寒冷紗ハウスを利用した種ばれいしょのジャガイモYウイルス(PVY-T)感染防止試験
【 要約 】 寒冷紗ハウス種いも栽培は、ハウスの設置を萌芽前に行う、病害虫防除(ウイルス病 対策を含む)は慣行法と同様に行う、施肥窒素を慣行露地栽培より減肥するなどの留意 をすれば、ジャガイモYウイルス(PVY−T)の感染を極めて低く抑え、健全種いもの栽培法として有効であることを確認した。
北海道立中央農業試験場・病虫部・病理科
農業改良課
連絡先 01238-9-2001
部会名病害虫専門病害虫対象ウイルス 分類指導

【 背景・ねらい 】
 Yモザイク病の病原ウイルスの一系統であるPVY-T系統は、ばれいしょではさほど大きな被害を出さないが、タバコでは稚苗期に感染すると、枯死等の致命的な被害を呈する近年、道内でもPVY-T系統が広く分布していることが明らかとなり、この対策が移出用種いもの比重が高い採種地帯で重要課題となった。
 そこで、平成5年指導参考事項「ジャガイモYモザイク病の簡易診断技術と防除対策」を活用し,原種種いもの汚染を防止すべく、寒冷紗ハウス栽培試験を実施した。
 本試験のねらいは、原種種いもの寒冷紗ハウス栽培におけるウイルス感染防止効果及び栽培管理上の問題点をを明らかにするとともに、基だね浄化による採種産種いもの感染防止効果を見る。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 寒冷紗ハウス栽培では高温によるばれいしょの生育障害が懸念されたが、平成5年は極端な低温年、平成6年は極端な高温年の2か年の結果として次のことが示された。高温年の最高気温は0.3〜1.9゜C、最低気温は0〜2.4゜C、平均気温は0〜1.5゜Cハウスの方が高く、したがって、6月中旬〜8月中旬までの積算地表温度も50゜C高くなり、ハウス内の最高地表温度は40゜Cを越えることがあったが、収量等に影響は認められなかった。

  2. 寒冷紗ハウス栽培と露地栽培の生育および主要病害虫の発生状況
    1. 両年とも両者の間に、着蕾期、開花期の差は認められなかった。
    2. 茎長は両年ともハウス栽培でやや長い傾向がみとめられた。その結果として、倒伏時期はハウス栽培でやや早くなった。
    3. 疫病は両者の間に差は認められなかった。軟腐病でも一定の傾向は見いだせなかった。
    4. アブラムシ類は両年、両者とも寄生を確認できなかった。

  3. 寒冷紗ハウス栽培と露地栽培の収量
    1. 規格内いも重は、試験結果ではハウス区がやや高かったが、窒素を減じて、地上部生育量を露地区と同等にするとほとんど差がないものと考えられた。
    2. でん粉価はハウス区では、同一施肥量でやや低く、窒素量を減じた場合は若干高まる傾向がみられた。

  4. 寒冷紗ハウス栽培と露地栽培のウイルス感染率
    両年のハウス栽培の頂葉検定、頂芽検定、平成5年の原種農家の頂芽検定及び栽培法を異にした種いもを植付けた場合の抜取り率の結果は、いずれも、極めて低い値で、ハウス栽培での高いウイルス感染防止効果を示した。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 寒冷紗ハウス種いも栽培は慣行露地栽培にくらべ、ウイルス(PVY-T)の感染を 極めて低くおさえ、生育、収量、品質、他の病害虫の発生等の面でも大きなな問題点 もなく種いもの栽培法として有効である。
  2. ハウスの設置は萌芽前に行うことが望ましい。
  3. 防除は慣行法と同様に行う。(その他、ウイルス病対策も従来同様に遵守する。)
  4. ハウス栽培は生育が軟弱徒長気味となることがあるので、施肥窒素を慣行露地栽培 より減肥することが望ましい。

【 具体的データ 】


表−1 ハウス内と露地地表温度
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         6 月    7 月    8 月
 区 分 項目  中  下  上  中  下  上  中 積算気温
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 ハウス 10時 24.1 24.2 23.1 24.9 31.7 35.4 29.7
     最高 30.4 28.9 27.8 29.0 39.3 40.2 31.2
     最低 10.2 10.5 15.6 16.4 20.3 21.2 21.0
     平均 20.3 19.7 21.5 22.8 29.7 30.7 26.1 1612.5
慣行露地 10時 24.2 23.3 22.3 24.7 30.1 34.2 29.2
     最高 29.4 27.0 25.9 28.8 39.0 38.5 30.9
     最低  9.6 9.5 14.5 14.0 20.3 20.9 21.3
     平均 19.5 18.2 20.2 22.4 29.6 29.7 26.1 1562.5
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表−2 ウイルス感染率・生育・収量・病害発生状況調査

年試     萌芽期 着蕾期 開花期 茎長 茎数 倒伏 疫病 軟腐病 総いも重 規格内い 株当り でん粉価 腐敗いも 頂芽検定
 験 区  分                    発病 病茎率      も重    いも数     率(収穫 陽性率
次地      月.日 月.日 月.日  ㎝  本 程度 度    %  kg/10a  kg/10a   個    % 時) %    %
 A ハウス・減肥 6. 3  6.23  6.30 40.4  2.0 中  0  5.0   2870   2468  −   14.2    0    5.0
   露 地   6. 3  6.23  6.30 39.8  2.6 少  0  1.5   2580   2220  −   13.4    0   25.1
平B ハウス    5.29  6.20  6.28 69.3  2.4 多  0  8.4   4289   3446  7.6   −    0    0
成  露 地   5.29  6.21  6.29 62.9  2.7 中  0  2.7   5026   3948  8.3   13.7   .004   10.0
5C ハウス・減肥 6. 4  6.25  7. 1 42.3  3.1 中  0  8.1   2668   2231  6.5   15.3    0    3.0
年  露 地   6. 4  6.25  7. 1 25.0  2.2 少  0  20.2   2428   1957  7.2   14.3   .004   26.0
 平 ハウス   6. 2  6.23  6.30 50.7  2.5    0  7.2   3276   2716  6.9   14.8    0    2.7
 均 露 地   6. 2  6.23  6.30 42.6  2.5    0  8.1   3345   2708  8.4   13.8   .003   20.4
 D ハウス    6. 4  6.22  6.29 49.3  2.3 少  0  8.9   2493   2361  9.2   13.2    0    0
平  露 地   6. 4  6.22  6.29 47.3  2.3 少  0  16.9   2255   2046  9.0   13.5    0   28.0
成E トンネル  6. 5  6.24  6.30 43.5  2.2 少  0   0    2402   2279  5.9   −    0    0
6  露 地   6. 5  6.24  6.30 39.8  2.1 無  0   0    2502   1879  4.7   −    0   12.3
年平 ハウス   6. 5  6.23  6.30 46.4  2.3    0  4.5   2448   2320  7.6   13.2    0    0
 均 露 地   6. 5  6.23  6.30 43.6  2.2    0  8.5   2154   1963  6.7   13.5    0   20.2

注:頂芽検定はエライザーにより、疑陽性も含む 注:頂芽検定陽性率は実収値より算出
注:試験地C・露地は培土深が過度となった。
   試験地Eは小規模試験(2反復)

【 その他 】

研究課題名:寒冷紗ハウスを利用した種ばれいしょのジャガイモYウイルス(PVY-T)
      感染防止試験
予算区分 :道  費
研究期間 :平成5年〜平成6年
研究担当者:萩田 孝志・今 友親・花田 勉・服部 洋
発表論文等:なし

        「平成7年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.147