水稲の効率的葯培養技術の開発
【 要約 】 水稲の葯培養において葯を液体培地に浮遊させる浮遊培養法によりカルス形成率が 従来の寒天培養法より高まる。また、二層培養法(上層;液体、下層;固体)におい てもカルス形成率、葯当たり緑色個体率が向上する。
北海道立中央農業試験場・生物工学部・細胞育種科 連絡先 01237ー2ー4220
部会名生物工学、稲作・作物開発専門バイテク対象水稲分類指導

【 背景・ねらい 】
 イネの葯培養は今や実用的な育種法として定着しつつある。上川農試では全国に先 駆けて事業化に取り組み、1987年には日本ではじめての葯培養による実用品種「上育 394号」を、また1991年には「彩」を育成している。水稲育種の効率化を図る上で 今後ますます葯培養育種の重要性が高まるものと思われ、より効率的な培養法の開発 が強く求められている。  本試験では、事業育種のための効率的かつ実用的な新しい葯培養法を開発するため 、まず葯からカルスを高率に誘導する液体カルス形成培地の組成等について検討し、 これを用いた浮遊培養法の開発と、また、カルス形成培地を改良し、上層が液体、下 層が固体という二層培地を用いる二層培養法の開発を目的とした。

【 成果の内容・特徴 】

  1.  葯を液体のカルス形成培地に浮遊培養することによって寒天培養に比べてカルス 形成率を5〜10倍に高めることができ、その結果葯当たりの緑色個体の再分化率 も3〜6倍に高まった。
  2.  カルス形成培地のホルモンとしては葯当たりの緑色個体再分化率の高い 2、4ーDが 適当であった。
  3.  カルス形成培地に加える糖は品種によって最適の種類は異なったが、カルス形成 率はマルトースで高く(200%程度)、 再分化率はショ糖、グルコースで高い傾向 にあった。実用的にはショ糖が適当と思われた。
  4.  浮遊培養では緑色個体の再分化率を上げるために、カルスを再分化培地に移植す る前に、前処理として一旦増殖培地に移植し、増殖する必要がある。そこで、この 移植操作を省略するために二層培養法を開発した。
  5.  二層培養法のカルス形成率は慣行の寒天培養法に比べて10倍、置床葯当たりの緑 色個体率でも6倍と効率が高かった。

【 成果の活用面・留意点 】

  1.  二層培養法では、増殖培地へ移植するプロセスが不要であり、現在の慣行法に比 べて培養手順における操作上の効率を落さずに済むので、実用的葯培養技術として 活用が期待される。
  2.  二層培養法を含む浮遊培養法の再分化個体の倍数性は寒天培養法のそれと大差な いと思われた。

【 その他 】

研究課題名:水稲葯培養技術による育種技術の確立 1)花粉培養法の確立
予算区分 :道単
研究期間 :昭和62年〜平成4年
研究担当者:佐藤 毅
発表論文等:水稲の葯培養における二層培養法の開発 第83回日本育種学会発表

        「平成5年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.75