【指導上の参考事項】
北見経営試験農場成績について

北海道立農業試験場北見支場

 

1. 目的及び成果の概要
 北見地方における農業経営は以前より薄荷に大きな比重をおいて行われてきた。試験場より発表指導してきたとおり薄荷耕作は、輪作体系にとり入れた1年薄荷の栽培を有利とするのであるが、当地方においては耕地が5町にみたぬ零細経営から多く構成されていること、しかもその耕地は多く傾斜地を伴い、石礫が多く、深耕、心土耕を不可能ならしめている場合が多い。従って地力には自ら「ムラ」を障子薄荷は地力の高い圃場のみを選んで栽培されるという傾向があり輪作の実施はなかなか滲透しがたい。加えてまた1年薄荷の栽培に当たっては秋期、種根の植付に多大の労力を必要とし、最近のように甜菜などの秋作物が増反されている場合には、労力面から1年薄荷は容易に経営内に入って行かない点を指摘しなければならない。更に種根の更新または購入を積極的に実行しようとしない農家も多くあり、如上の諸条件は、いきおい2年薄荷の存続を許し、ひいては3年、4年またはそれ以上の薄荷連作を行う結果を招いている。そのため近年における薄荷の価格下落に伴う作付の不安定性もさることながら、地力の減耗より生ずるといわれる病害の発生反収の低さなど、薄荷耕作における経営上の不安定は覆うべくもない現状にある。
 かかる現状を打破するため、本経営試験農場は昭和28年に設置され、29年より薄荷を輪作体系にとり入れた穀菽経営の安定をはかりその有利性を実証せんと試みる経営試験を継続して強にいたった。この試験開始以来昭和34年までに6カ年を経過し、農業経営の安定という当初の目標に他逸した物と考えられる。この間において1年薄荷を輪作に組み入れた作付方式と、各作物における耕種法の改善労働力の軽減と配分合理化、反当り収量と農業所得の飛躍的な増大、労働生産性の大幅な向上などの成果をあげた。このことから本経営試験農場は北見地方の特産である。特用作物をとり入れた穀菽経営の生産性の高い合理的な経営方式のあり方を指向していると結論される。

 

2. 経営概況
 34年度の概況は次のとおりである。

 (イ) 土地利用状況
種別 面積(町) 種別 面積(町)
8.70 薪炭備林 4.70
宅地 0.26 樹林地 0.28
経営農用地合計 8.96 貸付地 0.20
植樹地 1.00 所有地合計 15.14反

 畑は沖積土で緩傾斜を伴い面積の約半分はゆるい凹凸があり、表土は15cm前後で、下層土は粘土で直径15~20cmの玉石を含み、表層に現れているところが散在している。耕地としては最適の条件にあるとはいえず、地区内では平均より上位の面積を有してはいるが当地区としてはごく普通の耕地である。

 (ロ) 輪作順序
   輪作区77反(1区7反11年式)自由区10反
1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 9年目 10年目 11年目
亜麻
麦類
(赤クロバー)
赤クロバー
菜豆
 
馬鈴薯 薄荷 菜豆
小豆
麦類
赤クロバー
甜菜 大豆 薄荷 薄荷
燕麦
大豆
 (註) 10区の2年生薄荷は1年生薄荷との対比のため参考上導入
 昭和29~34年の6ヵ年を通じてこの輪作式を基本として一貫している。

 (ハ) 家畜頭数
   昭和28年    34年
乳牛 搾乳 0 3
乳牛 犢 0  
耕馬 2 2
2 5
26 20

 (ニ) 経営者家族
人別 年齢 消費歩合 労働歩合 人別 年齢 消費歩合 労働歩合
主人 44 1.0 1.0 次女 12 0.8 0.1
43 0.8 0.8 三女 10 0.6 -
66 0.6 0.6 次男 8 0.5 -
長男 16 1.0 美幌で勉学中        
長女 14 0.8 0.1 8 6.1 2.6
 未成年者5人を含む家族員8人よりなり消費歩合が大きい割に自家労働力は小さい。

3. 地区の概況(昭和34年)
 本農場は北見市北陽第1地区にあって、下仁頃市外までの距離は約1.5kmである。第1地区は25戸の農家よりなり全耕地は126町で1戸当り5町強である。階層別にみると5町以下のもの16戸で64%を占め、5.1町~9町で36%である。概して経営希望は零細である。
 仁頃周辺の農家の多くは古くから薄荷を秀作としてきており農協支所を経由する地区の農業収入の30%は薄荷売り上げ代金であり、当地区経済の及び農家経済の薄荷に依存する度合いはきわめて高い。従って薄荷の耕作技術改善による反当り収量の増大と経営技術改善や高価格維持による反当り収益の増加が要請されるゆえんである。
 地区の耕地126町のうち薄荷は34%を占めており、最近になって豆類、秋小麦、ビートが薄荷の作付面積を圧迫しているはいっても、薄荷はいぜんとして主作としての地位を失わない現状にある。それどころか農家によっては、耕地6町のうち薄荷を37%栽培している例がある。薄荷は往年の赤円、北進から新品種の万葉に切替えられてからすでに数カ年を経過しているが今なお、低い収量を向上し得ないものが多いといわれる。これは作付方式が不良で地区平均34%に達する薄荷の過度配当が3~4年の連作薄荷のの耕作を招き、無堆肥、無防除、肥料の過少投下が地力維持、管理栽培の各店で均衡を欠くので新品種の性能を十分に発揮し得ない現況にある。

 周辺農家の作付方式と薄荷耕種法(33年)
農家名
(耕地)
A
30反
B
53反
C
40反
D
53反
E
62反
経営試
験農家
作付
反別
(反)
麦類 5 8 6 5 6 4
豆類 5 8 10 8 10 26.5
燕麦 4 5 3 4 8 10
馬鈴薯 3 3 3 4 4 7
ビート 5 5 5 10 10 7
亜麻 - 5 3 - 2 5
クロバー - 5 1 2 - 5
デントコン - 5 - 3 - 1.5
その他 - 3 1 5 1 3
農家名
(耕地)
A
30反
B
53反
C
40反
D
53反
E
62反
経営試験農家
薄荷 7 8 10 8 15 18
1年薄荷 4 8 4 - 8 14
2年薄荷 3 - 6 8 3 4
3年薄荷 4
反当り
施肥量
(kg)
堆肥 18.8 11.3 ビートトップ18.8
(熔燐18.8)
硫安 11.3 15.0 15.0 15.0 15.0 7.5知硝11.3
過石 22.5 22.5 18.8 22.5 18.8 18.8
硫加 5.6 7.5 7.5 7.5 5.6 7.5
魚粕 11.3 7.5 7.5 尿素4.5
防除 行わず 行わず 行わず 行わず 行わず 1~2回
銹病発生の有無 - - 発生
1年薄荷40%
 2年薄荷60%
発生 発生
3年薄荷100%
僅少
薄荷反収(kg) 4.5 5.3 4.0 4.6 1年 5.3
2年 4.2
3年 3.7
1年 6.8
2年 5.3
備考 畑作
専営
田畑兼営
(田4反)
(畑49反)
田畑兼営
(田4反)
(畑49反)
 

4. 期間内に実施した改善策の大網
 (1) 土地改良
  29~33年の春及び秋の余剰労力を利用し次のとおり実施した。
  1) ジープ又はカブトラクターによる7寸深耕及びトラクターによる心土耕を行った。
  2) 同じ期間内の農閑期を利用して排水不良な個所に対し暗渠埋設を行った。
  3) 同じく炭酸石灰を相当部分に施して酸土矯正につとめた。
  4) 下層の粘土より露出する玉石を搬出して障害物の除去につとめた。
 (2) 地力の培養
  1) 試験開始時は緑肥菜種緑肥大豆が有機質の主なものであったが、輪作の推進に伴い、麦類、亜麻に対する全面的なクロバー混播を行い豆科牧草の緑肥化につとめた。
  2) 麦類の増反による麦稈の獲保により堆肥原料を増産した。
  3) ビートトップの鋤込みを薄荷に対して行った。
 (3) 輪作の実行
  1) 当地域の特産である薄荷の反収を向上し、薄荷を安定した作物として農業経営の中に組入れんがために新品種の特性を生かした栽培法すなわち毎年薄荷の畑を更新し、薄荷を
    組入れた輪作形式をたててこれを実施した。従ってこれにより作付方式は自動的に統制され薄荷を主とする作物配当の不安定性を除去しようと試みた。
  2) 輪作による労力配分の改善を試みた。
  3) 農家経済に安定を持たせようと試みた。
 (4) 安全作物品種の選択
  1) 輪作式においては1年薄荷を主とし甜菜、亜麻、馬鈴薯、麦類、飼料作物などの安全作物を衛星作物として配当したが、これらのものはいずれも収量の変異係数が比較的小なるも
    のである。
  2) 安全性の比較的低かった豆類に対しては積極的に安定品種を充当するため新品種を迅速に導入した。
  3) 各作物((イ)、(ロ)共通)の品種は、いずれも安定多収を目指して更新されたが、この点で農試の果たした役割ははなはだ大きかった。
 (5) 生産手段の整備
  1) 各種大農機具を新規に購入し、畜力、動力作業の改善による労働能率の向上をはかった。
  2) その他に小農具の更新にも細心の注意を払った。
 (6) 34年度においては更に一層の経営の安定性を向上させるため乳牛の導入をはかり、今後の有畜経営の足がかりとした。

   
    作付区画の整理

5. 改善策の実施により経営に表れた効果
 (1) 作付方式の合理化 ④表参照
  1. 単位労働当りの耕地面積を拡大するための手段として貸付地の回収を行った。これは29、32年の2回に行われ、まだ2反の未回収地が残っているが作付面積は28年より10反増加
    した。
  2. 試験開始前28年には大豆、ビート、赤クロバー以外のものの作付は相当に不安定であった。薄荷は28年のみをみるとさほどではないが26年においては約30%を占めていた。
  3. しかるに経営試験の期間内においては特殊なもの例えば小豆や自由区のみぶよもぎを除き輪作区における各作物は作付が安定化したことが明白である。なお春小麦は秋小麦
    へ切り替えて多収を目指していることから計画によって減反されているのであり、また大豆は34年にタネバエの被害を受けたために廃耕し、その代わりに菜豆をまいたため大豆の
    減、菜豆の増という一時的な変則となった。
  4. 28年に比し改善された点で特に目立つことは麦類根菜類、亜麻、飼料作物が大きく増反されたことである。このうち麦類は有機質補給と牧草混播に対する要求から増反された。
    また多収の秋小麦が急増したことも大きな原因である。根菜、亜麻の増反は農作業の能率化によって新たに生じた余剰労力を集約作物にむけることができるようになったためとみ
    られる。
  5. 薄荷は1年薄荷が主体となり、28年までみられた床薄荷は消滅し、輪作に組み入れられた薄荷栽培が安定した。(ただし一部に対照のため2年薄荷を小面積存置した)

  作毛作付配分の変化
   (慣行)
28年
作付面積試験期間
29 30 31 32 33 34
秋裸麦 3.0 - - - - - -
春裸麦 - 2.0 - - - - -
秋小麦 3.0 - - 4.0 - - 6.5
春小麦 - 7.0 6.0 4.0 5.0 4.0 2.0
春大麦 - 2.0 3.0 2.0 2.0 - -
麦類計 6.0 11.0 9.0 10.0 7.0 4.0 8.5
豌豆 6.5 - - - - - -
大豆 15.2 14.5 14.3 17.0 14.0 14.0 7.0
小豆 2.6 4.8 4.0 4.0 2.4 2.0 4.0
菜豆 - 4.0 6.0 2.4 5.4 10.5 10.0
豆類計 23.7 23.3 24.3 23.4 21.8 16.5 21.0
馬鈴薯 5.5 10.8 7.0 7.0 7.0 7.0 8.0
ビート 7.0 7.0 7.0 7.0 8.0 7.0 7.0
根菜計 12.5 17.8 14.0 14.0 15.0 14.0 15.0
薄荷 19.0 14.3 16.0 18.0 21.0 18.0 18.0
亜麻 3.2 5.0 5.0 5.0 5.0 5.0 5.0
壬生蓬 - 0.6 1.2 0.8 0.8 1.5 1.5
デントコーン - - - - 2.0 - 2.0
赤クロバー 2.5 2.4 4.7 5.0 5.0 5.0 6.8
燕麦 3.0 5.0 5.0 3.0 7.0 10.0 7.0
飼料作物計 5.5 7.4 9.7 8.0 12.0 15.0 15.8
その他 7.1 2.6 2.8 2.8 2.4 3.0 2.2
貸付地 12.0 7.0 7.0 7.0 2.0 2.0 2.0
計(反) 89.0  89.0  89.0  89.0  89.0  89.0  89.0

 総合作付指数の変化
  慣行
26年 28年 34年
% % %
麦類 11.0 (13.4) 6.0 (7.8) 8.5 (9.7)
豆類 10.0 (12.2) 23.7 (30.8) 21.0 (24.2)
根菜類 10.5 (12.8) 12.5 (16.2) 15.0 (17.3)
薄荷 24.0 (29.3) 19.0 (24.9) 18.0 (20.7)
亜麻 3.0 (3.6) 3.2 (4.2) 5.0 (5.8)
壬生蓬 8.5 (10.4)     1.5 (1.7)
飼料作物 8.0 (9.8) 5.5 (7.1) 15.8 (18.1)
その他 7.0 (8.5) 7.1 (9.2) 2.2 (2.5)
 82.0  (100)  77.0  (100)  87.0  (100)

 (2) 農作物収量の増加
  各作物の反収は次表のとおり春大麦を除きいずれも大幅に増加した。
  1) 薄荷は28年の3年目赤円に比し大きく増収しているがなお万葉としての特性を充分に発揮しているとはいえないから、収量の安定性を一段と強化すべきであろう。また一部に残る
    2年薄荷は、対照的に栽培したのであるが、1年薄荷の方が2年薄荷より収量が高く、労働投下量はほぼ同じであるから労働の生産性は1年薄荷の方が高く、1年薄荷の有利性を実
    証した。
  2) 豆類は32年度以降急激に増収し、しかも安定性が大きくなったが、小豆のみはいぜんとして不安定である。
  3) 麦類は春大麦を除き、春小麦、秋小麦ともに安定した収量をあげている。春小麦の現在品種としては限界の多収をえたと思われるが、他作物に比較して収入は低い。従って秋小
    麦をもって、これに代わる方法をとった。燕麦もまたきわめて多収かつ安定した収量をうるにいたった。
  4) 根菜類のうち馬鈴薯は試験開始当初に比較し大きく増収した。ビートは当初より相当増収したとはいえ栽培法の改善によってなお若干の増収が可能である。 
  5) 亜麻は安定した伸びを示すが、一段と安定性を強める必要がある。
  6) 飼料作物はクロバー、デントコーンとも大幅に増収し土地の経済に役立っている。
  7) みぶよもぎは自由区小反別のみの契約栽培であるが、収量の変異係数が大きいけれども多少の増収傾向を示している。

 作物別反当り収量(年次別)   指数(%)
    年次
作物名
28 29 30 31 32 33 34 平均 同俵数
春小麦 - 88 98 107 82 110 115 100 3.65
春大麦 -   126   110 90 74 - - 100 5.00
燕麦 - 82 89 103 92 102 120 100 8.73
大豆   110 47 100 67 123 123 133 100 3.61
小豆 156 9 85 4 85 152 210 100 2.24
菜豆   56 127 65 84 118 140 100 3.22
馬鈴薯 80 94 90   111 90 97 37 100   47.33
甜菜 103 72 103 70  124  109  117 100  2941
薄荷 31   88  132 92   105   140   112   100 4.56
亜麻 94 71 81 118 120 94 121 100 4.84
壬生蓬 - 10 125 70 129 31 125 100 3.49
デントコーン - - 91 - 111 98 100 100 5993
赤クロバー - 72 79 70 131 120 127 100 4147
秋小麦 - - - - - - - - -
春裸麦 - 3.2 - 3.2 - - 7.4 - -
 備考   反収   26年(1年赤円)5.0kg
             27年(2年赤円)1.8kg
             28年は3年赤円

 (3) 農業労働の合理化
  労働は成年男子1人当りの換算数字で時間数を示した。
  1) 作物別反当り所要労働の軽減(次図参照)
   29年より34年はビート、大豆、燕麦は若干所要労働が増加したほかはどの作物も多少とも労働を軽減した。特に薄荷は連作赤円に比し1~2年万葉が著しく省かされた。これは作業
   別に見れば明かなとおり中耕除草の大幅な軽減によるもので、本農場においては薄荷の前作物に抑草効果の高い馬鈴薯及びデントコーンを選定している。しかし32年の万葉(1年)
   (ロ)の場合のように小麦、クロバーを前作とし、しかも排水不良地において1年は薄荷といえども省かされない。

 作物別反当り所要労働(時間)
  29 34
薄荷(1年)  139.0   81.7
(2年) - 81.4
甜菜 57.4 62.7
亜麻 88.4 77.8
馬鈴薯 41.0 36.8
菜豆 34.2 22.0
大豆 36.2 42.9
小豆 35.2 31.9
春小麦 37.6 36.9
燕麦 41.1 45.2
秋小麦 - 48.1

 (薄荷)
  28 29 32 34 備考
連作赤円 経試   135.8 - - -  
 〃    慣行 (153.6) - - -  
1年 万葉 - 139.0 (イ)75.6
(ロ)115.4
  81.7 前作物は29年甜菜、小豆馬鈴薯
      32年 (イ)馬鈴薯、大豆
          (ロ)小麦、クロバー
      34年 馬鈴薯、大豆
2年 万葉 - - 60.1 81.4  

 作業別反当り所要労働
   堆肥運搬
散布
耕起 整地 植付 追肥 補植 中耕
除草
管理 収穫
乾燥
蒸溜 収納 前作物
28年 (連作赤円) 6.5 3.8 1.5 - 2.0 - 89.0 - 20.9 9.2 2.1       135.8 薄荷
34年 1年万葉(イ) 1.4   2.0 1.1 10.3   0.9 6.8  15.4   0.8   22.8 14.4   4.0   77.9 大豆
1年万葉(ロ) 3.0 1.3   1.1  14.0 0.6  10.7 16.7 1.1 24.6  11.2 1.2   85.5 馬鈴薯
2年万葉(ハ) 1.9 1.4 0.3 0.4 0.5 - 22.7 1.4 19.3 29.0 4.5   81.4 はっk

  2) 畑作月別労働配分の変化(次図参照)
   34年は新設計に伴う区画変更などに関係しいきおい畑作労働がかさんだがそれでも28ねんよりは相当低くなっており、特に5、6月の労働軽減が明らかで6~8月の動労の変化も無視
   出来ない。
   32年においては特にその差が顕著である。また28年になかった4月下旬の畑作労働が32、34年とも新たに生じ播種作業の早期化がみられる。このことは亜麻、ビート、春小麦などの
   増収にある程度役立つたものと考えられ、またこれに引き続いて行われる5月の労働に好ましい連鎖反応を与えたとみてよい。


 畑作月別労働配分の変化

 (4) 農家経済面の効果確認
  1) 労働生産性の向上
   次表に示すとおり農業支出よりも農業収入の増加率が大きく試験開始前である28年に比し各年とも着実な農業所得の伸長を見せた。因みに31年は各農家とも冷害凶作のため甚大
   な経済的打撃を受けたのであるが、農業所得が28年よりも67%上回ったことは本農場の作付及び経営方式が冷害に対する大きな抵抗性をもつこと実証するものにほかならない。
   そして単位土地面積当り農業所得が28年には2787円しかなかったものが今では、11491円となっているのである。しかも労働生産性は28年327円に比べ、4倍強の1318円となったこと
   は高度の収益性を示すものである。(註 収入と支出は現金部門のみとした)
  2) 資産の増加、負債の減少
   14表に示すとおり相当な現金準現金、の増加となり、一方では系統機関よりの借入金及び未払い金が大幅に減少して経済に安定性を添えている。

          年次
種類
28年 29年 30年 31年 32年 33年 34年
農業
収入
(販売)植産  530700  755324  832264  669911  843105  936916  1329300
(販売)畜産 40660 74821 57506 58440 31312 36231 224834
571360 840145 889770 728351 874417 973147 1554134
農業支出 356740 363935 408999 370652 451066 484641 554404
農業所得
214620 391389 423265 357699 423351 488506 999730
(比率) (100) (182) (197) (167) (197) (228) (466)
反当り農業所得 2787 4772 5162 4362 4866 5571 11491
労働者1人の農業所得 89425 139781 151166 123368 141117 162335 384511
労働生産性
(1人1日当り農業所得)
327 708 733 642 669 744 1318
(比率) (100) (220) (224) (196) (205) (228) (403)
耕地面積 77 82 82 82 87 87 87
労働力(人) 2.4 2.8 2.8 2.9 3.0 3.0 2.6
農業労働時間 6547 5530 5771 5569 6324 6564 7584
(備考) 農業
労働
の内訳

5604 4587 4712 4431 4353 4847 4981

943 943 1059 1138 1971 1717 2603
家畜頭数 2 2 2 2 3 2 2
0 0 0 1 1 2 3
2 2 3 4 6 5 5
0 0 0 1 1 0 0
26 28 35 15 40 15 20
サイロ 0 0 0 0 0 0 大 1
小 2

 経営費の変化
   年次
費目
試験開始前 試験
開始年
2年目 3年目 4年目 5年目 6年目
26 27 28 29 30 31 32 33 34
土地改良 - - - - 5040 15450 2250 21750 -
建物 3310 310 260 21253 1200 33 2165 35 5735
農具 6706 12190 6780 7340 8283 15125 11927 17177 10265
種苗 5810 12320 31640 26810 29920 10158 23872 23806 23130
肥料 112580 168680 95360 102350 91365 84760 115804 117231 113463
養畜 12870 28680 42480 34630 21600 14860 41207 28446 59015
消耗品 13740 14600 10850 20250 - 9005 12374 18770 29938
光熱薬剤 29708 11240 6940 12316 24436 28199 23100 29937 33554
雇入労賃 47945 63940 66760 51005 68836 75755 95395 90442 139554*
租税公課 66010 93360 43300 27745 83578 59637 42132 26932 30835
農業保険 - - - 0810 10540 16360 19663 21238 16908
販売運搬 - - - 3858 9259 7248 5007 7063 11592
119270 16350 47780 46568 41724 34062 56170 81808 80523
合計  318399  422410  356740  363935  408999  370652  451066  484641  554404
 備考 ①*34年雇入労賃の大きい理由、34年から常備をやめて臨時人夫としたため支払いはすべて現金で行った。それ以前の年は現物給与が3~4万円に相当する分だけあるが、これ
      を除外してある。それで30年以降の労賃は実質的には大体同じとみてよい。
     ②種苗、肥料費は32年以降安定した額となった。
     ◎収入と支出は現金部門のみをあげた。経営家計部門で使用する現物は各年とも約25万円であるが、これを収支に含めない。

 資産に及ぼした変化
  28年末 34年末
現金
準現金
手持ち現金 20000 30000
預貯金 35245 308760
貸付、未収金  229271 42100
諸、保険掛け金   151350   402530
出資金、有価証券 29000 55600
464866 838990
負債 系統機関借入 165000 70523
個人借入 15000 100000
未払金 56734 -
286734 170523

 北見経営試販売収入の内訳
種別 金額(円) 比率(%)



薄荷 469408 35.3
甜菜 129975 9.8
亜麻 82319 6.2
壬生蓬 45850 3.4
小計 727552 54.7



豆類 208535 15.7
馬鈴薯 176596 3.3
麦類 136790 10.3
その他 79827 6.0
小計 601748 45.3
合計   1329300    100.0

 (6) 北見経営試験農場の技術体系の適用範囲と今後の問題点
  網走支庁管内における薄荷を主作とする地帯の農家のうち、5~9町歩の耕地を有し、かつ自家労力2.5~4.0人の場合に適用し得るものと思われる。なお薄荷に代替えし得る特用作物
 及び販売作物が作付方式の中に組み入れられ、これに類似する経営を実施している地帯でも同様に摘要し得るとみられる。この地帯は網走支庁管内としては北見内陸及び斜網群の
 地帯である。しかし本経営試験成績にも明かなとおり、1年薄荷栽培における秋期労働(収穫、種根採集、植付力)と最近増反傾向にある甜菜収穫労働との競合の解決が新たな問題とし
 て提起される。
  本経営試験農場においても、かかる経営労働の年間配分の合理化及び地力対策の一層の強化を課題として乳牛部門の導入により経営組織の高度化に着手した段階である。