【普及奨励事項】

はつか優良品種「大葉」の特性について

北海道農業試験場作物部
北海道立農業試験場北見支場

 

Ⅰ 試験目的
 昭和35年に優良品種になった「大葉」(前年の27-104の名称)は、その特性の概要、商品価値、などについては、明らかにされたのあるが、さらに栽培上における特性や「万葉」との栽培的特性の差異を究明し、普及上の資料を得る。

 

Ⅱ 栽培的特性の概要(試験結果の考察)
 生草収量は種根量と畦巾とに有意差があり、種根量が多く、畦巾が狭くなるにしたがって、明らかに生草収量が増する。1.7万本/10aまでは、増加率は高いが、それ以上になると著葉数の減少や倒伏の増加などによって緩慢になる傾向がある。本数増加にともなう収量の増加率は、「万葉」が急増するのに比し「大葉」は比較的緩慢で、とくに栽植本数が少ない場合における両品種の収量の増加率の開差は大きく収量生向の限界本数は「大葉」では2.8万本/10a(5/3cm本)なるに対し「万葉」では3.9~5.0万本/10a(7~9本/3cm)前後と推定される。
 このように「大葉」は「万葉」に比較して栽植本数が減少した場合でも減収率が少なく、少ない本数で収量向上の下限が現れることになる。
 統計的有意差はないが多肥栽培すると一般に生葉量が多くなる傾向を示す。「万葉」「大葉」とも、N2.5~P6.7~K5.0kg/10a(要素量)で最高収量を示したが、「万葉」はN3.5~P3.3~K2.5kg/10aでも、ほぼ同種度収量が得られ、「万葉」が肥料に対して鋭敏であるのに比し、「大葉」は肥料の増施による収量の増加率は小さく鈍感であることが推察された。
 さらに「大葉」の生草収量は、施肥が同量の場合「万葉」よりも10%前後多く、N7.5~P6.7~K5.0kg/10aの場合の地上部の吸収量はN12.0~P2.9~K16.1kg/10aであったのに比し「万葉」ではN6.9~P1.7~K9.3kg/10aに過ぎなく、3要素吸収量がいちじるしく多いことを示した。施肥量が多く疎植した場合には、葉数は多いが倒伏の被害が大きく、畦巾を広くした場合にも同様の傾向を示す。
 つぎに取卸油の収量は、種根の植付量が多く密植するにつれて明らかに増加し有意差が認められたが、畦巾も広いより狭い方が収油量が多い傾向を示す。また施肥量については1/2肥よりも標準肥料は一般に収油量が多く倍肥の場合は倒伏が大きく標準肥料よりも劣ったが倒伏などによる収油量の変異が大きかったので施肥量間の収油量差は明確な傾向が認められなかった。
 つぎに銹病についてであるが、無防除の場合は「大葉」「万葉」ともに初発生の時期には大差がないが、蔓延性は「大葉」の方が、やや早いようである。防除区と無病除区との収量差は「万葉」においては判然としておるが「大葉」では、それほどでない。これは「万葉」では被害葉が容易に脱落するのに比し「大葉」では落葉しにくいことに関連するものとみられる。

 

Ⅲ 普及上の注意
 1. 植付量について
  一般農家は栽植密度に対する関心が薄く、「赤円」時代の慣習を脱していないばかりでなく、種根畑を設けているものが少なく、種根の掘取りや植付の労力の関係もあって、種根の植付量がきわめて少なく、80kg/10a、(0.85万本/10a≒畦巾60cm1.5本/3cm)に過ぎない。これが「万葉」の低収と倒伏の大きな原因をなしている。
 「大葉」は約3万本/10aが収量向上の限界であり、疎植した場合でも減収割合が比較的小さく、長稈の割合に倒伏の被害も少ないと考えられるが、一般農家のように80kg/10a程度では「大葉」といえども10~20%の減収はまぬがれないと思われるので、「大葉」の実際栽培における標準本数は2~3万本10a(秋植種根量150~200kg/10a≒畦巾60cm、3~5本3cm)とし、痩薄地や連作畑ではこれより多めの方がよいと思われる。
 「大葉」は「万葉」に比し、種根の生産量もやや多いのに、所要種根量が少なくてすむのであるから、栽植密度の適正化を期することが必要である。「大葉」は種根の生産量が多いといっても、高度の耐冬性があるわけではないから「万葉」と同様、作付面積の10%程度の種根畑を設定することが望ましい。
 なお経営の都合で連作する場合には「大葉」は耐冬性が「万葉」に比しやや強く植付本数が少ない場合には繁茂し過ぎるようになるから「万葉」と同様に5~6本/30平方センチ以上になったら作条設置する必要がある。

 2. 施肥量について
 「赤円」当時の3要素量はN7.5~P7.5~K1.9~3.8kg/10aであったが、連作の関係上、有機物の減耗、要素量の不足を来すことになるので、堆肥、緑肥、魚粕、大豆粕のような有機質肥料を主体とし無機質肥料は補足的に施用されていた。
 「万葉」ならびに「大葉」の試験の結果から、3要素の適量は「赤円」と大差なく、施肥に対する考え方も基本的には変わりはないが、「赤円」に比して、肥料の吸収量が多く晩生なので、堆肥1.1~1.5t/10a、N3.8kg/10a程度では1年はつかではNは少なく、また条栽培によって追肥も容易になったので、堆肥1.1~1.5t/10aの場合のNとしては、基肥として4kg/10a(要素量)を尿素や硫安で施し、生育後期の「肥切れ」防止のため追肥として、N2~4kg/10a(要素量)を硝安やチリ硝石で施す方法が考えられる。
 しかしながら「万葉」に対する農家の施肥量の調査(昭30~34)では、N3.8~P3.4~K2.3kg/10a、堆肥650kg/10aで標準施用量の半量程度に過ぎなく、肥料の種類も硫安、過石、塩加がほとんどで、1年はつかの収量が少ないばかりでなく、連作畑では地力の減退のための収量の低下がいちじるしい実態を示した。このような少肥栽培が行われる原因は、零細な農家での作付が多く、したがって再生産用の資金に乏しく、価格の変動が大きいので、栽培が投機的、粗放掠奪的になりやすいこと、「万葉」では栽植本数が少ない場合に多肥栽培するとかえって倒伏すること、年によっては少肥栽培でもある程度の収量がえられること、N過多の場合にかえって冬損を多くすることなどであろうと推定される。
 「大葉」の肥料の適量は従来の品種とそれほど変わらないと考えられるが「万葉」よりも肥料反応が鈍く、従来の標準施肥量までは収量が増加する傾向があることが明らかに認められ、倒伏の被害も「万葉」ほどでないから、「万葉」に対する標準施肥量(堆肥1.5~2.0t/10a、N6.0~7.5~P5.0~6.5~K2.0~4.0kg/10aと同程度くらいまでに増施することが肝要である。
 「大葉」を少肥栽培しても「万葉」の標準肥料程度以上の収量が得られることが多いが、「大葉」は「万葉」に比して、生草収量がいちじるしく多く収油量は多いが、収油率は低いので、「万葉」の1.5~2.5倍の肥料成分を吸収するため、跡地の地力の減退が大きく、連作畑では「万葉」よりも収量の低下がいちじるしいと考えられる。そこで「万葉」になってからの輪作を主体とした条栽培を一層強化して、できるだけ適当な輪作に組入れるとともに生草重の増加を勘案して堆肥の増投、茎の土地への還元などによって地方の維持増進をはかることが大切である。

 3. 銹病防除について
 「万葉」の育成当時「赤円」などに比較して、銹病の抵抗性が明らかに強かったが、実際栽培されてからは次第に耐病性が弱くなってきている。これは病原菌の生態型が変わったことや、天候が銹病の発生に適したことなどに原因するものと推定される。
 「大葉」の育成地である遠軽試験地においては、選抜育成の年数の経過とともに銹病の発生が多くなってきている傾向があるので、実際栽培に移行した当初は「万葉」よりも銹病に強く、落葉も少ないので防除効果が現れないからといって防除を怠ることは危険だと推定される。
 銹病の薬剤的な防除については「万葉」の銹病の被害の増大にともなって次第に実施されるようになったが、畑の衛生的観念についてはまだ低いようである。すなわち銹病は連作畑栄養不良とくにNの肥切れ、酸性土壌、排水不良などの条件下で多発しやすいのであるから輪作への組み入れ、N肥の追肥や遅効性肥料の施用、石灰や暗渠排水などによる土地改良などを薬剤防除と平行して実施することが必要である。なお、「大葉」は「万葉」とともに晩生種に属し、刈取期の目安となる結蕾期~開花始は大差ないから9月中旬前後のこの時期を標準とし倒伏や銹病などによって落葉が多い際には早目に刈り取る方がよいと思われる。以上を要約すると、
 1) 「大葉」は「万葉」にくらべて、疎植した場合でも減収歩合が少ないだけでなく倒伏もやや少なく、少ない本数で最高収量を示す傾向がある。しかし植付量が少ないと「万葉」ほどではないがやはり減収し倒伏しやすくなるから秋植えの種根は150~200kg/10a(畦巾60cm、3~5本/3cm)は必要である。
 2) 「大葉」は「万葉」に比し肥料の吸収量が強く肥料の増施による増収効果が現れやすいから「万葉」の標準肥程度以上の施肥が肝要である。ある程度の収量が得られるからといって少肥栽培すると地力の低下が大きいと推定される。輪作の一層の強化や、茎の土地への還元などによって地力の維持に努めることが特に肝要である。
 3) 「大葉」は「万葉」よりも耐病性がやや強いが銹病の抵抗性が次第に弱まり多発するおそれがあるから、銹病に対する薬剤防除とともに畑の衛生保持を励行すべきである。

 

Ⅳ 試験成績
 1. 北海道農業試験場作物部
  1) 栽植密度検定試験成績
   a) 生育調査
栽植密度
畦巾-畦長30cm間
品種
草丈
(cm)
枝椏数
(本)
葉数
(枚)
銹病 倒伏 種根重
(㎡当)
60cm-0.5本 万葉 61 41 560 0.46
大葉 90 38 872 0.48
60cm-1本 万葉 61 34 413 0.44
大葉 94 40 609 0.49
60cm-3本 万葉 79 41 370 0.64
大葉 109 32 366 0.55
60cm-5本 万葉 78 36 288 0.50
大葉 111 28 203 0.96
60cm-7本 万葉 81 28 182 0.53
大葉 113 24 141 0.54

   b) 収量調査(10a当)
栽植密度
畦巾-畦長30cm間
品種
生草重
(kg)
乾草重
(kg)
油重
(kg)
割合
(%)
収油率
(%)
採脳率
(%)
60cm-0.5本 万葉 910 224 2.53 100 0.28 66
大葉 2060 487 4.80 100 0.23 59
60cm-1本 万葉 1400 339 4.32 171 0.31 65
大葉 2900 740 6.54 136 0.23 57
60cm-3本 万葉 1800 493 6.33 250 0.33 66
大葉 3300 747 7.39 154 0.22 57
60cm-5本 万葉 1890 521 6.59 261 0.35 68
大葉 3080 864 8.04 168 0.26 57
60cm-7本 万葉 2120 515 7.12 282 0.34 64
大葉 3080 823 7.36 155 0.24 57
 備考 油重の最少有意差(5%)
     万葉0.94kg   大葉1.36kg

 2) 施肥量検定試験成績
   a) 生育調査
10a当施肥量(kg) 品種
草丈
(cm)
枝椏数
(本)
葉数
(枚)
銹病 倒伏 種根重
(㎡当)
N P K
0 0 0 万葉 64 32 226 0.35
大葉 93 34 238 1.14
3.8 3.3 2.5 万葉 76 40 387 .35
大葉 103 32 329 1.08
7.5 6.7 5.0 万葉 79 38 392 0.49
大葉 107 37 411 1.09
11.5 10.2 7.7 万葉 79 39 424 0.41
大葉 103 34 392 0.66
15.0 13.4 10.0 万葉 8.3 41 369 0.61
大葉 102 37 416 0.70

   b) 収量調査(10a当)
10a当施肥量(kg) 品種
生草重
(kg)
乾草重
(kg)
油重
(kg)
割合
(%)
収油率
(%)
採脳率
(%)
N P K
0 0 0 万葉 1510 359 4.40 100 0.29 63
大葉 2480 518 5.26 100 0.21 56
3.8 3.3 2.5 万葉 1960 438 5.66 129 0.29 62
大葉 3290 662 6.29 120 0.19 56
7.5 6.7 5.0 万葉 2080 415 5.72 140 0.28 63
大葉 3620 687 7.03 134 0.19 56
11.5 10.2 7.7 万葉 1910 423 5.51 125 0.29 62
大葉 3410 688 6.86 130 0.20 57
15.0 13.4 10.0 万葉 1830 403 5.41 123 0.30 56
大葉 3430 702 7.02 133 0.20 57
  備考 油重の最少有意差(5%)
      万葉 0.87kg  大葉 1.09kg

  3) 銹病検定試験成績
   a) 罹病度調査(%)
防除 品種
7月10日 7月20日 8月1日 8月11日 8月23日 9月1日
無防除 万葉 0 0 1 4 4 43
大葉 0 0 1 6 13 54
防除 万葉 0 0 0 2 4 29
大葉 0 0 0 4 13 30

   b) 葉数調査(枚)
防除 品種
7月10日 7月20日 8月1日 8月11日 8月23日 9月1日
無防除 万葉 62 88 232 255 266 434
大葉 73 91 202 240 274 370
防除 万葉 65 82 253 267 275 520
大葉 72 96 215 251 284 393

   c) 生育調査
防除 品種
草丈
(cm)
枝椏数
(本)
葉数
(枚)
銹病 倒伏 種根重
(㎡当)
無防除 万葉 68 40 435 0.53
大葉 89 35 370 0.76
防除 万葉 68 43 520 0.68
大葉 92 38 393 0.84

   d)収量調査(10a当)
防除 品種
生草重
(kg)
乾草重
(kg)
油重
(kg)
割合
(%)
収油率
(%)
採脳率
(%)
無防除 万葉 1830 404 5.23 100 0.29 57
大葉 2770 601 6.71 100 0.24 54
防除 万葉 1880 426 6.36 122 0.34 57
大葉 3050 687 7.00 104 0.23 54
  備考 油重の最少有意差(5%)
      万葉 0.96kg、大葉有意性がない。

 2. 北海道立農業試験場北見支場
  施肥量試験
   a) 生育調査
施肥量 種根量
(kg)
畦巾
(cm)
草丈
(cm)
枝椏数
(本)
葉数
(枚)
倒伏 銹病
倍肥 250 100 116 21 421
75 116 20 382
50 114 24 458
150 100 109 22 484
75 116 25 507
50 114 26 451
50 100 112 24 472
75 114 26 586
50 113 22 217
標肥 250 100 113 20 405
75 119 24 492
50 118 23 474
150 100 118 23 426
75 114 20 404
50 118 22 422
50 100 100 22 585
75 110 26 499
50 108 21 531
1/2肥 250 100 118 22 335
75 119 22 425
50 118 24 423
150 100 112 25 429
75 113 20 399
50 113 20 355
50 100 102 24 533
75 103 20 445
50 110 24 557

   b) 収量調査(10a当)
施肥量 種根量
(kg)
畦巾
(cm)
生草重
(kg)
油重
(kg)
割合
(%)
収油率
(%)
採脳率
(%)
倍肥 250 100 4600 5.68 88 0.12 53
75 5950 6.79 105 0.11 50
50 5683 7.00 109 0.12 52
150 100 5117 8.00 124 0.16 50
75 5292 6.52 101 0.12 50
50 5433 5.56 86 0.10 54
50 100 4408 5.24 81 0.12 53
75 4483 5.48 85 0.12 51
50 6133 7.08 110 0.12 51
標肥 250 100 4900 7.29 113 0.15 50
75 5217 6.87 107 0.13 49
50 5233 8.23 128 0.16 51
150 100 4892 5.95 92 0.12 56
75 5067 7.83 121 0.16 52
50 5100 6.45 100 0.13 53
50 100 3958 5.83 90 0.15 52
75 5217 6.73 104 0.13 50
50 4408 5.46 85 0.12 51
1/2肥 250 100 4917 5.10 79 0.10 51
75 5300 7.88 122 0.15 50
50 5975 8.75 136 0.15 50
150 100 4025 4.27 66 0.11 50
75 4425 5.08 79 0.12 50
50 4858 6.96 108 0.14 50
50 100 4325 6.52 101 0.15 54
75 4283 5.89 91 0.14 51
50 4408 4.67 72 0.11 54

   c) 収油量の整理表 (kg/10a)
     種根 250kg 150kg 50kg 平均
畦巾
100cm 6.02 6.07 5.86 5.98
75cm 7.18 6.48 6.03 6.56
50cm 8.00 6.32 5.74 6.69
平均 7.07 6.29 5.88 6.41
     畦巾 100cm 75cm 50cm 平均
施肥
倍肥 6.31 6.26 6.55 6.37
標肥 6.36 7.14 6.71 6.74
1/2肥 5.30 6.28 6.79 6.12
平均 5.99 6.56 6.68 6.41
施肥 倍肥 標肥 1/2肥 平均
種根
250kg 6.49 7.47 7.24 7.07
150kg 6.69 6.74 5.44 6.29
50kg 5.93 6.01 5.69 5.88
平均 6.37 6.74 6.12 6.41
  収油量の最少有意差(5%)
    畦巾同一水準における種根量差……0.74kg
    畦巾、施肥量同一水準における種根量差……1.28kg