稲作地帯における農業法人化の動機とその成立条件
【 要約 】 1戸1法人における税制面の有利性は、農業所得1,400万円以上の経営におい て発現する。また、農地流動化が停滞し農業者の高齢化が進み転作物が定着してい る地域においては作業受託法人の形成による所得拡大が可能である。
北海道立中央農業試験場・経営部・経営科連絡先 01238-9-2001
部会名農村計画(農業経営)専門経営対象 稲類分類指導

【 背景・ねらい 】
 新政策のもとでは協業経営体による法人経営の創出が打ち出されている。しかし、本 道の稲作地帯においては今後も個別前進的営農展開の可能性を有しており、協業経営と 異なる法人設立の可能性を吟味する必要がある。このため農地流動化の条件を異にする 地域において法人経営を展開させてきた事例から本道稲作地帯における代表的法人の形 態とその成立条件を明らかにする。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 本道の稲作地帯、特に石狩・南空知・中空知の地域は1世帯家族による法人と考え られる構成員4人以下の法人が大部分である。農事組合法人に多くみられる共同法人 は減少傾向にあるが作業受託や施設野菜の部門協業法人は近年増加している。
  2. 1戸1法人の場合、法人化による税制面での有利性は家族構成や転作の程度により 異なるが、ほぼ農業所得1,400万円以上の経営において発現することが認められた(図 1・図2)。ただし、転作奨励助成金の圧縮記帳が節税の条件であり資金管理への配 慮が必要である。
  3. 農地流動化が進まない市街地周辺に立地し部門協業により作業受託を拡大させてい る共同法人(2戸構成の農事組合法人)事例においては耕地8ha規模で農家所得856万 円(平成3〜5年平均)を形成している(表1)。この結果から農地移動が停滞し高 齢化が進み小麦転作が定着している地域において作業受託法人の形成による所得拡大 が可能と考えられた。
  4. ただし、共同の作業受託法人における構成員間にはリーダーとフォロワーとへの分 化がみられ、受託組織は施設投資などにおけるリーダーのリスク負担を背景に成立し ている。共同の作業受託法人においても今後の事業選択によっては1戸1法人などへ 組織変更を行う可能性を有している。

【 成果の活用面・留意点 】
 1戸1法人については、稲作地帯全般に適用可能である。しかし、作業受託法人は転 作物が定着している地帯での成果であり、水稲単作地域における受託法人の成立条件に ついては更に検討する必要性が残されている。

【 具体的データ 】

 表1 構成員農家Sの所得推移(千円)
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 			 H3年	 H4年	 H5年
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 農  従  者(人)	   2	   2	   2
 耕 地 面 積(ha)	  8.3	  8.3	  8.3

 農 業 収 入		12,380	13,054	14,340

 農 業 経 営 費		 8,105	 9,683	 9,031
 (うち償 却 費)	(1,768)	(1,756)	(1,789)
 (うち支払利子)	( 442)	( 438)	( 337)

 農 業 所 得		 4,275	 3,371	 5,309
 配 当 所 得		  34	  35	  29
 給 与 所 得		 4,043	 3,943	 4,611
 その他農外所得		  16	  −   −
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 所 得 合 計		 8,367	 7,350	 9,949
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注、3ヶ年平均農家所得は856万円である。

【 その他 】

研究課題名:稲作地帯における農業法人化の動機とその成立・誘導条件
予算区分 :道単
研究期間 :平成6年度(平成5〜6年)
研究担当者:河野迪夫
発表論文等:平成6年度経営部研究年次報告書、北海道立中央農業試験場経営部、1994年
      に発表予定。

        「平成7年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.416