【指導奨励事項】
天北地帯におけるてん菜紙筒移植栽培の苗仕立の時期と移植期に関する試験成績
北海道立農業試験場宗谷支場

1.供試品種
 本育192号

2.試験区の構成
年次 区番号 紙筒への播種
(月日)
移植期
(月日)
育苗日数
(日)
移植苗の大きさ
(葉数)(枚)
昭37 1 3.20 4.20 31 本葉の出始め
2 5.1 42 2
3 4.10 21 本葉の出始め
4 5.10 30 2
5 4.20 20 本葉の出始め
6 5.18 28 2
38 1 4.10 5.2 22 本葉の出始め
2 15 35 〃~2
3 22 42 2~4
4 4.22 15 23 本葉の出始め
5 22 30 〃~2
6 30 38 2~4
7 4.28 22 24 本葉の出始め
8 30 32 〃~4
9 6.8 41 2~4
  ※対照として昭亜37年は4月20日と5月1日、昭和38年は5月2日播の直播をおのおの併設した。

4.育苗方法並びにその経過概要
 育苗用の紙筒は「日甜」考案のものを使用し、育苗方法も会社のパンフレットに準じて行った。
 昭和37年3月20日播きのものは当時いまだ野外に残雪が多く寒気もきびしいので4月9日まで室内で育苗し以降は冷床で行った。

5.本ぽにおける施肥量と耕種概要
年次/項目 10アール当り施肥料(㎏) 前作 収穫期(月日) 株間(㎝) 除草(回) 中耕(回) 防除
硫安 チ硝 過石 硫加 堆肥
昭37 15 30 5.5 8 1,500 えん麦 11.22 22.5 3 1 ヨトウ 1回
ヂノミ 2
褐斑病 無防除
38 15 30 5.5 8 2,000 10.20 22.5 3 2 ヨトウ 1
ヂノミ 3
褐斑病 無防除
  ◇移植操作は移植ベラで間隔を作り垂直に植えた。

6.気象概況と移植後の経過概要
 昭和37年-各移植時期の前後に降雨があり気温も割合高かったので6区共活着がよかった。その後7月半ば近くまでの間は降水量が不足しほ場は乾ばつ気味であった。しかし当地帯として最も望ましい高温に恵まれ、かつ日照りも多かったので相対的に生育は良かったが、直播と移植とは生育相にきわめて明瞭な差があった。移植では概して苗床への播種が早く、かつ移植時期の早い1、2、3区および4区がよいようであった。8月に入って集中降雨が再々あったが、ほ場の排水が良かったので湿害もなく生育は順調に進渉し、ただ5月1日播きの直播区の葉数が少な目であったが他の区の生育差はわからなくなった。

 昭和38年-4月下旬から6月中旬の2ヶ月間は降水量が少なく加えて高温、多照の被害粒多かったのでほ場はすこぶる乾燥し、春早い5月2日に移植した苗の活着が割合早かったが外の区は一般に遅れ長期間にわたり生育は頓座したので頸葉は黄色を帯びた。しかし活着が悪くて枯死したものはきわめてわずかであった。6月末から乾ばつは解消して多照の天候であったので、生育は順調に進渉し、その概況は苗仕立を早くしてしかもほ場へ早目に移した方が良いようで直播区が最も劣っていた。8月は曇天が多く気温も平年より低かったが、9、10月と晴天が多く割合順調な天候であった。
 両年とも病害虫その他にこれという障害もなく、褐斑病も例年の如く防除は行わなかったが発病はきわめてわずかであった。

7.試験結果および考察
 1.春の気温が低い気象条件の東天北においては頸葉の繁茂が遅れ根の肥大が十分でないので移植の効果は特に大きく、4月10日育苗始めの5月1、2日に移植した区の根収は直播に比べ両年共40%ないし47%の高い増収率であった。しかしこれら移植区の生育相、収穫時のT/R比をみても生育はまだ十分に行われていたとはいえないようである。

 2.この点できるだけ生育期間を延長するため、紙筒への播種は早いほうが良いであろうが、融雪や気温の関係で4月10日以前は無理なので、10日頃を目標にしてこれよりあまり遅くならないようにする。

 3.移植栽培にあたって健苗の育成が大切である。東天北地帯のように気象環境の悪い所では特にガッチリした丈夫な苗の育成ということを忘れてはならない。

 4.移植時土壌が乾燥していても移植操作さえ確実に行えば活着しないで枯死することはきわめて少ないと思われる。この点先にも述べたが東天北地帯は春よく降水量が少ないためほ場が乾燥するので出来るだけ早い時期に移植するのが安全である。

 5.育苗の開始時期を一定にすれば移植の早い方、すなわち苗の大きくなるのを待って移植の時期を遅らすより多少小さくても早めに移植した方が結果は良いようである。

 生育調査表
年次
(昭和)
区別
/
項目
6月20日 7月10日 8月1日 8月25日 収穫期
草丈
(㎝)
葉数
(枚)
草丈
(㎝)
葉数
(枚)
草丈
(㎝)
葉数
(枚)
草丈
(㎝)
葉数
(枚)
草丈
(㎝)
葉数
(枚)
37 直播(4月20日播) 14.6 9.8 33.6 13.7 46.9 17.4 49.4 21.1 47.5 23.4
 〃 (5月1日播) 12.0 7.8 30.7 12.4 48.0 16.5 48.5 19.6 45.5 22.8
1 23.7 14.5 40.7 17.9 47.0 18.9 53.9 22.1 51.2 24.6
2 22.5 13.6 38.5 16.7 48.9 18.9 51.5 21.7 47.9 23.9
3 21.1 13.3 37.4 16.7 47.5 18.6 52.1 22.5 49.1 24.5
4 22.5 12.8 36.9 16.9 46.0 19.2 49.3 22.3 46.5 24.7
5 18.4 11.5 36.2 15.6 48.1 17.9 51.6 21.4 49.1 23.5
6 16.9 10.0 34.9 14.2 47.1 18.0 51.1 21.8 46.9 24.1
38 直播(5月2日播) 5.0 4.4 19.8 9.1 44.0 14.5 51.0 16.9 51.9 19.7
1 13.3 10.1 32.6 15.0 48.8 18.6 53.0 19.3 53.1 21.7
2 11.4 8.5 31.2 13.9 49.2 17.9 50.9 19.1 53.9 21.0
3 9.0 7.4 27.6 11.9 48.3 16.8 52.9 17.9 52.8 21.3
4 9.0 7.6 27.9 12.9 51.2 17.6 55.0 19.1 52.9 22.3
5 7.5 6.6 27.1 11.9 49.9 16.4 53.2 16.9 55.2 21.1
6 7.0 6.1 27.4 11.1 52.8 16.1 56.5 18.4 57.5 22.3
7 7.4 5.9 26.3 10.7 51.5 16.2 53.6 18.3 57.1 22.0
8 4.8 4.6 23.1 9.8 50.6 16.6 56.0 18.7 56.1 21.3
9 4.5 4.4 21.6 9.6 49.6 15.1 53.8 16.7 54.6 21.1

 収量調査表
年次
(昭和)
区別/項目 10アール当り収量(㎏) 根中
糖分(%)
純糖率
(%)
T/R 直播(5月1、2日播)を100とする割合
個数 根重 頸葉重 可製糖量 根重 可製糖量 根中糖分
37 直播(4月20日播) 8,394 **
2,368
3,069 402 18.61 71.30 1.30 111 104 93
 〃 (5月1日播) 8,888 2,124 2,563 385 19.96 90.87 1.21 100 100 100
1 8,818 **
2,783
3,774 479 18.68 92.22 1.36 131 124 94
2 8,747 **
2,820
3,278 481 18.74 91.11 1.16 133 125 94
3 8,606 **
2,963
3,912 496 18.30 91.50 1.32 140 129 92
4 8,606 **
2,816
3,441 491 18.99 91.88 1.22 133 128 95
5 8,747 **
2,623
3,532 466 19.31 91.82 1.35 123 121 97
6 8,677 **
2,612
3,387 455 19.06 91.36 1.30 123 118 95
LSD -5% 171                
-1% 237                
C・V (%) 3.7                
38 直播(5月2日播) 8,148 1,864 2,094 250 16.50 81.17 1.12 100 100 100
1 8,359 **
2,732
2,762 362 16.38 80.94 1.01 147 145 99
2 8,571 **
2,605
2,459 369 16.84 84.03 0.94 140 148 102
3 8,730 **
2,511
2,745 335 16.46 80.98 1.09 135 134 100
4 8,412 **
2,548
2,850 341 16.34 81.90 1.12 137 136 99
5 8,624 **
2,206
2,674 290 16.43 80.05 1.21 118 116 100
6 8,783 **
2,499
3,015 329 16.17 81.44 1.21 134 132 98
7 8,306 **
2,329
2,710 306 16.30 80.56 1.16 125 122 99
8 8,412 **
2,304
2,820 300 16.15 80.57 1.22 124 120 98
9 8,359 2,081 2,478 273 16.22 80.90 1.19 112 109 98
LSD -5% 227                
-1% 311                
C・V (%) 5.6                
  直播(5月1日播)との間に*は5%レベル、**は1%レベルの有意差があることを示す。

 その他
年次
(昭和)
区別
/
項目
収穫期の根形調査 褐斑病の発病
程度(9月末)
根周 根長 整根割合(%)
ヤ整 不整
37 直播(4月2日播) 23.1 14.0 39 54 7 0.24
 〃 (5月1日播) 21.6 13.5 44 53 3 0.27
1 23.2 13.8 7 77 16 0.22
2 23.5 13.1 8 78 14 0.24
3 24.2 13.4 25 70 5 0.24
4 23.7 13.7 28 67 5 0.23
5 23.5 14.2 44 50 6 0.24
6 23.3 13.1 31 66 3 0.25
38 直播(5月2日播) 22.8 13.6 34 64 2 0.35
1 24.0 13.7 22 76 2 0.30
2 23.8 13.3 1 97 2 0.30
3 23.6 13.2 1 99 0 0.25
4 23.7 13.4 8 91 1 0.28
5 23.4 13.3 0 100 0 0.27
6 23.1 13.3 1 98 1 0.22
7 23.2 13.3 2 97 1 0.32
8 23.2 13.2 2 98 0 0.33
9 23.1 13.1 1 98 1 0.35

8.要約
 てん菜栽培において紙筒移植の増収率は高いが、年次または地区により多少異なるが、東天北地帯においては4月10日頃を目標に育苗をはじめ、かつ育苗にあたっては苗を大きくするということよりもがっちしりした丈夫な苗を仕立てるように心がけてほ場へは苗の大きさにこだわらず5月上旬中には移植してしまうべきである。