急速乾乳と持続性抗生剤による乾乳期乳腺の細菌感染の予防
【 要約 】 乾乳時に持続性抗生剤を乳房に注入することで、乾乳期初期の乳腺の新規細菌感染を半減できる。また、乾乳前の乳量が多い場合、漸減乾乳法を行なった群に比べて急速乾乳法を行なった群は乾乳後2〜3週時における乳腺の抗菌作用の発現が強い傾向を示す。
北海道立根釧農業試験場・研究部・酪農第二科 連絡先 01537-2-2004
部会名 畜産・草地(家畜) 専門 診断予防 対象 家畜類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 分娩時の乳房炎は発生が多く、経済的な損失も大きいことから、その防除は大きな課題となっている。経産牛での分娩時の乳房炎の発生原因は、産次を越えた持続性の感染、乾乳期間中に新たに発生した感染、さらには、分娩前後に新たに発生した感染などである。
 これらのうち乾乳期間中の新たな感染を予防し分娩時の乳房炎を低減するとされている乾乳時の持続性抗生剤の乳房注入効果、さらには、乾乳期乳腺の抗菌作用への乾乳条件の影響について検討した。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 細菌感染のない分房を持続性抗生剤の乳房注入なしに乾乳した場合、乾乳時から乾乳後3週までの期間における新規感染の発生率は26%(23/87)であった。一方、持続性抗生剤(ペニシリンとストレプトマイシンの混合製剤)を乳房注入して乾乳した場合、乾乳時から乾乳後3週までの期間における新規感染の発生率は12%(11/89)であり、乾乳時の持続性抗生剤の乳房注入により乾乳初期における新規感染は半減する(表1)。
  2. いずれの場合もコアグラーゼ陰性ブドウ球菌による感染が多く、全体の7割程度を占める。
  3. 細菌に対する非特異的な感染防御機構の一部を担い乾乳期乳腺の感染防御にも影響していると言われているラクトフェリンの乳腺分泌液中の濃度は、乾乳後2週時以降から急激に高くなり、バラツキは大きいものの乾乳後15日〜分娩前8日の期間は常乳の濃度である0.2mg/mlの数百倍の濃度に上昇し、その後の分娩までの期間には急速に低下する。リゾチームも増加の割合は数十倍程度と小さいものの同様の傾向を示す。
  4. 乾乳後16〜30日の乳腺分泌液のラクトフェリンとリゾチーム濃度には、個体によるバラツキが大きいものの乾乳前の乳量や乾乳方法による影響がみられる。乾乳前の乳量が多い場合、急速乾乳法を行なった群は乾乳後2〜3週時における分泌液中のラクトフェリンやリゾチームの濃度が漸減乾乳法を行なった群に比べて高く、乳腺の抗菌作用の発現が強い傾向を示す(表2)。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 乾乳期の新規感染を防止するため、急速乾乳と持続性抗生剤の乾乳時乳房注入の併用が望ましい。

【 その他 】

研究課題名低コスト・高品質牛乳生産のための乳牛飼養管理技術の開発
 北海道草地酪農地帯における高品質牛乳生産技術の開発
  1.風味等の優れた牛乳生産技術の開発
   (1)管理法の改善による衛生的乳質向上技術に関する試験
予算区分国補(緊急開発)
研究期間平成元年〜平成5年度
研究担当者高橋雅信・塚本 達・扇 勉・山田 渥・芹川 慎・八田忠雄
研究論文等

        「平成7年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.336