PCR法による小型ピロプラズマ病のDNA診断と胎内感染
【 要約 】 小型ピロプラズマ病原虫の表面抗原をコードするプライマーを用いたPCRにより小 型ピロプラズマ病のDNA診断が可能でありとくに低い寄生率の場合に有効であった。 また、本病の胎内感染を確認した。
新得畜産試験場 研究部衛生科連絡先 01566-4-5321
部会名畜産・草地専門診断予防対象 乳用牛、肉用牛分類指導

【 背景・ねらい 】
 小型ピロプラズマ病は今なお重大な放牧病の一つであり、公共牧野の利用の妨げにな っている。本病は飼養環境の変化などにより放牧経験のない牛に多く発症し、慢性貧血 と発熱による発育停滞があり、重症では死亡するなど損耗が大きい。診断には、一般に ギムザ染色した血液塗抹標本を顕微鏡で調べる方法(塗抹鏡検法)が行われている。し かし、この塗抹鏡検法は低い寄生率の場合には検出が困難であるなどの欠点がある。P CRによるDNA診断は極微量の微生物DNAをも検出できる。寄生率の低い場合での 本病の診断にPCR法を用いたDNA診断が可能かどうかを検討するとともに、このD NA診断により胎内感染の存在を確認した。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 小型ピロプラズマ病赤血球内寄生原虫の主要蛋白質(表面の抗原)をコードする領域の一部であるプライマー(㈱微生物化学研究所作製)を用いてPCR法でDNAを増幅した後、電気泳動すると、Ts感染牛の血液では単一のバンドが認められ、非感染牛の血液の場合はバンドが認められなかった。また、塗抹鏡検法では確認できないほどの低い寄生率(0.01%以下)の血液からもDNAの増幅があった。
    このことから、PCR法による小型ピロプラズマ病のDNA診断が可能であり、塗抹鏡検法では確認できないような低い寄生率の場合にとくに有用であると考えられた。
  2. 出生1日または2日後の子牛の血液のPCR法によるDNA診断で子牛8頭にTs感染が認められ、そのうち5頭は塗抹鏡検法でもTs感染が確認され、Tsの胎内感染の存在が確認された。
  3. 放牧開始時におけるPCR法によるDNA診断で、 100頭中23頭の子牛にTsの感染を認めた。胎内感染の確認された8頭を除く15頭は舎内感染の可能性が強いと考えられた。
    また、胎内感染子牛、舎内感染子牛の放牧後におけるTs感染率およびヘマトクリット値は、いずれも非感染子牛とほとんど差はなく、胎内感染、舎内感染のいずれも本試験のように低寄生率の場合放牧期の再感染にほとんど影響を及ぼさないものと考えられた。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. PCR法による小型ピロプラズマ病のDNA診断により血液中Tsの高感度検出が 可能となり、ワクチン効果試験供試牛などのTsフリーの確認などに有効である。 なお本法により寄生率を調べることは困難なので、この場合は従来の塗抹鏡検法を 利用する。
  2. Ts感染経路として、従来から知られている放牧地でダニを媒介した感染に加え、 胎内感染、舎内感染の存在が明らかとなったが、分娩から放牧までの期間が5か月 以内の場合、寄生率は低く、放牧地での再感染に影響を及ぼすものではない。

【 その他 】

研究課題名:モノクローナル抗体を応用した家畜の疾病診断と胎内感染の確認
予算区分:道単
研究期間:平成5年度(平成元〜5年)
研究担当者:尾上貞雄、森清一、米道裕弥、田村千秋、塚本達、工藤卓二、所和暢
発表論文等:小型ピロプラズマ病の舎内感染とPCR法を用いたDNA診断(講演要旨)
      北海道獣医師会雑誌、37巻、9号、1993

        「平成6年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.411