休日確保型酪農ヘルパー組織の運営安定化
【 要約 】 休日確保型酪農ヘルパー組織の運営安定化のためには、1.農協の支援が必要であるが 組織形態としては利用組合型が望ましく、2.ヘルパー退役後の身分・職場の保障、農家 の雇用者意識の醸成、農協の雇用母体としての役割、等が重要である。
北海道立根釧農業試験場 研究部 経営科連絡先 01537-2-2004
部会名農業経営専門経営対象乳用牛 分類指導

【 背景・ねらい 】
 酪農における労働条件改善の方策として休日確保型ヘルパー組織への期待が大きいが専任ヘルパーの確保が大きな課題となっている。専任ヘルパーを確保するためには労働・待遇面での適切な処遇が必要であり、反面利用農家側からは人件費負担・利用料金水準の低減が求められる。これら双方の要求に応えるため、休日確保型ヘルパー組織の定着をはかる効率的な運営方式のあり方を明らかにする。

【 成果の内容・特徴 】

  1. ヘルパー組織には、利用組合型、農協直営型、会社型の3つの類型があり、このうち利用組合型と農協直営型の代表事例について比較分析を行った。農協直営型では、同一組織で緊急と休日の両方に対応しており、その年間事業計画は他の農協事業と同一次元で、農協理事会で検討・決定される。利用組合型は、休日に対応しており(別に緊急対応型ヘルパー組織がある)、専任ヘルパーは農協に所属している。この類型では、利用組合が事業計画を決定し、実行に責任を負う。
  2. 農協直営型のヘルパー1人当たり年間稼働日数は、1988年以降大きく低下した。このことは、休日確保型ヘルパー組織といえども休日・緊急の区別と優先順位が明確でなかったり、利用農家の休日取得に対する理解が不十分な場合、休日取得は経済条件に左 右される可能性があることを示唆している。
  3. 運営収支を見ると、農協直営型では収入に占める利用料割合(30〜40%)と利用料による人件費のカバー率(40〜50%)が低く、人件費割合が高い(80〜90%)。利用組合型の場合は順に60〜70%、90%、70〜80%、と比較的良好な内容となっている。
  4. ヘルパー組織運営の安定化方策は、1.組織目的および運営責任の明確化、2.対応範囲の明確化および合理的な調整システム、3.ヘルパー要員の安定的な確保、4.ヘルパー利用の安定化および拡大、5.ヘルパー利用の地域的な位置づけと支援、の5点に整理できる。これらに関する両類型の優劣から、総合的にみると、現状では休日確保型ヘルパー組織の形態としては利用組合型の方が望ましい(農協のサポートは必要)。(図1)
  5. ヘルパー組織の運営安定化対策は、1.ヘルパー組織ではヘルパーの退役後の身分・職場の保障、作業範囲の確定と利用農家への周知、農家の雇用者意識の醸成等、2.利用農家では、利用組合役員の実践的な運営関与、経営効率の向上・安定等、3.国・道・系統団体にはヘルパーが職業として社会的な認知を受けられるような制度的な対策、4.農協は特にヘルパーの雇用母体としての役割が重要である。(図2)

【 成果の活用面・留意点 】
 ここでは酪農専業地帯を想定しているが、ヘルパーの給源は 地域の特性に合わせて弾力的に考える必要がある。

【具体的データ】


      図2  ヘルパー組織の運営安定化対策

 【区分】【対応主体】  【対策の内容】            【具体的対策】
                      -------------------
           ※ ヘルパー要員の確保   待遇:年齢・経験年数に応じた社会的
                         水準の給与
                      -------------------
                    身分保障:各種社会保険の加入、退役後の
                         職場保障、退役に備えた研修制
                         度


                    労働条件--作業条件:作業時間帯の均一化
                              作業範囲の明確化
                    保険:傷害保険・賠償保険への加入
               ----           予備のヘルパー確保
        ヘ

        ル           やりがい:職業上の地位、農家の雇用者意
                         識の醸成
        パ           担い手の給源:農家後継者、新規入植者お
                           よび非就農希望者
        |
                      --------------
        組   人件費の低減  若年者の活用:農家後継者および新規
           --------------        入植希望者
        織
               ----   --------------
          ※ 利用の安定化  ヘルパーへの信頼性:研修等による技能向上、
   ----       --------------          人間性
   自               料金体系:収支調整のための積立、利用安定化
                        に伴う料金体系改訂
   助               競合調整:公平な調整ルールとその周知徹底
                   効果のPR:広報活動(優良活用事例の紹介
   努                     等)

   力
     ----             ------------------
          ※ ヘルパー要員の確保  後継者の活用:後継者がヘルパーとして勤務
               ----   ------------------
        利

        用            ヘルパー事業の意義・運営責任:後継者の
                     ヘルパー体験、役員の実践的運営参加
        農            役員交代の促進、相互の情報交換
                      ----------------
        家  ※ 利用の安定化   利用目的:緊急対応型ヘルパー組織との分離
        ----  ----------------  作業条件:農家間での均一化
                     農家経済:経営効率の向上・安定化
                          後継者のヘルパー体験
------------------------------------------------------------------------------
                      ----------
            収入補填     補助金交付(円滑化事業)
           --------   ----------
      国・道・
                      --------------
      系統団体 ※利用度の向上   ヘルパーの技能向上・視野拡大(研修会開催等
      --------  --------------
                      ----------------
            ヘルパー要員の確保  ヘルパー資格の制度化
                      ----------------

           --------   ----------
      市町村   収入補填      助成金交付
   ----    --------   ----------
  外
                      -----------------
  部       ※ ヘルパー要員の確保  ヘルパー雇用の受け皿
           -----------------
  支
                      ----------
  援         収入補填      助成金交付
  ----        ----------

           --------   --------------
      農 協   人件費の低減    事務作業受託
           --------   --------------

                      -----------------
           その他経費の低減   事務所スペースの提供
                      -----------------

    注)1.「対策の内容」の ※ は組織的側面、無印は経済的側面を示す。
      2.アンダーラインは特に留意すべき事項

【 その他 】

研究課題名:酪農ヘルパー組織の効率的運営方式と地域農業の活性化
予算区分 :道 単
研究期間 :平成5年度(平成4〜5年)
研究担当者:浦谷孝義
発表論文等:なし

        「平成5年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.506