【普及奨励事項】

昭和35年度に発生したおもな病害虫と今年注意すべき病害虫について

北海道立農業試験場 病虫部

Ⅰ. 気象経過と作況の概要

 昭和35年度農期間の天候を概括すると、春季には低温不順がちで、夏季には高温好晴の日がおおく、秋季は平年並に経過し、総体的にはやや順調に終始したものといえよう。この間、作況は春季には一般に不良で各作物とも遅延が目立ったが、その後の回復状態は良好で水稲は空前の豊作となり、畑作物は乾燥気味のため、いずれもやや遅れ気味ではあったが、だいたい平年なみとなった。

Ⅱ. 病害虫の発生ならびに概況

 病害はやや少なく、害虫がやや目立つ傾向を示した。すなわち、平年を上回る害虫としてはイネヒメハモグリバエ、ニカメイチュウ、イネハモグリバエ、イネカラバエ、アワヨトウ、ムギクロハモグリバエ、フキノメイガ(小豆)、アワノメイガ(玉蜀黍)、アカザモグリハナバエ(甜菜)、ヨトウガ、ツメクサガ、マメシンクイムシ等かなりその種類はおおく、とくに、イネヒメハモグリバエはところにより、昭和29年の大発生にも比すべき発生が認められたが、早期防除により著害を阻止し、また、ニカメイチュウも前年を上回る多発をしめしたが、これもおおせいな防除活動と防除期の好晴により同様著害を免れることができた。しかし、アワヨトウはその突発的でしかも広範な大発生に加えて多発に対する未経験により、登熟末期における水稲に対し被害を増大した。
 病害ではイモチ病が、分けつ期前後まで軟弱に生育していたため、7月下旬~8月上旬、一時激発を危ぶまれたが大過なく終熄した。しかし前3年にくらべると葉イモチ、頸イモチとも局部的にはややいちじるしい地域が散見された。また、馬鈴薯疫病は6月下旬~8月上旬、いちじるしい多雨もなく、むしろ乾燥がちであって発生は遅れて少なく、近年にない寡発となった。しかし、例年少なかった麦雪腐病は凍害を併発してかなりの激発を示した。
 その他畑作病害として麦黄銹病、甜菜褐斑病、大豆葉焼病、小豆銹病、リンゴモニリア病等が激増していることは注目すべきである。

Ⅲ. 本年とくに注目すべき病害虫と、その注意事項

 1. ニカメイチュウ
  前年の初発は平年よりやや遅れたが7月中旬より急増して下旬末やや遅れて最盛期となり、そのごもかなり永く続いて終熄期も平年より遅れたため、被害期間が1週間内外ながびいた。さいわい、早期よりこのことを予想して体制を整えて防除にあたったため、著害を免れたが、局部的には白穂等被害茎が目立った。
 本年も前年の越冬量等よりみて前年なみの発生が予想されるので警戒が肝要である。
 (1) 防除適期決定ぼ等の誘蛾状況に注意し、発蛾盛期の把握につとめること。
 (2) 春季好晴であると越冬虫の活動をすみやかにし、ひいては発生量を高め、最盛期を早めることになるから、気象予報に注意し、初期の本虫活動状況を十分に把握すること。
 (3) 前年同様防除態勢を早目に整えておくこと。(一応2回防除を目標とすること)

 2. イネハモグリバエ
 前2年よりやや多目となった本虫はその2化期の被害が道央部に目立ったが、1化期の発生も少なかった。すなわち、1化期がイネヒメハモグリバエの防除によって阻止できたための油断によるものと思われる。本虫はやや低冷なばあいに多発し、32~35年はどちらかといえば低めの年であった。したがって本年も長期予報等に注意して警戒することが肝要である。
 (1) 被害は1化期は6月早々、2化期は7月早々に発生するが、とくに春季不順の場合には被害がおおきくなるから、あらかじめ防除態勢を整備しておくこと。
 (2) 防除薬剤はBHC3%粉剤、EPN粉剤等を10a当り3kg散布すること。
 (3) 発生地域は上川、空知地方が中心となるが、近接する諸地方も十分の注意を要すること。
 (附) イネヒメハモグリバエ
 前年多発したので本年も十分に警戒を要するが、本虫については、早春雑草上の発生状況を観察し、気象予報に留意し、例年同様、早期に防除するよう努めること。

 3. イモチ病
 前年の発生はとくにおおいとはいえないが32年以降もっともおおい発生がみられた。しかも、節イモチがおおかったので越冬菌の量は意外におおいことが予想されるので本年も油断なく十分の防除態勢の整備が肝要である。
 (1) 防除適期決定ほ等を中心にして早期発見に努め、初期発生を完全に抑えること。
 (2) 多肥栽培の傾向がほぼ限界点に達しているといわれているので、合理的な施肥に努めること。

 4. ヨトウガ
 前年は1化、2化ともに多目であったが、発生地域にはムラがおおく、また、ヨトウガと混生または誤認されたカブラヤガ、シロモンヤガ、あるいはツメクサガ等も地域差はあるが平年より多目のところが散見されている。一般には1化期よりは2化期の被害が目立っているので、本年度もそれらの害虫に対して、十分に注意を要する。
 (附) アワヨトウ
 前年は本虫の2化期が全道的に以上多発し水稲の被害が甚大であったが、1化期も西南部の畑作地帯では地域的にかなりの発生があった。前年秋季の調査では蛹の形で越冬に入ると思われる量は畦畔その他において夥しい量に上がっていた。
 本年は果たして前年のような多発生となるか否かは不詳であるが厳重な警戒が必要である。
  a 1化期の発生被害に注意し防除に努めること。
  b 2化期は遅くとも8月下旬には被害が発生するから、幼令期のうちに発見して防除すること。
  c 防除は作物のみならず、圃場の近辺についても実施を要すること。
  d 防除薬剤、DDT粉剤、EPN粉剤、パラチオン剤等をもちいること。

 5. 甜菜褐斑病
 本病は導入系品種の栽培によって軽少に終始してきたが、2.3年前よりそれらの品種にも発生が認められるようになり、漸次増加して前年はところによりかなりはげしい被害圃が散見されるようになったので、今後はその耐病性に頼ることなく、防除を実施しなければならない。
 (1) 防除適期は地域的に若干異なるが8月中下旬頃までに両3回の防除を要する。
 (2) 防除薬剤、各種の銅水和剤がいずれも効果に差異なく、10a当り140~160Lの散布が適当である。
 (3) 耐病性の低い家畜ビートなどに対して防除の徹底を期すること。