乳房炎に原因するペーパーディスク法での偽陽性反応の回避方法
【 要約 】 乳房炎によって増加したリゾチーム等の乳固有の抗菌因子による阻止円は、検査試料にトリプシンを作用させた後に80゜C5分の加熱処理を加えることではぼ完全に消失する。また、この処理はペニシリン等の抗生物質による汚染乳の阻止円形成には大きな影響を与えない。
北海道立根釧農業試験場・研究部・酪農第二科 連絡先 01537-2-2004
部会名 畜産・草地(家畜) 専門 対象 家畜類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 生乳の残留抗生物質の日常検査に用いられるペーパーディスク法は、乳固有の抗菌因子の影響を受け偽陽性反応を生ずることが知られている。このような偽陽性反応を避けるため、検査試料に対する80゜C5分加熱やトリプシン液の添加が行なわれている。しかし、いずれの方法も完全ではなく、とくに80゜C5分の前処理では、乳房炎牛を中心に抗生物質を使用していないにもかかわらず明瞭な阻止円ができる個体が多数みられ、抗生物質汚染バルク乳の汚染原因の究明が困難となる事例もみられている。
 そこで、ペーパーディスク法を用いた抗生物質汚染バルク乳の原因調査を容易にするため、乳房炎に原因する乳固有の抗菌因子の影響を完全に回避できる前処理法を検討した。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 試料へのトリプシン添加により不鮮明な阻止円の形成やペニシリン標準液の阻止円が大きくなる現象がみられるが、トリプシン作用時間の終了後に80゜C5分の加熱処理を加える[トリプシン+80゜C5分]の処理とすることで回避できる。試料乳へのトリプシン液の添加量を10%とし室温での作用時間を10分間とした場合、添加トリプシン液の濃度は27 USP U/ml程度が適当である(図1)。
  2. 乳房炎乳の阻止円は「トリプシン+80゜C5分」処理でほぼ完全に消失する。この処理はベンジルペニシリン、セファゾリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、カナマイシン、さらには、ストレプトマイシンによる汚染乳の阻止円形成作用には大きな影響を与えない。
  3. 抗生物質による汚染のない生乳の80゜C5分処理後の阻止円の直径と乳中の体細胞数の対数値、リゾチーム濃度の対数値およびラクトフェリン濃度との単相関係数は、それぞれ0.69、0.56および0.34であり、乳房炎による乳中のリゾチーム濃度の増加と阻止円形成作用とに関連がみられる(図2、図3)。
  4. 「80゜C5分]処理後の試料を用いたペーパーディスク法では、乳房炎により乳固有の抗菌因子が増加している試料と、市販のβラクタム検出キットで強陽性を示す抗生物質汚染試料を区別することができない。しかし、「トリプシン+80゜C5分」処理後の試料を用いることで、抗生物質汚染試料との区別が可能である(図3、図4)。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 抗生物質のすべてについてその影響を検討したわけではないので、「トリプシン+80゜C5分」の処理で阻止円が消失しても抗生物質による汚染の可能性は残る。
  2. 「トリプシン+80゜C5分」の処理は、ペーパーディスク法を用いた抗生物質汚染バルク乳の汚染原因調査等で乳房炎乳による偽陽性反応を回避するために利用できる。

【 その他 】

 研究課題名:抗生物質等の日常検査法に対する乳固有の抗菌因子の影響に関する試験
 予算区分 :受託
 研究期間 :平成6年度
 研究担当者:高橋雅信・扇 勉・芹川 慎・八田忠雄
 研究論文等:

        「平成7年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.347