【指導奨励事項】
塔型サイロ密封加圧に対するビニール水蓋の使用効果に関する試験成績 北海道農業試験場畜産部牧野研究室 北海道農業改良課 |
1.試験目的
サイレージ調製においては、詰込作業中の踏圧と作業後のサイロビニールによる密封および加重(または踏圧)は嫌気性の速やかな保持と持続による養分損失の防止ならびにカビや腐敗醗酵による上部損失(TopSpoilage)防止の上に重要な意義を有するものである。これらの点から昭和30年度においては、トレンチサイロおよび塔型サイロにおける、ビニール利用によるサイレージ調製法について指導奨励し、以後普及指導機関の努力により、現在サイレージ調製農家の60%以上が利用し、大きな効果をもたらしている。その後、酪農経営においても、省力化、機械化による経営の合理化と大規模化および専門化などが要求されている。サイレージ調製においても機械化による省力的な調製が必要とされる。
これらの点から、サイロ密封時に厚手ビニールを使用して水蓋を作り、冷水の注入による省力的な加圧密封と冷却をかねた新しい方法について研究を行った。この結果、サイレージ調製においてかなりの省力化と品質改善の上に明らかな効果が認められたので指導要領を附して今後の指導上の参考に供したい。
2.試験方法
(1)試験方法
基本的な操作法、省力化およびサイレージ品質については、畜産部牧野研究室が実施し、農家における適応性については改良課が調査を行った。
(2)使用水蓋の構造
第1図に示すごとく、盆状の周辺に浮袋を2段に取付けたもので、透明の厚さ0.2mm厚のビニールによって加工されたものである。
(3)供試サイロと原料
畜産部の直径4.8m×高さ10.5m(約120屯)1基と直径2.4m×高さ5m(約12屯)2基を使用した。詰込原料はともに乳熟後期~糊熟期のデントーコンでダイレクトカットのForage harveterで収穫し、トレーラーで運搬の上、ブローワーによる吹込を行った。
第1図
(4)水蓋着装法
サイロ3基に対する水蓋の着装法は第1表に示した。
第1表 供試サイロと水蓋使用法
サイロ№ | 規模 | サイロ 容量 (屯) |
サイロ 底面積 (30㎝3) |
直径 (m) |
注水量 (㎏) |
30cm3当り 注水量 (㎏)※ |
詰込後から 水蓋着装ま での時間 |
昨年の密封加重法 | 水蓋着装 の適否 |
1 | 並型 | 12 | 50 | 2.4 | 920 | 18.5 | 48 | ムシロに約0.5屯の土盛 | 適 |
2 | 並型 | 12 | 50 | 2.4 | 410 | 8.2 | 48 | ムシロに約0.5屯の土盛 | 適 |
3 | 大型 | 120 | 270 | 5.4 | 1,190 | 4.4 | 24 | サイロビニールの上に2.8屯の土盛 | やや不良 |
サイロ詰込中は、大きさに応じ人が入り詰込み原料を掻均し、一定の詰込みごとによく踏圧した。詰込終了後は「カマゴコ型」にもり、充分踏圧する。
その後水蓋を着装し、注水した。第2図参照。
第2図
第3図
第4図 サイロ№2(省略)
第5図 サイロ№3(省略)
(5)調査方法
水蓋着装後は沈下、水温の変化とともに、取り出し時におけるサイレージの損耗とサイレージ品質について調査した。
3.試験成績
(1)水蓋使用によるサイレージの沈下、水温の変化
サイレージ詰込後水蓋の着装による経日的なサイレージの沈下、水温および水蓋の水深の変化をサイロ№1~2は70日、サイロ№3は50日間にわたって調査した。
着装時のサイレージの温度は36~40℃であった。
(2)水蓋着装の効果
第2表 水蓋着装の効果
サイロ № |
詰込量 (屯) |
スポイレージ (腐敗量)(㎏) |
腐敗率(%) | サイレージ 沈下(㎝) |
サイレージ外観 | PH | 酸組成(%) | |||
水蓋本年 | 昨年 | 総酸 | 乳酸 | 揮発酸 | ||||||
1※ | 11.3 | 65 | 0.6 | 7.0 | 70 | 淡黄緑色 甘酸良 |
3.6 | 1.44 (100) |
0.94 (65) |
0.50 (35) |
2※ | 11.3 | 42 | 0.4 | 7.0 | 69 | 黄褐緑色 甘酸 |
3.6 | 1.30 (100) |
0.82 (63) |
0.48 (37) |
3※ | 120.0 | 1,350 | 1.1 | 2.5 | 118 | 淡黄緑色 甘酸刺激臭 |
4.0 | 2.10 (100) |
1.00 (48) |
1.10 (52) |
※水蓋除去時サイロ周辺巾10㎝、深さ5~8㎝の腐敗部があった。![]() |
||
〃 〃 巾30㎝、深さ20~30㎝の 〃 ![]() |
(3)密封加圧の労力
①サイロ№1~2の場合
詰込中の場合や詰込後の充分な踏圧は慣行法と同じであった。しかし、詰込み終了後、8×16尺サイロでは高さ16尺まで土を500㎏「カマス」に入れてサイレージ上部に乗せた。また取出し時もこの500㎏をサイロの下まで落とさなければならなかった。2人で4~6時間延10時間を土上げに要し、取出し時には1人で4時間を要した。計14時間であったが重労働であった。しかし水蓋の場合は詰込後の踏圧終了後は、水蓋を着装し、パイプで注水するだけであり、また取りだし時にはサイフオンで排水するだけであり、延で2時間を要したが軽労働であった。
②サイロ№3の場合
サイロは120屯サイロであるが、詰込み中の踏圧や仕上げは踏圧は同一であり、サイロビニール着装後は直径5.4mに対して2.8屯の土(約40㎏のカマス60個)を上げた。
これに対して、6名と馬1頭が6時間、延36時間を要し、さらに取出し時には6名と馬がトラクターで4時間、延(24時間)を要した。合計60時間であった。
これに対し、水蓋の場合は着装後、パイプでの注水と排水であり、時々の検査を含めても延6時間のみであった。
(4)現地における実用例
釧路市M農家(松田俊幸普及員)
使用サイロ9×19尺2基で、詰込中は踏圧した後で、サイロ上部は凸に踏圧し、サイロ壁部44㎝、凸部33㎝の水深で30㎝平方当り約27㎏もの注水を行った。水道水で15分~20分間で注水した。約1.7屯の水量であった。3回の使用で全然水モレはなかった。水蓋使用後1番牧草サイレージでは1.2~1.5mデントコーンサイレージでは0.9m、二番牧草では0.5m沈下した。
排水にあたっては、直径4㎝のホースでサイフオンで行ったが約5分であった。水蓋の使用可能回数は傷さえつけなかったら何回でも使用できる。サイロビニールの上には土砂をあげた時よりもサイレージ品質は良好であった。
サイレージの腐敗率は0.4%にとどまった。慣行法では約1%であった。労力面では土を用いた時に比較して、しごく簡単で比較にならない。
また、ビニールが透明であるので、水の上から原料の変化が視察できた。サイレージ切込中は2~3人が原料をならしながら踏圧した。
4.摘要
塔型サイロの密封加圧用として0.2mm厚の特殊加工を行い、この水蓋に注水して試験を行った。これらの結果、慣行のサイロビニールを用い、土盛り加重を行った時よりもサイレージの腐敗率が少なく、省力的であることが確認された。
①試験は12屯容サイロ2基と120屯1基を用いた。詰込後12屯サイロは凸型に充分踏圧し、30㎝2当り18.5㎏と8.2㎏の注水を行った。大型サイロは4.4㎏とした。12屯サイロは詰込後48時間後に着装注水を行った。サイレージは注水時38~40℃であったが、15℃の水の注入により明らかに冷却の効果がみられた。またサイレージの沈下も順調に行われた。これらのことは120屯サイロでも同様であった。
②水蓋使用12屯サイロの腐敗率は、0.4~0.6%で、サイロビニール使用時の1~2%より明らかに少なく、またムシロ+土の加圧の7%の損失に比較して明らかに効果的であった。水蓋直下のサイレージも良質であった。120屯サイロでは、注水量少なく、また水蓋が小型であって、着装はやや不良であったが、腐敗率は1.1%で慣行時の2.5%より明らかに良好であった。
③水蓋使用時の着装注水と取出し口開けの労力は12屯サイロでは延2時間であって、慣行時の14時間の1/7であり、しかも労働は軽かった。120屯サイロでは延6時間で、慣行の60時間の1/10であった。
④実際農家における実用例でも、明らかな使用効果が示され、腐敗率の減少、省力化が示され、実用性が確認された。
5.指導上の留意事項
塔型サイロの密封加圧のためのサイロ水蓋を使用するときには、次の点に注意して行うことが必要である。
1)詰込中の踏圧
サイロ詰込中は、標準サイロでは(2.7m直径)常時2~3人が原料を均して踏圧し、1m位詰込むごとに15分間充分よくサイロ周辺を踏圧する。
2)詰込終了時の踏圧
詰込が収量したならば、3~4名で凸型によく踏圧する。この場合、標準サイロではサイロ周囲に対し、中央部はカマボコ型に15㎝位高く形づくって踏圧する。
(注意)
踏圧不十分な時やサイロ仕上げ踏圧の時凸型にしないと、部分的にサイレージが凹んだり、また中心部凹型となり、そこに水が集まって効果がなくなったりする。
3)サイロの壁と取出口
サイロの壁は平滑であることが必要であり、汚物はよく清掃し、上部の取出口も釘や突起物のないよう平滑にする。水蓋沈下時の損傷を防ぐためである。
4)水蓋の使用
水蓋は充分踏圧後に行うが、24時間内に着装することが必要である。水蓋の浮袋には空気ポンプで空気を入れる。口には2重に充分ヒモでしばり、空気モレのないようにする。平滑な所で予め水蓋に注水して、水モレの有無を調べる。
5)水蓋への注水
水道(家庭ポンプも可)よりホースで注水する。注水量はサイロ30㎝2当り10㎏前後であるが、サイロ平均して30㎝深さの注水は30㎝2当り約27㎏、20㎝は約16㎏、10㎝では9㎏となる。しかしサイロ上部は凸型であるため注水量を予め調査する。
例えば、第3表に標準量とやや多目の場合の注水量を示した。もし、サイロ直径2.7mでは標準注水量は650㎏となるが、予め20立を注入する時間を測定し、もし20秒で20立ての時には、1分間に60立てであるから約11分間の注入でよいことになる・・・・・のごとくである。
原料の水分不足や刈遅れ、予乾しすぎ・・・・・などの不良条件ではやや多目の注入量をサイロの強度とともに充分注意して注入する。また、水蓋を着装する前に、サイロビニールや古ビニールを下に引くと水蓋の損傷が防がれ、水モレ防止に効果的である。(第6図)水蓋に穴をあけないことが第一の要件である。
第3表 水蓋の注水量
サイロの直径 | サイロ底面積 (30cm2) |
標準※ 注入量(立) |
やや多目※ の注入量※(立) |
|
1.2m | 4尺 | 12.6平方尺 | 130 | 260 |
1.8 | 6 | 28.3 | 300 | 600 |
2.1 | 7 | 38.6 | 400 | 800 |
2.4 | 8 | 50.3 | 500 | 1,000 |
2.7 | 9 | 63.8 | 650 | 1,300 |
3.0 | 10 | 78.5 | 800 | 1,600 |
3.6 | 12 | 113.1 | 1,150 | 2,300 |
4.2 | 14 | 153.9 | 1,550 | 3,100 |
4.8 | 16 | 201.1 | 2,000 | 4,000 |
5.4 | 18 | 254.5 | 2,600 | 5,200 |
第6図 サイロの水蓋の着装
6)注水後の管理
注水後は時々水蓋の水深を測り、水モレの有無を調査する。出入口からの雨水の注入を防ぐ。
7)サイレージ取り出し時、またはサイレージの切りだし時
取り出しや、サイレージの切りだし時には、水蓋の水はサイフォンの原理でホースで排水すれば容易である。
8)凍結時の処理
水蓋使用時で、春または冬までサイレージの取り出しを行わない場合には水蓋中の水は凍結する。凍結によるサイロの損傷やビニールの損失を防ぐために、凍結前に排水し、その上に乾草や、寝ワラを入れてサイレージの凍結を防ぐようにする。
9)水蓋取出後の保存
取りはずした水蓋は水洗いして汚物をとり、よく乾草してからネズミに喰われないよう包装し、畜舎の2階などに保存する。
10)水蓋の利点と欠点
①利点
イ、サイロ密封加圧および取出しの労力が慣行の時より1/6~1/10に軽減される。
ロ、サイレージの腐敗損失は0.6%に減少し、サイロビニールの1~2%、ムシロと土などの5~7%より明らかに効果的である。
ハ、慣行時にはネズミによる損失があったが、水蓋ではない。
ニ、加圧量は自由に調節され、またサイロ上部に生じやすい醗酵熱が抑えられる。
ホ、ビニール損傷は土盛りや加重時よりも、注水と排水のみであるために少ない。
ヘ、サイロの切りだし時なども容易に操作されやすい。
②欠点
イ、もし、水モレがあった時にはサイレージの品質を著しく低下させる。時に完全に失敗するおそれもある。
ロ、凍結時には排水して、サイロの損傷を防ぐなどの手段が必要になる。
ハ、サイロビニールに比較して割高である。などの点が挙げられる。
11)水蓋着装の順序
①切込み時は常時踏圧を行う
②詰込み後は凸型に中心部を盛り、サイロ周辺を充分に踏圧する
③サイロの壁や上部の取出し口などは平滑であるように充分注意する
④凸型に踏圧後は水蓋をサイロに入れ、浮き袋に空気を入れる
⑤水蓋の水モレの有無をよく調べる
⑥正しく注水量を測定して入れる
⑦注水後は時々調査して水モレの有無をたしかめる
⑧出入口や天井からの雨水の浸入のないようにする
⑨取りだし時にはサイフォンで排水する
⑩もし冬までサイロを開けない時は、水が凍結する前に排水して乾草などでサイレージの凍結を防ぐ