【普及奨励事項】

菜種「MR1号」について

北海道農業試験場作物部  住田哲也

Ⅰ 来歴
 昭和29年、厚田郡厚田村毛蕾で栽培されていた岩内の集団中より優良個体を選抜し、系統を育成したものである。昭和30年より北海道農業試験場において、特性調査を行い、さらに昭和32年以降3ヵ年にわたり道内試験機関において生産力検定試験を行い、同時に現地試験により地方的適否の検討をくわえてきたものである。

Ⅱ 特性の概要
 1. 形態的特性: 草型はⅣ型(主茎の発達が旺盛で第1次分枝は稀に主茎の基部に発生し、秋播性程度が高い)で、越冬前の葉色は濃緑色を呈し、葉縁におおくの細かい次刻を有す
            る。生育はきわめておおせいである。長稈で分枝の発達が良く枝稈は太く、とくに強剛で倒伏し難く、草状が良好である。
            莢はきわめて長く、1莢結実数がおおい。子実はハンブルグ1号より小さく中粒であるが、黒色整粒で良質である。
 2. 生態的特性: 秋播性程度はきわめて高く、抽苔も遅く、成熟期は、ハンブルグ1号および岩内に比し道南地方では5~6日おくれ、道南以北になるにしたがいおくれの差は縮少し、石
            狩地方では、岩内より2~3日、ハンブルグ1号より4~5日遅れである。常に耐冬、多収性を示し菌核病抵抗性も強いので適応性が広い。含油率も高く49.27%を示す。

Ⅲ 普及上の注意
 本系統は分枝の発達が良く、枝稈がとくに強剛なので倒伏しやすい地帯および多肥栽培に適する。また菌核病抵抗性が強いので道南地方の同病多発地帯では、とくに本系統とおきかえるほうがよい。また本系統よりも3~8日早熟な北系87号および岩内と組合わせて栽培することは収穫適期の幅のきわめて狭い葉種の収穫労力配分上有効である。自家採種は交雑のおそれがおおいので、公共機関の生産種子で更新する必要がある。なお、収穫適期を逸しないことが大切である。じゅうらいの栽培品種岩内の約1/2を本系統とおきかえたい考である。
 本系統は中粒で含油率が高いので良質子実の出荷の意味から好ましい。耐冬性は岩内程度であるからじゅうらいどおり冬枯防止対策には注意を要する。

Ⅳ 試験成績
 1 北海道農業試験場作物部
  1) 特性調査成績
  系統および標準
(比較)品種名
抽苔期
(月日)
開花期
(月日)
成熟期
(月日)
草型
冬枯
歩合(%)
草丈
(cm)
総分
枝数
穂長
(cm)
1穂
莢数
莢長
(cm)
1莢
結実数
子実
1L重(g)
1000
粒重(g)
粒色 粒丈
(mm)
粒丈の
整否
含油率
(%)
RM1号  5.10 5.26 7.29 21.8 160. 5 36 14 7.4 16 652 4.8 1.93 49.27
(標準)ハンブルグ1号 5.6 5.23 7.25 24.8 146 5 31 14 5.7 10 661 5.6 黒褐 2.00 不整 48.71
(比較)岩内 5.6 5.23 7.26 21.5 138 5 33 15 5.3 10 656 5.3 黒褐 2.04 49.18
 備考 1. 標準栽培  昭和31~34年度の4カ年平均、ただし含油率は昭和34年度
     2. MR1号    昭和31年度は「特性に関する調査」の成績

  2) 収量調査成績

  系統および標準
(比較)品種名
10a当り子実重量(kg) 同左対標準比率(%)
昭32 昭33 昭34 平均 昭32 昭33 昭34 平均
RM1号 203.6 252.8 216.0 224.1 110 114 121 115
(標準)ハンブルグ1号 184.8 221.1 178.9 194.9 100 100 100 100
(比較)岩内 199.6 273.4 224.2 232.4 108 124 125 119

  3) 施肥量による特性検定試験成績
  系統および標準
(比較)品種名
標準栽培 多肥栽培(標準肥量の倍) 少肥栽培(標準肥量の5割減)
10a当子実重量(kg) 同左対
標準比率
10a当子実重量(kg) 同左対
標準比率(%)
10a当子実重量(kg) 同左対
標準比率(%)
昭33 昭34 平均 昭33 昭34 平均 昭33 昭34 平均 昭33 昭34 平均 昭33 昭34 平均 昭33 昭34 平均
RM1号 340.2 184.4 262.3 157 105 131 319.0 256.4 287.7 113 126 120 223.6 187.6 205.6 128 132 130
(標準)ハンブルグ1号 217.1 176.1 196.6 100 100 100 281.6 203.7 242.7 100 100 100 175.1 141.7 158.4 100 100 100
(比較)岩内 256.0 220.4 238.2 118 125 122 316.8 221.1 269.0 113 109 111 224.4 177.9 201.2 128 126 127

2  道内試験機関における試験成績
 1) 北海道立農業試験場空知支場
    生育ならびに収量調査成績
系統および標準
(比較)品種名
抽苔期
(月日)
開花期
(月日)
成熟期
(月日)
草型
冬枯
歩合(%)
草丈
(cm)
総分
枝数
穂長
(cm)
1穂
莢数
莢長
(cm)
1莢
結実数
 MR1号 5.7 6.3 7.29 33.8 140 5 35 19 7.8 16
(標準)ハンブルグ1号 5.3 5.30 7.26 33.0 134 6 33 22 6.4 12
(比較)岩内 5.5 5.30 7.28 32.9 131 6 34 25 5.9 11
系統および標準
(比較)品種名
1000
粒重(g)
 子実
1L重(g) 
10a当子実重量(kg) 同左対
標準比率(%)
昭32 昭33 昭34 平均 昭32 昭33 昭34 平均
MR1号 4.8 656 196.7 287.6 242.8 242.4 111 121 110 114
(標準)ハンブルグ1号 5.4 660 177.4 238.4 220.6 212.1 100 100 100 100
(比較)岩内 5.4 656 202.0 258.0 269.2 243.1 114 08 122 115

  2) 北海道立農業試験場原々種農場
     生育ならびに収量調査成績
  系統および標準
(比較)品種名
抽苔期
(月日)
開花始
(月日)
成熟期
(月日)
草丈
(cm)
総分
枝数
1000
粒重(g)
子実
1L重(g)
品質 10a当子実重量(kg) 同左標準
対比率(%)
昭32 昭33 昭34 平均 昭32 昭33 昭34 平均
MR1号 5.16 5.25 7.27 140 6 5.0 653 19.7 29.3 22.8 23.9 125 127 107 120
(標準)ハンブルグ1号 5.13 5.22 7.25 128 5 5.7 660 15.7 23.1 21.3 20.0 100 100 100 100
(比較)岩内 5.13 5.22 7.24 126 5 5.5 650 稍良 19.2 24.7 25.0 23.0 122 107 117 115
備考 昭和32~34年度平均、ただし抽苔期は昭和32年度、品質は昭和33年度

  3) 北海道立農業試験場岩宇園芸試験地
     生育ならびに収量調査成績
  系統および標準
(比較)品種名
抽苔期
(月日)
開花期
(月日)
落花終
(月日)
成熟期
(月日)
草丈
(cm)
総分
枝数
莢長
(cm)
1莢
結実数
子実
1L重(g)
1000
粒重(g)
菌核病
被害茎率
(%)
10a当子実重量(kg) 同左対
標準比率(%)
昭33 昭34 平均 昭33 昭34 平均
MR1号 5.3 5.28 6.11 7.25 172 9 10.8 28 646 5.2 8.5 367 322 345 120 109 115
(標準)ハンブルグ1号 5.2 5.25 6.5 7.20 156 12 7.7 23 642 5.6 14.0 307 296 302 100 100 100
(比較)岩内 5.2 5.25 6.5 7.19 155 10 7.5 28 649 5.4 23.5 320 372 346 104 126 115
 備考 昭和33~34年度平均、ただし落花終、莢長、1莢結実数、1000粒重は昭和33年度

  

  4) 北海道農業試験場作物部作物第4研究室(島松)
     生育ならびに収量調査成績
  系統および標準
(比較)品種名
開花期
(月日)
成熟期
(月日)
草丈
(cm)
総分
枝数
穂長
(cm)
1莢
結実数
1000
粒重(g)
粒色 10a当
子実重量(kg)
同左標準
対比率(%)
MR1号 5.24 7.28 139 4 36 20 5.1 黒褐 126.5 103
(標準)ハンブルグ1号 5.18 7.23 137 4 32 13 5.8 黒褐 122.3 100
(比較)岩内 5.20 7.26 129 5 42 15 5.6 黒褐灰 135.3 111
 備考 昭和33年度

 3 現地試験成績
  1) 昭和33年度成績
試験施行
箇所
  系統または
品種名
抽苔期
(月日)
開花期
(月日)
落花終
(月日)
成熟期
(月日)
冬枯
歩合(%)
草丈
(cm)
総分
枝数
穂長
(cm)
莢長
(cm)
子実
1L重(g)
粒大の
整否
子実の
光沢
10a当子実
重量(kg)
同左対
標準比率(%)
空知郡
栗沢町
MR1号 4.29 5.21 6.16 7.25 4.7 151 6 19 8.9 668 稍整 303.0 119
(標準)
ハンブルグ1号
4.22 5.14 6.12 7.21 1.8 134 5 12 6.5 671 稍整 255.0 100
(比較)岩内 4.30 5.15 6.12 7.22 6.3 135 6 18 6.4 664 稍整 309.3 121
空知郡
栗山町
MR1号 5.22 8.1 190 8 713 310.0 129
(標準)
ハンブルグ1号
5.16 7.27 172 9 684 240.1 100
(比較)岩内 5.16 7.29 154 7 690 310.0 129

  2) 昭和34年度成績
試験施行
箇所
  系統または
品種名
抽苔期
(月日)
開花期
(月日)
落花終
(月日)
成熟期
(月日)
草丈
(cm)
穂長
(cm)
第1次
分枝数
総分
枝数
1穂
莢数
1莢
結実数
1000
粒重
(g)
子実
1L重
(g)
10a当
子実
重量(kg)
同左対
標準
比率(%)
冬枯
歩合
(%)
瀬棚郡今金町
(道立原種農場)
MR1号 5.21 6.5 6.23 7.30 191 51 9 9 24 661 208.3 99
(標準)
ハンブルグ1号
5.12 5.29 6.18 7.24 175 47 10 11 30 663 210.7 100
(比較)岩内 5.14 5.31 6.20 7.25 165 48 10 11 33 659 195.7 93
川上郡美瑛町
(道立原種農場)
MR1号 5.18 6.7 6.29 8.1 156 43 3 3 12 15 4.7 644 220.2 132 1.5
(標準)
ハンブルグ1号
5.12 6.2 6.25 7.30 142 39 3 3 14 12 5.3 653 167.1 100 2.5
(比較)岩内 5.17 6.6 6.30 8.3 138 42 6 7 19 13 4.9 649 211.5 127 40.0

 4. 試験施行箇所におけるMR1号の10a当り子実重指数
   標準品種ハンブルグ1号