間歇殺菌以上の殺菌効果を発揮する手段として酢酸添加により内容物の酸度を上昇させ
る方法が考えられる。特に老廃羊の場合、日本人にあまり好まれない羊肉臭の改善とか、また柔さを増すためにも適度の酢酸の使用はかえって食味を向上すると考えられるので、
食味と殺菌効果の両面から望ましい酢酸濃度を決定するため本試験を行った。
2. 試験方法
対照区に対しては水道水を用い、試験区に対しては1級試薬酢酸によって1、2、3、4、5%のそれぞれ液を調製した。析巾90mmのライフアンに羊肉と各調整液を添加して肉詰めし、
100℃90分の蒸気殺菌後その製品の保存性をしけんするため37℃の恒温器中に保存した。
毎日製品の変化を観察し、ガス発生の認められるものを+、疑わしい物を±、変化のないものを-と表示した。試験期間は10日間でありその後、普通寒天培地を用いて細菌培養
試験を実施し、細菌の発育の認められるものを+、認められないものを-と表示した。
3. 試験成績
試験結果を示すと第4表のとおりである。即ち対照区は37℃恒温器で24時間で明らかにガス発生を認め、培養の結果は濃厚に細菌の存在を認めた。
1%区についてはガス発生が明らかではなかったが、培養試験の結果は明らかに細菌の存在が認められた。2%区においては外見上全く変化はなかったが、培養の結果は少数の細
菌を発見した。しかしながら3%以上では普通寒天培地の上には細菌の存在が全く認められなかった。
食味についても製品のPH5.3であり酸味の強過ぎることはなかった。以上の結果から望ましい酢酸濃度は2~3%と思考せられる。
第4表 フィルム詰め羊肉の酢酸液濃度と100℃殺菌効果との関係
区分 | フイルム の種類 |
寸法 (mm) |
内容物 | 全量 (g) |
添加液 のPH |
殺菌法 | 保存試験 | 培養 試験 |
製品 PH |
||
内量(g) | 液量 | 期間 | 変化 | ||||||||
対照区 | ライフアン | 90×250 | 300 | 30 | 330 | 6.4 | 蒸気90' | 10日 | + | (+) | 5.8 |
1%酢酸区 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 2.9 | 〃 | 〃 | ± | (+) | 5.8 |
2%酢酸区 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 2.8 | 〃 | 〃 | - | (+) | 5.7 |
3%酢酸区 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 2.7 | 〃 | 〃 | - | (-) | 5.3 |
4%酢酸区 | 〃 | 〃 | 255 | 〃 | 285 | 2.6 | 〃 | 〃 | - | (-) | 5.2 |
5%酢酸区 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 2.6 | 〃 | 〃 | - | (-) | 5.1 |
3%酢酸区 | クレハロン | 〃 | 150 | 20 | 170 | 2.7 | 〃 | 〃 | - | (-) | 5.8 |
(Ⅴ) フイルム詰め味付け羊肉の試作試験
1. 試験目的
試験Ⅰから試験Ⅳまでの結果に基づき羊肉の保存効果を挙げ、食味についても農村に向きかつ味付け材料も農村で得られ易いものを使用する条件を満たす形体の製品を見出す
必要があり本試験を行った。
2. 試験方法
味付方法は塩煮式、大和煮式の両者について実施した。保存性を増させるためには農村で得られやすい市販の酢の素を供試した。今回供試の酢の素は測定の結果酢酸に換算し
て11.1%濃度に相当するので、試験Ⅳの結果に基づき5倍稀釈および4倍稀釈の酢の素、即ち酢酸に換算してそれぞれ2.22%、2.77%の濃度になるよう味付液を調製した。
味付液のその他の調味割合は第5表に示すとおりである。供試羊肉は塩煮式の場合は生肉をそのまま薄切りとし、大和煮式では生肉のままうす切りにしたものと、大切りとして煮沸
水中で5~10分加熱半煮して、うす切りとした処理の二種について実施した。試作した製品の保存試験は試験Ⅳと同一方法で行った。
3. 試験成績
試験結果は第6表並びに第7表に示すとおりであった。即ち塩煮式では、5倍稀釈区において11日間の保存試験では肉眼的に変化は認められなかったが、培養試験の結果は、少量
の細菌を認めた。しかし4倍稀釈区では保存試験、培養試験ともに-の結果を得た。
大和煮式味付ではいずれも23日間の保存試験では肉眼的に変化は認められなかったが、生肉のまま使用した区の中で調味液30cc添加のものは3例中1例から細菌培養の結果少
量の細菌が認められた。しかし50cc添加のものではいずれも細菌を認めなかった。
以上の試験結果酢の素の稀釈は4倍が望ましく、大和煮式では半煮の前処理を施すことの方が製品のできあがりおよび保存性の上からも望ましい。肉量に対する調味液の割合は
多い方が殺菌効果は大である。4倍稀釈では肉量に対する液量の割合は最小限15~20%含まれることが望ましいと思考する。
第5表 フイルム詰め味付け羊肉の調味液配合割合
第6表 フイルム詰め味付羊肉(塩煮式)と100℃殺菌効果との関係
区分 | フイルム の種類 |
寸法 (mm) |
内容物 | 全量 (g) |
味付液 のPH |
殺菌法 | 保存試験 | 培養 試験 |
製品 PH |
||
内量(g) | 液量 | 期間 | 変化 | ||||||||
5倍 酢の素 | ライフアン | 90×280 | 300 | 30 | 330 | 3.2 | 蒸気90' | 11日 | - | + | 5.6 |
4倍 酢の素 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 3.0 | 〃 | 〃 | - | - | 5.6 |
第7表 フイルム詰め味付羊肉(大和煮式)と100℃殺菌効果との関係
区分 | 処理 | フイルム の種類 |
寸法 (mm) |
内容物 | 全量 (g) |
味付液 のPH |
殺菌法 | 保存試験 | 培養 試験 |
製品 PH |
||
内量(g) | 液量 | 期間 | 変化 | |||||||||
Ⅰ | 4倍酢の素稀釈 生肉使用 |
ライフアン | 90×280 | 300 | (10.8%) 30 |
330 | 4.2 | 蒸気90' | 23日 | - | 3例中 1例+ |
5.6 |
Ⅱ | 〃 液量増加 |
〃 | 〃 | 300 | (16.7%) 50 |
350 | 4.2 | 〃 | 〃 | - | - | 5.6 |
Ⅲ | 〃 半煮肉使用 |
〃 | 〃 | 300 | (16.7%) 50 |
350 | 4.2 | 〃 | 〃 | - | - | 5.6 |
Ⅳ | 同上 |
クレハロン | 70×200 | 120 | 18.3%) 20 |
140 | 4.2 | 〃 | 〃 | - | - | 5.6 |
Ⅲ 摘要
1. フイルムの結束の仕方は別図の方法による二重結束を行い、二重結束の間に羊脂を添加することにより、ライフアン並びに析巾70mmのクレハロンは外界とフイルム内容物とを遮
断することができる。
2. 各種フイルムの100℃殺菌における耐久力はクレハロンのシールしたものを除き、いずれも10℃殺菌に耐えることが明らかである。
3. 100℃殺菌に利用すべき実用的フイルムの大きさは、析巾80mm~90mm、長さ250mm程度の大きさが望ましい。クレハロンではこの大きさでチューブのものがないので、ライフアンが
この目的に適する。析巾70mmのものではライフアン、クレハロンいずれも利用できる。しかし結束効果の安全性はライフアンの方が高い。
4. 100℃蒸気殺菌で蒸気が発生してから羊肉の中心温度が殺菌可能に達するまでの時間は、析巾70mmの場合は20~25分、析巾90mmの場合は35~35分を要し、内容物に添加する
液量の多い程、蒸気の移動に対する障碍の少ない程、中心温度の上昇は遠いが、その時間差は実際上5分内外と思考される。
5. 100℃殺菌で羊肉に添加する液の酢酸濃度は2~3%が望ましく、90分の殺菌時間(中心は約60分)では3%以上の酢酸濃度は半永久的保存が可能である。
従ってこの程度の濃度で北海道の夏の保存には耐えるものと思考される。
6. 「フイルム詰め味付羊肉」を作る場合、味付けに酢の素を使用するときは、酢酸濃度に換算して2.5%よりもうすく稀釈しないことが望ましい。この場合の調味液の最少必要添加量は羊
肉の15~20%である。
Ⅳ 指導上留意すべき事項
1. 「フイルム詰め味付け羊肉」の特徴
(1) 容器に対する出費が非常に少ない。
フイルムの種類 | 詰められる内容量(g) | 価格(円) |
ライフアン 90mm×250mm | 300×350 | 3.60 |
ライフアン 70mm×250mm | 180×210 | 3.06 |
クレハロン 70mm×190mm | 150×170 | 2.04 |
(2) 殺菌に手数を要しない。
(3) 保存性が大きい。
2. フイルムの結束の仕方
3. 「フイルム詰め味付け羊肉」の加工工程
(イ) フイルムの一方の端を結束する。(前項による)
(ロ) フイルムの中に羊肉と味付け液を詰める。(フイルムの他端は4~5cm残しておく)
(味付け液は試験成績第5表参照)
半煮操作(Parboiling)
羊肉は大切りとし、沸騰水の中に5分~10分浸す(半煮程度とし長時間の煮沸は避けること)
(ハ) フイルムの他端を結束する。
(ニ) 蒸気殺菌90分以上行う方が望ましい。(ふかし釜などを用いる)
(ホ) 殺菌終了後冷水中に投入して急速冷却を行う。
(ヘ) 冷却後取り出し、表面の水をふき取り、新聞紙などで包み、製造年月日記入の上、ねずみなどに喰われないように注意して暗冷所に保存する。
4. 加工上の注意事項
(1) 肉詰めに際しては、最初に味付け液を少量入れてから、羊肉を添加するようにおこない、空気は極力排除するよう注意すること。
(2) 味付け液の調製に際し加熱を行った時は、40℃程度に冷却してから使用すること。
(3) 液量は肉量の20%程度がよい。
(4) 塩煮式の味付け羊肉の指導に際しては、調理法を加味して指導することが望ましい。