水稲の苗腐病の発生条件
【 要約 】湛水直播栽培における苗立の不安定性の一要因である苗腐病の病原菌の病原性及び発生条件を明らかにした。
北海道立上川農業試験場 病虫科連絡先 0166ー48ー2244
部会名北海道・作物保護専門作物病害対照稲類分類指導

【 背景・ねらい 】

 近年、米を巡る内外の圧力が増すなかで、省力・低コスト稲作技術として直播栽培 に対する期待が高まっている。直播栽培の問題点として苗立ちの不安定性がある。苗 立の不安定要因には、環境条件や播種法などの様々な問題があり、その一つの大きな 要因として、苗腐病の発生があげられる。従って苗立ちに大きな影響を与える苗腐病 の病原菌とその発生条件の解明が要望された。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 腐敗した鞘葉から分離されたPythium spp.は、菌糸伸長が早く遊走子のうの形態 が糸状(fillamentous)のグル−プ(Pythium-F)と、 菌糸伸長が比較的遅く遊走子の うの形態が不定形(lobate)のグル−プ(Pythium-S)に分類された。
  2. 稲の幼苗に対する病原性は、Pythium-FがPythium-Sより強かった。着菌籾より分 離されたAchlya sp.の2菌株はPythium-Sとほぼ同等の病原性を示した。
  3. Pythium-F、Achlya sp.は15℃で65時間以内に多量の遊走子を放出した。しかし、 Pythium-Sは遊走子の放出がみられなかった。
  4. 鞘葉伸長期の低温が苗立に影響を及ぼすと考えられているが、播種後の低温も鞘 葉の発芽率を顕著に低下させた。
  5. Pythium-F、Achlya sp.の播種直後の遊走子接種は、苗腐病に対する抵抗性検定試 験において有望であり、温度処理としては15℃(播種直後から鞘葉出芽期)→5℃ (鞘葉出芽期の3日間)→15℃(鞘葉出芽期の3日間5℃処理以降)の変温処理が 適当で あった。

【 成果の活用面・留意点 】

 播種直後から出芽後までの低温により苗立率は低下する。

【 その他 】

研究課題名:低コスト米品種の早期開発−直播品種の苗立ち安定・向上技術確立
予算区分 :道 費
研究期間 :平成元年〜平成4年
研究担当者:長浜 恵、田中文夫、田中英彦
発表論文等:田中文夫、田中英彦、涌井明(1991):淡水直播水稲の苗腐敗病Pythium
        spp.の接種方法と品種抵抗性検定、日植病報、57(1)

        「平成5年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.173