乳牛における分娩前後の養分充足と脂肪肝
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【 要約 】
脂肪肝の主たる要因は、泌乳初期の摂取エネルギーの不足と考えられ、肝臓の脂肪
沈着が20%を越えると肝機能の低下と受胎日数の延長がみられた。予防には乾乳後期
〜泌乳前期に乾物摂取量を高め、体重の低下を少なくすることが大切である。
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北海道立根釧農業試験場・研究部・酪農第二科 | 連絡先 |
01537-2-2004 |
部会名 | 畜産 | 専門 | 診断予防 | 対象 | 乳用牛 | 分類 | 指導
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【 背景・ねらい 】
牧草サイレージ主体の飼養試験に供された経産牛を用いて、分娩前後の養分充足と
肝臓の脂肪沈着および血液成分との関連を明らかにするとともに、脂肪肝が肝機能お
よび生産病に及ぼす影響を検討した。
【 成果の内容・特徴 】
供試牛は経産牛42頭とし、分娩後 2週の肝臓の脂肪沈着割合をもとに、以下のよう
に群分けし比較検討した。A群;20%以上(7頭)、B群;10〜19%(6頭)、C群; 9%
以下(29頭)
- 1.肝臓の脂肪沈着は、分娩前には各群ともほとんどみられなかった。しかし、分娩後2週には脂肪沈着が20%を超えたA群では、乾物摂取量、 TDN摂取量がC群に比べ
少なく、TDN 充足率が67%となり、著しい血清遊離脂肪酸の上昇と体重の大きな減
少がみられた。これらから、本試験での脂肪肝の主たる要因は、泌乳初期の摂取エ
ネルギーの不足により、体脂肪が遊離脂肪酸として肝臓に過剰動員されたことによ
るものと考えられた。
- 肝機能検査の1つであるBSP試験では、A群の分娩後2週に停滞率(30分値)が21%
と著しい高値がみられ肝機能の低下が明らかであった。また、A群では分娩後に遊
離脂肪酸、総ケトン体の著しい上昇と血糖の低下がみられ、摂取エネルギーの不足
を反映していた。しかし、GOT、γ-GTP、総ビリルビンでは軽度の上昇がみられたに
過ぎなかった。
- 受胎日数ではA群は131日とC群に比べ 34日長く、中等度の脂肪肝でも繁殖性に影
響を与えることが示唆された。また、A群では生産病の発生率も86%と高い傾向に
あった。
- 泌乳成績では、乳量は各群間に差がみられなかったが、A群の分娩後2週では4%補
正乳量が39.7kg、乳脂肪率が4.76%と他群より高くなった。このように泌乳初期に
乳脂肪率が高くなったのは、体脂肪由来の長鎖脂肪酸の増加によるものと推察され
た。
- 分娩前2週から分娩後4週までの体重の減少は、A、B、C群各々 121、94、77kgと
A群で大きく、ボディコンディションスコアーで1以上の低下があったものと推察
された。
【 成果の活用面・留意点 】
- 脂肪肝の予防には乾乳後期から泌乳前期にバランスのとれた飼料給与により乾物摂
取量を高め、ボディコンディションの低下をできる限り少なくすることが大切であ
る。
- 高泌乳牛は脂肪肝に陥りやすく生産病や繁殖性の低下を招くことから特に注意を要
する。
【 その他 】
研究課題名:高位乳成分の安定化と生産病予防技術の確立
予算区分 :道 単
研究期間 :平成4年度(3〜5年)
研究担当者:扇 勉、山田 渥、上村俊一、高橋雅信、塚本 達、八田忠雄
発表論文等:第114回日本獣医学会口頭発表
「平成5年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.332