寒冷地に適用できる豚糞のメタン発酵処理・利用技術
【 要約 】 十勝地方の養豚農家から採取した低温で高いメタン発酵能力のある優良汚泥No110が、寒冷地におけるメタン発酵システムに使用出来ることを実証した。
 また、このメタン発酵消化液が、液肥として草地に利用出来ることを明らかにした。
北海道立滝川畜産試験場・研究部・草地資料作物科 連絡先 0125-28-2211
部会名 畜産・草地 専門 環境保全 対象 家畜類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 畜産農家から排出される家畜ふん尿は、飼養規模の拡大とともに水質汚濁、悪臭、害虫発生などの環境汚染源として深刻な問題となっている。しかし、この家畜ふん尿も視点をかえると新たなバイオマス資源であり、有効に活用することが求められている。
 本試験では豚糞を利用して低温でも効率的にメタン発酵を行う優良汚泥を探索し、その実用性を評価するとともに、メタン発酵消化液の液肥としての効果と浄化効果を検討した。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 十勝地方から採取した優良汚泥No110は、25゜C、有機物負荷量7kg/m3/日で標準汚泥35゜C培養の89%にあたる1,786l/m3/日のメタンガス発生量を記録した。(表1)
  2. No110汚泥を200lに増量した後、テストプラントで培養した。No110汚泥は4.0kg/m3/日の有機物負荷量で 1,089lのメタンガス発生量があり、厳寒期でも発酵槽の液温維持のために消費されるガス量を上回る余剰ガスが得られることを実証した。(表1)
  3. メタン発酵消化液をアルファルファとオーチャードグラス主体草地に散布し、牧草の生育、収量を調査した。
    早春に消化液を3t/10a散布することにより、N-5kg水準の施肥区を上回る1番草収量が得られた。(表2)
    消化液を液肥として散布後、3〜4日で臭気は消失した。
  4. 豚糞搾汁液とメタン発酵後の消化液についてBOD、COD、大腸菌数及び臭気を測 定した。BODはメタン発酵後約半分に低下した。CODは約63%に低下した。大腸菌数は1/10以下に低下していた。臭気は、豚糞搾汁液で硫化水素が多かったのに対して、消化液はアンモニアの臭気だけが検出された。(表3)
  5. 優良汚泥から有機物分解菌およびメタン生成菌を分離同定した。 No110汚泥からはセルロース分解菌Aspergillus niger SHM-1メタン生成菌Methanogenium olentangyi SHMF-21が分離同定された。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. No110汚泥は、寒冷地における25゜Cでのメタン発酵システムに有効である。
  2. メタン発酵消化液は、スラリーの施用基準に準じて草地に利用出来る。

【 その他 】

 研究課題名:家畜ふん尿の好気性及び嫌気性処理・利用技術の開発試験
      低温メタン発酵菌群の分離同定と寒地メタン発酵技術の確立に関する研究
 予算区分 :道費・共同研究
 研究期間 :平成元年度〜平成5年度
 研究担当者:田川雅一、北守 勉、佐藤尚親、井内浩幸
 発表論文等:

        「平成7年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.333