弱毒ウイルスを利用したてん菜そう根病の生物防除
【 要約 】 病原ウイルス (BNYVV)の遺伝子解析に基づき、病原性遺伝子の欠失変異株を含む弱 毒ウイルスを作出した。この弱毒ウイルスは、土壌病であるてん菜そう根病に対して 、防除効果を示した。
道立中央農業試験場・生物工学部・遺伝子工学科 連絡先 01237-2-4220
部会名作物保護専門作物病害対象てんさい分類指導

【 背景・ねらい 】
 てん菜そう根病は、北海道の約 20%の圃場に発生しており、その分布はさらに拡大 する危険がある。発病すると、収量、糖分に対する被害が大きく、しかも土壌病害で あるため、適切な防除法がないのが現状である。このため、弱毒ウイルスの作出と、 これを利用した生物防除法の開発を行う。

【 成果の内容・特徴 】

  1. そう根病の病原ウイルス(BNYVV)には4〜5種のRNA遺伝子が存在し、そのうち 3番 目の遺伝子RNA-3が病原性、4番目のRNA-4が Polymyxa betae菌の伝搬性に関与して いることを明らかにした。
  2. 病原性遺伝子RNA-3の全塩基配列を決定し、この遺伝子にコードされている25kタ ンパク質の発現がそう根病症状に関与していることを明らかにした。
  3. この25kタンパク質の一部を除いた内部欠失RNA-3遺伝子を含むウイルス分離株は 、RNA-3を全く含まない分離株と同様弱毒ウイルスになることを見つけた。
  4. 汁液による弱毒ウイルスの機械的接種は困難であるため、媒介者P. betae菌を用 いた弱毒ウイルス接種法を考案した。
  5. RNA-4がP. betae菌による伝搬率を向上させることに着目し、 RNA-4を含むB型弱 毒ウイルス(RNA-1+2+4)と、RNA-3の欠失変異株を含むC型およびD型弱毒ウイルス(R NA-1+2+欠失3+4)を作出し、それぞれP. betae菌に保有させた。
  6. 弱毒ウイルスを紙筒育苗中のてん菜に接種し、発病圃場に定植した結果、C型お よびD型弱毒ウイルスには明かな防除効果が認められた。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 弱毒ウイルスの接種は、てん菜紙筒育苗中に行い、その接種苗の使用は発病圃場 に限定する。
  2. 弱毒ウイルスの供給体制はまだ確立されていないが、試験用としての使用に対す る供給は可能である。
  3. 研究成果の一部は特許出願中である。
    「そう根病の防除剤とその製法および防除方法並びにこれを用いるBNYVV弱毒ウイ ルスとその作出」(平成2年3月26日出願)
    「欠失RNA遺伝子を用いたBNYVV弱毒ウイルスの作出とその利用」 (平成4年2月20 日出願)

【 その他 】

研究課題名:遺伝子操作技術開発(ウイルスの遺伝子解析と単離)てん菜そう根病に
        対する弱毒ウイルスの効果検定試験 予算区分 :道費・共同研究(民間との共同、日本甜菜製糖株式会社総合研究所)
研究期間 :平成元〜平成4年
研究担当者:玉田哲男、斎藤美奈子、木口忠彦、楠目俊三(中央農試)、神沢克一、
        内野浩克、(日甜総合研究所)
発表論文等:玉田哲男、楠目俊三、斎藤みな子、木口忠彦、内野浩克、神沢克一、
        欠失RNA遺伝子を用いた弱毒ウイルスによるテンサイそう根病の防除
        効果、日植病報、58、638(1992).

        「平成5年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.180