【指導奨励事項】
カラ・トレーナー(Cow Trainer )の使用効果に関する試験 北海道農試畜産部 同 根室支場 新得畜試、滝川畜試 |
1. 試験目的
近年、酪農経営においても労働生産性の向上のために大規模化、専門化や機械化の必要性が強調されている、これらの点から米国ではルーズバーン方式や草飼料の一貫機械化による栽培利用を主軸に努力が払われている。
しかし、わが国においては飼養管理方式も一挙に米国の例を実施するには技術的にも経済的にも多くの研究が必要であろう。当面の問題としてはスタンチヨン牛舎についての労働効率を向上させる実際的研究がのぞまれている。
とくに冬期舎飼いときにおける乳牛の不適正な糞尿の排泄による後躯の汚染はいちじるしく、このために尻洗いを毎日必要とし、多くの労力、燃料や敷草などを要し、牛舎作業上のネックとされてきた。
将来、多頭数を計画し、省力化を図る場合にも問題点とされている。
これらの点から、われわれは乳牛の排糞尿の不適正落下を矯正させる目的のために特殊な装置(カウ・トレーナー)の正しい使用法とその効果について、米国での使用例を参考にして適応性を明らかにした。
試験の結果から実用性と経済性もみとめられたので指導普及上の参考に供したい。
本試験は道改良課と北海道における畜産試験4場所での共同研究結果である。
2. 試験方法
1) 使用したカウ・トレーナー(以下略してCow T.)使用したCow T.の概略図は第1図に示したⅠ型は金属製Ⅱ型は硬質ビニールパイプ、薄鉄板及びビニールコードよりなっている。
2) 試験方針
実用化を目標としたもので、4場所における試験概要は第1表に示した。大別して成牛と若牛を使用しCow T.垂下によるトレーニングの程度、汚染の防止、敷草の必要及び舎飼い時における排糞尿を中心とした活動などである。
3. 試験結果
1) 乳牛に対するCow T.の効果
(A) 畜産部における試験
a) 試験牛舎(省略)
b) 試験の経過
第1表 試験場所別の調査研究項目
試験 場所 |
使用牛 | 頭 数 |
繋留方法 (牛舎に おける) |
主な調査項目 | ||||||||
排糞尿と 日中活動 |
排糞尿時 の姿勢 |
C.Tに よる糞尿 落下位置 |
汚染 程度 |
バリカン 処理効果 |
敷藁 処要量 と細切長 |
尻洗い 時間 |
体長牛床 長と汚染 |
垂下 位置 |
||||
畜産部 | 乳牛 | 12 | 頸鎖 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | △ | |||
滝川 | 乳牛 | 8 | スタンチヨン | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||
新得 | 若牛 | 10 | スタンチヨン | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ◎ | 〇 | 〇 | |
根室 | 乳牛 | 11 | スタンチヨン | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
3月8日Cow T.の垂下、3月6日よりCow T.の経過にともなう馴化程度を調査3月12~13日午前8時より12時まで排糞尿落下位置及び排糞尿時の姿勢調査。
c) 供試牛と処理
第2表に示したが、平均体重615㎏、平均体長163㎝乳量13.3㎏のものである。
第2表 供試牛と処理概要
群 | A | B | C | D | ||||||
No. | 1 | 2 | 3 | 1 | 2 | 1 | 2 | 1 | 2 | 3 |
牛名 | ドラクインフオーブス | ハピーダビソン | ヘンドリツクアスター | 第2ヘンドリツクアスター | ドラクインアスター | アイコールカンナ | ドラクインコナヨー | アイコールアスター | ダビソンプライド | ダビソンドラセコンド |
体長 ㎝ | 170 | 157 | 157 | 158 | 159 | 166 | 158 | 177 | 159 | 167 |
平均乳量 (㎏) |
19.5 | 19.5 | 18.0 | 22.0 | 16.0 | 14.0 | 5.0 | 5.0 | 13.5 | 0 |
① Cow T.処理 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
② 後躯バリカン処理 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||
③ 寝藁細切 | 〇 | 〇 |
d) 排糞尿落下位置
落下の状況は第2図によって採点を行った。
第3表 Cow T.による排糞状況
区分 | 頭数 | 排糞回数 | 1回当 り採点 |
|||||
回数 | 10点 | 8点 | 6点 | 4点 | 0点 | |||
Cow T.群 | 7 | 38 | 26 | 5 | 3 | 2 | 2(寝) | 8.8 |
無処理群 | 3 | 19 | 9 | 0 | 2 | 3 | 5 | 6.4 |
e) Cow T.装着と後躯の汚染程度
第4表 処理
区分 | 処理 | 牛×10 | 汚染指数 12日 |
汚染指数 13日 |
全平均 |
A | Cow T. | 1 | 7.0 | 7.0 | 8.6 |
2 | 9.5 | 9.5 | |||
3 | 10.0 | 10.0 | |||
B | Cow T. バリカン 寝藁細切 |
1 | 10.0 | 10.0 | 10.0 |
2 | 10.0 | 10.0 | |||
C | Cow T. バリカン |
1 | 10.0 | 10.0 | 10.0 |
2 | 10.0 | 10.0 | |||
D | 無処理 | 1 | 8.0 | 9.8 | 8.1 |
2 | 7.5 | 8.0 | |||
3 | 8.5 | 7.0 |
(B) 滝川畜産試験場における試験
a) 試験に用いた牛舎(省略)
b) 試験の経過
4月16~18日装着前の状況調査、4月19~23日は、Cow T.の垂下をスタンチヨンより52㎝の所、4月24~28日は70㎝の垂下、5月1~5日は86㎝の所に垂下し、糞尿落下の範囲、汚染程度、牛体の反応及び乳量などについて調査した。
c) Cow T.装着前の汚染の状況
第5表 Cow T.装着前の汚染
区分\供試牛No. | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | |
糞 | 牛床(+) | 15 | 25 | 20 | 20 | 20 | 25 | 20 | 15 |
通路(+) | 5 | 5 | 10 | 5 | 15 | 5 | 10 | 15 | |
尿 | 牛床(+) | 10 | 20 | 15 | 15 | 10 | 20 | 10 | 10 |
通路(+) | 10 | 5 | 20 | 10 | 30 | 5 | 20 | 30 | |
汚染の程度(1) | ++ | +++ | ++ | ++ | ++ | +++ | ++ | ++ |
- | 汚染せず |
+ | 軽度 |
++ | 中等度 |
+++ | 強度 |
d) Cow T.52㎝の垂下時の汚染
第6表 Cow T.52㎝の垂下時の汚染
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | |
4月19日 | +(15) | - | - | - | - | - | - | - |
20日 | - | - | - | - | ++(15) | - | - | - |
21日 | - | - | - | - | +(10) | - | - | - |
22日 | - | - | - | - | +(15) | - | - | - |
23日 | - | - | - | - | ++(15) | - | - | - |
(C) 普室支場畜産部における試験
a) 試験牛舎(省略)
b) 試験の経過
4月16日~5月6日までCow T.を作動して各種の調査を行い、その後4日間切電してトレーニングの持続期間を検討した。
c) Cow T.のトレーニング効果
第7表 トレーニング効果
No. | 馴致効果 発現まで の日数 |
効果 | C.Tの 着装 期間 |
C.T 停止 期間 |
停止当日の効果の有無 | Cow T.処理に よる乳量の影響 |
1 | 2日 | + | 21日 | 4日 | 無 | やや有 2~3日間 |
2 | 2日 | ++ | 21日 | 4日 | トレーニング期間 不足 | やや有 2~3日間 |
3 | 4日 | +++ | 21日 | 4日 | 有 | やや有 2~3日間 |
4 | 3日 | + | 21日 | 4日 | 無 | 無し |
5 | 3日 | + | 21日 | 4日 | 無 | 無し |
6 | 4日 | + | 21日 | 4日 | 無 | 無し |
7 | 4日 | +++ | 21日 | 4日 | やや有 | やや有 |
8 | 4日 | ++ | 21日 | 4日 | 有 | 無し |
d) 省力管理効果
第8表 管理労力
区分 | 尻洗時間 | 糞尿運搬量 | 糞尿運搬時間 | |||
処理前 | Cow T.後 | 処理前 | Cow T.後 | 処理前 | Cow T.後 | |
試験区8頭 | 20分 | 3~5分 | バット3杯 | 1杯 | 30分 | 13分 |
対照区3頭 | 6分 | 6分 | 1/3杯 | 1/3杯 | 10分 | 10分 |
4. 奨励態度
省力管理の一助としてCow T. の効果を道内4研究所で舎飼いときにおける効果を検討した。
これらの成績より使用上の要点を要約すれば次のごとくである。
1) Cow T.の垂下位置
Cow T.の垂下位置は牛舎の構造、牛の大きさなどによりかなりの幅があることが認められた。しかし、全般的にはスタンチオンより後方45㎝~80㎝まで適応性が認められた。しかし、成牛、若牛ともに平均すればスタンチオンより60㎝前後で適切と思われる。
また、牛体からは成牛では背部より上に3~6㎝前後が適切と思われる。これは牛床の敷草の状況などにより若干の幅を考慮する必要がある。
若牛では、背部より上方10~14㎝が適当である。Cow T.の着装にあたっては、充分Cow T.を固定するよう電牧線を張ることが必要である。
2) Cow T.による排糞尿トレーニング無処理成牛は39回の排糞中牛床に落下したもの14回で約35%、完全に排尿溝に落下したものは10回で25%にすぎなかった。しかし、CowT.を着装したものは38回中牛床上には2回で完全に排尿溝に落下したものは26回で全体の68%に達した。
また、1場所では乳牛全体が完全に牛床上に排糞落下を防止することを認めている。
また、若牛では、無処理のものは35回中全部が牛床上であったのに対し、Cow T.群は56回中牛床落下は12回と約20%であり、完全に排尿溝に落下したものは21回で、1部牛床上に落下したものが23回と明らかに効果が示された。
3) 牛体汚染の防止効果
1場所では成牛に対して完全に尻洗いの必要を認めないぐらいに汚染が防がれた。一般に無処理のときには成牛1頭当り6分間の尻洗い時間と20リットル前後の熱湯を必要としていた。
また他の2場所においても尻洗い時間1/3~1/4に軽減された。とくに後躯をバリカンにより剪毛して毛を短くすれば、さらにCow T.の汚染防止効果が高いことが認められた。
若牛に対しても無処理の牛群は1頭当り約3分の尻洗い時間を1/3以下に軽減することが認められた。
4) 敷草の処要量
成牛では1日1頭当りの敷草量を1/2節約することが可能となり、また夏季間では、牛床を乾燥状態に保つことができるために、特別敷草を必要としないなどの効果が示された。
若牛においても1/3量を節減することができた。また今回の調査では、細切した敷料は、かえって排尿溝へ飛散するために不経済であるこが示された。
5) Cow T.利用による活動、生産への影響
Cow T.を上手に使用したときには乳量への影響は認められなかった、またCow T.を使用することによって乳牛が牛舎へ入ることを嫌がったり、特別に神経質になるようなことは認められなかった。
若牛においても、Cow T.を使用したことによる採食や排糞尿活動が阻害されることはなかった。
6) Cow T.設置、垂下時の注意
使用する電牧機はあらかじめ正常に作動するかを確立することが必要で、電牧線の誘導、取付けにあたっても、適正にアースを取付け、漏電のないような処置を行わなければならない。Cow T.を垂下する線は8番または6番線で、牛舎のハリや柱を利用して充分に固定させる。Cow T.を垂下させたときに「ゆるみ」がないようにする。
7) 初めてCow T.を使用するときの注意
Cow T.は牛の体高に合せて調節する、電気は常時入れて作動させるが、とくに搾乳時、牛を出入りさせる時、その他の作業を行うときには電気を切るようにして、いたずらな混乱をさける。
とくにCow T.を初めて用いたときには1~3日間は牛の動態に注意し、Cow T.の位置を調節したり、とくに神経質な乳牛では馴致に注意を払う。牛体の背線部に粗毛を有する場合にはCow T.の効果を高めるために、バリカンで剪毛することも必要である。
8) 針金利用による簡易 Cow T.の利用
正式な方式によるCow T.は個体に応じて、前後の関係、高さの関係が調節容易であり、したがって能率の高いことにはなるが1頭当り500~1,000円程度はかかるので、能率(排糞尿の尿溝内落下率)はある程度さがるが、牛の背高順に配列繋養し、その上にCow T.のおおむね着装する位置に針金を一本張り、電牧方式により電気を流す方法である。