【普及奨励事項】

水稲の熟苗に関する試験成績について
 早播熟苗に関する試験について
 水稲早播育苗法と苗の生育及び収量成績

  北海道立農業試験場渡島支場

 

(イ) 試験の目的
 早播育苗の育成方法を検討する。

(ロ) 試験方法
 イ 供試品種  南栄
 ロ 育苗法および様式
  1. 冷床散播(対照1.0L播) 4月20日播種 30日苗
  2. 室内育苗仮植(1.0L播) 4月1日播種 50日苗
  3. 電熱育苗(条播畦巾6cmに1.0L播)4月1日播種 50日苗
  4. 電熱育苗(散播0.5L播) 4月1日播種 50日苗
 備考 仮植は1葉期に電熱温床におこない、50日苗は播種後30日目に硫安1㎡当たり60gを追肥、その他冷床苗栽培標準耕種法による。
     なお移植期は5月20日の2本植。  

(ハ) 試験成績
 第1表 移植期における苗の生育と発根力
区別 播種期
(月日)
発芽期
(月日)
草丈
(cm)
葉数
(枚)
茎数
(本)
根数
(本)
100個体
乾物重(g)
発根力(移10日目)
発根数
普通田 冷水田
冷床散播(対照1.0L30日苗) 4.20 4.25 16.0 4 1 7.5 3.30 12.8 10.8
室内育苗仮植(1.0L50日苗) 4.1 4.4 18.3 5 2 16.5 5.19 18.5 15.8
電熱条播(1.0L50日苗) 4.1 4.5 17.9 5 2 16.3 5.39 19.0 16.0
電熱散播(0.5L50日苗) 4.1 4.5 19.1 5 2 17.0 5.81 19.2 16.0

 第2表 生育および収量調査
区別 主稈
端数
(枚)
出穂 成熟期
(月日)
成熟期 10a当収量(kg) 収量
割合(%)
始(月日) 期(月日) 揃(月日) 稈長(cm) 穂長(cm) 穂数(本) 稈重 精籾重 玄米重
冷床散播(対照1.0L30日苗) 12~13 7.27 7.30 8.1 9.17 84 15.4 17 560 644 528 100
室内育苗仮植(1.0L50日苗) 13~14 7.25 7.29 7.31 9.15 82 15.6 17 520 688 564 107
電熱条播(1.0L50日苗) 13~14 7.25 7.29 7.31 9.15 84 16.2 16 540 675 554 105
電熱散播(0.5L50日苗) 13~14 7.24 7.28 7.30 9.15 83 16.2 17 580 699 570 108

(ニ) 考察
 Ⅰ 育苗様式に関する考察
  イ 冷床散播(対照1.0L30日苗)
  気候的にも安定する季節なので育苗も容易におこなわれ普通苗が育成できる。
  ロ 室内育苗仮植(1.0L50日苗)
  電熱加温により低温下でも良好な熟苗を育成できる。しかし仮植創作やその後の育苗管理に多くの手数を要する。
  ハ 電熱条播(1.0L50日苗)
  比較的育苗管理が容易で良苗が育成できる。また仮植労力や所要面積が軽減される。
  ニ 電熱散播(0.5L50日苗)
  所要面積を多く要するが、育苗管理は比較的容易で良好な熟苗ができる。

 Ⅱ 本田栽培における考察
  イ 生育の推移
  電熱散播(0.5L50日苗)出穂が最も早く、これについで室内育苗仮植(1.0L50日苗)および電熱条播(1.0L50日苗)であったが、冷床散播(対照1.0L30日苗)はこれにくらべると2日程度の生育のおくれである。
  ロ 茎数
  最終的には各様式間にほとんど差が認められなかったが初期分けつは早播育苗が旺盛で、また穂長も概して長く登熟状態は良好である。
  ハ 収量
  苗の素質の良否によって差が認められ、冷床散播(対照1.0L30日苗)は劣った。

 Ⅲ 総合考察
 早播をおこない、生育前期を延長して本田移植後の生育の旺盛な苗を作るには普通の播種法や播種量では軟弱、徒長の苗ができるので苗代で疎播にするか、または仮植等の方法が必要となってくる。しかし室内育苗仮植では育苗労力や育苗技術の面に若干難点がある。そこで苗の素質を仮植法と同様の苗にして、しかも簡便な熟苗の育苗法としては一応本試験の結果から電熱条播(1.0L50日苗)が良好であるが、本年の場合、本田における気象条件が異常によく生育の好進が考えられるので苗代面積は多く要するが電熱散播(0.5L50日苗)が増収をもたらす育苗法として有効と考えられる。