釧路湿原隣接草地の実態と湿原保全上の問題点
【 要約 】 湿原隣接草地では施肥量の改善により主要牧草割合をある程度維持することができ たが、湿性雑草侵入の完全抑圧は困難であった。通常の管理条件では施肥成分が湿原 に直接流入する可能性は小さいが、堆厩肥の多量施用などでその危険性が高まること が示唆された。このことから当面、施肥標準を遵守することが重要であった。
北海道立根釧農業試験場 土壌肥料科連絡先 01537-2-2004
部会名畜産・草地専門土壌肥料対象牧草分類研究

【 背景・ねらい 】
 釧路湿原の周辺部は国立公園に指定される以前から農地開発が行なわれ、湿原に直 接隣接する農地の多くは草地として利用されている。ここでは湿原保全と効率的な牧 草生産を両立させる合理的な草地管理方法を見いだすことを目的とし、湿隣接草地の 実態と問題点を摘出し、施肥管理が湿原に与える影響を解析した。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 湿原隣接草地の実態と問題点
    1. 全体的に湿性イネ科草を中心とする雑草割合が高く、主要イネ科牧草・マメ科牧 草割合は低かった。
    2. 平均施肥量は N-P2O5-K2O-MgO=5.6-7.8-9.6-2.3kg/10aであり、Nは植生からみれ ば不足、リン・苦土は十分、カリは不足といったアンバランスがみられた。
    3. 現地の施肥試験から、TY単播草地に対しては十分な窒素施肥(N:10〜20kg/10a) 、混播草地に対しては十分なカリ施肥(K2O:10〜20kg/10a)によってある程度の植 生が維持できたが、雑草侵入を完全に抑圧することはできなかった。
       以上のように、湿原隣接草地では良好な植生が維持できていないこと、施肥量に 改善の余地があること、施肥管理によって主要牧草割合をある程度維持することは 可能ではあるものの、湿性雑草の侵入を完全に抑圧することは困難であることが明 らかとなった。
  2. 湿原隣接草地の管理方法と地下水水質との関係
    1. 化学肥料による施肥試験から、N、K いずれの成分とも20kg/10a程度の施肥レベ ルでは牧草による吸収量が施肥量を上回っていた。堆厩肥単用の場合、2t/10a区で はすべての要素について吸収量≧施肥量であったが、5t区ではカリ以外の要素で吸 収量<施肥量であり、10t区ではすべの要素で吸収量<施肥量であった。
    2. 草地に化学肥料を施用した場合、Ca、Mg、NaおよびClは草地の地下水濃度が河川 水に比べて高かったがNO3濃度は地点にかかわらず低濃度であり、SO4は施肥地 点から遠ざかるにつれて急激に濃度が低下した。一方、堆肥を施用した場合、NO 3は低濃度で、SO4は施用地点直下のみが高濃度であった。 以上の結果から、通常の管理条件では施肥成分が湿原に直接流入する可能性は小 さいが、堆厩肥を多量に施用するなど負荷量が増大するとその危険性が高まること が示唆された。
  3. 結論
     環境保全を前提とした湿原隣接草地の合理的管理法として、当面は施肥標準を遵守 すること、さらには養分の投入量を抑制する管理法の確立が重要である。

【 成果の活用面・留意点 】
 湿原隣接草地の環境保全機能の評価に関する研究の基礎データとして活用できる。

【 その他 】

研究課題名:湿原隣接草地の発生負荷形態及び負荷量の把握(1988-1990),
        発生負荷防止のための湿原隣接草地管理技術の開発(1990-1992)
予算区分 :環境庁特別研究
研究期間 :平成4年度(昭和63年〜平成4年)
研究担当者:宝示戸雅之、能代昌雄、三枝俊哉
発表論文等:能代昌雄・宝示戸雅之・三枝俊哉 釧路湿原隣接草地の実態と問題点、
        日本草地学会講演要旨集38巻別号(1992)