【普及奨励事項】

放牧用牧草に対する施肥法

 北海道立農業試験場 根室支場

 

放牧用牧草地には
① 白クローバーを主体として、これに生産力の強い禾本科牧草を混播する方法追肥量が比較的少なくてすむDCP生産量が多い。英連邦、とくにニュージーランドで発達しており、我が国もこれを中心に奨励されている。
② 若刈禾本科に窒素を多用する方法
  TDNとDCPの何れも生産量が高く、栄養的なバランスがとれている。鼓脹症なし。
  但し、窒素肥料の安い国でないと経費が高くつく-----米国、ドイツの一部。

 

A ラデノクロバー主体の混播放牧用牧草地に対する試験

 a 放牧用主幹牧草の肥料利用上の特性
  供試牧草  ラデノクロバー、メドーフェスク
  N、P25、K2O  各1.3.5kg/10aを33=27区の混同試験に組み立てた。但しラデノクロバーのN施用量は0.5、1.5、2.5kg/10aとした。

  ラデノクロバー 10a当り生草収量(kg) 
年次 施肥区 加里1kg 加里3kg 加里5kg
燐酸 燐酸 燐酸
1kg   3kg    5kg 1kg   3kg   5kg   1kg   3kg   5kg
初年目 窒素 0.5kg 305 660 705 415 830 915 360 910 950
1.2kg 410 815 910 570 1060 1135 595 990 1170
2.5kg 435 925 1075 645 1165 1320 710 1105 1255
2年目 1番草 窒素 0.5kg 535 1125 1285 985 1450 1490 1260 1483 1505
1.5kg 555 1125 1555 1100 1540 1785 1495 1515 1810
2.5kg △690 1550 1601 △1270 1610 1900 1640 1605 1915
2番草 窒素 0.5kg 1480 1730 1570 2280 2045 2140 2090 2190 2380
1.5kg 1505 1745 1890 2145 1960 2195 2168 2220 2220
2.5kg ◎1615 1815 1795 2115 2075 2175 2405 2725 2575
3番草 窒素 0.5kg 1245 1545 1675 1595 1858 1920 1950 2280 2615
1.5kg 1500 1560 1685 1770 2100 1895 1815 2000 1895
2.5kg 1595 1620 1735 1900 1890 1860 1750 2010 1810
3年目 1番草 窒素 0.5kg 610 785 755 1120 1150 1190 1065 1500 1535
1.5kg 490 530 630 920 1055 1150 1060 1345 1490
2.5kg 530 540 650 835 955 1005 1045 1115 1385
2番草 窒素 0.5kg 1450 1400 1385 1600 1700 1950 2210 2030 1985
1.5kg 1415 1355 1370 1855 1685 1930 2080 1895 1910
2.5kg 1150 1180 1290 1625 1835 1690 1975 1835 1945
3番草 窒素 0.5kg 1005 1015 1030 1380 1335 1340 1260 1355 1285
1.5kg 1005 1045 1025 1225 1210 1215 1285 1410 1305
2.5kg 980 1020 1010 1090 1260 1130 1270 1300 1165

 メドーフェスク 10a当り生草収量(kg)
年次 施肥区 加里1kg 加里3kg 加里5kg
燐酸 燐酸 燐酸
  1kg   3kg   5kg   1kg   3kg   5kg   1kg   3kg   5kg
初年目 窒素 1kg △135 320 375 165 315 425 180 305 395
3kg 360 405 470 420 455 595 375 470 505
5kg 415 480 545 405 530 630 440 569 580
2年目 1番草 窒素 1kg 183 255 215 203 265 258 245 240 255
3kg 540 593 605 575 700 673 615 730 743
5kg 610 770 650 795 840 785 770 905 858
2番草 窒素 1kg 238 260 250 228 253 240 220 230 245
3kg 515 680 605 560 645 605 640 685 620
5kg 665 760 695 810 940 870 885 975 910
3番草 窒素 1kg 270 240 215 280 275 325 290 255 275
3kg 560 570 520 520 590 550 590 670 685
5kg 705 765 695 750 805 770 770 825 840

  ラデノクロバーについて
 播種当年から2年目1番草まで燐酸の肥効が最大、しかし年次の経過と共に燐酸の肥効が下がり3年目には統計的有意性を失った。窒素も初年目には増収効果が認められたが、2年目は効果が不確実、3年目には窒素を施用すると却って減収した(この減収は統計的に有意)
 加里は年次の経過と共に漸次増施効果が現れ、3年目には3要素中最大の効果を示した。
  メドーフェスク
 初年目並びに2年目前半には燐酸の増施効果が著しく、また加里の肥効も年次の経過と共に増大したが、しかし窒素に及ぶべくもない、窒素は年次の如何を問わず常に最大の増施効果をもたらした。

 b 混生割合に及ぼす施肥量
 放牧の際家畜の栄養摂取、又は施行上豆科が全体の50~60%混生していることが望まれているが両者の混生割合を好適なる範囲保ちかつ増収を図る施肥法について検討した。
  供試牧草
ラテノクロバー 0.3kg/10a 混播
アルサイクロバー 0.3kg/10a
オーチャードグラス 1.25kg
チモシー 1.2kg

 混播牧草のうち豆科の占める割合(生草百分比)
  施肥区分(kg) 初年目 2年目 3年目
窒素 燐酸 加里 合計 合計
春季1回
のみ施肥
2 3 3 62 60 57 46 55 55 36 62 60 64 65 59
4 3 3 60 55 62 50 37 54 30 33 42 43 41 37
2 6 3 60 50 54 50 48 51 30 40 54 59 56 49
2 3 6 63 59 67 54 54 59 33 52 57 60 41 51
4 6 6 59 52 50 45 47 50 25 48 53 55 47 46
刈取り後
毎回施肥
2 3 3 60 60 52 39 46 49 36 47 50 59 58 50
4 3 3 59 55 42 24 30 38 19 22 25 22 26 23
2 6 3 60 50 40 32 40 40 42 39 38 37 49 40
2 3 6 63 59 56 43 44 51 40 50 49 54 58 50
4 6 6 60 52 31 30 33 35 27 29 19 17 16 21

 放牧用牧草の養分収奪量(kg/10a)
   施肥区分(kg) 窒素 燐酸 加里
窒素 燐酸 加里 初年目 2年目 3年目 初年目 2年目 3年目 初年目 2年目 3年目
刈取り後
毎回施肥
2 3 3 4.9 13.0 11.0 1.5 5.1 6.4 5.3 15.4 17.6
4 3 3 5.7 20.2 25.2 1.8 6.1 7.3 6.2 14.7 21.5
2 6 3 5.7 17.8 22.7 1.9 6.0 7.7 5.6 18.3 22.6
2 3 6 4.8 18.1 22.3 1.4 6.7 6.7 7.1 21.4 37.6
4 6 6 6.2 20.9 25.8 1.9 7.2 8.4 8.6 28.7 39.3

 混播放牧用牧草10a当り生草収量(kg)
区別 初年目 2年目 3年目
  窒素
(kg)
燐酸
(kg)
加里
(kg)
草種 7月5日 1番刈 2番刈 3番刈 4番刈 合計 1番刈 2番刈 3番刈 4番刈 5番刈 合計
6月17日 7月24日 9月9日 10月20日 5月28日 6月29日 7月29日 8月28日 9月28日


1




2 3 3 禾本科 290
770
280 234 327 100 941
2066
160 175 175 193 80 783
1923
豆科 480 420 311 274 120 1125 90 290 265 345 150 1140
4 3 3 禾本科 390
965
389 198 295 85 967
2110
223 305 203 163 100 994
1581
豆科 575 476 322 295 50 1143 97 153 145 122 70 587
2 6 3 禾本科 430
1070
433 232 240 65 970
1975
210 218 248 203 55 939
1833
豆科 640 432 273 240 60 1005 90 147 292 295 70 894
2 3 6 禾本科 305
825
355 168 265 65 853
2090
248 198 210 218 115 989
2008
豆科 520 510 342 310 75 1237 122 210 280 327 80 1019
4 6 6 禾本科 450
1105
456 235 226 90 1007
2000
233 230 198 173 100 934
1739
豆科 655 494 235 184 80 993 77 208 220 210 90 805






2 3 3 禾本科 255
790
280 382 522 250 1434
2815
469 490 438 487 250 2134
4287
豆科 535 420 413 333 215 1381 260 430 440 673 350 2153
4 3 3 禾本科 385
935
389 589 806 360 2144
3455
495 940 870 1069 445 3819
4928
豆科 550 476 426 254 155 1311 115 265 275 294 160 1109
2 6 3 禾本科 425
1050
433 459 697 250 1839
3070
294 538 528 953 350 2663
4450
豆科 625 432 306 828 165 1231 211 350 329 567 330 1787
2 3 6 禾本科 315
845
355 436 519 350 1660
3385
453 580 600 756 255 2644
5330
豆科 530 510 554 391 270 1725 302 590 575 869 350 2686
4 6 6 禾本科 435
1080
456 956 1001 395 2808
4350
753 893 1085 1136 680 4547
5783
豆科 645 494 429 429 190 1542 272 357 250 227 130 1236

 生草収量は刈取り後毎回追肥した郡は春季1回追肥郡に比べ、2年目は凡そ1.5倍、3年目は2.5倍の年間生草収量あった。このうち初年目は燐酸倍量区の収量が高かったけれども、2,3年目は窒素倍量区、3要素倍量区は特に禾本科草種が、また加里倍量区では豆科草種の生育が良好であった。
 混生割合を初年目から2年目前半までは施肥処理の如何に拘わらず、好適な混生割合を示し、これ以降は窒素倍量及び3要素倍量の両区の豆科混生率の50%以下を示した。3年目において豆科が50%以上あったのは、標準施用区と加里倍量であり、燐酸倍量はやや低下していた。混生割合を好適な価にすることについて初年目から2年目までは施肥法に特別な調整を加えなくても達成されるようで、初期生育を促進させるために燐酸を多用しておけばよい。しかしこれ以降においては窒素用量を控えるか、或いは加里の増施が必要であった(窒素施用量を控えすぎると豆科特にラデノクロバーが優勢になる。この際は窒素を加えて抑制する)
 養分収奪量のうち最大であったものは加里で、特に2.3年目は莫大な量に達した。加里利用率を算出すると130%となったが、施用した加里は殆どすべて吸収されているとみなせる。
 混播牧草地では禾本科よりも特に豆科が先に欠乏症に陥るが、これは豆科が加里吸収についての競合に劣るためである。

 

B オーチャードグラスの窒素多用若刈試験

 オーチャードグラス単播2年目の草地に次の施用区分の窒素を施用した。
  窒素施用区分  N:0kg、N:2kg、4kg、8kg、12kg/10a

  オーチャードグラス 若刈の生草収量(kg/10a)
刈取月日 N 0kg N 2kg N 4kg N 8kg N 12kg
5月31日 260 700 1020 1030 1100
6月25日 240 700 1480 1960 1720
7月19日 184 635 1035 950 970
8月5日 140 585 785 850 750
8月28日 140 780 830 900 810
10月12日 255 435 690 870 105
年間合計 1219 3835 5840 6560 6355

  若刈したオーチャードグラスの一般組成とDCP,TDN
処理区分 粗蛋白 粗脂肪 可溶
無室物
粗繊維 粗灰分 総合評 10a当り生産量
TDN DCP TDN DCP
N 0kg 14.1 3.9 46.4 23.0 12.7 61.7 9.2 149.2 21.1
N 2kg 14.6 4.2 46.8 23.3 11.2 62.4 9.5 457.6 67.8
N 4kg 17.6 4.7 45.0 23.1 10.0 63.7 11.4 673.3 117.2
N 8kg 22.5 4.5 42.1 22.6 8.4 64.5 14.6 716.2 157.8
N 12kg 22.0 4.5 41.4 22.2 10.0 63.3 14.3 708.0 162.9
  (注) 消化率は東北農試畜産部のものを利用した。

  オーチャードグラスの年間平均3要素含有率と年間養分収奪量、窒素利用率
処理区分   含有率
(乾物 %)
10a当り収奪量(kg) 窒素利用率
(%)
N P2O5 K2O N P2O5 K2O
N 0kg 2.26 1.03 4.10 5.17 2.30 9.24 -
N 2kg 2.33 0.80 3.42 16.67 5.76 25.02 95.8
N 4kg 2.81 0.75 2.55 28.84 7.69 26.10 98.6
N 8kg 3.59 0.74 2.52 37.33 8.08 27.16 71.2
N 12kg 3.53 0.71 3.01 40.09 7.77 32.12 48.5

 オーチャードグラスを出穂前に若刈すると根釧地方でもおよそ6回収穫できる。すなわち5月末日を第1回として約25日間隔、毎回の生育収量は10a当たり約1トン、旺盛な生育を示す期間は5月中旬より9月上旬まで約4月間で、9月中旬以降は生育遅滞した。
 ここで特に指摘したいことは禾本科牧草にN4kg以上施用することによって、5月末に約1トンの生草が得られたことである。根釧地方では5月末に春播麦類がようやく発芽し始める頃であって、この時期にこの程度の生草量のある牧草地を利用できることは家畜飼養上意義が大きい。また年間生草収量6トン/10a(乾物生産量約1トン)という量は採草用牧草に較べるとやや劣るけれども、若刈りしたので粗蛋白含量は20%を超え栄養生産量は高く、クロバー類に匹敵していた。
 また窒素利用率を計算してみるとN4kg施用区までは施用した窒素の大部分を吸収利用しており8kgでも70%以上吸収利用していた。

奨励事項
 ① ラテノクロバーは
  初年目~2年目前半 燐酸を重点とし窒素も少量加える。
  2年目後半~     加里を重点に燐酸はやや控え窒素は不要。
  メドーフェスクは     常に窒素の肥効が最大、燐酸は初年目のみ多用、加里は年次の経過と共に増す必要がある。
 ② 以上のような特性の草種を混採するときは、2年目前半までは施肥法の如何に拘わらず豆科混生割合が50~60%に保たれるので、燐酸を重点的に施用すればよい。これ以降はラテノクロバーが劣えたら窒素を控え加里をまし、なお繁茂したがるときは窒素を加え押さえる。
 ③ 鼓脹症の防止のためオーチャードグラスに窒素を多用(4~kg/10a)し若刈りする方法もある(これは肥料代が嵩むが施用した窒素肥料は殆ど牧草に吸収回収されているので、肥料利用上から損失と云えない)

 適用草地
  新墾地を除く火山灰地、或いは泥炭地の放牧用牧草畑。