新病害「小麦スッポヌケ病」の病因と防除法
【 要約 】小麦スッポヌケ病の原因は長い間不明であったが、担子菌類による新しい雪腐病であることが明らかになった。小麦の適期播種、抵抗性品種の使用および雪腐小粒菌核病の防除の徹底により、本病の発生をほぼ完全に押さえることができる。
北海道立北見農業試験場・研究部・病虫科連絡先0157-47-2146
部会名作物保護部会専門作物病害対象小麦分類普及

【 背景・ねらい 】

 小麦スッポヌケ病は十数年前から現場で問題にされていたが、その原因については 長い間明らかにすることができず、病気であるか否かさえも不明のままであった。本 試験ではまず本病の原因を明らかにし、さらにその対策を確立することを目的とした 。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 小麦スッポヌケ病は、本試験により初めて担子菌による病害であることを確認した
  2. 本病の発生地域は網走・十勝支庁管内の内陸部に集中している。
  3. 本病病原菌は積雪下で小麦分げつの中心葉基部に侵入し感染する。このため融雪直 後は罹病株でも外観的に健全に見えることが多い。その後、その中心葉の上部が褐 色に枯凋して初めて発病が確認される。基部が腐敗しているために、このような被 害分げつの中心葉は、ひっぱると抵抗なく抜ける。この病徴から、本病はスッポヌ ケ病と称する。
  4. 本病に罹病した小麦の葉鞘間や未展開葉内部には、まれに本病原菌の菌核が見られ る。菌核は黒色で薄いかさぶた状、小麦組織内に埋没しない。
  5. 病原菌は好低温性の糸状菌で、菌糸の隔壁部に”かすがい連結”が見られることか ら担子菌類に属する。現在のところ子実体の形成を認めないことから、分類学的所 属は確定できない。しかし小麦雪腐病に関与する他の担子菌(Ceratobasidium・Ty phula・LTB)とは異なることから、本病は小麦の新病害であると考えられる。
  6. 北海道栽培品種は概ね本病に強い傾向にあったが、その中で「ホロシリコムギ」は 最も罹病性で、道東地帯の基幹品種「チホクコムギ」は抵抗性と判定された。
  7. 品種抵抗性の差および殺菌剤散布の効果は、播種が9月中旬以前の場合顕著である が、9月下旬以降に播種した場合は、いずれも多発して差が認められなくなる。
  8. 雪腐小粒菌核病に対して指導参考となっている殺菌剤のうち、有機銅水和剤以外の ものは本病に対して効果が認められた。

【 成果の活用面・留意点 】

 本病に対して、抵抗性品種の使用・薬剤の散布は効果が高い。しかし小麦の播種時 期が遅れると、これの効果が低くなるので、道東地方の播種適期を守ことが重要であ る。薬剤に関しては、雪腐小粒菌核病に対して現在指導参考となっている殺菌剤が、 有機銅水和剤を除いて本病に対して効果があるので、雪腐小粒菌核病の防除を徹底す ることにより必然的に同時防除がなされる。

【 その他 】

研究課題名:小麦雪腐立枯症(スッポヌケ)の防除対策
予算区分 :道費
研究期間 :平成4年度(昭和62〜平成3年)
研究担当者:清水基滋
発表論文等:秋播きコムギのスッポヌケ症(仮称)について、日植病報 56巻1号、1990
        コムギスッポヌケ症の発生分布について、同上 56巻1号、1992
        コムギスッポヌケ症の病原菌とカナダ産LTBとの比較、同上
        コムギスッポヌケ症の感染部位について、印刷中
        コムギスッポヌケ症に及ぼす品種、播種時期、施肥量の影響、印刷中

        「平成5年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.54