【指導上の参考事項】

水稲「上育211」号の特性について

北海道立農業試験場上川支場

 

Ⅰ 特性概要

 1. 出穂期、成熟期共に「福雪」より2日程度速く早生の晩に属する。現地(東川・上川)の冷水地帯では4~5日出穂期が速くなっているところもある。

 2. 品質、等級は「福雪」よりややまさる。

 3. 収量は移植、直播共に「福雪」と同程度で、特に標準肥料の移植では過去3ヶ年常に「福雪」「農林34号」より優位を示している。

 4. 草型は穂数型で「福雪」より短稈、穂の長さは中位で穂揃い良く、粒着はやや密ふ先は着色なく無芒。しかも登熟は良好であり栽培しやすい。

 5. 冷水抵抗性は遅延型、障害型共に「福雪」にひってきしやや強の部に属する。

 6. 耐倒伏性は中程度であるが普通肥の場合は倒伏の心配はない。

 7. 玄米の形状は中、大きさは中程度で腹白は「福雪」より少なく色沢は普通である。

 8. 稲熱病抵抗性は葉稲熱病に対しては「福雪」より強いが、節、穂首ではやや弱い。

 9. 極多肥になると、倒伏のおそれもあり、収量もその割りに増えないので「福雪」同様極多肥向ではない。

 

Ⅱ 特性より見た試作上の注意事項

 特性の概要は以上の如くであるが、本系統は福雪と同一交配組合せのものより育成したもので草状、米質等は大体福雪と殆ど似ていると見てよく、ところによっては熟期がそれより多少速くなっている。福雪の栽培区域よりやや北の方にも栽培することが出来ると思う。昭和33年から原種決定試験に供し、現地に試験を行った結果、その試験地付近では漸次作付するものが増加している現状である。しかし、本系統は栽培上もっとも心配される点は稲熱病に対する耐病性がかなり弱いことである。交配に用いた母である北海112号は収量は多く米質もよいのであるが遺憾ながら、稲熱病に極めて弱く、かつて北空知地方で大被害をこうむったことがあり、その耐病性が弱いという遺伝素質を受け継いでいたと思われる。本系統の試験期間中は幸い気候の関係上イモチらしいものが発生しなかった年であって、特性検定試験を行った結果より見るに穂首、節稲熱病は福雪より弱く、福雪を中とするとやや弱いものにぞくすると見てよい。
 最近は稲熱病の特効薬がでて、これを適期に撒布し防除をおこなえば、品種の耐病性ということはあまり考えなくてもよいというものがあるが、もし気候条件が本病発生に適した場合には、人工にていかに防除をおこなっても、これを阻止しえないことがる。したがって本系統を試作される場合には、特に注意を払って惨害を起こさないようにすることが肝要である。

 

Ⅲ 試験成績

 1. 上川支場に於ける試験成績
  (1) 生育及び収量調査
   イ 直播栽培標準肥区
系統名又は
比較品種名
試験
年次
出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
倒伏の
多少
いもち病の
多少
成熟期に於ける a当
玄米重(kg)
同対比較
比率(%)
玄米
俵数(俵)
精籾
歩合(%)
籾摺
歩合(%)
玄米
L重量(g)
玄米
千粒重(g)
品質
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本)
上育211号 昭 32 8.3 9.19 63 13.0 36 52.15 100.6 8.69 57 83.0 826 21.3  
33 7.31 9.20 63 13.1 35 49.08 92.9 8.18 57 82.7 836 21.3 3等限
34 8.1 9.23 62 14.0 36 53.63 100.3 8.94 56 83.2 827 20.9 4 中
平均 8.1 9.21         13.4 36 51.62 98.9 8.60 57 83.0 830 21.2  
福雪 昭 32 8.4 9.20 69 13.4 35 51.83 100.0 8.64 54 83.3 826 21.6  
33 8.2 9.20 68 13.9 32 51.20 100.0 8.53 54 82.7 840 22.4 4等上
34 8.2 9.25 62 14.2 32 53.49 100.0 8.92 57 83.8 830 21.3 4 下
平均 8.3 9.22     66 13.8 33 52.17 100.0 8.70 55 83.3 832 21.8  

   ロ 移植栽培 標準肥区
    (a) 予備試験に於ける成績
系統名又は
比較品種名
試験
年次
出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
倒伏の
多少
いもち病の
多少
成熟期に於ける a当
玄米重(kg)
同対比較
比率(%)
玄米
俵数(俵)
精籾
歩合(%)
籾摺
歩合(%)
玄米
L重量(g)
玄米
千粒重(g)
品質
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本)
上育211号 昭 30 7.26 9.13     74 17.4 19 47.00 110.4 7.83 57 80.6 803 23.2 中上
31 8.6 9.26 67 14.9 21 45.84 118.1 7.64 58 81.9 830 20.6 中中
平均 7.31 9.19 71 16.2 20 46.42 114.1 7.74 58 81.3 817 21.9  
農林20号 昭 30 7.23 9.7 83 18.2 15 42.59 100.0 7.10 55 80.4 809 23.1 上下
31 8.4 9.18 75 16.3 16 38.81 100.0 6.47 49 81.7 830 20.2 中下
平均 7.29 9.12     79 17.3 16 40.70 100.0 6.79 52 81.1 820 21.9  
  註  1. 播種期  昭和30年は4月27日    同31年は4月26日
     2. 移植期  昭和30年は5月26日    同31年は5月25日
     3. 栽植密度  昭和30.31年共に30cm×15cm(2本植)
       なお昭和30、31年度は福雪を供試していない。

   ハ 移植栽培  中肥区
    (b) 本試験に於ける成績
系統名又は
比較品種名
試験
年次
出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
倒伏の
多少
いもち病の
多少
成熟期に於ける a当
玄米重(kg)
同対比較
比率(%)
玄米
俵数(俵)
精籾
歩合(%)
籾摺
歩合(%)
玄米
L重量(g)
玄米
千粒重(g)
品質
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本)
上育211号 昭 32 7.31 9.18 70 16.4 26 55.46 109.5 9.24 57 81.7 790 21.1  
33 28 18 67 16.2 23 53.67 102.0 8.95 59 82.3 840 21.6 4等上
34 29 25 70 27.7 22 56.06 100.0 9.34 59 81.9 838 21.1 4 中
平均 7.29 9.20       69 16.8 24 55.06 103.7 9.18 58 82.0 823 21.3  
福雪 昭 32 8.3 9.20 75 16.8 22 50.66 100.0 8.44 54 83.7 820 21.0  
33 7.29 19 70 16.4 22 52.60 100.0 8.77 54 81.3 832 22.0 4等中
34 29 25 やや少 74 18.1 22 56.04 100.0 9.34 58 81.7 828 21.2 4 中
平均 7.31 9.22     73 17.1 22 53.10 100.0 8.85 55 82.2 827 21.4  
  註  1. 播種期  昭和32年33年は4月24日    同34年は4月22日
     2. 移植期  昭和32年は5月22日    同33年は5月25日   同34年は5月22日(2本植)
     3. 栽植密度  昭和32、33年共に30cm×15cm  同34年は33.3cm×15cm
       なお昭和30、31年度は福雪を供試していない。

   ニ 移植栽培  多肥区
系統名又は
比較品種名
試験
年次
出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
倒伏の
多少
いもち病の
多少
成熟期に於ける a当
玄米重(kg)
同対比較
比率(%)
玄米
俵数(俵)
精籾
歩合(%)
籾摺
歩合(%)
玄米
L重量(g)
玄米
千粒重(g)
品質
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本)
上育211号 昭 32 8.1 9.20     68 16.7 29 49.39 95.3 8.23 54 81.7 790 21.3  
33 7.29 20 70 16.6 26 54.51 100.7 9.09 57 80.7 820 21.4 4等中
34 30 28 71 17.8 24 58.08 102.2 9.68 58 81.0 824 21.3 4 中
平均 7.30 23  無  やや少 70 17.0 26 53.99 99.5 9.00 56 81.1 811 21.3  
福雪 昭 32 8.2 9.22 78 17.1 24 51.83 100.0 8.64 52 84.0 828 21.6  
33 7.30 20 73 16.0 26 54.12 100.0 9.02 54 82.3 824 21.3 4等中
34 7.31 28 76 18.0 24 56.81 100.0 9.47 54 83.0 830 20.7 4 下
平均 7.31 9.23     76 17.0 25 54.25 100.0 9.04 53 83.1 827 21.2  

 

  (2) 特性調査 
系統名又は
比較品種名
熟期 草型 玄米 障害抵抗性
長さ 強弱 長さ 粒着 多少 長短 ふ先色 形状 大小 色沢 腹白 耐病 耐冷 倒伏
上育211号 早生 穂数 やや短 やや密 黄白 普通やや良 中やや弱 強~やや弱
福雪 普通中 やや多

 

  稲熱病耐病性検定試験
   穂首・節稲熱病の部(自30年~至34年)
        年次
品種又は
系統名
昭和30年   31年   32年   33年   34年  概評
上育211号 やや多 中~やや多 やや多 やや弱
農林34号 やや少
福雪
  註  1. 本試験は多窒素栽培による稲熱病検定試験である。
     2. 施肥は標準肥料の5割増(窒素)とした。追肥1/10陌当5.6kgとした。
     3. 発病誘致法として、硫安の追肥、早期落水、罹病性品種の配置及び圃場周囲を葭簀囲いする。

 

  稲熱病の部(自30年~至33年)
        年次
品種又は
系統名
昭和30年   31年   32年   33年  概評
上育211号 やや少 やや少 やや少 やや強
農林34号
福雪 中~やや多
  註  1. 本試験は晩播畑苗代栽培の稲熱病検定試験である。
     2. 施肥(基肥)3.3㎡当 硫安 187g、過石113g、硫加35.7g   (追肥)3.3㎡当硫安18.7gとした。
     3. 発病誘致・畑地晩播・多窒素・罹病性品種の苗床周囲配置。
     4. 播種  30年・31年・32年は7月10日  33年は7月15日とした。

 

  上川支庁管内原種決定試験成績(33~34年平均)
上川支庁管内
町村名
上育211号 福雪   
出穂期 成熟期 不稔歩合 a当玄米量 比率 出穂期 成熟期 不稔歩合 a当玄米量 比率
名寄町 移植 8.3 9.16 20.0 47.51   101.3 8.5 9.20 14.5 46.91 100.0  
直播 8.7 9.17 18.4 44.25 96.6 8.9 9.20 13.5 47.92 福雪の収量は34年比率は34年のみ
風連町 移植 8.3 9.23 14.9 48.11 88.3 8.4 9.25 10.5 54.49  
直播 8.7 9.27 13.1 49.79 100.6 8.8 9.30 10.9 49.50  
中士別 移植 7.31 9.15 15.4 60.00 99.0 8.3 9.19 10.9 60.63  
直播 8.8 9.23 21.0 49.85 94.3 8.7 9.24 13.6 52.86  
上川町 移植 8.4 - 22.2 41.81 105.3 8.9 - 17.1 39.71  
直播 8.11 - 18.4 37.84 98.7 8.12 - 14.6 38.35  
東川村 移植 8.1 9.20 13.8 44.31 98.9 8.5 9.21 16.6 44.85  
直播 8.10 9.25 12.8 47.87 97.3 8.12 9.28 15.9 49.20  
鷹栖村 移植 7.31 9.14 12.7 55.15 98.4 8.1 9.18 9.1 56.04  
直播 8.1 9.14 14.2 54.07 97.2 8.1 9.18 8.1 55.55  
東旭川町 移植 8.1 - 6.5 45.58 94.0 8.1 - 7.7 48.53  
神楽町 移植 - - 11.3 50.31 96.1 - - 12.3 52.34  
- - 11.0 50.61 94.0 - - 11.5 53.82  
美瑛町 移植 8.1 9.14 10.9 55.27 101.9 8.2 9.16 12.8 54.24  
直播 8.9 9.20 12.1 53.41 98.2 8.9 9.23 9.3 54.40  
中富良野村 移植 8.1 9.16 17.1 55.12 103.6 8.2 9.20 14.8 53.28 中肥
8.1 9.15 14.6 53.32 94.2 8.2 9.21 19.2 56.62 多肥